デヴィッド・O・セルズニック謹製、スリラー風味文芸ロマンス。
アルフレッド・ヒッチコック、アメリカ上陸初監督作品。
マンダレー城の城主マキシム・ド・ウインター卿をローレンス・オリヴィエが演じ、彼に見初められる新妻にジョーン・フォンテイン。
むかし見たときは(ストーリーを知らずに見たので)家政婦のダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)が強烈に怖かったが、いま見るとそれほどでもない。
美術はセルズニックの面目躍如、素晴らしく立派で見事なもの。製作は「風と共に去りぬ」と同時進行だったと思うが、ライル・ホイラーの仕事ぶりは流石の一言。誰の監督作品であろうと、ひと目でセルズニック映画とわかるのは、彼が美術監督だからこそ。セルズニック・ブランドの看板を背負っている。
セルズニックのお仕着せ企画で、あまり乗り気じゃなかったみたいな発言を残しているヒッチコックだが、なかなかどうして、ダンヴァース夫人が自殺を教唆する場面、ド・ウインター卿が先妻レベッカが死んだときの様子を語るボート小屋の場面などに、ヒッチの技が光っている。
モンテカルロで知り合ったフォンテインとオリヴィエが結婚するに至る第1幕が少々かったるい。マンダレー城に入ってから先妻の幻影に翻弄される第2幕がジョーン・フォンテインの魅力で最大の見所。
裁判劇となる第3幕はヒッチコックらしいミステリー仕立てではあるものの、これといった趣向もなく、ストーリーをなぞるだけで平凡。
ここでオリヴィエを強請るレベッカの従兄弟を演じているのは、ヒッチの次回作「海外特派員」で現地特派員役だったジョージ・サンダース。ロバート・ヴォーンをちょいともっさりさせた感じ。
レベッカが末期ガンで自暴自棄になっていたとの証言を得て、ド・ウインター卿の死体遺棄の罪まで揉み消してしまう強引なオチは(トーキー第1作の「ゆすり」と同様)、ヒッチらしいアンモラルなハッピーエンド。
狂ったダンヴァース夫人が火を放ちマンダレー城が焼失してしまうラストまで、原作者ダフネ・デュ・モーリアがシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を下敷きにしていたことは間違いない。
その「ジェーン・エア」は、1944年版でジョーン・フォンテインがタイトルロールをつとめている。彼女がいいのは断然「レベッカ」。本作でのフォンティンのキャスティングはセルズニックから押し付けられたものだったろうけど、ヒッチは「断崖」でも彼女をヒロインに起用している。
ヒッチコックは女優を魅力的に見せる名人。ヒッチ作品の出演がこの2作のみというのは残念。ヒッチコック映画でもっとジョーン・フォンテインを見たかった。
点