2022年 07月(6本)
2022/07/01
魔術の恋
HOUDINI
1953年(日本公開:1954年05月)
ジョージ・マーシャル トニー・カーティス ジャネット・リー トリン・サッチャー イアン・ウルフ シグ・ルーマン マイケル・ペイト コニー・ギルクリスト マルコム・リー・ベッグス フランク・オース バリー・バーナード ダグラス・スペンサー
「地球最後の日」「宇宙戦争」など特撮SF映画の先駆者ジョージ・パルが製作した、奇術師ハリー・フーディーニの伝記映画。

トニー・カーティスとジャネット・リーの夫婦共演で、ふたりの出会いから事故死までを、見せ場きっちりテンポよく仕込んだ脚本の手際良さ。
工場勤めの不遇時代、愛妻ベスを助手にして一瞬にして入れ替わる箱抜けのマジック、ヨーロッパ公演の成功、マスコミを利用した売り込み、刑務所からの脱出、凍結した運河からの脱出、心霊術への傾倒、インチキ霊媒師のトリックを暴くサイキックハンター、死因となった虫垂炎。
それぞれ史実をベースに、ハリウッド流儀の脚色(「探偵物語」のフィリップ・ヨーダン)でストーリーがダレない。プロの仕事。



ミッキーマウジングで貼り付けられたロイ・ウェッブの劇伴が良い。
この時代の映画は、キャメラ、照明、メイク、衣装が一致団結してヒロインを綺麗に撮っている。

映画はタネも仕掛けもある魔術。テクニカラー万歳!

65点
2022/07/02
地球の静止する日
THE DAY THE EARTH STOOD STILL
1951年(日本公開:1952年03月)
ロバート・ワイズ マイケル・レニー パトリシア・ニール ヒュー・マーロウ サム・ジャッフェ ビリー・グレイ フランシス・ベイヴィア ロック・マーティン
遥か銀河の彼方からやってきた謎の飛行物体がワシントンに着陸。乗務していた宇宙人はいきなり核兵器の廃棄を要求。聞き入れられない場合は地球を滅ぼすと脅迫する。

RKOの編集マンから監督に転身したロバート・ワイズの本格SF映画。
ポリティカル・サスペンスの趣。
宇宙人が威嚇として実行する地球静止の場面では、ロンドンやパリ、モスクワなどがモンタージュされる。日本のシーンはない。
サンフランシスコ講和条約の署名が1951年9月8日(東西冷戦の始まり)。
荒唐無稽な作り話(サイエンス・フィクション)でありながら、こんなところに時代が記録されている。これが映画の面白さ、素晴らしさ。
随時放送局のスタジオからニュースを伝えるアナウンサーを挿入して、セミ・ドキュメンタリーな効果を与えている。アーリントン墓地やリンカーン記念堂など、首都ワシントンの観光映画としての宣伝効果もある。

ダリル・ザナックの20世紀フォックス製作。コミュニスト赤狩り時代に、よくまあこんな反核・反戦映画をつくったものだと感心してしまう。
テルミンの不思議な音色を効果的に用いたバーナード・ハーマンの音楽も素晴らしい。
DVDに収録されたロバート・ワイズとニコラス・メイヤーの音声解説がおもしろい。企画から試写の反響まで、映画製作に興味ある人はとても参考になるとおもう。
バーンハート教授(サム・ジャッフェ)のモデルがアインシュタイン博士であることもバラしていた。
ふたりともバーナード・ハーマンの音楽をベタ褒めしている。
試写のあとで、宇宙人(マイケル・レニー)が復活する場面が、宗教上の問題なったとのこと。製作者側は気にもとめていなかった場面だが、宇宙人の(架空の)倫理にまで自分たちの宗教観を押し付けてくるキリスト教の傲慢さが笑える。

このコメンタリー、ワイズが亡くなる前年ごろ(85歳くらい)に収録されたものだと思うが、半世紀以上前の製作話を正確に記憶、明瞭に解説していて驚かされる。
「クラトゥ・バラダ・ニクト」
後年、宮崎駿も「天空の城ラピュタ」で究極の呪文を使ってた。
便利だよね、究極の呪文って。

