テレビ業界という非日常的な職場を日常としている人々を描いた、精神病理学的風刺コメディ。題材の扱い方が不快だし、魅力ある登場人物がひとりもいないので感情移入も共感もない。興味本位で作られた漫画チックなストーリー、あまり面白いものではない。
テレビ業界をアイロニックに風刺したものなら、筒井康隆の小説のほうが百倍面白く、強烈だ。
視聴率低下でノイローゼになったニュースショーの司会者が番組放送中に錯乱。会社は彼を降板させようとするが、視聴率20%取るのが夢というテレビ一筋の女性プロデューサーが番組を俗っぽい茶番劇に作り変え、数字は上昇する。
「5%アップで3000万人」「1分間で13万ドルの番組」のセリフは、当時のリアルな数字を使っていると思う。
視聴率稼ぎに狂騒する業界人のバカバカしい話を、ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、ピーター・フィンチ、ロバート・デュバル、ネッド・ビーティなどなど、錚々たるキャスティングで映画化。
主演のスター俳優だけでなく、端役にいたるまで、出演者全員がオーバーアクト、過剰な感情表現で演技をしている。声を張り上げ、腕を振り回し、早口で、セリフのイントネーション、テンポまで全員同じ。こんな不自然な芝居は、演出(シドニー・ルメット)が意図して指示しないと出来るわけがない。脚本(パディ・チャイエフスキー)もそんな演出を想定したうえで、極めて演劇的なセリフを書いている。
つまりこの映画は、テレビ業界を舞台劇のように演じたものを映画として撮影した、多重構造の演出が施されたメタ映画。ホールデンの「書かれた脚本を演じている」というセリフは、その種明かしでもある。舞台演劇の仕事をされている方は、登場人物の芝居を見てちゃんと見抜けていたと思う。
放送局を買収した会長ネッド・ビーティがピーター・フィンチを洗脳する場面、やたらエキセントリックに怒ってばかりのロスの黒人女性プロデューサー、テロリストを金で雇いスタジオで人殺しさせるなど、リアリティの欠片もなく荒唐無稽かつアホくさく、登場人物の大仰な熱演は作り物(フェイク)。セックスの間ずっと視聴率と番組企画の話を続けているフェイ・ダナウェイと、無言でその相手をしているウィリアム・ホールデンとかギャグです。出演者たちは芝居を楽しんでいる。
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