1927年5月20日、単葉単発のプロペラ機「セントルイス魂」号でニューヨーク-パリ間を単独で飛び、大西洋無着陸飛行に成功したチャールズ・A・リンドバーグの回想録(ピュリッツァー賞を受賞)を、ウェンデル・メイズとビリー・ワイルダーの脚色で映画化。
製作された1957年は、ソ連が初の人工衛星(スプートニク1号)の打ち上げに成功した年であり、米ソ冷戦下での、国威発揚を目的としたアメリカ讃歌の映画であります。
邦題「翼よ!あれが巴里の灯だ」はうまい。上空からパリの夜景が見えた時の主人公の気持ちがよく出ているし、プロパガンダ臭さが消えて、映画を観終えたときの気分がそのまま伝わってくる。よい邦題だ。
実際は着陸したとき、何処に降りたのか、リンドバーグ本人はまったく分からなくて混乱していたらしいけど。
大西洋横断飛行が成功を収めるのは誰でも知っているし、映画の冒頭で字幕でも紹介される。事前に結末が分かっているストーリーを、どう作るか? 映画の大半を占める飛行中の場面は、操縦席と外の景色のみ。この単調な絵をどう見せるか?
そこは、さすがのビリー・ワイルダー。前半にスポンサー探しや飛行機製作のエピソードを仕込み、後半は回想を頻繁にインサートしながら、クライマックスのパリ到着までテンポよく構成してある。
回想される郵便配達や曲芸飛行などのエピソードに、ローリング・トゥウェンティーズの時代色がでていて微笑ましいし、ガスバーナーでヒラメを焼いている工場長など、ユニークな登場人物もいい。工員たちが手作りで飛行機を組み立てる工程がとくに良かった。
フィラデルフィアの女性記者に貰ったコンパクトミラー、機内に紛れ込んでいたハエ、神父からプレゼントされたメダルとか、(映画の創作ではあるけれど)ワイルダー映画らしい趣向も盛り込まれていて面白い。
飛行機がニューヨークを飛び立ったあとに、数シーン挿入された、見送った人たちの点描がほのぼのとして好きだな。
点