カーレース映画3本立て(3本)
2020/06/25
グラン・プリ
GRAND PRIX
1966年(日本公開:1967年02月)
ジョン・フランケンハイマー ジェームズ・ガーナー イヴ・モンタン エヴァ・マリー・セイント ブライアン・ベッドフォード アントニオ・サバト 三船敏郎 ジェシカ・ウォルター フランソワーズ・アルディ アドルフォ・チェリ レイチェル・ケンプソン
1966年のF1グランプリに密着して製作された、上映3時間の大型カーレース映画。
ヨアキム・ボニエ、リッチー・ギンザー、ボブ・ボンデュラントなどのF1ドライバーがアドバイザーとして協力。フィル・ヒル、ヨッヘン・リント、ブルース・マクラーレン、グラハム・ヒル、ダン・ガーニーなど(当時)現役ドライバーが実名で出演。
総勢260名の撮影隊が、20台以上の70mmパナビジョン・カメラで現地密着撮影。公開時はシネラマの湾曲巨大スクリーンで上映された。
いやぁ、すごいすごい。
実際に催された本物のカーレース会場にフィクションのドラマを絡ませ、迫真のスペクタクル(見世物映画)になっている。フランケンハイマー監督は「ブラック・サンデー」でもスーパーボウルのスタジアムで同じようなことをやっていたけど、この映画ではF1シリーズ6会場(モナコ、フランス、ベルギー、オランダ、イギリス、イタリア)でやってのけている。撮り直しがきかない一発勝負の撮影で、すごく綿密に段取りしておかないととんでもないことになるのだが、もう完璧に近い出来栄え。
さすがフランケンハイマー。すごいすごい、としか言いようがない。
各地の大会ごとに撮影のテーマが決まっていて、初戦モナコでは空撮を多用してコースを紹介したり、豪雨のベルギー戦ではドライバー視線で視界の悪さを、最終イタリア戦ではバンク(カーブの傾斜)のスリルを見せたりと、いろいろ工夫されている。
映画の主役は、ジェームズ・ガーナー(アメリカ)、イブ・モンタン(フランス)、ブライアン・ベッドフォード(イギリス)、アントニオ・サバト(イタリア)の4人。これにエヴァ・マリー・セイント、ジェシカ・ウォルター、フランソワーズ・アルディら女優陣が色恋沙汰で絡む。
フェラーリ社長役のアドルフォ・チェリは本物そっくりの貫禄。モンタンが事故死したとの連絡を受けて、躊躇なく棄権の旗を振る行動が男らしくていい。
三船敏郎扮する矢村社長は本田宗一郎がモデル。映画が製作されたあとのホンダ・チームの躍進をみると、この映画のストーリーは先見性があったといえる。
日本語で喋っている三船の声は本人だが、英語のセリフは吹き替え。主役級4人のレース・シーンは吹き替えなし、実際に本人が運転している。
車載カメラからのアップなんかは、そんなにスピードを出してなくても背後の景色が流れるので誤魔化しがきくが、シリーズ最終戦モンツァの傾斜角がきついバンクなんか相応のスピードが出ていなきゃ走れない。そんな危険な場面もバッチリ本人が運転している。ドライバー役の4人は、撮影前にプロのレーシングドライバーが通うスクールで教習を受けたのだという。
80年代になると小型の車載カメラを使ってF1レースをテレビ放送していたが、バカでかいパナビジョン機材を積んでの撮影は大変だったろう。序盤のモナコ戦では低空飛行のヘリ撮影が、モンテカルロ市街地のコースを見事に捉えている。いまだったらドローンで簡単に撮れそうだけど。
ドライバーの心情に関するセリフやモノローグは、取材で拾ってきたものだろう。F1レーサーの本音が語られ、本物のレーサーも多数顔を見せている。
「このコースでは2600回ギアチェンジする、3秒に1回ギアチェンジが必要だ」
ギアチェンジでエンジン音が変わる、ドライバーの動きと車のスピードが完全にシンクロしている。そんなリアルなレース場面を、モーリス・ジャールの音楽がさらに盛り上げる。ちなみにこの映画のサントラ盤には、グウォーン、ブィーン、ブィーン、ブィーン、ブロォーオーと、エグゾーストノイズがステレオ収録されていて、とてもやかましい。
そんなすごい映画ではありますが……正直、くっついたり別れたりのロマンス劇はいらなかった。女優ぜんぶいらない。フランケンハイマーが、らしくないことをやったばかりに失敗している。女絡みのオフタイム場面を全部カットして、レースとそれに関わる男たちをメインに編集、2時間に収めていたらグッと評価があがったと思う。
画面分割も効果なかったね。
デ・パルマの「悪魔のシスター」みたいに、いろんな視点から同時進行している時間を見せるのならスリリングでいいけど、3分割、6分割、9分割したスクリーンに同じ映像を見せてどんな意味があるの(ソール・バスのアイディアなのか?)
