「ロード・オブ・ザ・リング」三部作の成功(第三部は2003年度アカデミー賞を11部門で受賞)でがっぽり儲けた金を湯水の如く注ぎ込んで、贅沢三昧やりたい放題に詰め込んだ、ピーター・ジャクソンによる2005年度リメイク版(製作費2億700万ドル!)。
クレジットの最後にオリジナル製作者たちへの献辞を出すまでもなく、真っ向からオリジナルを尊重し、ストーリーを踏襲している。
時代設定も1933年で役名も、タイトルデザインも同じ。アン・ダロウはりんごを万引する。ニューヨークの劇場でピットのオーケストラが、マックス・スタイナーのオリジナルスコアを演奏しているのが嬉しかった。
ファーストシーンでアル・ジョルスンの歌をBGMに大恐慌時代のニューヨークをたーっぷり見せたり、主演女優を探している映画監督のデナム(ジャック・ブラック)が、フェイ・レイやメリアン・C・クーパーの名を出したりするのは、まぁ良いとして、髑髏島に上陸するまでに55分を費やすのは如何なものか。
「キング・コング」のリメイクはこれで打ち止め、これが最終決定版、いま出来るものは全部出し尽くす、という意気込みは結構だが。観客よりも製作者のほうが楽しんでしまってる感じが強い。
登場人物はこれまでのコング映画のどれよりも、キャラが濃く説明されているものの、ドラマを盛り上げるのにまるで役に立っていない。ヒロインのナオミ・ワッツは綺麗(ジャングルを引っ張り回されても、服の汚れが目立たないくらいに綺麗)で良いのだけど、ジャック・ブラックは迫力不足(子どもたちと一緒にロックやってるのがお似合い)。カール・デナム役はオーソン・ウェルズ(ハリー・ライム)くらい灰汁が強く、愛嬌のある役者が欲しかった。恋人ドリスコル(曲がったデカ鼻が気になってしようがないエイドリアン・ブロディ)その他大勢は、オリジナル版でもラウレンティス版でもどうでもいい扱いなので、本作でもサラッとやってたら40分くらいは短縮できたように思う。
ポスターを落書きされたスター俳優(カイル・チャンドラー)がチラッとクラーク・ゲイブルの真似するところとか面白かったけど、本筋と関係ない遊びでしかないもの。
そうした本筋とは関係ないところに拘ってるぶん長くなり、ドラマが薄味になったように思う。
主役はコング。デナムやアンは狂言回しでしょ? 脚本の練(ねり)が足らなかったんだろうな。
もっと本質的なところを突っ込めば、ラストの「美女が野獣を殺した」はコングが片想いだからこそのセリフだ。コングとアンを相思相愛の関係で描くのであればぜんぜん意味がない。その点、本作とおなじ相思相愛で美女と野獣を描いたラウレンティス版のほうがちゃんとしている。
凶悪な人相の髑髏島住民たちは、コング出現後まったく姿を消してしまうし、年中霧に包まれていたのでこれまで発見されなかったはずの髑髏島なのに、コングが休息する岸壁から遠く水平線に沈む夕陽が拝めるし。銃器の扱いに不慣れな若者がパニクって撃っている自動小銃の弾丸は百発百中で巨大蟲にあたり、怪獣大暴れで大騒ぎのニューヨークも、通り一本抜けると人通りが途絶えしんと静まり返ってる。ほんといい加減だなあ。
船員たちの死を、中途半端に扱っているのも気に入らない。
最新技術を投入しての特撮スペクタクルは、これでもかっ! ってな具合に素晴らしく、モーションキャプチャーによるコング(アンディ・サーキス)が最高! 恐竜相手に見得を切り、不器用な愛情表現に男の哀愁を漂わせる。こいつは大河内傳次郎の丹下左膳だ。
髑髏島のセット、そこに巣食う古代恐竜、猛禽類、(うじゃらうじゃらと気色悪い)巨大昆虫類、盛りだくさんでお腹いっぱい。
特撮マニアならずとも必見の見世物映画だが、上映3時間では(「ロード・オブ・ザ・リング」と同様)2度3度と繰り返し見る気になれないのが最大の欠点(と言いつつ、今回は2度目だった)。更に長い201分のディレクターズ・カット版がDVDで販売されているそうだが、もう結構、お腹いっぱいです。
点