1970年代のサスペンス映画|映画スクラップブック


1970年代のサスペンス映画(12本)

2022/01/29

大空港

大空港|soe006 映画スクラップブック
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AIRPORT
1970年(日本公開:1970年04月)
ジョージ・シートン バート・ランカスター ディーン・マーティン ジーン・セバーグ ジャクリーン・ビセット ジョージ・ケネディ ヘレン・ヘイズ ヴァン・ヘフリン モーリン・ステイプルトン バリー・ネルソン ダナ・ウィンター ロイド・ノーラン バーバラ・ヘイル

アーサー・ヘイリーのベストセラー小説をオールスター・キャストで映画化。
1970年代パニック映画ブームの火付け役となったサスペンス大作。

大空港

猛吹雪に見舞われたアメリカ中西部イリノイ州リンカーン空港。大型旅客機の着陸失敗で主要滑走路が使えなくなる。その対応に追われている最中に、騒音迷惑の住民デモがあったり、密航常習のばあちゃんが保護されたり、不倫妻との決別があったり、浮気していた客室乗務員から予期せぬ妊娠を告げられたり、ローマ行きのボーイング707機に爆弾を持ち込んだ男がいると通報があったりする。

前半1時間はグランドホテル形式の人間模様。空港のジェネラル・マネージャー(バート・ランカスター)と妻のダナ・ウィンター、旅客係ジーン・セバーグ。機長のディーン・マーティンと客室係のジャクリーン・ビセット。滑走路復旧作業にあたる保安主任ジョージ・ケネディ。密航常習婦人ヘレン・ヘイズ。爆弾を仕込んだアタッシュケースを持ち込むヴァン・ヘフリンとその妻モーリン・スティプルトンなど多彩な人物が登場。
もたつかないように、横に長ぁーいシネスコサイズ(トッドAO)を画面分割してワイプするなど、編集に単純な工夫が凝らされているのが面白い。

中年カップルの不和、不倫エピソードが2組あるのはしつこい気がする。ディーン・マーティンの浮気は、もはやギャグとしか思えない。そう言えばランカスターも「地上より永遠に」で同じような不倫男の役をやってた。ふたりの配役はギャグだ。

大空港

1932年「戦場よさらば」でゲイリー・クーパーの相手役を務めたこともある往年の美人女優ヘレン・ヘイズ。どことなく品がありお茶目なおばあちゃんが愉快で可愛い。

大空港

自らスコップを持って雪かきに精出すジョージ・ケネディが頼もしい。

大空港

ローマ行きの搭乗が1時間遅れで始まり、旅客機が離陸してからの後半はスリリングで目が離せなくなる。
爆弾爆発前後のサスペンスが巧い。ここまできっちりした構成の脚本、編集は、最近の映画ではなかなかお目にかかれない。短いショットをごちゃごちゃ繋ぎ合わせて、音楽と効果音で誤魔化してる安物とは格が違う。

ほとんどセリフがない爆弾男のヴァン・ヘフリンは適役好演。
その奥さんを演じていたモーリン・スティプルトンがとても良い。大衆食堂で働いている生活感、空港で夫を探す焦燥感、旅客機が飛び立ったあとの虚脱感、事故機から降りてくる人たち一人ひとりに狂ったように謝っている姿。このキャラクター、この演技があって本作はドラマの風格が増した。
ランカスターやディーノはストーリーの進行役、客寄せキャスティングだな。

前半のメロドラマがダサいとか、空港のセキュリテイが甘いとか、ストーリーがご都合主義だとか、特撮に迫力がないとか、50年前の映画に現代の感覚でケチつけるのは野暮。
監督はハリウッドの職人ジョージ・シートン。本作と「三十四丁目の奇蹟」が代表作。どちらも冬の話。雪を撮るのが得意なんだろう。
躍動感に満ちた格好良いタイトルバックの音楽は巨匠アルフレッド・ニューマン。たしかこれが遺作だった。

娯楽大作は作家性が希薄だからと敬遠する人もいるけど、おれは大好き。莫大な製作費を回収するため、より多くの大衆に観てもらうため、いろんな知恵と工夫が凝らされている。

大空港

70

2022/01/16

ジャッカルの日

ジャッカルの日|soe006 映画スクラップブック
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THE DAY OF THE JACKAL
1973年(日本公開:1973年09月)
フレッド・ジンネマン エドワード・フォックス ミシェル・ロンズデール アラン・バデル トニー・ブリットン シリル・キューザック

