シャーロック・ホームズ|映画スクラップブック


シャーロック・ホームズ(4本)

2021/03/01

シャーロック・ホームズの冒険

シャーロック・ホームズの冒険|soe006 映画スクラップブック
AmazonAssociate_シャーロック・ホームズの冒険

THE PRIVATE LIFE OF SHERLOCK HOLMES
1970年(日本公開:1971年03月)
ビリー・ワイルダー ロバート・スティーヴンス コリン・ブレイクリー ジュヌヴィエーヴ・パージュ スタンリー・ホロウェイ クリストファー・リー タマラ・トゥマノヴァ クライヴ・レヴィル アイリーン・ハンドル

ビリー・ワイルダー&I・A・L・ダイアモンドによるホームズ・パスティーシュ。
序盤30分をたっぷり使って、ホームズ・ファンをにっこりさせる小ネタ(衣装やヴァイオリン、ワトソンとのホモ説など)を散りばめているのがワイルダーらしい。

シャーロック・ホームズの冒険

ずいぶん前からこの映画、初版は4時間近い長尺だったとの話があった(ワイルダーのインタビュー記事などで読んだ記憶がある)が、ほんとうだった。
編集者アーネスト・ウォルターがDVD映像特典で証言しているだけでなく、現存していたカット場面や音声、台本を編集した「未公開シーン集」が50分、特典に収められている。
しかし、ワトソンが迷探偵ぶりを見せるエピローグ・エピソードの「裸のハネムーンカップルにご用心」をみた感じでは、やっぱり2時間6分の公開版で良かったように思う。
銀行の貸し金庫から発見される未発表原稿のくだりは現行の尺で充分だし、「逆さま部屋の事件」も(面白くはあるが)本筋とは関係ない。
なにしろ、謎の美女(ジュヌヴィエーヴ・パージュ)が登場するまで30分近く費やしているのだから。そしてそこまでの(「白鳥の湖」のプリマドンナが絡むエピソード)が、ホームズ・ファンにはいちばん面白い。特にワトソン役コリン・ブレイクリーのはしゃぎようったら、まるでジャック・レモン!(「お熱いのがお好き」の再現だね)

貸し金庫に眠っていたワトソンの箱から出てくる遺品の数々。
そのタイトルバックの場面だけで、ニヤニヤがとまらない。

シャーロック・ホームズの冒険

小道具使いの名人ワイルダーがホームズものを撮るんだから、次々と繰り出される小道具のそこかしこに伏線や仕掛けが施してある(パッパッと開く日傘に泣かされる!)。

今回悔しかったのは、ネス湖の怪物の正体を(中学時代に月曜ロードショーで見ていたため)覚えていたこと。ちょうど海外推理小説にどっぷりハマって、コナン・ドイルのホームズものは全部読み終えていた時期で、もう最高に楽しんだ記憶が残っている。(無理は承知で)まっさらで再見したかったなあ。

霧のロンドンやスコットランドの古城が、綺麗に撮られていて素晴らしい。
音楽はミクロス・ローザ、演奏はロイヤル・フィルハーモニー。

マイクロフト役はクリストファー・リー。

シャーロック・ホームズの冒険:クリストファー・リー

これが意外にナイスなキャスティング。むかし見たときは彼が演じていることに気づいてなかったんじゃないのかな。これまたDVD特典のインタビューを見たら、ご自身はハマー・プロ専門のイメージで扱われていたことを、けっこうネガティヴに感じていた様子だった。
晩年も「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」だものなあ。

傑作揃いのワイルダー作品のなかではあまり話題にされない地味な評価の映画だけど、これはこれで上出来だと思う。
欲を言えば、美女とホームズの恋愛模様をもう少し踏み込んで欲しかった。

70

2021/03/01

シャーロック・ホームズの素敵な挑戦

シャーロック・ホームズの素敵な挑戦|soe006 映画スクラップブック
AmazonAssociate_シャーロック・ホームズの素敵な挑戦

THE SEVEN-PER-CENT SOLUTION
1976年(日本公開:1977年04月)
ハーバート・ロス ニコル・ウィリアムソン アラン・アーキン ヴァネッサ・レッドグレーヴ ローレンス・オリヴィエ ロバート・デュヴァル サマンサ・エッガー ジェレミー・ケンプ アンナ・クエイル ジョエル・グレイ レジーヌ チャールズ・グレイ ジョージア・ブラウン ジル・タウンゼント ジョン・バード アリソン・レガット

