サム・ペキンパー|映画スクラップブック


サム・ペキンパー(8本)

2022/03/30

荒野のガンマン

荒野のガンマン|soe006 映画スクラップブック
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THE DEADLY COMPANIONS
1961年(日本公開:1962年05月)
サム・ペキンパー モーリン・オハラ ブライアン・キース スティーヴ・コクラン チル・ウィルス ストローザー・マーティン ウィル・ライト ジム・オハラ

銀行強盗騒ぎの流れ弾で死んだ少年の母親(モーリン・オハラ)は、息子の遺体を亡夫と一緒の墓に埋葬するため、いまではゴーストタウンとなっている廃墟の町へと旅に出る。アパッチ族が出没し危険な道程を、肩を怪我して銃の扱いもままならないブライアン・キース他2名が護衛する。

アメリカの興行団体(映画館主)が製作した低予算西部劇。
テレビシリーズ「ガンスモーク」「ライフルマン」の脚本・演出を担当していたサム・ペキンパー、当時35歳の劇場用映画デビュー。憧れのジョン・フォード映画のヒロインを主役に映画デビューできるなんて夢のような話だと、浮足立って引き受けたに違いない。

荒野のガンマン:モーリン・オハラ&ブライアン・キース

ジョン・フォード映画でおなじみのモーリン・オハラが貫禄の熱演。タイトルバックに流れる主題歌も歌っている。こんな映画にそこまで熱入れなくても、と思わないでもないが。真面目な人なんだろうな。

と長いあいだ思っていたが…… どうやらモーリンと、製作者にクレジットされているチャールズ・B・フィッツシモンズは同郷(アイルランド・ダブリン)の親戚で、まずモーリンありきの企画だったみたい。

荒野のガンマン

ヒロインを護送する三人組の背景がごちゃごちゃ凝ってるわりに、それがまったく生かされておらず、わずか3日前に最愛の息子を撃ち殺した男とデキてしまうハッピーエンディングが荒唐無稽。シナリオは原作者A・S・フライシュマン自身による脚色。
全編にだらしなく貼り付けられた安っぽい音楽が、さらにB級感を倍増させている。

イカサマ博打で首に縄をかけられている男がいきなり登場する冒頭や、子供の棺を数日間運搬するというグロテスクな設定(「ガルシアの首」みたいだ)、ラストの舞台を廃墟の町でロケしているあたりにペキンパーらしさを感じられないこともない。

荒野のガンマン:ゴーストタウン

らしいと言えば……
ペキンパーはほとんどの映画で水浴びシーンを用意している。
本作でもモーリン・オハラが水浴びする。こだわりがあるのだろうか?

55

2022/03/25

昼下りの決斗

昼下りの決斗|soe006 映画スクラップブック
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RIDE THE HIGH COUNTRY
1962年(日本公開:1962年07月)
サム・ペキンパー ランドルフ・スコット ジョエル・マクリー マリエット・ハートレイ ロン・スター エドガー・ブキャナン R・G・アームストロング ウォーレン・オーツ ジョン・アンダーソン ジェームズ・ドルーリー L・Q・ジョーンズ ジョン・デイヴィス・チャンドラー

西部開拓時代の終焉を描き続けたサム・ペキンパーによる、西部劇スターの引退記念映画。二重の寂寞感が漂う鎮魂のウエスタン。

開拓時代に名保安官と名を馳せた老ガンマン(ジョエル・マクリー)は、鉱山で採掘された金塊の護送者として銀行と契約。町で再会した(カーニバルでインチキな射的場をやっている)昔馴染みのガンマン(ランドルフ・スコット)を仕事に誘い、やけに生意気な若者(ロン・スター)も仲間に加わり、3人は金塊護送の旅に出る。

昼下りの決斗:ランドルフ・スコットとジョエル・マクリー

山越え谷越え河を渡り、急勾配を登る。馬上の二人が昔語りしながらの旅。
40年代、50年代の西部劇ファンはそれだけで満足。両雄、馬の扱いが流石にウマい。

二人の会話に「壁の穴」ギャング団の話が出てくるし、町には自動車も走っている。
すでに開拓時代が終わった20世紀の話。老ガンマンが打合せしている店も中華飯店だ。

時代遅れの老いぼれが、正しい死に場所を求めて決斗に臨むクライマックス。
本質的なテーマは「ワイルドバンチ」と同じ。

昼下りの決斗:決斗

冒頭に駱駝と馬のレースがある。
砂漠地帯では駱駝が輸入されていたのは事実だが、映画に登場するのは珍しい。

昼下りの決斗:駱駝のレース

一攫千金の荒くれ者が集まっている鉱山町の結婚式。

昼下りの決斗:結婚式

フェミニズムが浸透した現代では噴飯ものだろうけど、当時の女性の扱いは実際そんなものだったのだろう。娼館の女主人ジェニー・ジャクソンと娼婦たちが新郎新婦を祝って歌う。

