クリスマスアルバム:きほんの基本編
December 20 2010
クリスマスにはクリスマス・ソングを聴こう。
なんてったって1年のうちでこの季節にしか聴けないし。いや、1年中聴いていてもいいんですが、おおっぴらにできないでしょ、季節感のない馬鹿だと思われるのも癪に障るし。だけどクリスマス・ソングの定番名曲であるメル・トーメの「クリスマス・ソング」(なんか変な感じ)は真夏に作曲されてることだし。
いいじゃん、いつ聴こうがおれの勝手じゃん。
そんなわけで急遽まとめ買いしたのよ、クリスマス・アルバムばかり、インターネットで8枚注文。
はたして24日のクリスマス・イヴまでに届くかどうか、ちょっとだけ心配なんだけど、そこはそれ、間に合わなきゃ正月だろうが節分だろうがお構いなしに聴く覚悟は出来てる。
なってったって無神論者だもの。へっちゃらさ〜。
今回はそのご報告なんですけど。
その前に、やっぱり基本は大事なわけで、手持ちのアルバムをズラッと並べておいたほうがいいんじゃないかと。
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ホワイト・クリスマス:ビング・クロスビーWhite Christmas: Bing Crosby 1. Silent Night |
「ホワイト・クリスマス」は、1942年のミュージカル映画『スイング・ホテル』のためにアーヴィング・バーリンが作詞作曲したクリスマス・ソングの金字塔。映画では主演のビング・クロスビーが歌っていましたが、これが第2次世界大戦で雪の降らない地域(ハワイとか)に出征していた兵隊さんに大ヒット。
更にパラマウント映画は、世界大戦終結後の1954年にヴィスタ・ヴィジョン第1作として、前回と同じビング・クロスビー主演の『ホワイト・クリスマス』を製作。映画のエンディングで歌われた「ホワイト・クリスマス」は第27回アカデミー主題歌賞を受賞。
こちらのレコードは、クロスビーにとっては2度目の録音となります。
発表当時は革新的でしたでしょうね。クリスマスといえば、教会で賛美歌が当たり前な時代でしたから。その後、宗教色のないクリスマス・ソングがぞくぞくと作られ、シーズンごとに街を賑やかに彩ることになります。宗教行事が商業主義の道具になるなんて、無神論者の私でさえも畏れ多くて思いつきませんですよ。しかも第2次世界大戦の最中に。アメリカ人の発想ってやっぱりスゴイです。
「バラエティ」誌によると「White Christmas」のレコードは、1965年12月時点で350種5千万枚売れていたそうで、クリスマス・ソングとしてだけでなく、ポピュラー・ミュージック史上最大のヒット・ナンバーと言えるでしょう。
なぜ1965年までの記録しかないのかというと、これがあまりにもバカ売れしたため、ビルボードチャートにクリスマス・ソングは加算しないというルールが出来たためだそうです。そのくらい凄かったんですよ、「ホワイト・クリスマス」って曲は。
一番人気はビング・クロスビーのDecca盤で、65年の時点で2千5百万枚! それから50年以上経た現在でも、クリスマス・シーズンが近づくとラジオから流れてくるのはやっぱりビング・クロスビーの甘い歌声。
「きよしこの夜」、「ジングル・ベル」、「サンタが街にやってくる」、「シルヴァー・ベルズ」、クリスマス・ソングの基本は、このアルバムで押さえておきましょう。
次は、映画『ホワイト・クリスマス』でビングと共演、ロージーの愛称で親しまれていたローズマリー・クルーニー(ジョージ・クルーニーの叔母さん)。
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クリスマス・ウィズ・ローズマリー・クルーニーChristmas With Rosemary Clooney 1. Rudolph the Red-Nosed Reindeer |
1951年の「家へおいでよ」が大ヒットしたローズマリー・クルーニーのクリスマス・ソング集。「赤鼻のトナカイ」、「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」、「ジングル・ベル」など定番曲を爽やかな色気ある声で歌ってます。
ロージーはビングとラジオ番組を持っていたせいか、レコードでの共演も多かったですね。「ホワイト・クリスマス」はもちろん、ふたりのデュオが聴けるアルバムがたくさん残されています。
いったん引退していたロージーですが、70年代の終わりごろコンコード・レーベルより新譜を矢継ぎ早にリリースして復活。堂々たる貫禄を身につけ、スタンダードソングを味わい深く聴かせてくれました。
そうそう、ビングとのデュオ・コンサートで来日する予定もありました。ところが直前の1977年10月にビングはスペインのゴルフ場で急死しちゃったものだから、日本公演は単独でステージにたち、彼との思い出をいろいろ語ってました。
そのロージーも、2002年6月に亡くなりました。
光陰矢の如し。
話題が懐古趣味になってきてますから、調子こいてもっと古い話をしちゃいましょう。
次は、こちらもビングとは深い付き合いのあったザ・アンドリュース・シスターズ。あの「素敵なあなた」の大ヒットで有名な、とびきりキュートな女声コーラス・グループです。
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アンドリュース・シスターズ:ソング・フォー・クリスマスThe Andrews Sisters: Songs for Christmas 1. Winter Wonderland |
「素敵なあなた」、「ラムとコカコーラ」、「ビヤ樽ポルカ」など、スウィング感が抜群なコーラス・グループ、ザ・アンドリュース・シスターズのクリスマス・ソング集。ビング・クロスビーやダニー・ケイとの共演も含む豪華盤。
ビングとの共演ナンバーは、上記ビング・クロスビーのデッカ盤と被っているものもありますが。それはさておき……アンドリュース・シスターズというと「素敵なあなた」一曲だけしか知らないって人は、ぜひ聴いてください。
むちゃくちゃ古い録音なので、彼女たちのレコードはほとんどパブリック・ドメイン。クリスマスソング集も、代表曲をまとめたベスト盤も、格安の輸入ディスクがたくさん出ています。たいていのディスクは 1000円でお釣りがきます。
めちゃくちゃ巧いです。急速フレーズも楽々とこなし、アクロバティックなハーモニーも絶妙。独特の粘っこい唱法がグルーヴィでイカしてます。昨今のへたくそ歌手の流行歌とはぜんぜん別世界。ポップスって、本当はこんなに良いものだったんだなーって、目からウロコ落ちますですよ。
ブギウギ調の曲が多いので、何枚も続けて聴いてるとすぐ飽きちゃいますけどね。
次は、「ホワイト・クリスマス」と肩を並べるクリスマスソングの東の横綱「ザ・クリスマス・ソング」。
ロバート・ウェルズとメル・トーメによって 1946年に書かれた、これまた宗教色のまったくないポップなクリスマス・ナンバー。1947年にナット・コールのレコードがリリースされると、たちまち冬の定番曲となりました。
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ナット・キング・コール:メリー・クリスマスNat King Cole: Merry Christmas 1. Christmas Song |
ピアノトリオを解散してポピュラー歌手に転身したナット・キング・コールのクリスマス企画アルバム。大ヒットを記録した「ザ・クリスマス・ソング」を含む、定番20曲収録のキャピトル盤。
ビングの「ホワイト・クリスマス」同様、解説不要の定番名盤。
個人的にはピアノ・トリオ時代のナット・コールのほうが颯爽として好き、というか、ポピュラー歌手のナット・コールはあまり聴きたくないのです。バックの女声コーラスとかストリングス・オーケストラのゴージャス演奏があまりにも陳腐だし、甘ったるい声がどうも苦手でね。
ピアノ・トリオ時代の、スマートでカッコいいナット・コールを知ってるだけに、有閑マダムに媚びたようなのは勘弁して欲しいのよ。
そこが良いって人のほうが多数なのだろうけどさ。
そこで、ヤクザなあの男の登場。
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フランク・シナトラ:ザ・クリスマス・コレクションFrank Sinatra: The Christmas Collection 1. Jingle Bells |
シナトラ絶好調のキャピトル時代に録音されたクリスマス・ソング集。バックに女声コーラスやストリングスを配したゴージャスな演奏。
げげっ、こっちにもコーラスとストリングスがたっぷり入ってるよ。
キャピトルって会社が、とういうより、当時のポピュラー業界のサウンド作りがそういう風潮だったんでしょうね。70年代のポップスがズンドコズンドコのディスコビート一辺倒だったように。
クリスマス・アルバムなんて、所詮、商業主義の産物。まともな評価よりも売れてなんぼの世界なんだから。
でもね、21世紀人の耳には、ストリングスの古めかしさだけはどうにもならんのよ。
シナトラは、アップテンポな曲は貫禄たっぷりに唄いまくってるんだけど、スローなナンバーでは伴奏にあわせて神妙な素振りを見せちゃったりしてるところが、なんとも。似合ってねよ、兄貴。
などとひとしきり嘆いたあとで、前言を平気でひっくり返しちゃうんだけど……女性ヴォーカルのバックにストリングス伴奏って良いもんですなあ。
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ザ・ドリス・デイ・クリスマス・アルバムThe Doris Day Christmas Album 1. Silver Bells |
ビッグバンド出身の女性シンガー、ドリス・デイがコロムビア時代に録音したクリスマス・ソング集。1964年リリースのオリジナル12曲に3曲を追加収録したデジタル・リマスター盤。
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クリスマス・ウィズ・ペギー・リーChristmas With Peggy Lee 1. I Like A Sleighride (Jingle Bells) |
ベニー・グッドマン楽団で粋なスウィングを聴かせてくれたペギー・リーが、キャピトル・レーベルに録音したクリスマス・ソング集。
ドリス・デイとペギー・リー、ふたりとも今ではジャズ・シンガーとは見られていないようですが、ドリスはレス・ブラウン楽団、ペギーは名門ベニー・グッドマン楽団と、スウィング・バンド出身なだけあってノリノリの歌いっぷりが魅力の歌手。上記ナット・コールよりも、うんとジャズっぽいシンガーです。
大ヒット「ケ・セラ・セラ」と名盤『ブラック・コーヒー』(Decca)の印象が強いからでしょうか、ドリスは陽性、ペギーは陰性のような先入観がありますが……さにあらず。
ドリスのクリスマス・アルバムはスロー・バラードでしっとりロマンティックな仕上がり。「レット・イット・スノー!」だっておもいっきりスローなテンポで情感たっぷりに歌っております。
対してペギー盤はノリノリ・テンポの快唱盤。子供たち相手に楽しくって仕様がない。自作の4曲も含め、ホリデー気分のウキウキが伝わってくる、ハッピーな仕上がり。
現時点でこの2枚がエンドレス・ヘビーローテーション。
もっと楽しい気分になりたいときは、こいつで決まりでしょう。
理屈抜きに楽しいクリスマス・アルバムの王様です。
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ルイ・アームストロング&フレンズ:クリスマス・コレクションLouis Armstrong & Friends: What A Wonderful Christmas 1. Christmas In New Orleans |
ルイ・アームストロングとその仲間たち(ダイナ・ワシントン、デューク・エリントン、メル・トーメ、ルイ・ジョーダン、ペギー・リー、ライオネル・ハンプトン、アーサー・キット、レナ・ホーン)が集まった、賑やかなクリスマス企画のオムニバス盤。
ダイナ・ワシントンの張りのある声で聴くダイナミックな「きよしこの夜」、メル・トーメの自作自演「ザ・クリスマス・ソング」、レナ・ホーンのジャズィな唱法がたまらん「サンタが街にやってくる」、アーサー・キット(TV版「バットマン」のキャット・ウーマンだよ)がロリロリに迫る「サンタ・ベイビー」、それに何と言っても、サッチモのダミ声で聴く「ホワイト・クリスマス」は最高! おまけに、あのデューク・エリントン楽団が「ジングル・ベル」ですぜ。全編聴きどころ満載の豪華なオムニバス。レコード史上最強、一家に1枚のクリスマス・アルバム決定盤。
と、まあ基本のアルバムが出揃ったところで、もう少し新しい録音も聴いてみましょうか。
次回は 80年代以降の、CD時代に入ってからの愛聴盤をご紹介します。