ドゴール大統領暗殺計画を描いたフレデリック・フォーサイスのベストセラー小説(フィクション)を、フレッド・ジンネマン監督で映画化。

殺し屋エドワード・フォックスは地味。それを追うフランス司法警察のミシェル・ロンスダールはもっと地味。派手なアクションもなければ、感情を昂ぶらせるドラマもない。凝ったカメラワークもない。シーンを盛り上げる煽りの音楽もなし。添加物を一切入れてない、甘味料も入ってない。

ジャッカルの日

ジャッカルが犯行に用いる偽装ライフルも(まるで007のような新兵器だけど)ことさら凄いもののように見せず、ひたすら静かに淡々と描く。無駄、遊び、緩みがない。セリフはギリギリまで削られている。映画のリアリズムとはこのこと。極上サスペンス。

フレッド・ジンネマン、おれが考えている以上に凄い監督さんなのかも知れない。

ジャッカルの日

クライマックスの、記録映像との(たぶんスクリーンプロセスで)合成ありきで逆算した演出だと思う。全体がドキュメンタリー風に撮られていて、終始ピリピリした緊張感に満ちている。暗殺が失敗したあともアッサリしていて、ジャッカルの正体が謎のまま終わるのもいい。

アメリカ映画ではそれが慣例になっているとは言え、フランス人が英語喋っているのはやっぱり嫌だ。瑕瑾ではある。

70

2022/01/26

セルピコ

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SERPICO
1973年(日本公開:1974年07月)
シドニー・ルメット アル・パチーノ ジョン・ランドルフ ジャック・キーホー ビフ・マクガイア トニー・ロバーツ コーネリア・シャープ バーバラ・イーダ=ヤング アラン・リッチ ハンク・ギャレット ダミエン・リーク M・エメット・ウォルシュ

組織ぐるみで腐敗しているニューヨークの警察。
賄賂を拒否したことで孤立無援となった刑事(アル・パチーノ)が、同僚や上司に疎まれ、恋人にも愛想をつかされ、命の危険に晒されながら不正の実体を告発する。
実話小説をシドニー・ルメットがドキュメンタリー・タッチで映画化。
全編出ずっぱりのアル・パチーノ、アクターズ・スタジオ仕込みのメソッド演技で熱演。

セルピコ

正義の主張が文字通り正しかった時代の映画。
いまは「正義」をやたら口にする奴は、かえって胡散臭い目で見られる時代。

セルピコ

製作は、映画不況のイタリアを飛び出してハリウッド入りしたディノ・デ・ラウレンティス。フェリーニ、デ・シーカ等の不朽の名作、バカバカしいまでに製作費を突っ込んだ超大作、三本立ての添え物にもならない駄作まで。映画愛に満ち満ちた名プロデューサー。

ミキス・テオドラキスの音楽が懐かしい。
映画館通い始めたばかりの、あのころの空気の匂いまで記憶に蘇る。

セルピコ

犬、ネズミ、オウム、ペット好きな主人公。

70

2022/01/30

エアポート'75

エアポート'75|soe006 映画スクラップブック
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AIRPORT 1975
1974年(日本公開:1974年12月)
ジャック・スマイト チャールトン・ヘストン カレン・ブラック ジョージ・ケネディ リンダ・ブレア スーザン・クラーク グロリア・スワンソン マーナ・ロイ ヘレン・レディ エフレム・ジンバリスト・Jr ダナ・アンドリュース ビヴァリー・ガーランド リンダ・ハリソン ロイ・シネス シド・シーザー

コロンビア航空のジャンボ旅客機に自家用小型機が衝突。操縦室に穴が空き、機関士は即死、副操縦士は機外に放り出され、機長は瀕死の重傷を負う。
操縦士不在となったボーイング747の操縦桿握るのは客室乗務員のカレン・ブラック。
本人役で出演しているグロリア・スワンソン以下、乗客の顔ぶれは賑やかだが、賑やかなだけでストーリーに絡む重要人物はいない。ジャンボ・ジェットの機内は、ほぼカレン・ブラックの一人舞台となる。苦手なルックスの女優さんなのにアップが多い。

エアポート'75

チャールトン・ヘストンとジョージ・ケネディがサポートしているので、旅客機は無事空港に着陸する。脱出シュートを滑り降りるスワンソンはボデイダブル。当時76歳のスワンソンにアクションは無理。怖がってる演技でスタントウーマンが顔を隠して滑り降りている。腎臓の手術を受けにゆく少女リンダ・ブレアは、座席に横たわっているだけ。気分が悪くなって緑色のヘドを吐き散らしたりはしない。