65点
#カーレース映画3本立て
2020/06/26
栄光のル・マン
LE MANS
1971年(日本公開:1971年07月)
リー・H・カッツィン スティーヴ・マックィーン ヘルガ・アンデルセン ジークフリート・ラウヒ ロナルド・リー=ハント リュック・メランダ フレッド・アルティナー
パリの南西部にある田園都市ル・マンで開催される24時間耐久レースを、前日の早朝から翌日夕方のレース終了まで、まるごと描いたカーレース映画。
1970年に開催されたル・マンのドキュメント映像と、映画のストーリー用に撮影されたフィルムを巧妙に編集し、あたかも本物のレースのような臨場感を創出。寡黙なレーサー(スティーヴ・マックィーン)の人物像もしっかり描かれ、ミシェル・ルグランの音楽も素晴らしく、実際に現地でル・マンを観戦した気分を味わえる。
観終わったあとの爽快感は筆舌に尽くし難い。カーレース映画の白眉。
F1グランプリを題材にしたジョン・フランケンハイマーの「グラン・プリ」が先行したため、一度は企画を断念したスティーヴ・マックイーンが、舞台をル・マンに変更し、マックィーン自身が設立したソーラー・プロダクションで製作。自らハンドルを握りアクセルを踏んだ。命とお金を注ぎ込んだ野心作。
ストーリー性が希薄という理由からジョン・スタージェス監督が降板したあと、TV出身の新人リー・H・カッツィンを監督に立て、妥協なしで、ほとんど自分の思うがままに製作をすすめた。
息を呑む迫力のレース場面はもとより、メカニック、観客、ル・マンの田園風景、雨に煙るサーキット、隣接して設けられた遊園地、事故に対応する救護スタッフ、優勝を賭けて競い合うポルシェとフェラーリ、チェッカー・フラッグが振られたあとの大歓声、などなど。レースと関わりのないドラマを極限まで刈り込んで大成功、カーレース・ファンは随喜の涙をながした。
大会当日の早朝、前日から泊まり込みで来ていた老若男女がテントやキャンピングカーから姿をあらわし、普段は乗降客が少なそうな田舎の駅に列車が到着するとホームが人で埋まる、田園地帯の2車線道路は長蛇の渋滞。祝祭の雰囲気が街がいっぱいに溢れてくる。
この風景スケッチの気持ちの良いこと。
警備や交通整理の警官隊が出動。レースのスタート時刻が近づくにつれ、少しづつ確実に、緊張感が高まる。
レース終了後「また2番だったぜ」と、2本指を立てるマックィーンが格好いい。
マックィーンは、負けてなお闘志を燃やし続ける不屈の男を演じて様になる。「大脱走」もそうだったし、「シンシナティ・キッド」でも最後の勝負に負けていた。
当時なにかと比較されていたポール・ニューマンは、逆に、「ハスラー」や「レーサー」で、最後に勝利するものの、勝負の虚しさを胸中に抱いて去ってゆく役柄を演じることが多かった。
ちなみに、この映画をむかし佐賀グランドで観たとき(シネラマではない、通常のワイドスクリーンでの再映)、隣席で観ていた当時小学生だった弟が、とつぜん鼻血を出し慌てて洗面所に駆け込んだ。映画がもたらした興奮かチョコレートの食い過ぎか、いまもって原因不明。映画が大好きで、市内の映画館まで片道7キロ自転車を漕いで、一緒によく映画を観に行っていた。「栄光のル・マン」を観るたびに、20歳で交通事故で死んだこの弟のことを思い出す。
70点
#カーレース映画3本立て
2020/06/27
ラッシュ/プライドと友情
RUSH
2013年(日本公開:2014年02月)
ロン・ハワード クリス・ヘムズワース ダニエル・ブリュール オリヴィア・ワイルド アレクサンドラ・マリア・ララ ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ クリスチャン・マッケイ デヴィッド・コールダー ナタリー・ドーマースティーヴン・マンガン
シーズン中のドライバー死亡率20パーセント、フォーミュラ・ワンが「走る棺桶」と呼ばれていた1970年代に活躍したF1レーサー、ニキ・ラウダとジェームス・ハントのプライドと友情を描いた実話ベースの映画化。脚本は「フロスト/ニクソン」のピーター・モーガンのオリジナル。監督は職人肌のロン・ハワード。
ガチガチの理論派ラウダと女好きでやんちゃなハント、禁欲的で地味なラウダと享楽主義のハント。対照的なキャラを活かして、ストーリーはF3会場でふたりが出会った駆け出し時代から、ハントが逆転優勝を果たした1976年のF1シリーズ最終戦(豪雨の富士スピードウェイ!)までを描いている。
ポスターに並んだふたりの写真、ジェームス・ハント(クリス・ヘムズワース)とニキ・ラウダ(ダニエル・ブリュール)を見て、無意識にニヤリと笑ってしまった。メイクも多少あるだろうが、表情がまったくもって本人そっくりなので、驚くより先にニヤリしてしまった次第。
ヘムズワースはオーストラリア、ブリュールはドイツ出身。ふたりとも本作を観るまで知らない顔の俳優だったのだが、なかなかの好演。
ヘムズワースはマーベル・コミック原作の映画シリーズで活躍していて、ロン・ハワード「白鯨との闘い」にも出演しているそうだが、どちらも未見。他の役を演じていても、分からないだろうなあ。
ふたりはニキ・ラウダとジェームス・ハントで記憶に固定されてしまった。本当に本物そっくり。
クライマックスの富士スピードウェイのあと、エピローグにしてはちょい長めのラストシーン(自家用ジェット機の飛行場)が置かれていることで分かるように、この映画は、ふたりのF1レーサー(人物)を描いたもので、「グラン・プリ」や「栄光のル・マン」のようなレース(自動車競争)を見せる映画ではない。
レース場面は、ありえないアングルからの映像も(見せたくないのかと疑いたくなるくらい短いカットで)CGを多用して再現。映画というよりテレビゲーム感覚。ハンス・ジマーの煽り音楽も、スタートのフラッグが振られる前からガンガン鳴り響き(まったく記憶に残らないが)絶好調。
レース(自動車競争)を見せる映画ではないので、それはそれで結構。最近はCGだからどうこう思うところはなく、アニメ感覚で見られるようになりました。かつてのカーレース映画のように命懸けで撮影しているわけじゃないので、観ているほうも気楽でのんびりしていられます。
65点
#カーレース映画3本立て