soe006 和製ビッグバンド? 「ラプソディー・イン・ブルー」

この日記のようなものは、すべてフィクションです。
登場する人物、団体、裏の組織等はすべて架空のものです。ご了承ください。

「のだめカンタービレ」Lesson5:ラプソディー・イン・ブルー

September 30, 2007

デタラメなところは多いけれど、そこは原作が雑誌連載のギャグ漫画だし、作者も連載前は音楽に興味なかった人みたいだし……
雑誌連載が、行き当たりばったりのストーリー展開になるのは仕方ないです。人気が出ればそこを膨らまし、落ちれば別趣向で進めなきゃならない……執筆前にどんだけ取材し構成を練っていようとも、連載が始まったら出たとこ勝負ですから。
作者に音楽関連の知識がなかった割りには、よく健闘していると思います。

ただ、ドラマの第5回はいただけません。
幾らなんでも酷すぎる。
ストーリーが滅茶苦茶やんけと疑問を発信したところ、私が指摘した箇所は原作漫画どおりに作られていたとのことで……すべて原作者の無知に起因するものらしい。
しかしそこは、ブレーントラストが何人も付いてるドラマ制作なんですぜ。素人の私でさえカチンときたんだから、服部さんはじめ、音楽監修でクレジットされている茂木大輔とか、制作に関係していた多くのプロ音楽家が当然気づいていたはずでしょ?
もっとちゃんと仕事しろよ! と怒ってもいいですよね?

では、怒るまえに……
簡単に、第5回のストーリー紹介を。

Sオケの初舞台から、一週間後。
首席奏者の峰は、今度の学園祭(一週間後)に、有志を募って仮装オケで参加しようと提案。(マスコットガールの)のだめは着ぐるみを作ると張りきっている。裏切り者のシュトレーゼマン(ミルヒ)が現れ、Sオケのメンバーを合コンに誘う。
シュトレーゼマンが桃ヶ丘音大にいることは海外で話題になっていないのか? 疑問に思った千秋がインターネットで調べると……シュトレーゼマンは、先月の公演のあと失踪。関係者は警察に捜索を依頼し、行方を追っているとのこと。
桃ヶ丘音大にシュトレーゼマンの秘書(エリーゼ)が現れ、シュトレーゼマンを捕獲。シュトレーゼマンは帰国強制送還。

Sオケの仲間たちが中華裏軒で食事しているところへ、ドイツに帰国したはずのシュトレーゼマンが現れる。今度の学園祭で、千秋のピアノとAオケでラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」を演奏すると告げる。

千秋は、自分がピアノを弾くことになった理由を訊くが、シュトレーゼマンはそれには答えず、学生時代の友人で、片想いの相手でもあった音大の理事長・桃平美奈子との再会を喜んでいる。その様子を見て、千秋は自分がダシに使われたと誤解する。

一方Sオケのメンバーたちは、仮装の衣装作りの真っ最中。のだめは着ぐるみを作りながら、ピアノはオケに参加できないことに(ここにきてようやく)気づく。
峰は、ピアノ科はピアニカで参加することを提案。
ピアノ科の真紀子と玲奈も参加を希望する。
そこへコントラバスの桜が、演奏する曲の楽譜(あとでガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」と分かるが、この場面では伏せてある)を持ってくる。

くさっていた千秋は、秘書エリーゼの話を聞いてシュトレーゼマンの本意を知り、ピアノの練習に打ち込む。
Aオケのメンバーは千秋のピアノに感心しているが、シュトレーゼマンは妥協しない。もっと音楽に没頭しろ、ハンパは許さないと叱責する。

のだめたちは衣装作りに一生懸命。峰は、真紀子が持ってきた仮装のデザイン(電話・リンゴの木・電柱)が気に入らない。

音大の事務室は、本当にシュトレーゼマンが指揮するのかと、問い合わせの電話が鳴りっぱなし。シュトレーゼマンと千秋の顔写真をあしらったポスターも貼られている。(いつそんなもの作ったんだ、よく印刷が間に合ったな、とかの野暮は言わない)
学園祭当日。Sオケのメンバーは、(峰が電柱のデザインを嫌ったので)和服の礼装で登場。のだめの着ぐるみ(マングース)と真澄ちゃんの真紅のドレスは、せっかく作ったんだからそのまま。(←どうしてのだめと真澄には舞台衣装が変わったことを連絡しなかったのか、疑問ではあるが、深追いするのは野暮)

