刑務所を仮保釈になったニコラス・ケイジは、二人の仲を裂こうとする母親から逃げてきたローラ・ダーンとカリフォルニアへの旅に出る。
世界は悪意に満ちてグロテスクだけど、お互いの愛を信じられたら幸せになれる(かも知れない)。蛇皮のジャケットで武装して、いつも心にエルビスを。
変態監督デヴィッド・リンチの、セックスと暴力を題材としたコメディ。
リンチ映画は怪優・怪演の宝庫。異常な母親ダイアン・ラッド(悪い魔女)を筆頭に
、ウィレム・デフォー、イザベラ・ロッセリーニ、シェリリン・フェン、シェリル・リー(善い魔女)とキワモノ・クセモノがぞろぞろ出てくる。
なんのために出てくるのか分からんような奇妙奇天烈なキャラがわんさか出てくる。
公開当時は騙されたが、TVシリーズ「ツイン・ピークス」を経たあとでは、これらのキャラが虚仮威しに過ぎないことが分かってる。リンチがやろうとしていることは、観客を困惑させクラクラした気分を味わせたいだけ。ストーリーに価値はない。
観ている間はとてつもなくスリリングで面白い。
良くも悪くも、リンチらしさが一番よく出たシュールレアリスム(変態趣味)だと思う。
リンチの映画にストーリーを追うのはナンセンス。忌まわしい過去のフラッシュバックに意味を求めるのは無駄。光の玉から良い魔女が舞い降りてきて(強引に)ハッピーエンドになっても腹を立てない。
インサートされるマッチ棒の超クロースアップ、音響効果と音楽。ヌード女をはべらせ便器にしゃがんだまま電話するジジイ、歩行器のババア、庭で踊る裸のデブ女3人組、不気味な雰囲気だけで存在に意味はない。主人公たちを含めすべての登場人物が現実と違う次元の精神世界に生きている。口紅を満面に塗りたくるダイアン・ラッド、漫画のようにメイクされたイザベラ・ロッセリーニの眉毛、自らのショットガンで頭を吹っ飛ばすウィレム・デフォーの最期(ぐちゃり)、ちぎれた手首を咥え去る犬、渋滞する車の屋根を走り渡るニコラス・ケイジ。
極めつけはニコラス・ケイジが熱唱するエンドクレジットの「ラブ・ミー・テンダー」。こんなのフル・コーラスで聞かされたあとに、どんな顔して劇場を出たらいいのさ。
難解な映画なんてない。
ヘタクソに作られた映画とか、独り善がりのトンチンカン映画なら山程ある。
デヴィッド・リンチはそのどちらでもない。不思議な立ち位置にいる映画作家。
「ブルー・ベルベット」ではキャーキャーわめくだけの馬鹿女だったローラ・ダーンが、ぐっとイイオンナに化けてファックしてたので、良かった。
点