ジェームズ・M・ケインの小説「倍額保険」を、ビリー・ワイルダーとレイモンド・チャンドラーが脚色して映画化したサスペンス・スリラー。
保険会社のセールスマン(フレッド・マクマレイ)が、深夜のオフィスで事件の真相を(録音機に)語ることでストーリーは進行する。そのものズバリな邦題がセンスいい。
不倫を動機とした殺人事件のクラシック映画として、同じケイン原作の「郵便配達は二度ベルを鳴らす」(1946年/監督:テイ・ガーネット)と並べられる事も多い。
実業家の後妻を演じたバーバラ・スタンウィックは、ファム・ファタール(男を破滅させる悪女)の代名詞となった。
レイモンド・チャンドラーとの共同脚本も、執筆中はギクシャクしていたそうだが、チャンドラーらしい言い回しの独白が功を奏して、硬質のタッチが出た。それをジョン・サイツのローキー撮影が重く深く定着させている。
ダイアローグ(対話)はワイルダーが書いたのだろう。マクマレイとロビンソンの機知に富んだやりとりが面白い。
フェロモンたっぷりな悪女が男の下心を利用して悪事を唆す前半の流れは、いまとなってはありきたりに見える。替え玉のトリックで事故を偽装するくだりもぬるい。
時代だからしかたない。
偽装工作が終わった後半からがワイルダーの真骨頂。
保険金の払いを渋る社長。アパートのドアに隠れたスタンウィックと帰りそうで帰らないエドワード・G・ロビンソン。証人として会社に現れる展望車両の目撃者(ポーター・ホール)。女の背後に男の匂いを嗅ぎつけるロビンソン。さらに犠牲者の娘(ジーン・ヘザー)が語るスタンウィックの素性。犯人と探偵が毎日のように顔をあわせていて、ふたりには友情があるという人物関係の構図がいい(幕切れは「さらば友よ」のアラン・ドロンとチャールズ・ブロンソンだよな)。
でもやっぱり映画の最大の功労者は、バーバラ・スタンウィックとエドワード・G・ロビンソンだ。この2人のキャラクターは記憶に残る。
点