チャイコフスキー 交響曲第5番 ホ短調
September 29, 2006
全国展開しているファミレス・チェーン店って、たいへんな努力をされていると思うのです。
老若男女、様々なタイプの客に対応できる豊富なメニュー、どんな料理でも客を納得させる一応の味。しかも全国どこの店でも、いつの季節でも、同じ価格で同じ品質の商品を提供しなくちゃならない。
ラーメンとチャーシューメンしかやってないよ。チャーハンは不味いんだよッ! うちはラーメン専門だから。なんて、言い逃れ、開き直りはできない。
お客のニーズに即したメニューと嗜好の味を徹底的に分析調査し、お客の懐具合と店の利益との微妙な兼ね合いを研究しつつ価格設定して経営されているわけです。
生半可なことではありません。
店内装飾や接客マナーは全店舗統一。完全マニュアル化。
多少の大らかさというか、大雑把、それも一つの持ち味、みたいな雰囲気の個人経営店だったら、ちょっとした傷もご愛敬、仕様がねえなァと苦笑いで済ませられるのですが……少しでも落ち度があると、なまじ完璧を謳っているだけに、そこだけ目立ってしまいます。
その点、レコード(CD)は録音のマジック、良いとこ録りで編集してしまえば済むことで、手間さえかけりゃ常に完璧なサービス(演奏)を提供するのは可能です。
完璧を追求し続けたのが、カラヤン&ベルリン・フィル。
そして、ドイツのカラヤン&ベルリン・フィルと肩を並べるのが、米国のオーマンディ&フィラデルフィア管弦楽団。
実際は知りませんよ。音楽雑誌などでこの2つのオケを並べたり比較している記事を読んだことないし、そんな話題もないし……
これはあくまでも私の脳内比較。音楽の専門家でもないトーシロの戯言(タワゴト)ですから、本気にしないでください。
超個人的脳内にどうしてカラヤンとオーマンディが並んだかというと……
子どもの頃、私が通っていた田舎町のレコード屋に置いてあったのが、この二人のレコードばかりだったからなんですね。
何でもそつなくこなす技巧派オケ。幅広いレパートリー。どれを買ってもハズレなし。
ただ一つの大きな違いは、カラヤンのグラモフォン盤が2500円で、オーマンディのCBS盤は1000円だったこと。
決定的でしたね。この価格差は。
田舎町には輸入盤や中古盤を扱っている店はありませんでしたから、当然、私はオーマンディ派。レコードのオビに「華麗なるフィラデルフィア・サウンド」とあるとおり、きらびやかな管弦楽を、沢山愉しませていただきました。
オーケストラ音楽ってのはコレなんだ! ってのは、オーマンディ&フィラデルフィアに刷り込まれてしまったような気がしますです。
そのフィラデルフィア管弦楽団を米国随一のオケに仕立て上げた功労者が、1912年から1938年までの26年間、音楽監督を務めたレオポルド・ストコフスキー。
ストコフスキー・ベスト5も佳境に入ってきました。
本日は第2位の発表!
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チャイコフスキー:交響曲第5番
レオポルド・ストコフスキー 指揮
1. チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 1966年9月 ステレオ録音 Decca |
ストコ腕まくりで、テンポ揺らしまくり! スコアいぢくりまくりの怪演爆演盤。脂ギットリ、2倍に薄めなきゃとても飲めない特濃とんこつスープ。他では味わえない独特の風味。一度食べたら忘れられない強烈体験。
すべての楽器の音がオンマイクで捉えられ、次々と目の前に飛び込んでくる、フェイズ4方式マルチ録音の大迫力!
どんなに落ち込んでいても、これさえあればファイト一発、明日もガンバローって気になる、気にさせる、滋養強壮、活力快復薬。
当時84歳だったとは俄に信じがたい、1966年9月ロンドン録音。
不幸なことに、これが私のチャイコ「5番」初体験盤。
ストコ盤を聴いたあとでは、(評論家が割と高く評価している)カラヤン盤の、味気ないこと味気ないこと。
カラヤン盤が悪いってことでは決してありません。とても素晴らしい演奏だと思います。これは好き嫌いの問題。
無農薬有機質肥料の野菜は高級品かも知れないけど、美味いとは限らない。添加物ごちゃ混ぜで、身体には良くないと分かっていても、個人の嗜好にぴったりマッチしていて、やめられない食べ物も世の中にはあります。
まだチャイコフスキーの「交響曲第5番」を1枚も持っていない人、(超有名曲なのでそんな方はいらっしゃらないと思うけど)まだ1度も聴いたことがないって人は、是非こちらのストコ盤をお求めください。
ストコ盤を先に聴いてしまうと、他の演奏は退屈で聴けなくなります。
つまり、最初にストコ盤を1枚買っておけば、これ以上の演奏を求めていろいろ買う手間が省け、ヒジョーに安上がりだと思うのです。
逆にいえば、このレコード以外の演奏に馴染んでいる人には、なんじゃこりゃァ! の世界。取扱いに注意、デンジャラス・ゾーンへの入り口。
名曲は名演によって名曲と成りえる(いま即席で思いついた言葉だけど、しばし名言、我ながら感心)。
但し、なにを以て名演とするかは、各人各様、人それぞれであります。
「名曲名演ベストCD、○○○を聴くならこの1枚から」なんて言葉を鵜呑みにして、評論家が推薦しているディスクを聴いてみたものの、ぜんぜんピンとこなくて、この楽曲を代表する名演奏盤でつまらないと感じたのだから自分には合っていないんだろうと、その楽曲自体を敬遠するようになり、しばらくした後、なにかの縁で別の演奏に接し、こりゃたまげた! と、ぞっこん惚れ込み、堰を切ったようにディスクを買い漁る……なんてことは日常茶飯事。
だから……(この文章に騙されて)ストコのデッカ盤を聴き、こりゃダメだぁ! と思われた方は、(そこでチャイコ「5番」を見捨てないで)カラヤン盤やオーマンディ盤を聴いてみるといいかも、です。
現行国内盤のストコフスキー/チャイコ「5番」には、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」がカップリングされています。
こちらは10曲構成の原曲から「チュウイルリーの庭」と「リモージュの市場」、繰り返される2回の「プロムナード」を割愛した、ストコフスキー編曲版。
ストコフスキーの場合、編曲とクレジットされていなくても(チャイコ「5番」をお聴きになれば分かるように)、どんな楽曲でも多かれ少なかれ編曲しているのですが、こちらは完全編曲版。4管編成に8本のホルンと多彩な打楽器を加え、クライマックスの「キエフの大門」ではオルガンも用いるという、デラックス仕様スペクタクル巨編。
原典版のピアノ版と聴き比べしても面白いし、(多分、世界中でもっとも頻繁に演奏されている)ラヴェル編曲版と比較しても、なんじゃこりゃァ! な味わいを満喫できる怪爆演。
名盤ガイド書などで、ストコフスキーが無視されているのは、彼を褒めると論壇から異端とみなされ、評論家は仕事を失うから? やっぱり、無難にカラヤンを褒めておけば無問題?……そんな邪知さえ湧き出てくる。一撃必殺、一粒で二度美味しい、ストコフスキーの代表作です。