昼下りの決斗:ジェニー・ジャクソン

宗教に厳格な父親役のR・G・アームストロング。「キャリー」のパイパー・ローリーの男性版みたい。黒澤明に憧れていたペキンパーだから、父親と娘(マリエット・ハートレイ)のエピソードは「七人の侍」の万造と志乃を意識していたのかも。

昼下りの決斗

肩にカラスをのせて登場のウォーレン・オーツは、ペキンパー映画の常連となった。

昼下りの決斗

同じくペキンパー映画の常連L・Q・ジョーンズ。
出てくるとたいてい殺される。

昼下りの決斗

本作と同時期にMGMはシネラマ超大作「西部開拓史」も配給している。 不器用に正義を貫き死んでゆく主人公と同様、ペキンパーもまた人生に不器用な映画監督だった。

昼下りの決斗:鉱山の町

60

2022/03/29

ダンディー少佐

ダンディー少佐|soe006 映画スクラップブック
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MAJOR DUNDEE
1965年(日本公開:1965年04月)
サム・ペキンパー チャールトン・ヘストン リチャード・ハリス ジェームズ・コバーン ジム・ハットン マイケル・アンダーソン・Jr センタ・バーガー マリオ・アドルフ ブロック・ピータース ウォーレン・オーツ ベン・ジョンソン R・G・アームストロング L・Q・ジョーンズ スリム・ピケンズ

南北戦争の時代、アパッチ族が民間人を虐殺し3人の子供を誘拐する事件が起こる。北軍の指揮官ダンディー少佐(チャールトン・ヘストン)は、南軍の捕虜たちを加えた討伐隊を編成。アパッチ族を追ってメキシコ領へと向かう。
北軍騎兵隊と南軍捕虜兵の半目が続くなか、内戦中のメキシコ領に駐屯していたフランス軍をも敵に回し、さらに(ストーリーにまったく関与しない)ドイツ移民の女性(センタ・バーガー)とのロマンスも交え、映画は迷走しながら大迫力のクライマックスへと突入する。

やっぱり西部劇は絵だ。絵で決まる。ペキンパーの西部劇は絵作りが素晴らしい。
ショットのひとつひとつにパワァが漲っている。ショットのひとつひとつが西部劇の絵として決まっている。撮影監督は「手錠のまゝの脱獄」や「恐怖の岬」のサム・リーヴィット。ペキンパーとはこの1本だけ。

ダンディー少佐

チャールトン・ヘストン、リチャード・ハリス、ジェームズ・コバーン、センタ・バーガーと豪華にスターを並べたコロンビア製作の大作であり、もしかしたらペキンパーの最初の代表作になっていたかも知れない残念作。

サム・ペキンパーにトラブルは毎度のことで、本作も製作費の予算減額、ロケ地の問題、最終編集権の剥奪などいろいろあったらしい。
撮影中にコロムビアが監督交代を要求したとき、主演のチャールトン・ヘストンが「自分のギャラは公開後の歩合でよいから、ペキンパーに監督を続けさせろ」と啖呵を切った武勇伝も残っている。

しかし、いちばんの残念要因は、半端な脚本のまま撮影を見切りスタートさせたことだろう。

映画は、フランス軍に占拠されているメキシコの村を開放したあたりから、なにを語りたいのか分からん、ハッキリスッキリしない混沌ムードになる。
主人公ダンディー少佐はドイツ女と無防備にいちゃついていたところをインディアンに襲われ大怪我を負う間抜けぶり。隊を離れ自棄になってメキシコ女といちゃついたり、泥酔して道端で寝転んだり、ラストバトルの見せ場もリチャード・ハリスにさらわれ、なんのための主人公、なんのためのチャールトン・ヘストンなのか分からん。

