1970年代の西部劇|映画スクラップブック


1970年代の西部劇(2本)

2022/03/23

砂漠の流れ者

砂漠の流れ者|soe006 映画スクラップブック
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THE BALLAD OF CABLE HOGUE
1970年(日本公開:1970年10月)
サム・ペキンパー ジェイソン・ロバーズ ステラ・スティーヴンス デヴィッド・ワーナー ストーローザー・マーティン スリム・ピケンズ L・Q・ジョーンズ R・G・アームストロング ピーター・ホイットニー ジーン・エヴァンス ウィリアム・ミムス キャスリーン・フリーマン スーザン・オコンネル ヴォーン・テイラー

仲間に裏切られ飲まず食わずで荒野を放浪。何度も空を見上げ神に救いを求める。
砂嵐に遭い、絶望の淵で靴に泥水が付着しているのに気づく。水だ、ここに水がある。
がむしゃらに地面を掘る。湧き水が穴に溜まる。
この場所が駅馬車のルートになっていたのは神の恩恵か、ただの偶然か。
男(ジェイソン・ロバーズ)はこの不毛の土地を不動産登記し(廃材をかき集め)粗末な中継所を造作する。

砂漠の流れ者:星条旗

西部開拓時代の終焉を、ペキンパーらしからぬコミカルな場面も交えて描いた人情西部劇の佳編。

茶目っ気たっぷりにオッパイやお尻をアップで撮ったり、コマ落としでスラップスティック喜劇風なショットを入れたり、紙幣の肖像画がニタリと笑ったり。オーバーラップに歌(リチャード・ギリス)をフィーチャーしてムード(雰囲気重視)で見せる。ジェイソン・ロバーズがステラ・スティーヴンスの身体を洗いながらデュエットで歌う楽しい場面もある。

砂漠の流れ者:ジェーソン・ロバーズとステラ・スティーヴンス

バイオレンス抜き。長閑で牧歌的なサム・ペキンパー。

シリアスとドタバタが混在して、なんとかの脚本術とかシナリオの法則とかの教則本とは無縁の脚本。型にはまった映画ではないので、初めて観たときはストーリーの方向が読めず、裏切り者と再会するまでの流れにいささか混乱した。2回目以降は(結末を知っているし登場人物に愛着もあるので)遊び心を微笑ましく、楽しんで観ることができた(それでもやっぱりデコボコしているとは思う)。

主人公ジェイソン・ロバーズの独り言や、登場人物のセリフが多い。だだっ広い荒野が背景として映っているけど、シーンの作り方、芝居の作り方は舞台演劇のような印象。
アクションが無いわけではないが、フレームの外へと動きが広がらない。人物が場所に固定されているからだろうか。芝居が場面の枠に収まって開放感・躍動感は感じられない。

冒頭で水と馬を奪う裏切り者、ストローザー・マーチンとL・Q・ジョーンズは「ワイルドバンチ」に続いてのダーティ・コンビで登場。時代の変化を察知した主人公から中継所を譲り受けたストロザー・マーチンの演技が素晴らしい。

好色なインチキ牧師のデイヴィッド・ワーナー、気の良い娼婦ステラ・スティーヴンス、強面の銀行家ピーター・ホイットニー、駅馬車の御者スリム・ピケンズ。善人でもないが悪人でもない、だけど良い奴ばかり(「続・夕陽のガンマン」原題の裏返しみたいだな)。

町の良識派に追放された娼婦の話は、「駅馬車」のジョン・ウェインとクレア・トレヴァーのアナザー・ストーリーだろう。ジョン・フォードに憧れていたペキンパーらしい。

砂漠の流れ者

デヴィッド・ワーナーの祈りの言葉を繋ぎに使って、自動車事故から埋葬シーンに時間をジャンプさせるラストが上手い。いつか真似したい。

砂漠の流れ者:埋葬シーン

身寄りもなく財産もなく身体ひとつで荒野を歩いていた男、その葬儀に集まった人々。
サム・ペキンパーの人生観が素直に表現されている素晴らしいロングショット。

男が造った中継所は「未来」と「過去」の中継所でもあった。
葬儀を終えて去りゆく者たちが、自動車とオートバイは画面の左へ、馬車や馬は右へと消える。中継所はメタファーとして機能している。

砂漠の流れ者

無人となった中継所にコヨーテが水を飲みに現れるラストショットが泣ける。

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2022/03/31

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯|soe006 映画スクラップブック
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PAT GARRETT AND BILLY THE KID
1973年(日本公開:1973年10月)
サム・ペキンパー ジェームズ・コバーン クリス・クリストファーソン ジェイソン・ロバーズ ジャック・イーラム リチャード・ジャッケル ケティ・フラド ボブ・ディラン スリム・ピケンズ L・Q・ジョーンズ ハリー・ディーン・スタントン チャールズ・マーティン・スミス リタ・クーリッジ エミリオ・フェルナンデス R・G・アームストロング ルーク・アスキュー ジョン・ベック マット・クラーク チル・ウィルス リチャード・ブライト ジャック・ドッドソン ポール・フィックス ジョン・デイヴィス・チャンドラー ルターニャ・アルダ ジーン・エヴァンス

ニューメキシコ州フォートサマーの保安官に指名されたパット・ギャレットは、かつて親しくしていた無法者ビリー・ザ・キッドを射殺する。
パット・ギャレットの著書「ビリー・ザ・キッド、真実の生涯」をベースに、ビリー・ザ・キッドの最期の3ヶ月間を描いた、サム・ペキンパー最後の西部劇。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

