ビリー・ワイルダー&I・A・L・ダイアモンドによるホームズ・パスティーシュ。
序盤30分をたっぷり使って、ホームズ・ファンをにっこりさせる小ネタ(衣装やヴァイオリン、ワトソンとのホモ説など)を散りばめているのがワイルダーらしい。
ずいぶん前からこの映画、初版は4時間近い長尺だったとの話があった(ワイルダーのインタビュー記事などで読んだ記憶がある)が、ほんとうだった。
編集者アーネスト・ウォルターがDVD映像特典で証言しているだけでなく、現存していたカット場面や音声、台本を編集した「未公開シーン集」が50分、特典に収められている。
しかし、ワトソンが迷探偵ぶりを見せるエピローグ・エピソードの「裸のハネムーンカップルにご用心」をみた感じでは、やっぱり2時間6分の公開版で良かったように思う。
銀行の貸し金庫から発見される未発表原稿のくだりは現行の尺で充分だし、「逆さま部屋の事件」も(面白くはあるが)本筋とは関係ない。
なにしろ、謎の美女(ジュヌヴィエーヴ・パージュ)が登場するまで30分近く費やしているのだから。そしてそこまでの(「白鳥の湖」のプリマドンナが絡むエピソード)が、ホームズ・ファンにはいちばん面白い。特にワトソン役コリン・ブレイクリーのはしゃぎようったら、まるでジャック・レモン!(「お熱いのがお好き」の再現だね)
貸し金庫に眠っていたワトソンの箱から出てくる遺品の数々。
そのタイトルバックの場面だけで、ニヤニヤがとまらない。
小道具使いの名人ワイルダーがホームズものを撮るんだから、次々と繰り出される小道具のそこかしこに伏線や仕掛けが施してある(パッパッと開く日傘に泣かされる!)。
今回悔しかったのは、ネス湖の怪物の正体を(中学時代に月曜ロードショーで見ていたため)覚えていたこと。ちょうど海外推理小説にどっぷりハマって、コナン・ドイルのホームズものは全部読み終えていた時期で、もう最高に楽しんだ記憶が残っている。(無理は承知で)まっさらで再見したかったなあ。
霧のロンドンやスコットランドの古城が、綺麗に撮られていて素晴らしい。
音楽はミクロス・ローザ、演奏はロイヤル・フィルハーモニー。
マイクロフト役はクリストファー・リー。
これが意外にナイスなキャスティング。むかし見たときは彼が演じていることに気づいてなかったんじゃないのかな。これまたDVD特典のインタビューを見たら、ご自身はハマー・プロ専門のイメージで扱われていたことを、けっこうネガティヴに感じていた様子だった。
晩年も「スター・ウォーズ」や「ロード・オブ・ザ・リング」だものなあ。
傑作揃いのワイルダー作品のなかではあまり話題にされない地味な評価の映画だけど、これはこれで上出来だと思う。
欲を言えば、美女とホームズの恋愛模様をもう少し踏み込んで欲しかった。
点