Sオケの演奏を見に行く千秋。演目はジョージ・ガーシュウィンの「ラプソディー・イン・ブルー」。冒頭のクラリネットで奏されるグリッサンドを、着ぐるみを着たのだめがピアニカで演奏する。
千秋は「和製ビッグバンドか……」と呟く。
また、「おいおい、カッコいいじゃねえか。曲のアレンジがいい。ピアニカなんかもちゃんとパート分けしたりして、芸が細かい」と感想をもらす。

Sオケの演奏終了後。のだめはシュトレーゼマンに、「このままじゃ千秋と一緒にいられない」と言われ(なぜかショックを受けて)、Aオケの開演時刻になってもベンチでボーっとしている。
千秋とシュトレーゼマンが舞台に登場。真澄ちゃんがのだめを探しに、ホールを出る(←普通は、いますぐにでも演奏が始まるってときに出たりしませんよね)。
演奏中に、馬鹿でかい音をたててホールに入る、(音大生らしからぬマナーの)のだめ。

演奏終了後、のだめは茫然自失。
「ピアノ、ピアノ弾かなきゃ! ムッギャァー!」と奇声を発し、レッスン室に駆け込む。
−−−−−−−あらすじ紹介おしまい−−−−−−−

なぜのだめは、千秋のラフマニノフを最初から聴かなかったのか(なぜ脚本家やスタッフは、のだめに最初から聴かせようとしなかったのか)、分からん。次回以降への伏線にもなってないし。
ラフマのピアノをBGMに、のだめを走らせたら月9みたいでカッコいいから?……たぶんそんなところか。くだらん。

峰が仮装オケをやろうと仲間に呼びかけるのは、本番一週間前。戻ってきたミルヒ(シュトレーゼマン)が、千秋にラフマの楽譜を渡すのは、その翌日の夜。
学園祭の出し物とはいえ、世界的巨匠指揮者と音大生オケの共演って、そんな短期間で準備できるものなの?
峰たちSオケは、衣装作りから編曲までやっているし。桜が楽譜持ってくるまで、メンバーは何を演奏するのかさえ知らされてなかった。練習してる時間なんてなかったでしょう?

まあ、そんなことはどうでもいいです。
とても些細なことだし。

しかし、贅沢な作りのドラマですよね。朝の雷雨なんて照明もスゲー難しいのに。ストーリーに必須なわけでもなく、伏線もないのに。
雨降らせるのって、メチャ銭をくうんですよ。俺様がプロデューサーだったら雷雨はカット。それで浮いた予算でロケ弁を豪華にして、スタッフ及び出演者に媚び売って、皆様に気持ちよく働いていただく。

それはさておき……
問題にしたいのは、次の2点。

「ラプソディー・イン・ブルー」のピアニカ編曲版が、Sオケの演目として決まるまでの、経緯の矛盾。
Sオケが演奏する「ラプソディー・イン・ブルー」を聴いた、千秋真一の感想。その的外れな件。

まず経緯の矛盾を整理すると……
1.峰が仮装オケを提案。
2.のだめが着ぐるみで参加を表明。
3.でもピアノはオケに参加できないと気づき落胆。
4.じゃピアノ科はピアニカで参加と峰が提案。
5.ピアノ科の真紀子と玲奈も参加申し込み。
6.桜が楽譜(「ラプソディー・イン・ブルー」)を持ってくる。
1と2は学園祭の一週間前。3〜6はその翌日以降、しかも1シーンにまとめてあります。

演目が「ラプソディー・イン・ブルー」であることは、3以前に決まっていたんですね。でないと、5と6の間が数秒というわけにいかない……すると4の意味がワケ分からん。
逆にこの流れでやるとすると、5と6の間に、「ではピアニカ参加でもやれるような曲を探さなきゃ」って挿話がなきゃ話が繋がらない。
なぜならば……

