ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー|映画スクラップブック


ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー(4本)

2022/01/03

お人好しの仙女

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THE GOOD FAIRY
1935年(日本公開:1935年05月)
ウィリアム・ワイラー マーガレット・サラヴァン ハーバート・マーシャル フランク・モーガン レジナルド・オーウェン アラン・ヘイル ボーラ・ボンディ シーザー・ロメロ アン・ミラー

養護施設で育った世間知らずな女の子(マーガレット・サラヴァン)が、映画館で働くことになる。仕事中に知り合ったホテルの給仕係(レジナルド・オーウェン)からパーティの招待状を貰う。初めて目にする豪華なパーティに戸惑う彼女に、大企業を経営するおじさま(フランク・モーガン)が言い寄ってくる。身を守るために「夫がいるの」とついた嘘が、下町の貧乏弁護士(ハーバート・マーシャル)を巻き込んで、ぐちゃぐちゃドタバタに発展する。

お人好しの仙女

堅物なイメージのウィリアム・ワイラー(「女相続人」「ベン・ハー」「大いなる西部」)とスクリューボール・コメディのプレストン・スタージェスの脚本で、どんな仕上がりになってるのか不安もあったが、これが意外と面白い。スタージェス本人の監督作と見間違えそうなくらいにマッチしている。
ワイラーは腕の良い職人監督、なにを撮ってもやっぱり上手い。

登場する3人の男たちは、みんな善良でお人好し。ヒゲを剃ってグッと若返るハーバート・マーシャルの変身ぶり。レジナルド・オーウェンとフランク・モーガンが最高にくだらなくて面白い。この二人の漫才だけでも見た甲斐があった。合わせ鏡に映ったキツネの襟巻きを喜ぶマーガレット・サラヴァンが可愛らしく微笑ましい。

お人好しの仙女

ラストはお決まりの結婚式。花嫁を祝う孤児たちの笑顔が輝いている。
他愛のないバカバカしいストーリーだが、スタージェスの脚本だから通常映画の3倍量のアイデアが突っ込んである。

「FAIRY」を「仙女」と訳した邦題に、時代(昭和10年)を感じる。

65

2021/07/07

嵐が丘

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WUTHERING HEIGHTS
1939年(日本公開:1950年12月)
ウィリアム・ワイラー ローレンス・オリヴィエ マール・オベロン デヴィッド・ニーヴン ジェラルディン・フィッツジェラルド フローラ・ロブソン レオ・G・キャロル ドナルド・クリスプ

サミュエル・ゴールドウィン謹製、文芸ロマンス。
読みにくいうえに長ったらしいエミリ・ブロンテの原作小説を1時間45分とコンパクト化。脚本はベン・ヘクト&チャールズ・マッカーサー。
音楽はアルフレッド・ニューマン。

嵐が丘

ハリウッド映画初出演のローレンス・オリビエはセリフ廻しがいかにも演劇的。
マール・オベロンは美人ではあるものの表情作りすぎ。
語り部のフローラ・ロブソンが全体を俯瞰するつなぎの役割とはいえ魅力に乏しくどうにも不要。

支離滅裂な女の感情をダイレクトにストーリー化して独善的ではあるが、メロドラマを書きたい脚本家はこの恋愛のベクトル相関図を徹底的に記憶しておいたほうがいい。きっと役に立つ。キャシー突然の肺炎で瀕死の病床なんて如何にもな愁嘆場は真似せんほうが良いけど。

アカデミー撮影賞のグレッグ・トーランドのパンフォーカス・カメラは、窓や鏡の枠にやたら凝った気取りが嫌味に感じられた。
このあと(1941年の)「市民ケーン」では枠の中にカメラが侵入する。
一時代を築いた名カメラマンではある。

65

2020/04/23

西部の男

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THE WESTERNER
1940年(日本公開:1951年01月)
ウィリアム・ワイラー ゲイリー・クーパー ウォルター・ブレナン フレッド・ストーン ドリス・ダヴェンポート

