ユーモアを極力排して、ダークに仕上げたヒッチコック・サスペンス。
舞台を個人経営の映画館に設定しているのが趣向。破壊工作活動に加担している映画館主の主人公(オスカー・ホモルカ=好演)が事件を起こし、その妻(シルヴィア・シドニー)が巻き込まれる。二重のストリーテリング。
隣接して商売している八百屋では、店員に化けた刑事(ジョン・ローダー)が主人公を監視している。いわば狂言廻しの役回りで、この刑事が事件の流れを(観客に)説明する構成。
次の標的を打ち合わせする際、水槽に(合成で)映される都市崩壊のイメージは、デモーニッシュなヒッチの意地悪。
爆破事件で弟が死んだ原因が夫にあったと知ったあと、スクリーンにかかっていたアニメ映画(ディズニーのシリー・シンフォニー)をみつめるヒロインのアップ。映画のギャグに条件反射で笑い、現実に戻って憤り、部屋に戻って夕食の支度、夫の話し声、料理を取り分けるナイフ、殺意、身の危険を察した夫、躊躇、ナイフ、もみ合い、床に崩れる夫。ギクシャクした感情の移ろいを、一連のモンタージュで巧みに描き出す。これぞヒッチコックの妙技。時限爆弾を運ぶ少年(デズモンド・テスター)のサスペンスも上出来。
ラストの爆発で夫殺しの証拠は隠滅、ヒロインに惚れた刑事と現場を退場する。アンモラルなハッピーエンドは「ゆすり」と同じ。
「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社)のインタビューで、ヒッチ自身は少年を爆死させてしまったことを理由にこの作品を嫌っているかのような発言を残しているが、はたして本心かどうか。真面目な顔して冗談を食わせるのがヒッチコックの真骨頂。ゆえに、本音は分からない。
ヒッチ・フリークのブライアン・デ・パルマも「アンタッチャブル」で罪もない子どもを爆殺。心底好きだと嫌なところも真似したくなるのでしょう。
点