エアポート'75

本物のジャンボ機が延々と低空飛行するシーン、軍用ジェットヘリからの決死の乗り移りスタントが最大の見もの。

監督は「刑事コロンボ」や「警部マクロード」などユニバーサル製作のTVMを撮っていたジャック・スマイト。

機中で上映されているのは「アメリカン・グラフィティ」。ジョージ・ルーカスがはじめて日本で紹介された映画。シド・シーザーは出ていない。

「アメリカン・グラフィティ」は1973年作品だが、日本では本作と同じ年の正月に公開。この年の正月興行は例年になく賑やかだった。センサラウンド方式の音響装置で客を呼んだ「大地震」、ジェームズ・ボンドの新作「007/黄金銃を持つ男」、高倉健とロバート・ミッチャムが共演したシドニー・ポラック監督の「ザ・ヤクザ」、アラン・ドロン主演「個人生活」、レイ・ハリーハウゼンの特撮冒険活劇「シンドバッド黄金の航海」など話題作が目白押し。邦画は、松竹が定番「男はつらいよ 寅次郎子守唄」、東映が「新仁義なき戦い」、東宝は山口百恵第一回主演「伊豆の踊り子」と小松左京原作の「エスパイ」。最大の話題作は「エマニエル夫人」でした。

60

2022/01/17

コンドル

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THREE DAYS OF THE CONDOR
1975年(日本公開:1975年11月)
シドニー・ポラック ロバート・レッドフォード フェイ・ダナウェイ クリフ・ロバートソン マックス・フォン・シドー ジョン・ハウスマン アディソン・パウエル ウォルター・マッギン ティナ・チェン マイケル・ケーン ハンク・ギャレット カーリン・グリン

アメリカ中央情報局の下部組織アメリカ文学史協会に勤務する職員が、正体不明の男たちに皆殺しにされる。当日の朝、雨が降っていたので裏口から昼飯の買い出しに出ていたレッドフォードだけが偶然命拾いし、状況がわからないままNYCを逃げ回る。
CIAの内部で陰謀が錯綜しているらしく、誰が味方か敵かわからない。上層部でも情報が把握できていない様子描かれ、主人公と観者を混乱させる。上司に身柄の保護を頼んだレッドフォードは待ち合わせ場所でいきなり命を狙われ、元同僚だった男は殺され、その殺人容疑者として警察からも追われる身となる。

ここまでは(デイヴ・グルーシンのカッコいい音楽効果もあって)強烈に面白かったのだが……。

コンドル

事件に巻き込まれた主人公が偶然出会った女性を巻き込み、一緒に事の真相を探る流れは、ヒッチコック映画でもお馴染みの展開。本作でも逃げ込んだ店でたまたま出会った写真家の女性(フェイ・ダナウェイ)を強引に拉致して、真相解明の協力者にしてしまう。いきなり銃を突きつけられ縛られ脅迫された一般女性が、一夜のベッドを共にしただけでボンドガールなみの活躍をみせる荒唐無稽な展開は、レッドフォード&ダナウェイのスター映画ならでは。

コンドル

フェイ・ダナウェイは、頬骨が張り眼光キツくて冷たい印象が好きになれない女優さんだったけど、この時期の出演作では、いちばん綺麗に撮られている。駅での別れの場面が、思いっきりメロドラマっぽい。事件に深く関与した女をCIAがこのまま放って置くわけもなく、このあともずっと監視され口封じに殺される危険もあるのだが、脚本家はそこまで頭がまわらない。

レッドフォードが電話局に潜入して、盗聴の逆探知を混乱させる場面があるけど、そんな知識(そこにそれが出来る装置があることを含め)どこで仕入れてたんだ? ご都合良すぎで笑いも出ない。

ラストでレッドフォードは、真相をマスコミにリークするぞとCIAのクリフ・ロバートソンを脅すが、そんなものは簡単に握り潰せると返される。
そもそも職員を全員殺してでも隠さねばならない重大事(中東で石油利権をめぐっての工作活動がばれる)だったのか?

