ニューメキシコ州フォートサマーの保安官に指名されたパット・ギャレットは、かつて親しくしていた無法者ビリー・ザ・キッドを射殺する。
パット・ギャレットの著書「ビリー・ザ・キッド、真実の生涯」をベースに、ビリー・ザ・キッドの最期の3ヶ月間を描いた、サム・ペキンパー最後の西部劇。
ペキンパー映画の常連俳優がずらりと並んで壮観なキャスティングに、これぞ西部劇! と膝を叩きたい素晴らしいショットがてんこ盛り。美術はテッド・ハワース。撮影監督は「わらの犬」「戦争のはらわた」のジョン・コキロン。
純真で無邪気な若者(無法者)として生きるビリーに羨望、嫉妬する老いゆく者(保安官)パットのコンプレックスな心情が、西部開拓時代の終焉と共鳴して寂寥のハーモニーを奏でている。
ペキンパー映画の登場人物たちは昔話をする。昔は良かったと過去を振り返る。
未来を語る奴は悪役になる。本作では特にその傾向が強く打ち出されている。
パット・ギャレットは酒を呑みながら過去を語ってばかりだ。
ビリングの上位にクレジットされているジェイソン・ロバーズは、ワンシーンのみの出演で、誰が演ってもいいような小さな役(ニューメキシコ州知事)。
友情出演みたいなものだろう。
東部から来た投資家ジャック・ドッドソンとジョン・チャンドラー。
牧場の治安と平和を口にしながら、自分の手を汚さず金で人殺しをさせるクズ野郎。
ビリー殺しを依頼する投資家に、賞金の前金を叩き返すパットの怒りがいい。
保安官助手を押し付けられたばかりにビリーと決闘する羽目になるジャック・イーラム。
恐怖心にかられ八つ数えたところで振り返る。その卑怯な心理を先読みしていたビリーは、真っ当に対決する気は最初からない。
儲け役はスリム・ピケンズ。
引退して舟で川を下り町を出ていくのが夢だと語っていた男。
死の間際、川のほとりにて微かに笑う。ペキンパー映画指折りの名シーン。
男勝りなママ(ケティ・フラド)の表情も良い。
客寄せキャスティングだったとは思うが、ボブ・ディランはなかなかの存在感で良好。ガンベルトを付けないナイフ投げの若造エーリアス。最初の脚本には無かった役で、セリフが少ないぶんナイーブな性格が引き立っている。
相棒のジェリー・フィールディングが外されてペキンパーは猛反対したらしいけど、結果的にディランの音楽は素晴らしく映像にマッチしている。
R・G・アームストロングは今回も説教臭い役。
L・Q・ジョーンズは今回もやっぱり殺される。
「ワイルドバンチ」のマパッチ将軍、エミリオ・フェルナンデスも出ている。
これも友情出演みたいなもので、音声解説者たちは揃ってこの役は不要だったと語っていた。 牧場経営の大物チザムの手下に惨殺される。
ペキンパー監督も棺桶を作る職人役で出演。
ペキンパーの映画製作にトラブルは付きものだけど。
本作の編集にはデヴィッド・バーラツキー、ガース・クレイヴン、トニー・デ・ザラガ、リチャード・ハルシー、ロジャー・スポティスウッド、ロバート・L・ウルフと6人が名を連ねている。完成を急がせた会社(MGM)が、監督から編集権を取り上げ、次々と編集マンを送り込んだせいだ。
そのため、他のペキンパー映画と同様に幾つものバージョンが存在している。
ワーナー・ホームビデオが販売しているDVDは2枚組で、2005年スペシャル・エディション(115分)と1988年ターナー・プレビュー・バージョン(122分)を収録。
どちらの版にもペキンパー評論家による音声解説が収録されていて、興味深い話がたくさん聞ける。
1988年ターナー版は、劇場公開版(108分)の前に編集されていたディレクターズ・カットの再現で、公開版はこの版を詰めて仕上げたらしい。ラフスケッチみたいなものか。 2005年スペシャル版は、1988年ターナー版の未公開シーンも配慮した上で公開版に近い編集を施したもの。場面がシャープに切り詰められて、ストーリーの流れが良くなっている。音声・音楽も調整されている。デジタル処理されていて映像も綺麗だ。
2005年スペシャル版のほうが完成度は高いと思ったが、解説者のなかには1988年ターナー版のほうに軍配を挙げている人もいて、そんな事情もあって両方を収録して販売したのだろう。このようなメーカーの方針は良心的でよい。
結局、2005年スペシャル版と1988年ターナー版、それにそれぞれの音声解説で計4回も同じ映画を観ることになったが、いろいろと面白かった。
安定した生活を求めて保安官になったパット・ギャレットが、久しぶりに帰宅して奥さんと会う場面。1988年ターナー版ではカットされていて、2005年スペシャル版でしか見られない。
家庭と仕事とどっちが大事なの? もっと私に優しくしてよ! って、日本の(糞みたいな)テレビドラマで頻繁に描かれる(糞な)エピソード。
ストーリーに必要な場面ではないけど、室内装飾と照明が素晴らしい。
バリー・サリヴァン扮するチザムの牧場シーンは劇場公開版ではカットされていた。1988年ターナー版で復活。2005年スペシャル版にも入っている。
西部劇は絵だ。ペキンパーは西部劇の絵作りが抜群に上手い。
本作のラスト・ショットは「シェーン」だ。
仕事を終えたパット・ギャレットが町を去ってゆく。子供が追いかける。
ビリー・ザ・キッドを殺したパット・ギャレットの背中に、石礫を投げつけている。
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