ニコラス・メイヤー原作・脚色によるホームズ・パスティーシュ。
原題は「7パーセントの溶液」。すなわち、ホームズ家の元家庭教師だったモリアーティ教授をなぜ恐れ憎み、コカイン中毒に陥ってしまったのか、ウィーンの精神分析医フロイト博士が催眠療法で解読。これにオペラ歌手ローラ・デヴロー誘拐事件が絡む。

ホームズをニコル・ウィリアムソン、ワトソンをロバート・デュヴァル、マイクロフトをチャールズ・グレイ。可もなく不可もなく、無難かつ面白みのないキャスティング。
序盤の説明をワトソンのナレーションでやってるくだりが、野暮ったい。デュヴァルの語りは当時の倫敦の感じが出せていない。アラン・アーキンは近年のクソジジイぶりからは想像しがたい真っ当な役作りで、フロイト博士を正直かつ地味に演じている。

シャーロック・ホームズの素敵な挑戦:アラン・アーキン

ワトソン夫人役でサマンサ・エッガーが出ていたのが、ちょっとだけ嬉しい。

宿敵モリアーティをローレンス・オリヴィエが演じているというので楽しみにしていたが、出番も少なく、大御所を(宣伝以外で)起用する理由も希薄。

シャーロック・ホームズの素敵な挑戦:ローレンス・オリヴィエ

薬抜き治療の禁断症状のなか、ホームズが襲われる幻覚に「まだらの紐」や「パスカヴィル家の犬」など過去の事件が再現されるのも想定内。ヒッチコック「白い恐怖」、ワイルダー「失われた週末」はもっと奇天烈なイメージで面白かったし、精神分析とか幻覚場面に鈍感になってしまった。
ホームズ幼少期のトラウマ解読も、フロイト絡みならそういうことだろうな、という予想どおりのオチ。子どもが階段を昇るインサートショットがあったから、先は読めていた。

誘拐事件のほうは、歌姫(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)が魅力に乏しく、謎解きも普通ながら、クライマックスに大列車追跡&格闘場面を用意していたので退屈しのぎになった。

常に及第点のハーバート・ロスらしい無難な仕上がり。
19世紀末の風俗描写は手抜かりなく良好。美術も素晴らしい。

決して悪い出来ではないのだが、ワイルダーの茶目っ気たっぷりな「シャーロック・ホームズの冒険」と続けて見たので、いささか辛い見方をしてしまった。

60

2021/03/09

シャーロック・ホームズ

シャーロック・ホームズ|soe006 映画スクラップブック
AmazonAssociate_シャーロック・ホームズ

SHERLOCK HOLMES
2009年(日本公開:2010年03月)
ガイ・リッチー ロバート・ダウニー・Jr ジュード・ロウ レイチェル・マクアダムス マーク・ストロング ケリー・ライリー エディ・マーサン ジェームズ・フォックス ハンス・マシソン ウィリアム・ホープ

「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」のガイ・リッチーによるホームズ・パスティーシュ。黒魔術による陰謀をホームズ&ワトソンが推理と格闘で解決する。

シャーロック・ホームズ

公開時は擦れっ枯らしのシャーロキアンに歓迎され、半可通のファンに嫌われた。
とてつもなく21世紀型のシャーロック・ホームズだが、原作のホームズ像をないがしろにしているわけではない。

頭脳明晰で化学実験が大好きで、ヴァイオリンを弾き、女性を嫌い、フェンシング・格闘技・武術・射撃に長けていて、変装が得意、ペシミスティックで、薬物中毒で、宗教迷信を嫌い、発言は辛辣で常識的な配慮に欠け、行動は素早く、ハドソン夫人が営むベイカー街221Bのアパートに友人の医者と共同で住んでいる。
そんな奴は古今東西ホームズ以外に存在しない。

そもそも鹿撃ち帽とインパネス(外套)のスタイルは挿絵に描かれていただけで、コナン・ドイルの文章にそのような服装の記述がないことは、むかしから知られている。

素人は外見で判断しないように。

シャーロック・ホームズ

観光名所になっているテムズ川の跳開式タワーブリッジが建造中で、映画の序盤に遠景で紹介される。ここをクライマックスの活劇にもってきたところはヒッチコック。造船所で船が水没するのはバスター・キートンの「船出」。不死身の大男は「私を愛したスパイ」のジョーズ(リチャード・キール)。19世紀末の倫敦風景を(CGを多用して)うまく丁寧に取り込み、ぐっと評価があがった。

