1972年8月22日、14時57分。気温36度。
茹だるように暑いブルックリンの昼下がり。
三番街にあるチェイス・マンハッタン銀行支店の閉店時刻ギリギリに、3人の男が強盗に入る。30分で片付く仕事のはずだったが、男の一人は犯行直後にビビって遁走。防犯カメラに目隠しのスプレーをかけようにも(背が低いから届かず)ぴょんぴょん飛び跳ね、現金は本社に送られた後で金庫に残されていたのは僅か1100ドル。がっかりする間もなく警察から電話が入って自分たちが包囲されていることを知る。
ニューヨーク市警とFBI捜査官、狙撃班を含む200人超の警官隊。そのうしろには野次馬の人だかり。上空には市警のパトロール・ヘリとTV局の報道ヘリが飛び交っている。状況を知った素人強盗は人質たちの前で頭を抱えへたり込んでしまう。まことに情けない。アッティカ刑務所暴動事件の直後で、警察の対応も及び腰。
実話を基に作られた犯罪喜劇。
説得する市警の刑事、人質たちとの奇妙な連帯感、野次馬の前でヒーロー気取りの犯人、電話で突撃インタビューするテレビ局、ゲイの女房との愛情のすれ違い、機に乗じてアピール・デモを始めるゲイの団体。ニューヨーク市警とFBIの確執、TVメディアと大衆の煽り、無教養で思いやりのない家族、ベトナム戦争後のアメリカ社会、多彩な登場人物たち。テーマはコミュニケーションのリアリズム。
ラストシーンの虚無感、やるせなさは例えようがない。
「逃亡先はどこの国に行きたい?」
「ワイオミング」
「ワイオミングは外国じゃないよ」
シドニー・ルメットの演出に隙はない。様々なエピソードを盛り込みながら、室内と屋外の切り替えを巧みに構成、無駄のない素晴らしい脚本。アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、クリス・サランドン、端役にいたるまで、全員が演技賞に値する好演。
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