ハワード・ホークス 「赤い河」

ハワード・ホークス 「赤い河」

July 3, 2005

赤い河
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赤い河
Red River

1948年/アメリカ/133分 (日本公開:1951年12月)
製作総指揮:チャールズ・K・フェルドマン
製作・監督:ハワード・ホークス
原作・脚色:ボーデン・チェイス
共同脚色:チャールズ・スクニー
撮影:ラッセル・ハーラン
音楽:ディミトリ・ティオムキン
美術:ジョン・D・アレンスマ
編集:クリスチャン・ナイビー
出演:ジョン・ウェイン、モンゴメリー・クリフト、ジョアン・ドルー、ウォルター・ブレナン、コリーン・グレイ、ジョン・アイアランド、ノア・ビアリー・ジュニア、チーフ・ヨウラチェ、ハリー・ケイリー、ハリー・ケイリー・ジュニア、ミッキー・カーン、ポール・フィックス、ハンク・ウォーデン、イヴァン・パーリー、ハル・タリアフェロー、ポール・フィエロ、ビリー・セルフ、レイ・ハイク、クリスチャン・ナイビー

サタディ・イヴニング・ポストに掲載された、ボーデン・チェイスの小説「チゾルム・トレイル」の映画化で、気鋭の映画監督ハワード・ホークスが始めて撮った西部劇大作。
チゾルム・トレイルとは、1877年にジェシー・チゾルムが開発した、テキサスからオクラホマ州を北へ縦断しカンザス鉄道へと向かう連絡路のことで、映画では牧場主のトム・ダンスン(架空の人物)とカウボーイたちが1万頭の牛を率いて、1000マイル/100日をドライヴ(旅)する過程が描かれる。
赤い河(Red River)とは、テキサス州北西部よりルイジアナ州へと流れミシシッピー河に合流する延長1200マイルの大河。古くて頑固な考え方と、若くて柔軟な世代との断層も暗喩したタイトルになっている。

好きな映画100本を挙げろといわれれば、その最初の20本にこの映画を挙げる。好きな西部劇20本を挙げろといわれれば、その最初の5本にこの映画を挙げる。モノクローム撮影された最も素晴らしいスタンダード・サイズの映画を挙げろといわれれば、まず最初にこの映画のタイトルを挙げる。好きな映画音楽は、と問われれば……以下略。
劇場で観たのは1度だけだが、その後ビデオで何度も繰り返し観ている。何度観ても飽きない。広大な平原を移動する牛の大群だけをボンヤリ眺めているだけでも、愉しい、嬉しい、気持ちいい。

アメリカはその映画史の初期から、『幌馬車』(1923年)や『シマロン』(1931年)のような、開拓劇と呼ばれるジャンルの映画を製作してきた。それらの映画では、主役はアメリカの歴史であり土地であり、登場人物たちは狂言回しとしての役割しかふられていなかった。1962年のシネラマ超大作『西部開拓史』はその典型的な例で、どんなに有名なスター俳優が出てきても、映画の中央にどっしり陣取っていたのはアメリカ西部という広大な土地であり、歴史という名の時間だった。
史上初のキャトル・ドライヴを描いた『赤い河』も、表向きはウォルター・ブレナンのナレーションと字幕によって、叙事詩的開拓劇のスタイルでストーリーが進められる。 だが、ホークス監督の視点はそこにはない。
この映画では、登場人物たちの行動が物語を牽引してゆく。物語の中心に人物がいて、彼らは時の流れ(運命)に翻弄されたりはしない。自分の信念に基づいて行動する。これがハワード・ホークス独特の流儀で、『リオ・ブラボー』でも『ハタリ!』でも、ホークス映画の人物たちは常に自発的に動いている。だから……歴史大作の愚鈍な重々しさは、この映画にはない。

ヴィジュアル・スペクタクルを満喫できる大きな見せ場と、ドラマを牽引する心理劇とが配分良くがっちり組み込まれた構成が素晴らしい。キビキビしていて無駄がない。手際の良い脚本とは、こういうものを指す。 内容を簡単にまとめれば……若き日の判断ミスにより恋人をインディアンに殺され、すっかり偏屈な性格になってしまった初老の男が、再び笑顔を取り戻すまでのおはなし……ということになる。
映画の冒頭で恋人(コリーン・グレイ)に渡した腕輪を、深夜に襲ってきたインディアンが身につけていたことで恋人が殺された事実を説明し、インディアン襲撃の唯一の生存者だった少年マット(成長してモンゴメリー・クリフト)が持っていることで、主人公ダンソン(ジョン・ウェイン)との親密な信頼関係が説明され、後半、幌馬車の娘テス(ジョーン・ドルー)が身につけているのを見て、ダンソンは、この女がマットとどのような関係なのかを察知する。魅力的な小道具があれば台詞など不要。腕輪というアイテムが持つロマンチックな個性も充分に発揮されていて、実に見事。小道具の扱いはかくあるべし。
また『赤い河』は、フォトジェニックに優れた映画でもある。本来のモノクロの美しさはテレビ画面では再現できないかもしれないが、キャメラ・アングルの素晴らしさは充分堪能できる。大型映画はワイド画面で、という根拠のない固定観念に縛られている人は、的確に切り取られたスタンダード・サイズの映像に、その巨大さに驚くことだろう。
360度パンで出発直前の静寂に緊迫感を与え、「ヒィーホゥ!」の掛け声と同時にわっと躍動する、その静と動の効果的な対比。スタンピード(牛群の大暴走)。牛群の渡河。町に到着した牛のパレード。インディアンに襲われた幌馬車隊を救出にゆくカウボーイたちの格好よさ。悪鬼の如き形相で復讐を誓うダンソン……書き出すとキリがない。
優秀な映画は、すべての場面が強く印象に残る。

配役も見事。大胆で無骨な演技のジョン・ウェインに、アクターズ・スタジオ出身の新人モンゴメリー・クリフトをぶつけたことにより、対立の図式がより一層際立った。
ダンソンとは一心同体の相棒で映画のコメディ・リリーフを務めるウォルター・ブレナン。ニヒルなガンマン(ジョン・アイアランド)。ストーリーに決着をつける気丈な女(ジョーン・ドルー)。アーカンソーの仲買人(ハリー・ケリー)。その他、ノン・クレジットの小さな役にまでイキイキとした個性が滲み出ていて魅力的。

蛇足承知で最後に付け加えておくと……西部劇は「男の世界」というイメージがあるが、これはとんでもない誤解で、特にハワード・ホークスの映画に出てくる女性は、みなさん独立した思考と主義を持ち合わせていて、普遍の輝きを放っている。女性を「個人」として尊重するホークスならではの視点であり、 21世紀を生きている現代女性にも、テス(ジョーン・ドルー)の姿は歓迎されると思う。

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