65点
#スーパーSF特撮映画大会
2022/07/03
宇宙戦争
THE WAR OF THE WORLDS
1953年(日本公開:1953年09月)
バイロン・ハスキン ジーン・バリー アン・ロビンソン レス・トレメイン ロバート・コーンスウェイト ルイス・マーティン ヴァーノン・リッチ サンドロ・ジリオ ポール・フリース ヘンリー・ブランドン ジャック・クラスチェン サー・セドリック・ハードウィック ビル・フィップス
異星人侵略SFのマスターピース。H・G・ウェルズ原作(1898年)の時代を現代(1950年代)に、舞台をロンドン郊外からロサンゼルス郊外に移して映画化。

製作当時は最新兵器だった原子爆弾(通常核爆弾の10倍の威力)も火星人には通用しない。

出演者はほとんど無名な役者ばかり。ちっとも天才科学者に見えないジーン・バリーとアン・ロビンスンはまったくの狂言回し。

特殊効果による非情無情の都市破壊が本作の見どころ。

主役は日系人アルバート・ノザキがデザインしたウォー・マシーン。フィルム合成の背景にブルーやグリーンを使うため、特撮映画でグリーンを用いるのは珍しい。

冒頭で映画館が上映しているのはセシル・B・デミルの「サムソンとデリラ」。
パラマウント社の特殊効果部長ゴードン・ジェニングスは、デミルのスペクタクル映画も担当している。

60点
#スーパーSF特撮映画大会
2022/07/04
渚にて
ON THE BEACH
1959年(日本公開:1960年02月)
スタンリー・クレイマー グレゴリー・ペック エヴァ・ガードナー フレッド・アステア アンソニー・パーキンス ドナ・アンダーソン ジョン・テイト ガイ・ドールマン リチャード・メイクル ジョン・メイロン ローラ・ブルックス
第三次世界大戦の核兵器使用により北半球は全滅。
直接の被害を逃れた南半球のオーストラリアにも放射能による大気汚染が迫り、残された人々は余命数ヶ月の運命を潔く受け入れ、終末の時がくるまでを粛々と生活している。
静かな、静かなディストピア映画。

音楽はアーネスト・ゴールド。
全編に「ワルチング・マチルダ」を用いて穏やかで優しい終末ムードを作っている。

歌とダンスなしで出演のフレッド・アステアは科学者役。
老け顔のクローズアップで事の顛末について語る潜水艦のシーンが良かった。
どうせ先は長くないのだからと、命知らずのレースに臨む。
他のレーサーも同じ心境だからだろう、サーキットはクラッシュの連発。
やりたいことをやり終えて自死するアステア。
観客と同じ生活者の目線でじんわりと重い警告。
これが他の反核SF映画との違い。

グレゴリー・ペックとエヴァ・ガードナーのシーンは、(カメラの水平を傾けた)ダッチアングルでアンバランスな絵作り。デ・パルマもよくやる360度回転移動のぐるぐるキスシーンはクローズアップでなかなかの迫力。
死ぬときは愛する人に傍に居てほしい。だけどそれは叶わない。
エヴァはもう少し色情濃く演技しても良かったかも。
死滅したはずのサンディエゴの町から発信されていた信号の正体は、コカ・コーラの空瓶を使った風のいたずらだった。

映画が公開されてから60年以上経ったいまでも、平和維持のため抑止力としての核兵器は必要。それが人類を絶滅させうる威力があったとしても無くてはならない核兵器。
「兄弟よ、まだ時間はある」

広島・長崎に原子爆弾を落とした当事国のアメリカが作った映画。
これがいちばん重要。
原題「ON THE BEACH」を「渚にて」と訳した邦題のセンスが良い。
会員制クラブの酒蔵には400樽のワインが残っているのに、それらを飲める時間が残されていないと老人は嘆く。

幸福の追求に限度はなく、それを享受できる時間は限られている。それが人生。
山と積み上げた本とCDとDVDに囲まれた部屋を眺めて、おれも反省。
70点
#スーパーSF特撮映画大会
2022/07/05
世界大戦争
LAST WAR
1961年(日本公開:1961年10月)
松林宗恵 フランキー堺 乙羽信子 星由里子 宝田明 笠智衆 白川由美 ジェリー伊藤 中北千枝子 坂部尚子 石田茂樹 三田照子 清水由記 東野英治郎 山村聡 上原謙 高田稔 河津清三郎 中村伸郎
昭和36年。戦災で焼け野原となった東京も復興を遂げ、日本は高度成長期に入っていたが、世界情勢は東西対立の緊張が日ごとに増していた。
被爆国である日本は中立の立場から停戦を呼びかけるが、そんなものは屁の突っ張りにもならん。朝鮮半島38度線の緊張は臨界点に達し、ボタンは押され、世界は全面核戦争へと突入する。

