オール・ザット・ジャズ|映画スクラップブック


2020/03/06

オール・ザット・ジャズ

オール・ザット・ジャズ
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ALL THAT JAZZ
1979年(日本公開:1980年08月)
ボブ・フォッシー ロイ・シャイダー ジェシカ・ラング アン・ラインキング リーランド・パーパー エリザベート・フォルディ ベン・ヴェリーン クリフ・ゴーマン ジョン・リスゴー

この映画について、何か書くのは難しい。
というか、めんどくさい。
文字に起こして説明したいタイプの映画じゃないからね。

主人公は、ボブ・フォッシー自身をモデルにしたブロードウェイの演出家ジョー・ギデオン(ロイ・シャイダー)。熱いシャワーを浴び、充血した眼に目薬をさし、アルカセルツァー(鎮痛薬)とデキセドリン(覚醒剤)を服用して気合をいれる。

「イッツ・ショータイム、フォークス!」

酒と煙草とクスリとセックスと仕事に依存し、かろうじて日々の生活を維持してきたギデオンだったが、新作ミュージカルのリハーサル中に過労で倒れ心臓の手術をうける。
麻酔を打たれたギデオンは昏睡のなか、花嫁衣装をまとった死の女神アンジェリーク(ジェシカ・ラング)に誘われ、現実と創造が混濁する意識のなかを彷徨い、迫りくる死と戯れ、死体袋に収容される。

こういった私小説的な映画は作家の独りよがりに陥ってしまいがちだが、緻密な脚本と絶妙な編集を得て、奇跡的に傑作になった。
本編でギデオンが何度もしつこく「レニー・ブルース」の編集をやり直していたように、この映画も編集にかなり時間をかけたんじゃないかと思う。

全般的にシーンのつなぎがシャープ&ドライ。
例えば、恋人(アン・ラインキング)と娘(エリザベート・フォルディ)による微笑ましいダンスの場面でも(平凡な監督だったら)ギデオンの感涙リアクションを入れて(もっと凡庸な監督だったら)ギデオンの感謝のセリフも入れて、心温まるお涙頂戴にしてしまうところを、非情にもバチッと断ち切って翌朝のシャワー・シーンにつなげる。
ストーリーがウェットになるのを恐れているようにも感じられる。
倒れたギデオンが病院に運ばれる場面を省略し、女神が白いベールをめくる短いインサート・カットで説明してしまう手際の良さ、見事なものだ。

成功のもうひとつの要因は、(死を扱っている映画なのに)全体にシニカルなユーモアに満ちていること。くわえタバコで咳き込みながら診察する医者の場面は狙いすぎな感じもするが。公演中止の際に支払われる保険金の計算をしている場面に、グロテスクな開胸手術のカットをインサートするアイディアは強烈。

余談:初日でコケて公演打ち切りになると利益がでるという、メル・ブルックス「プロデューサーズ」の理屈はよく分からなかったが、本作の、公演中止になると保険金が支払われ、利益がでるという仕組みはよく分かった。それと公演の準備で支払われる製作費の内訳も、たぶん実際の数字を使っているみたいで、とても興味深かった。

この映画が好きな理由は、(上記余談にあるような)本物のショービジネス、ブロードウェイの舞台裏を誠実に克明に、赤裸々に描いていることと、主演のロイ・シャイダーはもちろんのこと、出演している役者・ダンサーに実在感があること。
例えば、入院したギデオンの代理演出を依頼されるジョン・リスゴー。短い出演の小さな役なのに、実に巧い芝居を見せる。女の子にサイン求められたときのペンの筆使いが絶妙だ(見逃すなかれ!)。
スタンダップコメディアンを演じるクリフ・ゴーマンも、レニー・ブルースのアイロニックな雰囲気をよく再現していた。

この映画はミュージカルではないが、新作公演の準備が進むにつれて幾つかのダンスシーンが披露される。ジョージ・ベンソンのBGMを使った巻頭のオーディション場面もいいが、プロデューサーやスポンサーの前でリハーサルされる「エア・ロティカ」は、振付師ボブ・フォッシーの本領発揮。子どもには見せられない。元妻で本公演の主役オードリー(リーランド・パーパー)のリアクションがいい。

死体袋のジッパーが閉じられて映画は終わり、エセル・マーマンが歌う「ショーほど素敵な商売はない」がエンドクレジットに流れる。これはボブ・フォッシーの皮肉か本音か?
おそらく両方だろう。

70

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70点 年間ベストテン候補
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