「ラプソディー・イン・ブルー」は、ピアノ独奏が不可欠の楽曲だから。

この流れを、俺様が納得いくカタチに整えると……
1と2はそのままで。
3の前に……
熱心に着ぐるみのデザインを考えているのだめを見て……峰が、のだめも参加できるよう、ピアノが入った曲(「ラプソディー・イン・ブルー」)を選曲。桜に楽譜を取り寄せるよう指示。但し、これは極秘でコソコソ話。「それだったら、のだめちゃんも喜びますね!」とか、桜がニッコリ笑顔。
3.着ぐるみ作成中に、のだめはオケに参加できないと気づき落胆。
4.桜が楽譜を持ってくる。のだめのために「峰くんが考えてくれたんですよ」と聞いてのだめ感激。ところが……
5.しょげたツラの峰が入ってきて、Sオケの演奏は中止だと告げる。理由は……学園祭のメイン・プログラムには、シュトレーゼマンが指揮するピアノ協奏曲が決まっている。世界的指揮者に粗相のないよう、ピアノは特別入念に調律される。前座の(どこの馬の骨とも分からぬ)Sオケなんかに、ホールのピアノは貸し出せませーーんなっ! ということで、のだめのピアノ・デビューは雲散霧消。
「峰くん、仮装オケやめちゃうんですか?」
「ちきしょー千秋の奴め。こうなったら絶対に負けられねえ、打倒Aオケ、打倒シュトレーゼマン、打倒千秋だ!」
「でもどうするんだよ、峰」
「いまから別の曲探してたら、学園祭に間に合わないぜ」
「ピアノのパートは、ピアニカでやるってのはどうだろう?」
「ピアニカだったら、のだめ出来ます!」
「しかしこの曲をピアニカでやるなら、かなりアレンジしないと」
「ちょっと待った! 僕だったら、一晩で編曲してやってもいいけど」
「あんた、誰?」
「僕はこの学校で2番目に有名な、指揮科の大河内……アベシ!」
大河内を突き飛ばして入ってきたのは、真紀子と玲奈。
「私たちも、ピアニカで参加させてくださーい」

どうよ?

曲名は視聴者には一切明かさず、「ラプソディー・イン・ブルー」がピアニカ編曲版である必然性もバッチリ。真紀子や玲奈、大河内がSオケに参加する経緯も不自然でなく、峰ののだめに対する友情も濃いめに描かれ、打倒千秋、打倒シュトレーゼマン、打倒Aオケの意気もガーンと上がりますぜ。
もっとアタマ使え、脚本家。

その演奏を聴いた千秋の感想。これは酷い。
天才脚本家の俺様でも、これは直しようがない。
もし、直すとすれば……セリフの削除以外ない。
前半は原作者の無知を恨んで、「のだめ?……のだめだ」以降は全部カット。
後半の「みせる、なるほどな、峰」〜「ちょっとバカみたいだけど、お前らの本領発揮だ」〜「Sオケ、なかなかいいものを見せてくれたな」〜「俺も自分を信じて、俺らしい演奏をすればいい」だけ生かす。

まず、これのどこが和製ビッグバンドなのか、分からない。
和装してるだけのコミックバンドだ。
ビッグバンドってのは、おおまかだけど……ピアノ、ベース、ドラムスのリズム・セクションがあって、トランペット、トロンボーン、クラリネット、アルト・サックス、テナー・サックスが各々1〜4本。これが基本。ヴィブラホン、コンガ等の打楽器、ギターや、コルネット、チューバ、ソプラノやバリトンのサックスが入ってるバンドもあれば、曲によって持ち替えたりもする。ガーシュウィンの時代なら、リズムにまだベースは入っていない。が……弦5部(第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス)が主体となっているビッグバンドなんて、聞いたことない。そもそもビッグバンドという編成が定着したのは30年代後期、スウィング時代になってからだ。
ビッグバンドは管主体の(大きな編成の)ジャズバンドのことで、弦楽主体のポップス・オーケストラ、例えばポール・モーリアやカラベリ楽団などをビッグバンドとは呼ばない。デューク・エリントン楽団やカウント・ベイシー楽団の編成をみれば分かる。ビッグバンドに弦楽器群が加わる場合は、○○オーケストラ with ストリングス。追加オプションの扱いとなる。
和製と言わせたいのなら、琴、三味線、尺八、和太鼓などの和楽器を入れておきなさい。

次に、この演奏のどこが曲のアレンジがいいのか、分からない。
「ラプソディー・イン・ブルー」は、グレン・ミラー楽団がダンスバンド用に編曲したものや、デオダートのディスコ・ヴァージョンなど、いろんな演奏を聴いてきたが、こんなにひどいのは初めてこれがそんなに良いアレンジとは思えんかった。

作曲者自身がピアノ独奏した1924年の初演(と、その後の演奏会)で使用したのは、バンド用のスコアで、楽器編成は……独奏ピアノ、木管3(クラリネット、サックス、オーボエ等を適宜持ち替え)、トランペット2、トロンボーン2、チューバ、打楽器各種、バンジョー、チェレスタ、ヴァイオリン8。注意して欲しいのは、バンド版の弦楽器は、ヴァイオリンのみだってこと。
楽譜は出版されていない(初演バンド版の楽譜はワシントン国会図書館に所蔵されている)。ティルソン=トーマス指揮コロムビア・ジャズ・バンド(1976年録音/Columbia)の演奏は、この原典版を用いて話題になった。

ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー
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ガーシュイン:ラプソディー・イン・ブルー

マイケル・ティルソン=トーマス指揮
コロムビア・ジャズ・バンド

1. ラプソディー・イン・ブルー
2. パリのアメリカ人
3. セカンド・ラプソディ

Columbia 1976年 ステレオ録音

通常オーケストラが「ラプソディー・イン・ブルー」を演奏する場合は、ファーデ・グローフェが1942年に編曲した管弦楽版を用いる。
楽器編成は……独奏ピアノ、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン3、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、打楽器各種、バンジョー、チェレスタ、弦5部。
Sオケは弦5部主体のオーケストラだから、桜が持ってきた楽譜はこちらだと思う。

ガーシュウィン作品集
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ガーシュウィン作品集

アール・ワイルド(ピアノ独奏)
アーサー・フィードラー 指揮
ボストン・ポップス管弦楽団

01 ラプソディー・イン・ブルー
02 ピアノ協奏曲 ヘ調
03 パリのアメリカ人
04 アイ・ガット・リズム変奏曲

RCA/輸入盤 1959-61年 ステレオ録音

芸が細かいというが……たしかにものすごい量の細工が原曲に加えられている。どんなメロディを吹いているのか、よく分からなかったけど、管弦楽版のスコアに無いサックスまで演奏に入っているし。
冒頭の、印象的なクラリネットのグリッサンド。Sオケにはクラ奏者もいるのに、わざわざピアニカで演奏している。のだめマングースの活躍を見せたかったというのは分かるが、オリジナルの「ラプソディー・イン・ブルー」にはピアノが大活躍するパートはたくさん用意されている。見せ場は幾らでも作れたはずだ。魅力的な部分を削ってまでピアニカにやらせることではない。
コミックバンド用に、大河内がアレンジしたってことなら納得の許容範囲。しかし派手なステージ・パフォーマンス以外になんの取り柄もないポンコツなアレンジを、天才・千秋真一が誉めるのは絶対おかしい。
(実際の)編曲は服部さんだろうけど、千秋に「曲のアレンジがいい」なんて的外れな褒め方されて、どんな気分だったろう? 想像を絶しますですよ。

これらはすべて、原作どおりのストーリー、セリフだった……らしい。

そもそも「ラプソディー・イン・ブルー」が、シンフォニック・ジャズと呼ばれていること自体に大きな問題(原作者を混乱させた原因になったのかな?)があるのですが、それについて書いていると長くなるので、またの機会に……

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