アメリカ映画に登場するCIAは、常に悪い組織として描かれる。世界中の情報を収集し、国家を左右する策略を秘密裏に企む。非合法な殺人も平然と行い証拠は隠蔽され、政府高官さえ実態を掌握していない謎の悪組織。ジェームズ・ボンドのMI6も同じようなことやってるのに、CIAはとことん嫌われている。
コーエン兄弟の「バーン・アフター・リーディング」ではさんざん莫迦にされ茶化されていた。

OCR(光学式文字読み取り装置)とかCOMPACのパソコンとか、映画に出てくる70年代のハイテクが興味深い。
竣工したばかりの世界貿易センタービルも舞台になっている。

コンドル

コンドル

クリフ・ロバートソンの目つきはハーベイ・カイテルに似てる。

製作はディノ・デ・ラウレンティス。
スタジオカナル制作のDVD日本語字幕は評判が悪い。本作の字幕も最低。

60

2022/01/24

ネットワーク

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NETWORK
1976年(日本公開:1977年01月)
シドニー・ルメット ウィリアム・ホールデン フェイ・ダナウェイ ピーター・フィンチ ロバート・デュヴァル ネッド・ビーティ ウェズリー・アディ ビル・バロウズ ビアトリス・ストレイト コンチャータ・フェレル ウィリアム・プリンス ジョーダン・チャーニイ ダリル・ヒックマン ロイ・プール マイケル・ロンバード レイン・スミス

テレビ業界という非日常的な職場を日常としている人々を描いた、精神病理学的風刺コメディ。題材の扱い方が不快だし、魅力ある登場人物がひとりもいないので感情移入も共感もない。興味本位で作られた漫画チックなストーリー、あまり面白いものではない。

テレビ業界をアイロニックに風刺したものなら、筒井康隆の小説のほうが百倍面白く、強烈だ。

ネットワーク

視聴率低下でノイローゼになったニュースショーの司会者が番組放送中に錯乱。会社は彼を降板させようとするが、視聴率20%取るのが夢というテレビ一筋の女性プロデューサーが番組を俗っぽい茶番劇に作り変え、数字は上昇する。

ネットワーク

「5%アップで3000万人」「1分間で13万ドルの番組」のセリフは、当時のリアルな数字を使っていると思う。

視聴率稼ぎに狂騒する業界人のバカバカしい話を、ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、ピーター・フィンチ、ロバート・デュバル、ネッド・ビーティなどなど、錚々たるキャスティングで映画化。

主演のスター俳優だけでなく、端役にいたるまで、出演者全員がオーバーアクト、過剰な感情表現で演技をしている。声を張り上げ、腕を振り回し、早口で、セリフのイントネーション、テンポまで全員同じ。こんな不自然な芝居は、演出(シドニー・ルメット)が意図して指示しないと出来るわけがない。脚本(パディ・チャイエフスキー)もそんな演出を想定したうえで、極めて演劇的なセリフを書いている。
つまりこの映画は、テレビ業界を舞台劇のように演じたものを映画として撮影した、多重構造の演出が施されたメタ映画。ホールデンの「書かれた脚本を演じている」というセリフは、その種明かしでもある。舞台演劇の仕事をされている方は、登場人物の芝居を見てちゃんと見抜けていたと思う。

ネットワーク

放送局を買収した会長ネッド・ビーティがピーター・フィンチを洗脳する場面、やたらエキセントリックに怒ってばかりのロスの黒人女性プロデューサー、テロリストを金で雇いスタジオで人殺しさせるなど、リアリティの欠片もなく荒唐無稽かつアホくさく、登場人物の大仰な熱演は作り物(フェイク)。セックスの間ずっと視聴率と番組企画の話を続けているフェイ・ダナウェイと、無言でその相手をしているウィリアム・ホールデンとかギャグです。出演者たちは芝居を楽しんでいる。

65

2022/01/17

マラソンマン

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MARATHON MAN
1976年(日本公開:1977年03月)
ジョン・シュレシンジャー ダスティン・ホフマン ローレンス・オリヴィエ ロイ・シャイダー ウィリアム・ディヴェイン マルト・ケラー フリッツ・ウィーヴァー リチャード・ブライト マーク・ローレンス アレン・ジョセフ

アベベ・ビキラに憧れてランニングに熱中している大学院生を、撮影当時39歳のダスティン・ホフマンが演じているサスペンス・スリラー。
若作りな役作りで頑張っているが、風呂に入る場面が残念。脇腹の贅肉が練習熱心なランナー体型じゃない。兄さん役のロイ・シャイダーのほうが締まった良い身体でまだランナーっぽく見える。ホフマンの腕振りも長距離を走るフォームではない。長距離ランナーの走りは「強く風が吹いている」の小出恵介や林遣都のほうが上手い。

マラソンマン

ニューヨーク、パリ、ウルグアイと目まぐるしく舞台が移り、次々と事件が起こり死体も出るが、その理由は知らされないまま、ストーリーが語られていく。説明を省いたぶんだけミステリアスな展開だが、後半になると穴ぼこだらけ、行きあたりばったり、いい加減に書かれたストーリーなのだと気付かされる。事件の背景や人物の動機に一貫性がないのだ。

ローレンス・オリヴィエの白い天使は、ナチス再興の軍用金を私欲で横領しようとしていたのか? 貸し金庫の鍵を持っていて無事アメリカに入国できたのなら、ホフマンのことなんか放っておいて、さっさとダイヤ持って逃げろよジジイ。誘拐したり、拷問したり、女あてがって情報漏れを探ったり、(映画を面白くしようと)無駄なことばかりやってるから墓穴掘っちまったんだよ、バーカ。

主人公は「アベベ・ビキラに憧れてランニングしている」と「マッカーシズムの弾圧で自殺した父親の無念を晴らそうとしている」という2つの人格設定を持たされているのだが、どちらもストーリーに絡まない無駄設定。「マラソンマン」のタイトルは作品のテーマと関係がなく意味がない。悪役(ウィリアム・ディヴェイン)に追われてかけっこで逃げ切っただけで、別にマラソンやってなくても逃げ足が速い男ってだけの設定でよろしい。セントラルパークをランニングしてる場面は不要。

ベビーカーの人形に仕掛けられた時限爆弾が爆発する場面、ロイ・シャイダーがホテルで刺客に襲われる場面、ホフマンがローレンス・オリヴィエに拷問される場面など、映像的には強烈で、スリラーというより今の感覚ではホラーと呼びたい怖い場面が多い。

マラソンマン

主人公のアパートの向かい側に住んでいる悪ガキ・ギャングの扱い方や、ユダヤ人とドイツ人のジジイが罵り合いながら煽りのカーチェイスも面白い。

ラストの排水処理場はロケでなくセットで作ってある。キャストも豪華だし、金がかかっているぶん映像は凄みがあって良い。各々の場面、エピソードは凝っていて面白いだけに、整合性が欠落したストーリー、杜撰さが惜しい映画。

公開時はかなりヒットし、ロバート・エヴァンスは更に大掛かりなサスペンス・スリラー「ブラック・サンデー」を製作。マルト・ケラーもキャストされているし、2本並べると海外ロケの場面とか群衆シーンなど雰囲気が似ているのに気づく。

ローレンス・オリヴィエは本作の3年後に製作された「ブラジルから来た少年」ではナチス残党ハンターという真逆なキャラを演じ、南米に潜伏していた死の天使メンゲレ博士(グレゴリー・ペック)と掴み合いの喧嘩をしていた。

DVD特典に収められたリハーサル映像では、アクターズ・スタジオ仕込みのメソッド演技がどういうものか垣間見れて興味深い。アドリブに戸惑いながらも、ホフマンに合わせて努力しているマルト・ケラーが健気でカワイイ。

65

2022/01/28

大統領の陰謀

大統領の陰謀|soe006 映画スクラップブック
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ALL THE PRESIDENT'S MEN
1976年(日本公開:1976年08月)
アラン・J・パクラ ダスティン・ホフマン ロバート・レッドフォード ジェイソン・ロバーズ ジャック・ウォーデン ハル・ホルブルック マーティン・バルサム ネッド・ビーティ スティーヴン・コリンズ メレディス・バクスター ジェーン・アレクサンダー ヴァレリー・カーティン ポリー・ホリデイ F・マーレイ・エイブラハム ロバート・ウォーデン ペニー・フラー ドミニク・チアニーズ リチャード・ハード デヴィッド・アーキン ジョン・マクマーティン リンゼイ・クローズ

FBI、CIA、司法省、すべて大統領の家来。

ワシントン・ポスト紙の下っ端記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードによる、ウォータゲート事件追跡ルポルタージュの映画化。製作はロバート・レッドフォードとアラン・J・パクラ。
政治映画が当たらないのは日本も米国も同じ。事件の発端からリチャード・ニクソンの失脚に至るストーリーはみなさんご存知。だから映画は事件の解明ではなく、真相を追う記者、その行動を追ったストーリーになっている。
電話して、人と会い、話を聞いて、資料を収集し、裏を取る。調査報道の仕事が延々と繰り返されるだけの構成。ダスティン・ホフマン(バーンスタイン)とレッドフォード(ウッドワード)の共演でなければ、地味な興行で終わってたと思う。

大統領の陰謀

事件の全容を知るディープ・スロートと名乗る男(ハル・ホルブルック)からの情報提供で、主人公たちは真相に迫っていくのだが、映画では、この謎の男の扱いがぼんやりしている。映画の登場人物はすべて実在、役名も実名を使っている。だから扱いがデリケート。事件以前からウッドワードがディープ・スロートと顔見知りであった事実がぼかされていて、二人の関係がよく分からない。名前は明かさないとしても、なぜウッドワードの取材に協力しているのかが謎のままでは、観客に不親切だろう。

いまでは情報提供者の正体がFBIの副長官であったことが判明している。
(DVD特典に本人の映像あり)

アメリカの行政組織や役職名に不案内な日本人(しかもこの映画公開されたときまだ高校1年だったんだぜ!)には、誰がどうして何やってるのか、さっぱり分からない。脚本はドキュメンタリー形式に徹底していて、感情に訴えかけるドラマチックな演出を外して書かれている。ハリウッド風娯楽になるのを避けたのは分かるが、もう少し面白く作れたんじゃないのか。

大統領の陰謀

撮影はリアリズム重視で裁判所や国会図書館などロケが多いが、ワシントン・ポストの社屋はワーナー・スタジオのセット。プロダクション・デザイナーは「チャイナ・シンドローム」で原子力発電所を作ったジョージ・ジェンキンス。細部へのこだわりが作品の信憑性を高めている。広いフロアは白い柱や白いパーテーション、白いデスク、白いキャビネット、白い天井に並ぶ蛍光灯の反射光が全体を真っ白に。

大統領の陰謀

公開された頃、字幕は縦書きで画面右側(上手)にあり、映像の白さと重なってすこぶる読み難く(当時の芥川賞小説を洒落て)限りなく透明に近い字幕と揶揄された。

対象的にディープ・スロートと密会する駐車場は恐怖を感じさせる暗さ。撮影監督は「ゴッドファーザー」のゴードン・ウィリス。この人は影を作るのが上手い。

録音、音響効果がとても目立つ映画でもある。

大統領の陰謀

主人公たちの上司を演じているのが、ジェイソン・ロバーズ(主幹)、ジャック・ウォーデン(社会部の部長)、マーティン・バルサム(編集局長)というベテラン俳優。
この3人のバックアップは頼もしい。

映画は、大統領就任のテレビ報道をよそに、バーンスタインとウッドワードが、黙々と事件の記事をタイプしているロングショットの場面で終わる。
彼らの書いた一連の記事がニクソンを退陣させてしまうのは、先刻承知の事実なので、ばっさりカット。この判断は良い。

この新聞社の前日談は、スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で。ジェイソン・ロバーツの編集主幹をトム・ハンクスが演じている。

いつの世も、ハリウッド映画人は民主党支持、共和党が嫌い。

70年代の背広は襟幅が広いのが特徴。おれが高校卒業時に初めて買ったスーツも襟が広かった。ワイシャツの腕まくり、ネクタイをだらしなく緩めたスタイルも当時の流行。

大統領の陰謀

大統領の陰謀

65

2022/01/31

エアポート'77/バミューダからの脱出

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AIRPORT '77
1977年(日本公開:1977年04月)
ジェリー・ジェームソン ジャック・レモン ジェームズ・スチュワート リー・グラント ブレンダ・ヴァッカロ オリヴィア・デ・ハヴィランド ジョセフ・コットン クリストファー・リー ジョージ・ケネディ ダーレン・マクギャヴィン パメラ・ベルウッド キャスリーン・クインラン ロバート・フォックスワース ロバート・フックス モンテ・マーカム 

大富豪ジェームズ・スチュワート所蔵の美術品と往年のスター俳優をどっさり積んだ自家用ジャンボ機がハイジャックされる。犯人たちの操縦ミスによりジェット機はバミューダ海域に墜落。合衆国海軍による乗客救出作戦が展開される。ハラハラドキドキの海洋サスペンス映画。

「大空港」ではヘレン・ヘイズ、「エアポート'75」ではグロリア・スワンソンと、往年のスターを出演させるのがシリーズの呼び物のひとつとなっているが、今回はジェームズ・スチュワート、オリヴィア・デ・ハヴィランド、ジョセフ・コットンと大盤振る舞い。英国のクリストファー・リーまで出ている。

エアポート'77/バミューダからの脱出

大富豪役のジェームズ・スチュワートは撮影当時69歳。アクション場面は無理とみえてジャンボ機には搭乗せず、ジョセフ・コットン(当時71歳)もハヴィランドの涙を拭うくらいしか動いていない。

エアポート'77/バミューダからの脱出

ちなみに 1916年東京生まれのオリヴィア・デ・ハヴィランドは 2020年7月に 104歳で亡くなられています。「ロビンフッドの冒険」のマリアン姫、可愛かったなあ。

エアポート'77/バミューダからの脱出

クリストファー・リーは「ポセイドン・アドベンチャー」のシェリー・ウィンタースに負けじと献身的な活躍。機長ジャック・レモンもずぶ濡れの大奮闘。レモンの恋人役がブレンダ・バッカロなので前作「エアポート'75」のカレン・ブラックより好感度アップ。

エアポート'77/バミューダからの脱出

前作との比較でいえば、個々の乗客たちにドラマが用意されているのが良かった。脚本家は「タワーリング・インフェルノ」を見て学習したのだろうか。

クリストファー・リーの妻を演じたリー・グラントが、ちょっとしたアクセントになっている。シリーズ通して出演しているジョージ・ケネディは、出番も少なく、ただ顔を見せただけ。

エアポート'77/バミューダからの脱出

アメリカ海軍全面協力のもと撮影された大掛かりなジャンボ機浮上作戦が最大の見せ場。こんなとき頼りになるのは、充実した装備と訓練された軍隊です。

エアポート'77/バミューダからの脱出

タイトルは「エアポート」なのに、海洋サスペンスなところがグッドなアイデアでした。

65

2022/01/21

ザ・ディープ

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THE DEEP
1977年(日本公開:1977年07月)
ピーター・イエーツ ロバート・ショウ ジャクリーン・ビセット ニック・ノルティ ルイス・ゴセット・Jr イーライ・ウォラック ロバート・テシア ディック・アンソニー・ウィリアムズ アール・メイナード ボブ・マイナー

バハマ諸島でスキューバ・ダイビングのバカンスを愉しんでいたニック・ノルティとジャクリーン・ビセットのカップルが、海底に沈む難破船で古いスペイン銀貨と謎のアンプルを発見。灯台守のロバート・ショウに相談したところ、ギャングのボス(ルイス・ゴセット・Jr)に情報を嗅ぎつけられ、ブードゥー教の儀式で脅され、サメの群れや巨大ウツボや裏切り者(イーライ・ウォラック)に妨害されながら宝探しを続ける。
ようやく目当てのペンダントを見つけたところでルイス・ゴセット一味に襲撃をくらい、財宝を積んだ難破船は爆破され海底深く沈む。

ザ・ディープ

撮影のスタッフ・出演者のご苦労は並々ならぬものであったろうと察しますが、水中アクションはテンポが鈍く、ストーリーは凡庸、観光リゾートを舞台としているのに華やかさが感じられず、悪役に魅力がない。主役のニック・ノルティもパッとしない。野外エレベーターの格闘、灯台の爆破など、見せ場はしっかり用意されているのに、水中と陸上の行ったり来たりで盛り上がらない。財宝の価値が具体的に示されてないのも説得力不足で良くない。

ザ・ディープ

ジャクリーン・ビセットの濡れたTシャツ透け乳と、ロバート・ショウが浮上してペンダントを投げるエンディングの爽快さ、ジョン・バリーの音楽が好きなので、かろうじて及第点。

ザ・ディープ

ピーター・ベンチリー原作の映画化(よせばいいのに自作の映画化では脚本も書く)は、処女作の「JAWS ジョーズ」以外ろくなものがない。

60

2022/01/18

ブラック・サンデー

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BLACK SUNDAY
1977年(日本未公開)
ジョン・フランケンハイマー ロバート・ショウ ブルース・ダーン マルト・ケラー ベキム・フェーミュ フリッツ・ウィーヴァー スティーヴン・キーツ マイケル・V・ガッツォ ウィリアム・ダニエルズ ウォルター・ゴテル ヴィクター・カンポス ウォルター・ブルック ジェームズ・ジェター クライド草津 トム・マクファデン

大量殺戮テロを企むアラブゲリラ「黒い九月」と、それを阻止すべく派遣されたイスラエル特殊部隊の攻防戦。

ブラック・サンデー

「フレンチ・コネクション2」プラス「影なき狙撃者」を「グラン・プリ」の規模で製作した、ジョン・フランケンハイマー畢生の骨太サスペンス大作。ストーリー、構成、カメラ、キャスティング、編集、音楽、すべてがパワフル。超弩級の面白さ。

ブラック・サンデー

テロの標的が判明してからの50分は、ジョン・ウィリアムズの音楽に煽られ興奮のつるべ落とし。
こんな大変な映画を製作にしようと思い立ったプロデューサーのロバート・エヴァンスに勲章をあげたい。撮影に協力したグッドイヤーに感謝状をあげたい。マイアミビーチでもスタジアムでも長いショットを一生懸命走りきったロバート・ショウに完走証をあげたい。