反戦・反核についての真面目な内容で、オールスター・キャストの超大作。
本編が始まる前に1分20秒のオーバーチュア(音楽:團伊玖磨)が付いている。
東京もニューヨークもロンドンもパリもモスクワも、みんな木っ端微塵に吹き飛んで消滅してしまう。この世界都市破壊のミニチュア特撮が映画を安っぽくしてる。前半に各都市のミニチュアを出してるから、ここはクライマックスで破壊されるのだと予測がついてしまうし、そのとおりになってしまう。
実景をきちんと撮って、特撮はそれと分からぬくらいに印象に残るショットのみ使うハリウッド特撮のやり方とは大違い。手間かけて作ったものだからじっくり見せたいという、気持ちはわかるが貧乏根性がみっともない。日本の特撮映画を見ていて恥ずかしい気分になるのは、こんなところにある。
東宝自慢の円谷特撮は集客の目玉だが、この映画には不要だった。
この時代の邦画をいま見ると、ストーリーや役者の演技は二の次になって、当時の服装や背景につい目がいってしまう。

日比谷公園でデートする若いカップル(宝田明と星由里子)。

戦争のことばかり話している。楽しくなさそう。
海外記者クラブ専属のハイヤー運転手フランキー堺。

「チューリップの花が咲くのを見て俺は楽しむんだ。母ちゃんには別荘を建ててやんだ。冴子にはすごい婚礼さしてやんだい。春江はお前スチュワーデスになるんだし、一郎は大学に入れてやんだよ、俺の行けなかった大学によ!」
八住利雄と木村武のオリジナル脚本。
軍事・政治パートのストーリーはシンプルかつ純情素朴でリアリティに乏しく、セリフは紋切り型で説教臭い。安っぽいお涙頂戴メロドラマ調。特にラストの字幕は陳腐の極み。
平和を粗末にしちゃいけねぇや!
気持ちは痛いほどわかるが。
「作者のメッセージをそのまま登場人物に語らせるな」は、脚本の基本中の基本じゃないか。チャップリンの「独裁者」と同じことやって作品を駄目にしてる。
日本政府の要人は、総理大臣(山村聡)、官房長官(中村伸郎)、防衛庁長官(河津清三郎)、外務大臣(上原謙)。

全面核戦争の驚異について、当時の日本人がどのような捉え方をしていたのかよく分かる。北緯38度線を巡っての緊張がいささかヒステリックに感じられたが、朝鮮半島はいまも停戦中(終戦はしていない)であり、状況は変わっていない。
時代の記録として残しておく価値はある。
核の直撃により火の海となった東京。溶岩に流される国会議事堂。

ラストは、せっかく笠智衆と東野英治郎が並んでるのだから、いっそのこと小津調の諦観セリフを(模倣と謗られてでも)ふたりに喋らせていたら、味わい深い余韻を残したと思う。
人類の終焉をむかえて諦観する人々。
被爆国・敗戦国の日本がつくった「世界大戦争」より、原爆落とした戦勝国アメリカで製作された「渚にて」のほうが上品で深いものに仕上がっているのが悔しい。
黒澤明の「生きものの記録」は1955年11月公開。
65点
#スーパーSF特撮映画大会
2022/07/07
博士の異常な愛情
DR. STRANGELOVE
1964年(日本公開:1964年10月)
スタンリー・キューブリック ピーター・セラーズ ジョージ・C・スコット スターリング・ヘイドン キーナン・ウィン スリム・ピケンズ ピーター・ブル トレイシー・リード ジェームズ・アール・ジョーンズ ジャック・クレリー ポール・タマリン
尊い体液をソビエトの陰謀から守るためR作戦を発動するジャック・リッパー将軍。

祖国のために困難な状況下でも任務を遂行するキング・コング少佐。

優生思想の実現に向けてストレンジラブ博士も立ち上がる。

60年前の喜劇映画だけど、核兵器による国際軍事の緊張状況はほとんど変わってないから、面白さがまったく劣化していない。
登場人物は軍人、政治家、科学者だけ。一般人は蚊帳の外というのが潔くてよい。
ジャック・リッパーの強迫観念とストレンジラブのナチス再興願望。
ふたつの狂った妄想が、幼稚で無邪気な会議室にナンセンスなドタバタを発生させる。
ヒトラーの優生思想に帰着するエンディング。
天才スタンリー・キューブリックの名作コメディ。

75点
#スーパーSF特撮映画大会