夜襲の場面が2回ある。いずれも「アメリカの夜」で撮影されている。
インディアンの襲撃戦法として夜襲は当然なのだろうが、暗くて見辛い。

ダンディー少佐:夜襲の場面

DVD特典の解説によると、劇場公開時は昼の明るさだったとのことで、撮影時にフィルターを付けて撮ったのではなく、ポスプロで加工処理したのかも知れない。

ダンディー少佐:チャールトン・ヘストン、リチャード・ハリス、ジェームズ・コバーン

ラストバトルの衣装は全員ボロボロ、主役のヘストンも髭面で汚い。
ウォーレン・オーツのポンチョ。メキシコ国境地帯が舞台。吊るされている死体。

ダンディー少佐:残酷描写1

「荒野の用心棒」より先に公開されているのでマカロニの影響ではない。西部劇の残酷描写やダーティ・リアリズムは、マカロニよりペキンパーのほうが先んじていた。

ダンディー少佐:残酷描写2

ウォーレン・オーツ、ベン・ジョンソン、L・Q・ジョーンズ、R・G・アームストロング、スリム・ピケンズ。ペキンパー映画の常連たちが勢揃い。
ジョン・フォード映画の常連俳優たちが「フォード一家」と呼ばれていたので、ペキンパーも真似したかったのかも。

ダンディー少佐:ペキンパー映画の常連たち

今回観たのはソニー・ピクチャーズから発売されている 136分のエクステンデッド版。2005年のデジタル再公開の際に、米国公開版(124分)に幾つかのシーンを追加してデジタル・リマスターしたもの。先に書いたように、夜襲場面などはシナリオにあわせて映像を加工処理してある。
音楽も差し替えられていて、オリジナルにあったミッチ・ミラー合唱団の勇ましい主題歌はなし。もともとチグハグな印象で内容と合ってなかったけれど、無かったら無かったで物足りない。

日本公開時(1965年4月)の上映時間は 150分で、おそらくこの日本公開版が、編集から外される前にペキンパーが関与していたディレクターズ・カット版だったと思われる。

ダンディー少佐:L・Q・ジョーンズ

L・Q・ジョーンズは本作でも殺される。

そこかしこにジョン・フォードや黒澤明からの影響が見受けられて、微笑ましくも興味深い映画ではある

60

2022/04/06

ワイルドバンチ

ワイルドバンチ|soe006 映画スクラップブック
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THE WILD BUNCH
1969年(日本公開:1969年08月)
サム・ペキンパー ウィリアム・ホールデン アーネスト・ボーグナイン ロバート・ライアン ウォーレン・ウォーツ ベン・ジョンソン エドモンド・オブライエン ジェイミー・サンチェス ストローザー・マーティン L・Q・ジョーンズ エミリオ・フェルナンデス ボー・ホプキンス アルバート・デッカー ハイメ・サンチェス ダブ・テイラー アルフォンソ・アラウ ポール・ハーパー エルザ・カルデナス

ウィリアム・ホールデンをリーダーとする壁の穴ギャング団は、鉄道会社の罠に嵌められ強盗に失敗、追跡を逃れて国境を越える。メキシコ政府軍を指揮する将軍エミリオ・フェルナンデスは、アメリカ軍用列車から武器弾薬を強奪するよう彼らに依頼する。

時代の変化についていけない、取り残されてしまった無法者たちの挽歌。

ワイルドバンチ

ウィリアム・ホールデン、アーネスト・ボーグナイン、ロバート・ライアンと、ビッグネームのスター俳優が出演し、大仕掛けの見せ場が多いので、サム・ペキンパーの代表作とされている。

ペキンパーをバイオレンスだけで語るのは嫌で、むしろバイオレンス抜きで語られる部分にペキンパー映画の本質があり魅力だと思っているのだけど。
本作の高速撮影されたスローモーション・ショットの編集は、やっぱり迫力がある。

ワイルドバンチ:ウィリアム・ホールデン

パイク(ウィリアム・ホールデン)がマパッチ将軍(エミリオ・フェルナンデス)を撃ったあとの僅かな静寂、一触即発の緊張からダッチ(アーネスト・ボーグナイン)が笑い出す。この一連の短いショットに、男たちのストーリーがグッと凝縮している。これだよ、これ、これ! これが映画を観る醍醐味なんだよ。

