スタンリー・キューブリックの映画はどれも冷たい。観客に感情移入できないよう、意図して作っているのだろう。説明を極力省いているので、テーマも製作動機も見えてこない。
海兵隊の新兵訓練の前半と、フエ奪還作戦を描いた後半の、2部構成とした理由も分からない。画面に映っているものがすべてであり、スピーカーから聞こえてくる音がすべて。
長髪の若者たちがバリカンで坊主頭に刈られていくファースト・シーンから、ミッキーマウス・マーチを歌いながら行軍するラスト・シーンまで、映像は強烈な印象を残している。
現地ロケはなく、前半後半ともに、すべてイギリスで撮影されている。
「プラトーン」の5倍の製作費(3000万ドル)をかけているだけあって、「プラトーン」よりもしっかりした「映画」になっている。出演者も手伝ってジャングルの草刈りをして撮った「プラトーン」のドリーよりも、スムーズでしっかり撮られた横移動(背後には本物の戦車だって走ってるんだぜ!)に、瓦礫が散らばるフエ市街のオープンセットに、映画の贅沢を感じる。
しかし、「プラトーン」にあった東南アジアの不快な熱気や湿気は、(たとえテト攻勢=旧正月の時期だとしても)この映画からは感じることはできない。スタンリー・キューブリックの映画はいつも冷たい。
キューブリックが「なにを見せたかったのか」分からないまま、マシュー・モディーンは狙撃手を撃ち殺し、映画は終わった。30年前の公開時とおなじく、評価は保留。(評価するために映画を見ているわけじゃないし)
印象に残ったキャラクターをメモしておく。
微笑みデブ(ヴィンセント・ドノフリオ)
ハートマン軍曹(R・リー・アーメイ)
ジョーカー(マシュー・モディーン)
北ベトナムの狙撃手(ニョック・リ)
「よく女子供が殺せるな」
「簡単さ、動きがのろいからな。ホント、戦争は地獄だぜ!」
「逃げる奴は皆ベトコンだ、逃げない奴はよく訓練されたベトコンだ」
あたりまえのことだけど、
戦時下の敵国人であっても、理由なく民間人を殺したら殺人罪です。(空襲や原爆で日本の民間人を大量殺戮したアメリカが無罪なわけないだろ!)
点