soe006 サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン」

サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調「オルガン付き」

September 19, 2007

2007年春、完璧にハマってしまったカミーユ・サン=サーンスの連載も、いよいよクライマックス。今回採りあげるのは、1886年に作曲された、交響曲第3番 ハ短調「オルガン」(op.78)。
リチャード・ドナー製作、ジョージ・ミラー監督の映画『ベイブ』(自分を牧羊犬と勘違いした子豚の奮闘物語)のテーマ曲として記憶されている映画音楽愛好家の方もいらっしゃるでしょう。

「のだめカンタービレ」でにわかクラシック・ファンになった私を、サン=サーンスの世界に誘惑しちゃったグラモフォン・パノラマ・シリーズには、バレンボイム指揮シカゴ交響楽団(オルガン:ガストン・リテーズ)の演奏が収録されていました。

サン=サーンス作品集 DGパノラマ・シリーズ
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サン=サーンス作品集 DGパノラマ・シリーズ

1. 交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付き」
2. ピアノ協奏曲第2番ト短調op.22
3. 交響詩「死の舞踏」op.40
4. 組曲「動物の謝肉祭」
5. ハバネラop.83
6. 序奏とロンド・カプリチオーソop.28
7. 「サムソンとデリラ」 バッカナール
8. 「サムソンとデリラ」 あなたの声に心も開く
9. 交響詩「オンファールの糸車」op.31

Deutsche Grammophon (2枚組)

アルゼンチン出身のダニエル・バレンボイムは、(超個人的に)信頼のおける数少ない現役指揮者(&ピアニスト)の一人。
1942年、ブエノスアイレス生まれ。両親ともにピアニストという恵まれた音楽家庭に育ち、彼が10歳のときに、家族(ユダヤ系)は建国間もないイスラエルに移住。アメリカ・イスラエル文化財団の庇護を受け、ヨーロッパでピアノと指揮を学ぶ。この修業時代に、最晩年のフルトヴェングラーと出会い、強い影響を受けた……というのは事実で、その証拠に1971年録音のチャイコフスキー「交響曲第4番」はフルヴェンの演奏にそっくり。しかし、10代前半にフルヴェンと共演していたというのは……フルトヴェングラーの全公演記録にそれと思われる記述がないことから……どうも眉唾らしいです。
最初はピアニストとして活躍していましたが、1966年ごろからイギリス室内管弦楽団やイスラエル・フィルの指揮台に立つようになり、1975年(32歳のとき)にフランス・オケの最高峰、パリ管弦楽団の音楽監督に就任。
このCDに収録されているサン=サーンスの第3番は、その1975年6月の録音。しかもオーケストラは、アメリカ・ナンバーワンの最強軍団と呼ばれていたシカゴ交響楽団。これはもう破竹の勢いで敵陣に攻め入る徳川家康と三河の赤武者軍団、若さゆえの勢いとパワーでグイグイ押してくる熱演(爆演系)になっております。
サン=サーンスは、ドイツの古典音楽に強い影響を受けているとは言え、生粋のフランス人作曲家。これまで紹介してきたピアノ協奏曲やヴァイオリン作品には、パリジャンらしい洒落た雰囲気(これをエスプリと呼ぶ?)も随所に感じられました。しかしバレンボイム&シカゴ響の演奏には、そんな洒落たものまったく感じられない。まるでハリウッド映画音楽のように派手でダイナミック。アナログ録音ながら音質も優秀で、特に第2楽章の後半冒頭、圧倒的パワーのオルガン強奏の直後に出てくる4手ピアノは、このあとズラリ並べる推薦ディスクのなかでも随一のキラキラ感。終盤の盛り上がりも迫力満点。幸か不幸か、俺はこの演奏(爆演系)に惚れました。

バレンボイム&シカゴ交響楽団のオリジナル盤は、最近1000円廉価盤でもリリースされました。オマケに付いている、パリ管弦楽団との管弦楽曲3曲のうち、「バッカナール」と「死の舞踏」は、上記パノラマ・シリーズに収録されている演奏と同じ音源です。

サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
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サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調「オルガン」

ダニエル・バレンボイム指揮
ガストン・リテーズ(オルガン)(1)
シカゴ交響楽団 (1)
パリ管弦楽団 (2,3,4)

1. 交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
2. 歌劇「サムソンとデリラ」 バッカナール
3. オラトリオ「ノアの洪水」 前奏曲
4. 交響詩「死の舞踏」

1975年6月 ステレオ録音 (1)
1978〜80年 ステレオ録音 (2,3,4)
Deutsche Grammophon

サン=サーンスは、1871年に初めてロンドンを訪れ、アルバート・ホールでオルガンのリサイタルを開きました。これが好評で、彼の名前は英国でも知られるようになり、ロンドンのフィルハーモニック協会は作曲を依頼します。

「この曲には私が注ぎ込める全てのものを注ぎ込んだ」

(カミーユ・サン=サーンス)