名匠ウィリアム・ワイラー監督の西部劇といえば、まず誰しも挙げるのは「大いなる西部」だろう。牧場主の一家が開拓地の水源を巡って争うシリアス・ドラマだった。

だから本作も、農地を荒らす牛の侵入を封じためる鉄条網を作った農民たちと、柵を壊し銃で農民を威嚇するカウボーイたち、誤って牛を撃ち殺し絞首刑になる農民、その判決を独善的にくだす判事ロイ・ビーン(ウォルター・ブレナン)と、序盤の状況説明をみて「大いなる西部」と同じテーマを持った映画ではないか、と思っていたのだが……

馬泥棒の容疑者としてゲイリー・クーパーの流れ者が登場したあたりから、映画は風変わりな、オフビート喜劇っぽいタッチになる。

クーパーを追うブレナンの馬が墓標を蹴飛ばしたタイミングで、わざわざコミカルな効果音(ピャン)を付けてることから、笑いを狙った映画であることは明白。酔いつぶれて抱き合ったまま朝をむかえたクーパーとブレナンの芝居は、あきらかに喜劇だ。勝ち気な農家の娘(ドリス・ダヴェンポート)から歌姫の髪をいただこうとする場面なんか、ロマンスコメディの典型。なのに……

クーパーのとりなしで和解したかに見えた牧場と農家だったが、収穫前のお祭りで農民たちが浮かれている最中、カウボーイたちはトウモロコシ畑に火を放ち、住居や小屋まで焼き払い、娘の父親を殺してしまう。この仕打に怒りをおぼえたクーパーは、副保安官のバッジを胸に、無観客の劇場でブレナンを待ち伏せ、対決する。
素性の怪しい住所不定の流れ者を、そんな簡単に副保安官に任命できるのものなのか? でもロイ・ビーンだって判事だもんな。そんな時代だったんだろう。

それぞれの場面はワイラーらしく丁寧に撮られている。おかしい芝居はおかしいし、迫力もあり、怒りもあり、役者は端役にいたるまでそれぞれに味が出ていた。ウォルター・ブレナンはアカデミー助演賞を受賞。これはワイラーの功績だろう。

ドリス・ダヴェンポートは、「風と共に去りぬ」スカーレット・オハラ役のオーデションで、最終候補に残っていたという。だから家を焼失し父親を殺され農民たちが去ってゆくなかで、あのセリフ、あの演技があてがわれたのだろうか?

支離滅裂な脚本、どっちつかずの演出、これがサミュエル・ゴールドウィン&ウィリアム・ワイラーの仕事とは信じられない。それぞれの場面は丁寧に撮られているだけに、錯乱していたとしか思えない。

60

2021/07/20

ローマの休日

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ROMAN HOLIDAY
1953年(日本公開:1954年04月)
ウィリアム・ワイラー オードリー・ヘプバーン グレゴリー・ペック エディ・アルバート パオロ・カルリーニ ハートリー・パワー マーガレット・ローリングス ハーコート・ウィリアムズ クラウディオ・エルメッリ

すべてのロマコメは「ローマの休日」に通じる。

ロマコメ、ラブコメといえば、多くの映画ファンが真っ先にタイトルを挙げるであろう、ロマンチック・コメディの代表作。

ローマの休日

欧州某国の王女が身分を隠してアメリカ人の新聞記者と一日だけのデートを楽しむ。

細かいギャグがテンポ良く配置され、終盤は王女の成長がぐっとストーリーを引き締める。グレゴリー・ペックが記者会見場を去るときの、哀愁漂うラストの余韻がいい。

オードリー・ヘプバーンの代表作でもあるが、ウィリアム・ワイラーとしては異色。
なにしろ、長いキャリアのなかでコメディは戦前の「お人好しの仙女」、戦後は本作と「おしゃれ泥棒」くらい。人間の心理描写をじっくり丹念に撮るのが得意で、本来は明朗な作風の監督じゃないのだけど。
文芸ロマンス「嵐ヶ丘」、歴史スペクタクル「ベン・ハー」、西部劇「大いなる西部」と、いろんなジャンルの代表作を撮っている。「デッドエンド」、「探偵物語」、「必死の逃亡者」、「コレクター」などの犯罪もの、サスペンス映画も上手い。
なんでもござれの職人監督で腕前は一級。

巨匠とはまさにこの監督。

75

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません