soe006 島田荘司 「切り裂きジャック・百年の孤独」

切り裂きジャック・百年の孤独 島田荘司

集英社 (1988)

切り裂きジャック・百年の孤独
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切り裂きジャック・百年の孤独
島田荘司

100年前の切り裂きジャック事件が現代に甦ったのか!?ベルリンを恐怖のどん底へ叩き込んだ娼婦連続猟奇殺人。切り刻まれた無惨な死体、捜査は難行をきわめた……。
世紀末最大の謎、「切り裂きジャック」事件が、100年の時の彼方から蘇り、そして完全解明される!

19世紀末、ロンドンで実際に起こった「切り裂きジャック」事件の謎に挑戦した推理小説です。
島田荘司は、おそらく『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』の執筆中、資料を漁っている過程でアイディアを掴んだのではないでしょうか。

同じ時代と場所(19世紀末のロンドン)を扱っていますが、『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』の対極に位置する作品。
こちらでは陰惨なスプラッター描写が生々しく書き込まれていて、前作の基調となっていた大らかなユーモアはあまり感じられません。元ネタが、実際に起こった酸鼻の極みといわれる連続猟奇殺人事件なので仕方のないことですが……『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』のユーモアを期待して読まれる方は吃驚仰天、目を剥かれることでしょう。
スプラッタが駄目な読者は、残酷描写を飛ばし読みするか、最初から読まないか……具体的に書くと、殺した女性の腹部を切り裂き、手掴みで臓物をズルズル引きずり出す行為が、まるで手に取るような感触で味わえる部分があります……気の弱い方、及びマジでそっちの性癖が潜在していそうな方は、取扱に注意が必要な1冊。

1988年・秋。西ベルリンで発生した残忍な手口の連続殺人事件。
被害者は全員が娼婦。頸動脈を一気に掻き切り、腹部を裂き、内蔵を手で引き出されている。犯人は、9月25日未明に3人を血祭りにあげ、警備の厳しい翌26日深夜、土砂降りの雨のなかで更に2人の娼婦を連続殺害。以降、犯行はピタリと止む。
手掛かりの少なさから難渋する捜査本部に、「切り裂きジャック研究家」と名乗る男から投書が舞い込む。

ストーリーは、このベルリンの連続猟奇事件と、百年前の1888年にロンドンで起った「切り裂きジャックの事件」を交互に章立てし、二つの事件の類似性から、驚愕の真相解明へと読者を導いてゆく構成になっています。

「切り裂きジャック研究家」を名乗る探偵の正体は、島田作品でお馴染みのあの人ですが、これは他愛のない内輪のお遊び(楽屋落ち)なので、興味のない人には「だからなに?」と思われる部分でしょう。
タイトルの「百年の孤独」も、ガルシア=マルケスの同名小説(内容はぜんぜん関係ない)からのイタダキでしょう。(小説のなかにも記述があります)
もう一つ長年の疑問なのが、何故か単行本のカバー装画がH・R・ギーガーの「ネクロノームIV(エイリアン)」。『エイリアン』には、グロテスク趣味と倒錯した性愛的な匂いもあるので、それが共通項と言えば言えそうですが……なんだか腑に落ちないところ。

さて、肝心の中身は……単純にして明快。
時空を異にする二人の犯人に共通する動機が、見事なアイディアで捏造されており、これ以外に「切り裂きジャック事件」の解釈はあり得ないと、吹聴してまわりたいくらい鮮やかな大法螺が披露されています。
ホームズ・パスティーシュと同様、「切り裂きジャック事件」研究本も星の数ほど出ていますが、これは最もアクロバティックな推理のひとつ。このような理由からだったら、短期間に街娼ばかりを連続殺害し臓物をひきずり出す犯人の行動も、合理的に納得できそうです。
現場に足を運ばずに事件を解決してしまう、いわゆる「安楽椅子探偵もの」は(状況証拠だけで推理するので)あまり好みではないのですが、島田荘司のパワァは圧倒的。「切り裂きジャック事件なんて知らないよ」という方にもお薦めできる、第一級の徹夜本。

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