1860年、在る夏の日曜日。パリで金物商店を営む一家が行楽を求め、セーヌ河上流の田舎に馬車でやってくる。
モーパッサンの短編小説「野あそび」を元ネタとしたストーリー。
これはまさに父親(ピエール・オーギュスト・ルノワール)が描いた印象派絵画を、(繊細に、丁寧に、忠実に)フィルムにアダプテーションした、息子(ジャン・ルノアール)の未完の中編映画。上映時間40分。
ルノワール自身が編集したフィルムはドイツ占領時代に消失してしまったが、アンリ・ラングロワのシネマテークが密かに保管していたオリジナル・ネガ(たぶん非合法な手段で入手している)を、助監督だったジャック・ベッケルらが再編集し(補足説明の字幕はそのとき加えられた)、1946年にパリにて初公開。
全編に素晴らしい絵作りが施されているが、白眉は、娘アンリエット(シルヴィア・バタイユ)の立ち漕ぎブランコと、緩やかに水面を流れる舟遊びの場面。
記録を再現する映画というものの在り方。
映画を観るという行為(みつめるということ)の原点。
いろんなことを考えさせられる映画だし、また貴重な文化財産だけど、何がなんでも持ち上げて、拡散浸透せねばならぬという類の映画でもなかろう。
撮影を中断したまま他の作品を撮って、渡米して、再編集も他人に任せてしまったくらいだから、監督には長編版の完成に執着がなかったのだろう。撮りたいシーンはすべて撮り終えてしまっているという、達成感もあったんじゃなかろうか。
日本公開は「素晴らしき放浪者」の併映(1977年3月/配給:フランス映画社)で、ひっそりと(いまで言う単館上映)。
点