撮影監督はペキンパーとのコンビで傑作が多いルシアン・バラード。過去にはキューブリックの「現金に体を張れ」も撮っている。編集はこのあと「砂漠の流れ者」でもペキンパーにこき使われるルー・ロンバルド。冒頭の銃撃戦やクライマックスのアクション・シーンなど、編集の妙技、名人芸だ。

ストローザー・マーティン&L・Q・ジョーンズ。

ワイルドバンチ:ストローザー・マーティン&L・Q・ジョーンズ

「砂漠の流れ者」でもコンビを組んでいた下劣な悪党二人組。L・Q・ジョーンズは出てくるといつも殺される。本作では殺されるシーンは描かれていないが、ラスト場面のエドモンド・オブライエンのセリフで、やっぱり殺されたことが分かる。

ペキンパー映画の常連俳優、ベン・ジョンソンとウォーレン・オーツ。

ワイルドバンチ:ベン・ジョンソンとウォーレン・オーツ

あてがわれた女たちと酒樽ではしゃぎ遊ぶ。水浴び場面はペキンパー映画の付きもの。
川で(「荒野のガンマン」「ダンディー少佐」)、池で(「ゲッタウェイ」)、風呂で(「砂漠の流れ者」「ビリー・ザ・キッド/21才の生涯」)。

ペキンパー映画に付きものといえば子供たち。特に「ワイルドバンチ」は印象に残る子供が多い。冒頭のサソリを殺して遊ぶ子供たち。敵を目前にして怯まないマパッチ将軍に憧れの眼差しを向ける少年。パイクに致命傷の銃弾を撃ったのも少年だった。

映画ガイド書などで「ワイルドバンチ」やペキンパー映画について、「汚い衣装や髭面、残酷アクションはマカロニ・ウエスタンからの影響」と書かれているのを見かけるが、これは誤り。
「荒野の用心棒」でマカロニ・ブームが起こる前にペキンパーは「ダンディー少佐」の撮影を開始している。ペキンパーもセルジオ・レオーネも同時代に偶然同じような映画を考えていたのだと思う。
影響というのなら、ふたりとも黒澤明の「七人の侍」や「蜘蛛巣城」「用心棒」からの影響が断然強い。

「ワイルドバンチ」と同じテーマを扱った「明日に向って撃て!」を比較すれば、ジョージ・ロイ・ヒルが黒澤映画にほとんど影響受けてないことが分かっておもしろい。

ワイルドバンチ:ラストシーン

大虐殺のあと、ハゲタカが集まり、住民たちは町を捨てて出ていく。
行き場を失って放心状態のロバート・ライアン。

この映画、最初はテレビの洋画劇場(90分枠の「土曜映画劇場」で前後2回に分けて放送)で見てぜんぜん面白くなく、その後、池袋文芸坐で観たら(プリントは退色して赤茶けてたけど)凄くて面白くて断然お気に入りになった。テレビの洋画劇場は(吹き替えとか、カットとか、トリミングとか、CMとか)いろいろと糞だったが、田舎の中学生はそれでしか過去の映画に接する機会がなかったのだから仕様がない。

75

2022/03/23

砂漠の流れ者

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THE BALLAD OF CABLE HOGUE
1970年(日本公開:1970年10月)
サム・ペキンパー ジェイソン・ロバーズ ステラ・スティーヴンス デヴィッド・ワーナー ストーローザー・マーティン スリム・ピケンズ L・Q・ジョーンズ R・G・アームストロング ピーター・ホイットニー ジーン・エヴァンス ウィリアム・ミムス キャスリーン・フリーマン スーザン・オコンネル ヴォーン・テイラー

仲間に裏切られ飲まず食わずで荒野を放浪。何度も空を見上げ神に救いを求める。
砂嵐に遭い、絶望の淵で靴に泥水が付着しているのに気づく。水だ、ここに水がある。
がむしゃらに地面を掘る。湧き水が穴に溜まる。
この場所が駅馬車のルートになっていたのは神の恩恵か、ただの偶然か。
男(ジェイソン・ロバーズ)はこの不毛の土地を不動産登記し(廃材をかき集め)粗末な中継所を造作する。

砂漠の流れ者:星条旗

西部開拓時代の終焉を、ペキンパーらしからぬコミカルな場面も交えて描いた人情西部劇の佳編。

茶目っ気たっぷりにオッパイやお尻をアップで撮ったり、コマ落としでスラップスティック喜劇風なショットを入れたり、紙幣の肖像画がニタリと笑ったり。オーバーラップに歌(リチャード・ギリス)をフィーチャーしてムード(雰囲気重視)で見せる。ジェイソン・ロバーズがステラ・スティーヴンスの身体を洗いながらデュエットで歌う楽しい場面もある。