作曲家自身が明言しているとおり、第3番は、オルガニスト、ピアニスト、作曲家、音楽学者としてのサン=サーンスのすべてが詰め込まれた、自叙伝とも呼べる交響曲になっています。
初演は1886年5月19日、ロンドンのフィルハーモニック協会の演奏会にて。指揮は作曲者自身。
楽譜出版の際、彼の良き理解者だったフランツ・リスト(娘婿ワーグナーの公演を観に行ったバイロイトにて、1886年7月31日に死去)に献辞を捧げています。

楽器編成は……フルート3(3はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、イングリッシュ・ホルン、クラリネット2、バス・クラリネット、ファゴット2、コントラファゴット、ホルン4、トランペット3、トロンボーン3、チューバ、ティンパニ、トライアングル、シンバル、大太鼓、オルガン、ピアノ(奏者2)、弦5部。
奏者2人のピアノは、2台ピアノではなく、連弾で演奏されることが多いそうです。
演奏時間は、約35分。

この交響曲には、幾つかの個性的な特徴があります。
まず第1に、「オルガン付き」とニックネーム(標題ではありません)にあるように、楽器編成にオルガンが加えられていること。しかし協奏曲での独奏楽器のような、楽曲全体の流れを牽引するものではなく、オーケストラの一部として機能させていて、第1楽章後半(4楽章形式なら第2楽章にあたる緩徐楽章)と第2楽章後半(同様に第4楽章)でしか用いられていません。
また奏者2人(4手)のピアノもオルガン同様の扱いで、第2楽章でしか使われていません。但し、その使われ方はとても効果的で強く印象に残ります。
第2に、内容的に全4楽章の交響曲でありながら、第1楽章と第2楽章、第3楽章と第4楽章を1つにつないだ、2楽章形式の交響曲として構成されていること。これは次に述べる第3の特徴と密接に関係します。
第3に、循環主題を(巧妙に)用いた形式で書かれていること。循環主題とは、従来の交響曲(または協奏曲)の主題(メロディ)が個々の楽章のみで使用されていたのに対し、楽章を跨いで、楽曲全体に用いられる主題(メロディ)のこと。(←なにしろ「のだめカンタービレ」の影響でクラシック音楽を聴くようになった奴の説明ですので、簡単かつ曖昧、しかも間違っている可能性大)

循環主題法(または循環形式とも呼ばれている)を用いた交響曲としては、セザール・フランクのニ短調交響曲も有名ですが、こちらは初演が1889年2月17日で、サン=サーンスのずっと後。しかし作曲が始められたのは1885〜1886年だったらしく、当時はどっちが先だ、どっちが真似した論争が起こったそうです。
サン=サーンスは、1875年のピアノ協奏曲第4番でも循環主題を用いていたし、それ以前の協奏曲でも循環形式らしき手法が使われた例はあります。ところが、フランクも1841年のピアノ三重奏曲(私は未聴)で既にこの形式を用いていたとのことで、循環形式の発案者論争の火はいまだ燻ったままとのこと。

しかしですね……(ここからは「のだめカンタービレ」の影響でクラシック音楽を聴くようになった奴の戯言)
主題(メロディ)が楽章を跨って使用されている交響曲は、エクトール・ベルリオーズの「幻想交響曲」(1830年)という前例もあるわけだし、更に遡ってベートーヴェンの第5番だってそうだったじゃないの?
……みたいな感じなんですよ。
こういう有名どころでなくても、いろんな作曲家がいろんなところで、同じような試みは、同時多発的にやっていたんじゃないのかな?
循環主題がベルリオーズの固定楽想と何が違うのかも、よく分からない。他にもワーグナーの示導動機とか。呼び名が違ってるだけなんじゃねーの、とか思うんですよ。「選挙公約」が「マニフェスト」とかって(年寄りの耳に馴染まない)単語に置き換えられたみたいに。やってることは同じでも、聞き慣れない言葉が使われると、新鮮に感じられるんですよね。
いや、やっぱりワーグナーの示導動機(ライト・モチーフ)は、ちょっと違うかな。

サン=サーンスもフランクも、同じような時期に同じような場所で、似たようなことを考えていた、ってことでいいんじゃないの?
フランクもドイツの古典音楽に傾倒し、娯楽(オペラ)の流行を拒否することから始まったフランス国民音楽協会(副会長はサン=サーンス)のメンバーだったし、優れたオルガニストであり、教育者でもあったし、共通点の多い作曲家だったのだから。
結果として残された作品は、サン=サーンスの第3番も、フランクのニ短調交響曲も、フランス音楽史に残る名作であることに変わりないです。

サン=サーンスの交響曲第3番 ハ短調は、全2楽章で構成されています。第1楽章の前半が通常の第1楽章、後半が第2楽章、第2楽章の前半が第3楽章、後半が第4楽章の役割を担っている、ってことは先に書きましたが……第1楽章は、アダージョ/アレグロ・モデラート/ポコ・アダージョ、第2楽章はアレグロ・モデラート/プレスト/マエストーソ/アレグロ、と、テンポが分割されています。
それぞれに表情が異なるそれらを、件の循環主題で統一された作品にまとめあげてゆくのが最大の特徴ですね。