シャーロック・ホームズ

ストーリーはホームズの行動を軸に描かれているので、「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」ほどプロットは入り組んでいない。偶然の積み重ねで諧謔群像劇を得意としてきたリッチーだけに、ファンとしては物足りなさもある。

陰謀の内容もダン・ブラウン(「天使と悪魔」)の二番煎じみたいで、流行に媚びている感じがした。

短いカットを目まぐるしく編集し、アクション場面を軽く演出するのが今風なのだろうが、おれは好きじゃない。相手の身体的特徴と動きを事前に推理して、効率よく先手攻撃するホームズは新鮮だった。

登場人物の扱いは、「シャーロック・ホームズ」というよりアニメの「ルパン三世」に近い。ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr)がルパンで、ワトソン(ジュード・ロウ)が次元大介、敵か味方か単純に区別できない謎の美女「ボヘミアの醜聞」のアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)は峰不二子。ちょっとした小芝居でホームズをサポートするレストレード警部(エディ・マーサン)は銭形警部。

シャーロック・ホームズ

宿敵モリアーティ教授の正体を隠したまま続編のつなぎにしているのが姑息。
その続編で峰不二子、もといアイリーンはあっさり殺されてしまった。

途中からロバート・ダウニーの表情が阿部寛に似ていることに気づき、気が削がれていけなかった。

70

2021/03/09

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム

シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム|soe006 映画スクラップブック
AmazonAssociate_シャーロック・ホームズ シャドウ ゲーム

SHERLOCK HOLMES: A GAME OF SHADOWS
2011年(日本公開:2012年03月)
ガイ・リッチー ロバート・ダウニー・Jr ジュード・ロウ ノオミ・ラパス ジャレッド・ハリス レイチェル・マクアダムス スティーヴン・フライ エディ・マーサン ケリー・ライリー ジェラルディン・ジェームズ ポール・アンダーソン

ガイ・リッチーのシャーロック・ホームズ第2弾。
今回は推理要素をバッサリと省き、アクションに徹底したストーリー。

前作でワケ有りな女性として登場したアイリーン・アドラー(レイチェル・マクアダムス)が、アバンタイトルであっさりと殺されてしまい、続編としてのつながりは希薄。

シャーロック・ホームズ

ホームズは19世紀末の倫敦から飛び出し欧州大陸を股にかけての大活躍。イギリス映画が生んだ、もうひとりの有名キャラクターにホームズの名を騙らせたような、そんな内容。

シャーロック・ホームズ

撮影スピードを変化しつつカットを細かく刻んで編集したアクション場面が売り物。
結末こそ「最後の事件」のラインバッハの滝で宿敵モリアーティ教授と転落するものの、そこに至る話の流れはホームズというよりジェームズ・ボンド。
行動を共にするジプシー女性(ノオミ・ラパス)の役柄もボンドガールと同じ扱い。

シャーロック・ホームズ

世界各地で爆弾事件を企て国際緊張から世界大戦を誘発、軍事産業で大儲けを狙う犯罪者とか、まるでスペクターのように安っぽい。

シャーロック・ホームズ

なんといってもモリアーティ(ジャレッド・ハリス)が軽い。ここはクリストファー・リー級の大物でないと迫力不足。
国境超えの場面でBGMにエンニオ・モリコーネの「真昼の死闘」を引用したり、製作姿勢も安っぽく品がない。

本作から10年を経ても3作目が出ないところから、シリーズはこれっきりで打ち切りになった模様。ガイ・リッチーとしては本作をステップにして007監督に名乗りをあげたかったのだろうが、イオン・プロはサム・メンデスを続けて起用(「スペクター」2015年)。リッチーはしっぺ返しみたいな感じでナポレオン・ソロ(「コードネーム U.N.C.L.E.」2015年)を監督。こちらもシリーズ化を目論んでいたのだろうが、それっきり放置状態。「キング・アーサー」(2017年)やら実写版「アラジン」(2019年)やら、ガイ・リッチーは他のことで忙しい。ホームズには興味を失くしてしまったのだろう。

おれも最近のガイ・リッチーに、ほとんど興味がない。

60

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません