前作「暗殺者の家」の興行的成功で方向が定まったのだろう、このあとヒッチが監督する作品は(2本の例外を除いて)すべてスリラー映画となる。
「三十九夜」には、いま我々がヒッチ・タッチと呼んでいるサスペンス・スリラーのエッセンスが(完成したかたちで)全部詰め込まれている。
事件に巻き込まれ、犯罪組織と警察の両方に追われながら、金髪美人を道連れに、次々と起こる危機的状況を切り抜けて真相に迫り、クライマックスの見せ場を盛り上げる。
「北北西に進路を取れ」は本作のリメイクとも言える。
無駄な横道に逸れることない直線的なストーリー、構成もしっかり緻密に作られている。カットのつなぎもスピーディ。劇場での事件に始まり、劇場で大団円をむかえる。ユーモアの織り込みも見事だ。
イギリス時代の代表作はこれか「バルカン超特急」のどちらか。
主人公(ロバート・ドーナット)がアパートに連れ帰る(そして殺される)謎のドイツ女にルーシー・マンハイム、逃走中の急行列車で出会う金髪美女にマデリーン・キャロル。マデリーンは次作「間諜最後の日」でもヒロインに起用されている。いかにもヒッチ好みの美人女優。ミスター・メモリー(記憶屋)を演じたのはウイリー・ワトソン。この人物の最期がオチとなる。
ヒッチはこのアイデアを「引き裂かれたカーテン」でもやっている。
メモリーしていたのはポール・ニューマンだった。
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