ペキンパー映画の常連俳優がずらりと並んで壮観なキャスティングに、これぞ西部劇! と膝を叩きたい素晴らしいショットがてんこ盛り。美術はテッド・ハワース。撮影監督は「わらの犬」「戦争のはらわた」のジョン・コキロン。

純真で無邪気な若者(無法者)として生きるビリーに羨望、嫉妬する老いゆく者(保安官)パットのコンプレックスな心情が、西部開拓時代の終焉と共鳴して寂寥のハーモニーを奏でている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジェームズ・コバーン

ペキンパー映画の登場人物たちは昔話をする。昔は良かったと過去を振り返る。
未来を語る奴は悪役になる。本作では特にその傾向が強く打ち出されている。
パット・ギャレットは酒を呑みながら過去を語ってばかりだ。

ビリングの上位にクレジットされているジェイソン・ロバーズは、ワンシーンのみの出演で、誰が演ってもいいような小さな役(ニューメキシコ州知事)。
友情出演みたいなものだろう。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジェイソン・ロバーズ

東部から来た投資家ジャック・ドッドソンとジョン・チャンドラー。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジャック・ドッドソンとジョン・チャンドラー

牧場の治安と平和を口にしながら、自分の手を汚さず金で人殺しをさせるクズ野郎。
ビリー殺しを依頼する投資家に、賞金の前金を叩き返すパットの怒りがいい。

保安官助手を押し付けられたばかりにビリーと決闘する羽目になるジャック・イーラム。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ジャック・イーラム

恐怖心にかられ八つ数えたところで振り返る。その卑怯な心理を先読みしていたビリーは、真っ当に対決する気は最初からない。

儲け役はスリム・ピケンズ。
引退して舟で川を下り町を出ていくのが夢だと語っていた男。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:スリム・ピケンズ

死の間際、川のほとりにて微かに笑う。ペキンパー映画指折りの名シーン。

男勝りなママ(ケティ・フラド)の表情も良い。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:ケティ・フラド

客寄せキャスティングだったとは思うが、ボブ・ディランはなかなかの存在感で良好。ガンベルトを付けないナイフ投げの若造エーリアス。最初の脚本には無かった役で、セリフが少ないぶんナイーブな性格が引き立っている。
相棒のジェリー・フィールディングが外されてペキンパーは猛反対したらしいけど、結果的にディランの音楽は素晴らしく映像にマッチしている。

R・G・アームストロングは今回も説教臭い役。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:R・G・アームストロング

L・Q・ジョーンズは今回もやっぱり殺される。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:L・Q・ジョーンズ

「ワイルドバンチ」のマパッチ将軍、エミリオ・フェルナンデスも出ている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:エミリオ・フェルナンデス

これも友情出演みたいなもので、音声解説者たちは揃ってこの役は不要だったと語っていた。 牧場経営の大物チザムの手下に惨殺される。

ペキンパー監督も棺桶を作る職人役で出演。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:サム・ペキンパー

ペキンパーの映画製作にトラブルは付きものだけど。
本作の編集にはデヴィッド・バーラツキー、ガース・クレイヴン、トニー・デ・ザラガ、リチャード・ハルシー、ロジャー・スポティスウッド、ロバート・L・ウルフと6人が名を連ねている。完成を急がせた会社(MGM)が、監督から編集権を取り上げ、次々と編集マンを送り込んだせいだ。

そのため、他のペキンパー映画と同様に幾つものバージョンが存在している。

ワーナー・ホームビデオが販売しているDVDは2枚組で、2005年スペシャル・エディション(115分)と1988年ターナー・プレビュー・バージョン(122分)を収録。
どちらの版にもペキンパー評論家による音声解説が収録されていて、興味深い話がたくさん聞ける。

1988年ターナー版は、劇場公開版(108分)の前に編集されていたディレクターズ・カットの再現で、公開版はこの版を詰めて仕上げたらしい。ラフスケッチみたいなものか。 2005年スペシャル版は、1988年ターナー版の未公開シーンも配慮した上で公開版に近い編集を施したもの。場面がシャープに切り詰められて、ストーリーの流れが良くなっている。音声・音楽も調整されている。デジタル処理されていて映像も綺麗だ。

2005年スペシャル版のほうが完成度は高いと思ったが、解説者のなかには1988年ターナー版のほうに軍配を挙げている人もいて、そんな事情もあって両方を収録して販売したのだろう。このようなメーカーの方針は良心的でよい。

結局、2005年スペシャル版と1988年ターナー版、それにそれぞれの音声解説で計4回も同じ映画を観ることになったが、いろいろと面白かった。

安定した生活を求めて保安官になったパット・ギャレットが、久しぶりに帰宅して奥さんと会う場面。1988年ターナー版ではカットされていて、2005年スペシャル版でしか見られない。

家庭と仕事とどっちが大事なの? もっと私に優しくしてよ! って、日本の(糞みたいな)テレビドラマで頻繁に描かれる(糞な)エピソード。
ストーリーに必要な場面ではないけど、室内装飾と照明が素晴らしい。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

バリー・サリヴァン扮するチザムの牧場シーンは劇場公開版ではカットされていた。1988年ターナー版で復活。2005年スペシャル版にも入っている。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯:バリー・サリヴァン

西部劇は絵だ。ペキンパーは西部劇の絵作りが抜群に上手い。
本作のラスト・ショットは「シェーン」だ。

ビリー・ザ・キッド/21才の生涯

仕事を終えたパット・ギャレットが町を去ってゆく。子供が追いかける。
ビリー・ザ・キッドを殺したパット・ギャレットの背中に、石礫を投げつけている。

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75点 年間ベストワン候補(18本)
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60点 水準作(77本)
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