砂漠の流れ者:ジェーソン・ロバーズとステラ・スティーヴンス

バイオレンス抜き。長閑で牧歌的なサム・ペキンパー。

シリアスとドタバタが混在して、なんとかの脚本術とかシナリオの法則とかの教則本とは無縁の脚本。型にはまった映画ではないので、初めて観たときはストーリーの方向が読めず、裏切り者と再会するまでの流れにいささか混乱した。2回目以降は(結末を知っているし登場人物に愛着もあるので)遊び心を微笑ましく、楽しんで観ることができた(それでもやっぱりデコボコしているとは思う)。

主人公ジェイソン・ロバーズの独り言や、登場人物のセリフが多い。だだっ広い荒野が背景として映っているけど、シーンの作り方、芝居の作り方は舞台演劇のような印象。
アクションが無いわけではないが、フレームの外へと動きが広がらない。人物が場所に固定されているからだろうか。芝居が場面の枠に収まって開放感・躍動感は感じられない。

冒頭で水と馬を奪う裏切り者、ストローザー・マーチンとL・Q・ジョーンズは「ワイルドバンチ」に続いてのダーティ・コンビで登場。時代の変化を察知した主人公から中継所を譲り受けたストロザー・マーチンの演技が素晴らしい。

好色なインチキ牧師のデイヴィッド・ワーナー、気の良い娼婦ステラ・スティーヴンス、強面の銀行家ピーター・ホイットニー、駅馬車の御者スリム・ピケンズ。善人でもないが悪人でもない、だけど良い奴ばかり(「続・夕陽のガンマン」原題の裏返しみたいだな)。

町の良識派に追放された娼婦の話は、「駅馬車」のジョン・ウェインとクレア・トレヴァーのアナザー・ストーリーだろう。ジョン・フォードに憧れていたペキンパーらしい。

砂漠の流れ者

デヴィッド・ワーナーの祈りの言葉を繋ぎに使って、自動車事故から埋葬シーンに時間をジャンプさせるラストが上手い。いつか真似したい。

砂漠の流れ者:埋葬シーン

身寄りもなく財産もなく身体ひとつで荒野を歩いていた男、その葬儀に集まった人々。
サム・ペキンパーの人生観が素直に表現されている素晴らしいロングショット。

男が造った中継所は「未来」と「過去」の中継所でもあった。
葬儀を終えて去りゆく者たちが、自動車とオートバイは画面の左へ、馬車や馬は右へと消える。中継所はメタファーとして機能している。

砂漠の流れ者

無人となった中継所にコヨーテが水を飲みに現れるラストショットが泣ける。

65

2022/02/10

ゲッタウェイ

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THE GETAWAY
1972年(日本公開:1973年03月)
サム・ペキンパー スティーヴ・マックィーン アリ・マッグロー ベン・ジョンソン アル・レッティエリ サリー・ストラザース スリム・ピケンズ ボー・ホプキンス リチャード・ブライト ジャック・ドッドソン ダブ・テイラー ロイ・ジェンソン ジョン・ブリソン

刑期の短縮と交換に銀行を襲う取引をしたスティーヴ・マックィーンが、仲間の裏切りにあいながら、奪った50万ドルを持って妻アリ・マッグローと一緒にメキシコへ逃げる。

ゲッタウェイ

ショットガン、どっかんどっかん、マシンガン、だだだだだ!
マックィーン・オン・ステージ! かっこいいぞ!

ゲッタウェイ

逃避行する主人公がラストで死なない犯罪映画。 これまでの犯罪映画は犯人のどちらかは死んで(または奪った大金が消えて)悲劇的結末になるのがお約束だったのに。
(喜劇でもないのに)これって反則じゃない?

