長いあいだ「貴婦人消失」のタイトルで知られていた戦前の作品。水野晴郎のIP配給で、「海外特派員」に続いて 1976年11月にようやく日本でも公開された。
地元佐賀では公開されず、1979年6月13日、池袋文芸坐で「ファミリー・プロット」と2本立てで観ている。文芸坐は当時いちばん多くチケットを買った名画座で、昼興行は1階で、土曜オールナイトは(眠っても他のお客さんに迷惑がかからないよう)2階の端っこと決めていた。文芸坐友の会に入ると、特典の招待券で年会費の元が取れ、割引料金でチケットが買えた。掌サイズのプログラムも毎月郵送されてきた。
土曜の午後から2本立て+オールナイト4本立て。そのあと公園のベンチで仮眠をとって2本立てを観たこともある。当時は新旧あわせて年間400本くらい見ていた。田舎から出てきたばかりの映画小僧に東京の街はシネマ・パラダイス。休日はもちろん、平日も仕事帰りに映画館へと走った。あのころは本気(マジ)で馬鹿だった。
閑話休題。
「バルカン超特急」はヒロイン(マーガレット・ロックウッド)がとても可愛い。脚が綺麗。相手役のマイケル・レッドグレーヴも嫌味がなく、神経科医ポール・ルーカス、消える老嬢メイ・ウィッティ、クリケット狂のイギリス人コンビ(ウントン・ウェインとベイジル・ラドフォード)、不倫カップル(セシル・パーカーとリンデン・トラヴァース)、イタリアの奇術師、ハイヒールを履いた尼僧(グージー・ウイザース)、ミス・フロイの偽者(目が不気味)、多彩な登場人物たちがみんな個性豊か。
窓ガラスに浮かぶFROYの指文字、窓に一瞬へばりつく紅茶の包み紙、包帯ぐるぐる巻のミイラみたいな患者、歌う暗号、走る機関車、銃撃戦。ユーモア、ロマンス、ミステリー、サスペンス、アクション、全部詰め込んでブレない脚本が素晴らしい。
陰謀の中身や暗号の内容などはどうでもいい。鮮やかなハッピーエンドに頬が緩む。
ミニチュア・セットのオープニングも愛嬌があって可愛らしい。
ヒッチコックは映画の神様だ。
点