映画の製作後、第二次世界大戦、ベトナム戦争などの(冷酷・残虐・非人道な)大戦を経験したいまとなっては、この映画で描かれた世界こそが「大いなる幻影」と呼べる架空の物語のようにも思える。
第一次世界大戦、敵情偵察に出た仏軍の飛行機は、ドイツ飛行隊のラウフェンシュタイン(エリッヒ・フォン・シュトロハイム)に撃墜され、マレシャル中尉(ジャン・ギャバン)とポアルディウ大尉(ピエール・フレネー)は独軍の捕虜となる。
敵対しているラウフェンシュタインが、捕らえられた二人を、任務を同じくする空の英雄として歓待する最初のエピソードから、もうファンタジーのような印象。
マレシャルは機械工、ポアルディウは貴族で、最初はしっくりこない。しかし後半、マレシャルたちが収容所を脱走する際には、ポアルディウは自ら計画を立て、命を賭して囮の役を買って出る。
仏軍捕虜による演芸会が催されている最中、占領地奪回の報せが入ってラ・マルセイエーズの大合唱。その騒動を先導した懲罰で独房に入れられたマレシャルに、ハーモニカを与え慰める独軍看守の気遣い。
収容所鞍替えで入れ替わりにやってきた英国軍捕虜(捕虜たちがみんなテニスラケットを持参しているのが笑える)に、マレシャルは準備していた脱走用トンネルのことを伝えようとするが、彼らにフランス語が通じない。
移送先の収容所で再会するポアルディウとラウフェンシュタイン。消えゆく貴族社会・騎士道精神を憂う二人の共感。
言葉も通じない敵国の戦争未亡人(ディタ・パルロ)と交わす、ほのかな愛情。
戦争映画でありながら、悪役はひとりも登場しない。
映画で描かれたストーリーはフィクションだが、現実もこうであって欲しいと思う。戦争は避けられない現実であっても、戦場の人々はこの精神を忘れずに生きて欲しいと願いたい。
実際にフランス空軍に所属し偵察任務についていたジャン・ルノアールの、国境や言語や人種を超えた、人間愛に満ちた名作。
点