陽は昇る|映画スクラップブック


2020/06/06

陽は昇る

陽は昇る|soe006 映画スクラップブック
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LE JOUR SE LEVE
1939年(日本未公開)
マルセル・カルネ ジャン・ギャバン ジャクリーヌ・ローラン アルレッティ ジュール・ベリー

「霧の波止場」の翌年に製作されたジャン・ギャバン&マルセル・カルネ・コンビの2作目。日本未公開。

実直で好印象の工員フランソワ(ジャン・ギャバン)は、届け先を間違えて工場に入って来た花屋の店員フランソワール(ジャクリーヌ・ローラン)と恋に落ちる。
しかし彼女は犬の曲芸師ヴァランタン(ジュール・ベリー)とも交際している様子。フランソワは彼女を尾行して曲芸師が出演している芝居小屋に入る。曲芸師の相方をしていたクララ(アルレッティ)は、嘘つきで女たらしのヴァランタンに愛想を尽かし、フランソワを誘惑する。

クララと男女関係になったフランソワは、彼女の部屋に出入りするようになったが、本命の相手はフランソワールで、クララを本気で愛しているわけではない。
そこへヴァランタンが現れ、フランソワールは若いとき生き別れになった娘で、工員ごときと結婚したら彼女の将来が不安だと、フランソワに身をひくよう忠告。フランソワは断固としてこれを拒絶。フランソワールと会い、曲芸師の言ったことが作り話だったことを知る。
若い娘を虚言で騙し手篭めにするヴァランタンが許せない。フランソワはアパートの自室で彼を撃ち、ヴァランタンは階段を転げ落ちて死ぬ。

警官隊に包囲され、最上階の自室に立て籠もったフランソワの回想形式でストーリーは語られる。その語り口はカルネらしく繊細で丁寧なのだが、警察の捜査に最初から応じようとせず、最後に自殺を選択するフランソワの心情がよく分からない。工員と曲芸師の間をどっちつかずのフランソワールも(終盤のベッドでうなされる場面を含め)説明が不足しているように思う。ムードで流してしまった感が強い。

ジャック・プレヴェール流儀の洒落たセリフ、人情味あるアパート周辺の住民たち、よく作り込んであるオープンセット。一級品の品格を備えながら、綻びが生じている。失敗作とは言わない、残念作といったところか。

「霧の波止場」のミシェル・シモンも良かったが、本作のジュール・ベリーの腹芸も実に上手い。彼の言葉は嘘ばかりだとアルレッティが教えてくれていたのに、すっかり騙されちまった。腹黒い奴ほど優美に振る舞い風格を顕示したがるもの。カルネ映画の悪役は曲者ぞろいでみんな面白い。

フランソワが住んでいる6階建てアパートに存在感があって良かった。とくに前半よく出てくる俯瞰撮影の螺旋階段がよいアクセントになっている。警官隊がやってきて、両手いっぱいに荷物を抱え込んで避難するお婆ちゃんがスプーンを落とす。その後の場面で手摺りにスプーンが乗っているのを「なんでこんなところに?」と不思議に思う住人。こんなのがあるからカルネ映画はやめられない。避難するときにスプーンを持って部屋を出るお婆ちゃんに、リアルなユーモアがあっていい。
この階段、最上階から下まで、パンでなく移動で撮影されたカットがある。そんな美術セットも面白い。

篭城の一夜が明けて。催涙弾のガスがゆったりと漂う部屋で、床に倒れているフランソワ。セットしていた目覚し時計のベルが鳴る。ワンカットのラストシーンが強く印象に残る。

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