製作から90年を経て、いまだ戦争映画の代表作として挙げられる不朽の名作。
キューブリック(「フルメタル・ジャケット」)やスピルバーグ(「プライベート・ライアン」)も多分見ているであろう、戦争映画の古典。
昨今のCGデジタル合成で感覚が馬鹿になっている眼で見ても、この映画の凄まじい戦闘場面は衝撃だ。いくぶんコマ抜きされているとはいえ、兵士たちの動きはスピーディ。
敵弾を掻い潜りながら走る姿は、全員が「突撃隊」のマックィーン。機関銃はすごい皆殺しマシーンだ。
民家だろうと墓地だろうと構いなく炸裂する砲弾。山と積まれた棺桶だって木っ端微塵。画面いっぱいに広がる硝煙。ドリーで撮られた泥水まみれの塹壕、鉄条網にぶら下がる切断された腕。爆音と銃声の緊張感。「今日は4人撃った」と日常茶飯事のように話す狙撃兵。非情で過酷な戦場がリアルに再現されている。
撮影に動員された兵隊役のエキストラは、第一次大戦に従軍し戦った(そして生き残った)戦争当事者だったとのこと。
トーキー初期の製作ゆえ、人物のアップにサイレントの技法が散見される。学生たちが志願して前線に送られるまでの編集が混乱しているように感じられた。
前半、誰が主人公なのか掴めない。
それはそれで良いのかも知れない。いつ誰が殺されるのか分からない、死の恐怖は平等に与えられている。
敵のフランス兵を刺殺したあたりから、この若者(リュー・エアーズ)にカメラが注目し、主人公だと分かってくる。
豚をまるごと調達してくる古参兵(ルイス・ウォルハイム)が頼もしい。
愛国精神を説いて学生たちを扇動する教師や、教育班長の元郵便配達は、小津安二郎「秋刀魚の味」での笠智衆と加東大介のやりとり(日本が戦争に負けたので「下らない連中が威張り散らすことがなくなって良かった」)を思い出させる。
食堂で地図を拡げ、戦略談義する老人たち(町の有力者)がおぞましい。
負傷休暇でいったん故郷に戻った主人公に、世間との乖離、精神的苦悩が示唆され、後のベトナム帰還兵後遺症映画を連想させられた。
塹壕の場面は、セットや人物の配置が舞台演劇的。レマルクの原作は戯曲としても書かれ、日本では築地小劇場の舞台公演が評判だったとのこと。
サイレント版とトーキー版があるらしい。日本では東京第一の配給で1930年(昭和5年)10月24日にトーキー版が封切りになっているが、時局がら反戦思想を強く匂わせる場面が検閲でカットされて、上映時間は100分。
今回見たのはユニバーサル・ジャパンが発売した「完全オリジナル版」で131分。
ところが、野口久光「想い出の名画」(文藝春秋)には、「十七巻二時間五十分の大作」との記述がある! もし現行のDVDよりも長尺のヴァージョンが存在するのなら、ぜひ見てみたい。
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