ゲッタウェイ

脚本家(ウォルター・ヒル)と監督(サム・ペキンパー)と主役(スティーヴ・マックイーン)にゴチャゴチャあって、音楽もジェリー・フィールディングからクインシー・ジョーンズに差し替えられて、原作者(ジム・トンプソン)は映画に不満たらたらだったらしいけど。面白い映画に仕上がってるし、田舎の中学生も映画館でウヒャーって喜んで見てたよ。

70

2022/04/04

ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦

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JUNIOR BONNER
1972年(日本公開:1972年10月)
サム・ペキンパー スティーヴ・マックィーン ロバート・プレストン アイダ・ルピノ ベン・ジョンソン バーバラ・リー ジョー・ドン・ベイカー メアリー・マーフィ ビル・マッキーニー ダブ・テイラー チャールズ・グレイ マシュー・ペキンパー サンダウン・スペンサー

久しぶりに故郷アリゾナ州プレストンに帰ってきたスティーブ・マックィーンは、ロデオ大会で前回失敗した荒牛乗りに再チャレンジ。見事新記録をだして賞金を獲得する。
翌朝、母親アイダ・ルピノに別れを告げると、金鉱採掘で一攫千金を夢見る父親ロバート・プレストンのためにオーストラリア行きの航空券(ファースト・クラス)を買い、次の巡業への旅に出る。

最も好きなサム・ペキンパー監督の映画。
最も好きなスティーヴ・マックィーン主演の映画。

ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦:スティーヴ・マックィーン

時代遅れのカウボーイ稼業に身を置くマックィーンとロバート・プレストンの父子をメインとした家族の物語。

ペキンパーの理想、男の夢。ファンタジー。
マックィーンのソーラー・プロが製作。

プレストンがオーストラリア行きの費用をマックィーンに無心する駅の場面がいい。

ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦:スティーヴ・マックィーンとロバート・プレストン

ロデオ競技の場面は、かなりのショットでマックィーン自身が演じている。

ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦:ロデオ大会のスティーヴ・マックィーン

母親役のアイダ・ルピノは1950年代に活躍した女優さん。

ジュニア・ボナー/華麗なる挑戦:アイダ・ルピノ

この映画と「ハイ・シエラ」と「魔鬼雨」の3本だけでしか見ていなかったけど、50年代にはスリラー映画の監督もやっていたことを最近になって知りました。

75

2022/03/31

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

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PAT GARRETT AND BILLY THE KID
1973年(日本公開:1973年10月)
サム・ペキンパー ジェームズ・コバーン クリス・クリストファーソン ジェイソン・ロバーズ ジャック・イーラム リチャード・ジャッケル ケティ・フラド ボブ・ディラン スリム・ピケンズ L・Q・ジョーンズ ハリー・ディーン・スタントン チャールズ・マーティン・スミス リタ・クーリッジ エミリオ・フェルナンデス R・G・アームストロング ルーク・アスキュー ジョン・ベック マット・クラーク チル・ウィルス リチャード・ブライト ジャック・ドッドソン ポール・フィックス ジョン・デイヴィス・チャンドラー ルターニャ・アルダ ジーン・エヴァンス

ニューメキシコ州フォートサマーの保安官に指名されたパット・ギャレットは、かつて親しくしていた無法者ビリー・ザ・キッドを射殺する。
パット・ギャレットの著書「ビリー・ザ・キッド、真実の生涯」をベースに、ビリー・ザ・キッドの最期の3ヶ月間を描いた、サム・ペキンパー最後の西部劇。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

ペキンパー映画の常連俳優がずらりと並んで壮観なキャスティングに、これぞ西部劇! と膝を叩きたい素晴らしいショットがてんこ盛り。美術はテッド・ハワース。撮影監督は「わらの犬」「戦争のはらわた」のジョン・コキロン。

純真で無邪気な若者(無法者)として生きるビリーに羨望、嫉妬する老いゆく者(保安官)パットのコンプレックスな心情が、西部開拓時代の終焉と共鳴して寂寥のハーモニーを奏でている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジェームズ・コバーン

ペキンパー映画の登場人物たちは昔話をする。昔は良かったと過去を振り返る。
未来を語る奴は悪役になる。本作では特にその傾向が強く打ち出されている。
パット・ギャレットは酒を呑みながら過去を語ってばかりだ。

ビリングの上位にクレジットされているジェイソン・ロバーズは、ワンシーンのみの出演で、誰が演ってもいいような小さな役(ニューメキシコ州知事)。
友情出演みたいなものだろう。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジェイソン・ロバーズ

東部から来た投資家ジャック・ドッドソンとジョン・チャンドラー。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジャック・ドッドソンとジョン・チャンドラー

