犯罪組織の陰謀に巻き込まれた夫婦が、暗殺計画を阻止し、誘拐された娘を救出する。ジェームズ・スチュワート&ドリス・デイでリメイクされた「知りすぎていた男」のオリジナル版。ストーリーはコンパクトに構成されていて、上映時間も1時間14分と短いものの、ずいぶんのんびりした印象なのは、毛糸のいたずらとか椅子投げ合戦とか、馬鹿馬鹿しいユーモアがサスペンスの邪魔をしているから。
陰謀団のボスを「M」のピーター・ローレが演じていて、当時としては風変わりな悪役キャラでちょいと面白い。主人公の夫(レスリー・バンクス)は存在感薄く魅力がない。妻(エドナ・ベスト)は射撃の名手という設定で、ご都合主義的ではあるが、娘救出の見せ場を作ってある。娘役はこのあと「第3逃亡者」でヒロインを演じていたノヴァ・ピルブーム。
アルバート・ホールで演奏されるカンタータはアーサー・ベンジャミン作曲の「ストーム・クラウド」。リメイク版も同じ曲を演奏し、同じ箇所で暗殺者は狙撃していた。
クライマックスは、アメリカのギャング映画に影響されたかのような、警官隊と陰謀団の銃撃戦。
「下宿人」(1926)、「ゆすり」(1929)、「殺人!」(1930)以外にも様々なジャンルの映画を撮っていたヒッチコックが、サスペンス専門の、やがて巨匠と呼ばれるに至る契機の作品であり、フィルモグラフィ的には重要とされるが、「知りすぎていた男」のオリジナル版であること以外に、いま見る価値はないように思った。
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