一瞬だけ出る大統領役はジミー・カーターのそっくりさん。よく似ている。

DVDは本編のみ収録で特典は一切ない。メイキングや製作関係者のコメントが欲しい。

ブラック・サンデー

75

2022/01/23

チャイナ・シンドローム

チャイナ・シンドローム|soe006 映画スクラップブック
AmazonAssociate_チャイナ・シンドローム

THE CHINA SYNDROME
1979年(日本公開:1979年09月)
ジェームズ・ブリッジス ジェーン・フォンダ ジャック・レモン マイケル・ダグラス ダニエル・ヴァルデス ジム・ハンプトン ピーター・ドゥナット スコット・ブラディ ウィルフォード・ブリムリー ルイス・アークエット リチャード・ハード スタン・ボーマン ジェームズ・カレン マイケル・アライモ ドナルド・ホットン ポール・ラーソン ロン・ロンバード ニック・ペレグリーノ カリラ・アリ

ロサンゼルス郊外の原子力発電所でニュース番組の取材中に地震があり、原子炉の制御システムにトラブルが発生する。コントロール・ルームのただ事ならぬ気配に事故を疑うキャスターのジェーン・フォンダとカメラマンのマイケル・ダグラス。
制御室長のジャック・レモンは設備の検査に不正があったことを発見。マスコミに情報を提供しようとしたところ、さまざまな妨害をくらい、車の運転中に命を狙われ、原発のコントロール・ルームに籠城。フォンダとマイケルを呼び寄せ、生中継で内部告発を試みる。

チャイナ・シンドローム

タイトルの「チャイナ・シンドローム」は、メルトダウンの危険性について原発関係者のあいだで使われていたブラック・ジョーク。

ジェーン・フォンダ主演なので、観る前は原発反対キャンペーンのプロパガンダ映画かと思っていたが、軽薄なマスコミ文化や消費型資本主義への皮肉も盛り込まれた、娯楽性の強いサスペンス・スリラーだった。反原発集会の幼稚な様子も正直に描かれている。

冒頭の、唄うメッセンジャー・サービスをレポートする様子がバカバカしくて面白い。
生放送の本番直前までスタッフがトイレから戻ってこないとか、テレビ放送に関するエピソードはよく取材されている。
事件現場からのレポートをCMでばっさり切ってしまう無情なラスト。
そのCMが電力を必要とする電子レンジなのもアイロニックな風刺が利いてる。
原発批判とマスコミ批判を巧みに取り入れ、利便性を求める消費者に公共のモラルを考えさせる。上手い脚本だと思う。

ジャック・レモンは「エアポート'77」に続いてコメディ要素のない役で、大仰に正義感を振り回すところもなく、仕事の誇りを失い孤立してゆく心情を繊細に演じている。
ジェーン・フォンダのTVキャスターも、安っぽい自己顕示と出世欲がそれっぽく、テレビ業界で生きている女性をリアルに演じている。実際テレビのキャスター・リポーターやってる女性は、こんなタイプが多い。巨大な亀をペットに飼っている独り暮らし。生活のリアリティを見せようと本筋と絡まない場面を入れているのは無駄に思う。
マイケル・ダグラスのカメラマンは(「ザ・ディープ」のニック・ノルティ同様に)誰が演じてもいい、どうでもいい役。自分のプロデュース作品だから役を膨らませ出番を多くしたのか、それともジェーンとレモンに華を持たせようと意図して目立たない役を演じたのか。

内容が内容だけに電力会社の協力は得られず、原子力発電所はスタジオ・セットとミニチュア合成を用いた特殊撮影。プロダクションデザインは「大統領の陰謀」のジョージ・ジェンキンス。

チャイナ・シンドローム

現在は、地球温暖化阻止派(化石燃料による発電の廃止とプラスチック製品の製造抑止を訴える)と原発反対派(放射能汚染の危険を訴える)の対立に、代替エネルギー推進派(太陽光発電とか風力発電とか)の利権争いが絡んで、エネルギー問題はますますグローバル化複雑化している。人間の幸福追求欲は無限大だから、人類が滅びてしまうまで解決しないと思うよ。

電力が供給されなくなったら映画だって見られない。
石油由来のフィルムによる撮影・上映に規制がかけられ、デジタル撮影・上映に助成金が出るなんて法律ができるかも知れない。

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映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

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