牧場の治安と平和を口にしながら、自分の手を汚さず金で人殺しをさせるクズ野郎。
ビリー殺しを依頼する投資家に、賞金の前金を叩き返すパットの怒りがいい。

保安官助手を押し付けられたばかりにビリーと決闘する羽目になるジャック・イーラム。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジャック・イーラム

恐怖心にかられ八つ数えたところで振り返る。その卑怯な心理を先読みしていたビリーは、真っ当に対決する気は最初からない。

儲け役はスリム・ピケンズ。
引退して舟で川を下り町を出ていくのが夢だと語っていた男。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:スリム・ピケンズ

死の間際、川のほとりにて微かに笑う。ペキンパー映画指折りの名シーン。

男勝りなママ(ケティ・フラド)の表情も良い。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ケティ・フラド

客寄せキャスティングだったとは思うが、ボブ・ディランはなかなかの存在感で良好。ガンベルトを付けないナイフ投げの若造エーリアス。最初の脚本には無かった役で、セリフが少ないぶんナイーブな性格が引き立っている。
相棒のジェリー・フィールディングが外されてペキンパーは猛反対したらしいけど、結果的にディランの音楽は素晴らしく映像にマッチしている。

R・G・アームストロングは今回も説教臭い役。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:R・G・アームストロング

L・Q・ジョーンズは今回もやっぱり殺される。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:L・Q・ジョーンズ

「ワイルドバンチ」のマパッチ将軍、エミリオ・フェルナンデスも出ている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:エミリオ・フェルナンデス

これも友情出演みたいなもので、音声解説者たちは揃ってこの役は不要だったと語っていた。 牧場経営の大物チザムの手下に惨殺される。

ペキンパー監督も棺桶を作る職人役で出演。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:サム・ペキンパー

ペキンパーの映画製作にトラブルは付きものだけど。
本作の編集にはデヴィッド・バーラツキー、ガース・クレイヴン、トニー・デ・ザラガ、リチャード・ハルシー、ロジャー・スポティスウッド、ロバート・L・ウルフと6人が名を連ねている。完成を急がせた会社(MGM)が、監督から編集権を取り上げ、次々と編集マンを送り込んだせいだ。

そのため、他のペキンパー映画と同様に幾つものバージョンが存在している。

ワーナー・ホームビデオが販売しているDVDは2枚組で、2005年スペシャル・エディション(115分)と1988年ターナー・プレビュー・バージョン(122分)を収録。
どちらの版にもペキンパー評論家による音声解説が収録されていて、興味深い話がたくさん聞ける。

1988年ターナー版は、劇場公開版(108分)の前に編集されていたディレクターズ・カットの再現で、公開版はこの版を詰めて仕上げたらしい。ラフスケッチみたいなものか。 2005年スペシャル版は、1988年ターナー版の未公開シーンも配慮した上で公開版に近い編集を施したもの。場面がシャープに切り詰められて、ストーリーの流れが良くなっている。音声・音楽も調整されている。デジタル処理されていて映像も綺麗だ。

2005年スペシャル版のほうが完成度は高いと思ったが、解説者のなかには1988年ターナー版のほうに軍配を挙げている人もいて、そんな事情もあって両方を収録して販売したのだろう。このようなメーカーの方針は良心的でよい。

結局、2005年スペシャル版と1988年ターナー版、それにそれぞれの音声解説で計4回も同じ映画を観ることになったが、いろいろと面白かった。

安定した生活を求めて保安官になったパット・ギャレットが、久しぶりに帰宅して奥さんと会う場面。1988年ターナー版ではカットされていて、2005年スペシャル版でしか見られない。

家庭と仕事とどっちが大事なの? もっと私に優しくしてよ! って、日本の(糞みたいな)テレビドラマで頻繁に描かれる(糞な)エピソード。
ストーリーに必要な場面ではないけど、室内装飾と照明が素晴らしい。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

バリー・サリヴァン扮するチザムの牧場シーンは劇場公開版ではカットされていた。1988年ターナー版で復活。2005年スペシャル版にも入っている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:バリー・サリヴァン

西部劇は絵だ。ペキンパーは西部劇の絵作りが抜群に上手い。
本作のラスト・ショットは「シェーン」だ。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

仕事を終えたパット・ギャレットが町を去ってゆく。子供が追いかける。
ビリー・ザ・キッドを殺したパット・ギャレットの背中に、石礫を投げつけている。

70

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません