soe006 Jazzの歴史 JASSとJAZZ

Jazzの発祥は20世紀初頭のニューオリンズ

March 29, 2003

Jazzの発祥は20世紀初頭のニューオリンズだと一般に言われてますが、その根拠となるエピソードをご紹介いたします。

1913年、地方を巡演しているシカゴの軽演劇一座が、ニューオリンズを訪れたときのこと。トム・ブラウンってトロンボーン吹きの兄さん(白人)が地元のミュージシャンを集めて一座の伴奏を務めることになりました。そのとき舞台に立っていたジョー・フレスコって芸人が、彼らの演奏する音楽をずいぶん気に入っちゃったらしい。
「お前さん方が演ってる音楽はとびきりだが、ありゃあ、いったい何ンて音楽だい」
「へへっ、旦那、こりゃジャズ・ミュージックって言うんでさ」
「なるへそ、ジャズって言うのかい」……しきりに感心するフレスコさん、このときトムの口元が意味ありげに笑っているのにはチョット気付かなんだようで……

シカゴに戻ったフレスコさんは、彼らの音楽をなにかに付けて吹聴しまくったそうです。

「おい、ニューオリンズって南部の田舎町にゃジャズ・ミュージックってぇとびきりの音楽があるんだぜ……あぁ、そうだよ、ジャズだよ、ジャズ……そりゃもう最高に粋で鯔背(いなせ)で、聴いてるうちに、こう、勝手に身体が浮かれちまうんだ……そうだよ、よっく憶えときな、ジャズってぇんだ」
それが新聞記事に取り上げられ、史上初めてジャズという言葉が活字となったらしいんですな。

このあたり、「……らしい」ばっかりですが、証拠物件が殆ど残っていないし、こうした伝説は後付で幾らでも脚色されてしまうのが世の常であります。
それに当時のニューオリンズはストリーヴィルって歓楽街を中心に売春宿がずら〜りと軒を並べ、ずいぶんと栄えていたわけで、田舎じゃありません。立派な都会でやんした。

新聞記事になったジャズ・ミュージックはたちまち巷で話題騒然、フレスコさんはトム・ブラウンとその仲間たち(全員白人)をシカゴに招聘して演奏会を開く。見物聴衆は初めて耳にするジャズ・ミュージックに話題沸騰、興奮の坩堝、感激感動の雨霰となった……らしい。
この異常な人気に目を付けたシカゴの大物興行師、セカンド泥鰌を狙って颯爽ニューオリンズへすっ飛んで、そこで見つけたのがジョニー・スミスとその仲間たち(全員白人)。

はるばるニューオリンズからやって来た田舎の楽士たち(<だから田舎ぢゃないって)、すったもんだの挙げ句の果てに、ニック・ラロッカって伊太利移民の子孫をリーダーに「オリジナル・デキシーランド・ジャズ・バンド」を結成。その演奏を1917年2月にレコーディングしちゃいました。これが歴史上初めてのジャズ・レコードとなりまして、ジャズは世界中に広まっていくことになります。

世界初吹き込みのジャズ・レコード、そのバンドリーダーは伊太利人だった……って、そんなもん知ってたからってオマンマ食べていけませんし、女の子にもモテません。
「アタシ、最近ジャズが好きになったんだけど、あまり知らないからいろいろ教えてくださいね」なんて阿呆な言葉を信じちゃいけません。
そんなセリフを鵜呑みにして2〜3時間も蘊蓄を語ろうものなら、「げッ、このオヤジ、じゃずおたくだ!」って変な目で見られてそれっきり。飯食わせて酒まで呑ませてやったのに、糞ッ!(って、なに憤慨してんだ?<……俺)

ところで、普段は格好つけて「Jazz」とか「Modern Jazz」とか横文字表記しているのに、今日に限って「ジャズ」、「デキシーランド・ジャズ」などとカタカナで書いているのには、理由があります。
賢明な方は憶えていらっしゃるでしょう。巡業先のニューオリンズで「ときにこの粋でお洒落な音楽は何ンてぇんだい?」と訊いたとフレスコさんに、トム・ブラウンが「旦那、こりゃジャズって音楽なんでさ」と意味ありげに口元を歪ませて応えたときのことを……

この「ジャズ」ってのは「Jass」って書きます。いったいどういう意味かと申しますと、ズバリ……「おまんこ」

ストリーヴィルが公認の赤線地帯だったってことは先に書いたとおりですが、「Jass」って言葉はこの特殊な場所で使われていた隠語、卑語、俗語の類であります。
これはトム・ブラウンがシカゴからやって来た芸人を、「こいつ都会から来たってオツにすましやがって、ひとつからかってやろうぢゃねえか」と、その場で捏造したわけじゃなくって、地元ニューオリンズで昔から使われていた言葉らしいんですな。当時は売春宿のことを「Jass House」と呼んでいたそうであります。

フレスコに招かれてシカゴへやって来たトム・ブラウンとその仲間たち、さぞかし面食らったでしょうな。
「おい、あれ演ってくれ、とびきり粋でお洒落で朗らかなおまんこ音楽」
「そうだそうだ、おまんこやってくれ、おまんこ
「あたし、おまんこ音楽大好き。おまんこ、シビレちゃう」

その「おまんこ」、もとい「Jass」がどのような経緯を経て現在流通している「Jazz」になったのかと申しますと、諸説入り乱れておりまして……
シカゴの音楽は洗練されていてニューオリンズとはひと味違うのだ、シカゴのジャズは「Jass」ではなく「Jazz」なのだと、商品の差別化を図ったという説。万人に好まれている音楽が「おまんこ音楽」ではあんまりだからってんで綴りを変えちまったって説。他にもいろいろございまして、どれがホントか、今となっては藪の中なのであります。

オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド
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オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンド
Original Dixieland Jazz Band

(Avid)
世界初のジャズ録音「Livery Stable Blues リヴァリー・ステイブル・ブルース」(1917年2月録音)収録。

売春と歌舞音曲の結び付きは洋の東西を問わないようで、我が国でも元禄文化華やかりし頃、吉原や祇園で、義太夫、常磐津、清元、長唄、小唄などの邦楽が完成されていったのであります。そうした歴史的事実からも本物の文化というものは、やはりオトナの娯楽の中から生まれてくるのではないか、と思ったりもしてみるのです。

なにが言いたいのかと申しますと……
子供に媚びた娯楽ばかりが蔓延っている昨今の風潮を寂しく思っているのであります。
ガキが喜ぶようなものばかりがもてはやされている21世紀の文化が気に入らないのであります。
シネコンに行ってもアニメと特撮ばかりで、オトナの客が観たくなるような作品が上映されていない現状を嘆いているのであります。<春休みだから仕方ないか?

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