ニコラス・メイヤー原作・脚色によるホームズ・パスティーシュ。
原題は「7パーセントの溶液」。すなわち、ホームズ家の元家庭教師だったモリアーティ教授をなぜ恐れ憎み、コカイン中毒に陥ってしまったのか、ウィーンの精神分析医フロイト博士が催眠療法で解読。これにオペラ歌手ローラ・デヴロー誘拐事件が絡む。
ホームズをニコル・ウィリアムソン、ワトソンをロバート・デュヴァル、マイクロフトをチャールズ・グレイ。可もなく不可もなく、無難かつ面白みのないキャスティング。
序盤の説明をワトソンのナレーションでやってるくだりが、野暮ったい。デュヴァルの語りは当時の倫敦の感じが出せていない。アラン・アーキンは近年のクソジジイぶりからは想像しがたい真っ当な役作りで、フロイト博士を正直かつ地味に演じている。
ワトソン夫人役でサマンサ・エッガーが出ていたのが、ちょっとだけ嬉しい。
宿敵モリアーティをローレンス・オリヴィエが演じているというので楽しみにしていたが、出番も少なく、大御所を(宣伝以外で)起用する理由も希薄。
薬抜き治療の禁断症状のなか、ホームズが襲われる幻覚に「まだらの紐」や「パスカヴィル家の犬」など過去の事件が再現されるのも想定内。ヒッチコック「白い恐怖」、ワイルダー「失われた週末」はもっと奇天烈なイメージで面白かったし、精神分析とか幻覚場面に鈍感になってしまった。
ホームズ幼少期のトラウマ解読も、フロイト絡みならそういうことだろうな、という予想どおりのオチ。子どもが階段を昇るインサートショットがあったから、先は読めていた。
誘拐事件のほうは、歌姫(ヴァネッサ・レッドグレーヴ)が魅力に乏しく、謎解きも普通ながら、クライマックスに大列車追跡&格闘場面を用意していたので退屈しのぎになった。
常に及第点のハーバート・ロスらしい無難な仕上がり。
19世紀末の風俗描写は手抜かりなく良好。美術も素晴らしい。
決して悪い出来ではないのだが、ワイルダーの茶目っ気たっぷりな「シャーロック・ホームズの冒険」と続けて見たので、いささか辛い見方をしてしまった。
点