アメリカ南部の田舎町で起きた殺人事件を、人種偏見が当たり前(習慣)になっている住民たちの妨害にあいながら、都会から来た黒人刑事(シドニー・ポワチエ)が捜査する。
舞台となっているミシシッピ州は1987年まで白人と有色人種の結婚を法律で禁止していた地域であり、映画が公開された翌1968年には隣のテネシー州でキング牧師が暗殺されている。黒人が深夜に駅にいるだけで、身分証明の機会も与えられないまま容疑者扱いされてしまう。有色人種には刑期が長くなる「Color Time」が適用される。そんな時代に製作された映画。
原題「In the Heat Of The Night」のせいで誤解されているようだが、この映画の季節は夏ではなく晩秋だ。容疑者(スコット・ウィルソン)が紅葉した森の中を枯葉を踏んで逃走しているシーンでもはっきりと分かる。真夏の夜の茹だるような暑さ云々と解説しているのが多いようなので、いちおう書いとく。
最初のほうでロッド・スタイガーがエアコンの故障に愚痴をたれているのは、舞台がアメリカ南部であることの説明。実際のロケ地は中西部のイリノイ州。登場人物の額に汗が浮かんでいるのは(多分)撮影用の強い照明のせいだろう。
役者の顔がいい。複雑な立場の変化を重層的に繊細にガム噛みで表現した署長役のロッド・スタイガーが素晴らしい。キリッとハンサム、スマートなシドニー・ポワチエ。ウォーレン・オーツも良い。
綿花農場を経営する町の有力者ラリー・ゲイツが、温室でポワチエにビンタを食らう場面が白眉。映画のテーマはこのシーンに凝縮されている。
被害者の妻を演じているリー・グラントにとっては、赤狩りで出演が長く途絶えていたあとの復帰作。リベラルな東部から来ているという設定で、白人の地元警察よりも黒人のポワチエ刑事に信頼を寄せる。
ノーマン・ジュイソンの映画は洗練された撮影と音楽。
「華麗なる賭け」とかは格好つけが過ぎて鼻につくが、本作は黒人差別のテーマが前面に出てバランスが良い。
ハスケル・ウェクスラーの撮影、クインシー・ジョーンズの音楽がカッコイイ。主題歌はレイ・チャールズ。フルート演奏はローランド・カーク。アメリカン・ニューシネマの旗手ハル・アシュビーが編集していることで有名な映画でもある。
製作はミリッシュ・カンパニー。この会社が作る映画にハズレなし!
シドニー・ポワチエは、ルイ・アームストロング、カシアス・クレイ(モハメッド・アリ)に続いて3番めに名前を覚えた米国黒人。 「夜の大捜査線」の製作当時、タイトルのトップに名前がクレジットされる黒人俳優はポワチエだけだった。知的で教養があり、なまりのない英語をしゃべる。(白人にとって)理想的な黒人を演じていた。
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