ほとんどのCDは、第1楽章・前半/後半/第2楽章・前半/後半の、4つのトラックで全体を区切ってありますが、オーマンディ指揮フィラデルフィア管弦楽団(1962年録音)のCBS盤は、スコアで指定されているテンポ毎にトラックを切ってあるので、これを聴きながら楽曲の構成を解説してみますメモっておきますね。

サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
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サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調「オルガン」

ユージン・オーマンディ指揮
エドワード・パワー・ビックス(オルガン)(1)
フィラデルフィア管弦楽団

1. 交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
2. 歌劇「サムソンとデリラ」より、バッカナール
3. 「アルジェリア組曲」より、フランス軍隊行進曲

1962年10月(1)、1964年3月(2)、1966年12月(3)
CBS/Columbia

第1楽章−アダージョ
ゆったりと奏でられる11小節の序奏。弦と木管、2つの短い旋律によって作られていますが、ここはとても重要です。弦楽器のほうも木管のほうも、どちらも循環動機。あとでガンガン出てきます。

第1楽章−アレグロ・モデラート
自由なソナタ形式、と解説書に書かれています。
最初に、古典聖歌の「怒りの日 ディエス・イレ」を元ネタにしたハ短調の第1主題が、ヴァイオリンでザワザワと演奏されます。このメロディの尻尾の部分に、先ほどの序奏で弦楽器が奏でた循環動機が、クラリネットでくっ付いてます。次のイングリッシュ・ホルンで演奏される旋律も、あとで何度も出てくる循環主題ですが、これは第2主題ではなく、変ニ長調に転調して出てくる旋律が第2主題になるそうです……読んでいてよく分からないと思いますが、説明するのがとても面倒なんです。古典的な、第1主題と第2主題が提示されて、展開されて、再現されて、みたいなソナタ形式ではあるのですが、その隙間に1小節〜数小節の循環動機がちょこまか織り込まれていて……で、細かい説明は放棄して、以下は印象のみ書きます。
この部分は、全曲聴いたあとで、もう一度聴き直すといろいろ発見できて面白いかも知れません。まるで伏線を張り巡らされたミステリー小説みたいな楽章です。

第1楽章−ポコ・アダージョ
オルガンが登場する、三部形式の緩徐楽章。変ニ長調です。
ヴァイオリン協奏曲第3番の緩徐楽章のような牧歌的な雰囲気のメロディですが、背景にオルガンの和声があるので神々しく敬虔な気分になります。とっても気持ちよい気分にさせてくれる楽章です。
実演で、このオルガンに包まれたなら、絶対に眠っちゃいますね。マーラーの交響曲第5番「アダージェット」が好きな人はぜひ聴いてみてください。きっとお気に召すと思いますです。
中間部で、前に提示されていた循環主題が、ピチカートで不気味に忍び寄るところは、虎視眈々と獲物を狙うストーカー風? オルガンが出てきて変ニ長調にもどり、不審な影は消えますが、このあと絶対に何かが起こると予感させる展開です。

第2楽章−アレグロ・モデラート
ほらね、やっぱり! と思わず身を乗り出したくなる、8分の6拍子のサスペンス調。主調のハ短調が復活、これは循環主題が展開されたものですね。
このあたりになると、循環主題がいろいろに変化されていて、それが更に新しい循環主題と結合したりして物語(ミステリー)が複雑に絡み合っている状態です。

第2楽章−プレスト
この部分は、変イ長調のスケルツォ。先のアダージョ旋律も変化させて、織り込んであります。
合わせるのが超難しそうな入り方で、ピアノが登場。主旋律を弾くのではなく、あくまでオケのなかの一つの楽器としての扱いですが、ピアノならではの使われ方。
アレグロ・モデラートのサスペンス調が戻ってきていよいよクライマックスに突入か? ヒーロー登場を予感させつつ、静かに終わります。

第2楽章−マエストーソ
ついに来ました、この時が! オルガンがハ長調の和音を最大音量で響かせ、荘厳な主題が低域弦で堂々と姿を現します。そのあとコラール風にうたわれる弦楽器のメロディが、この交響曲の本当の正体だったんですね。4手のピアノがきらびやかに飾ります。弦楽器のハ長調主題にオルガンも加わり、金管のファンファーレも高らかに響きます。

第2楽章−アレグロ
ここは、舞台でいうところのカーテンコール。登場した役者たち(主題)が次々と出てきて客席にご挨拶。悪役だった人も(短調だった旋律も)、役を離れてのご挨拶だから(長調に転調されて)素の笑顔。
舞台に全員がズラリ並んだところでグランドフィナーレ。オルガン大音量、金管は吠えまくり、ティンパニ大はしゃぎ。

あぁ、またやっちまった……今度こそ真面目に解説しようと図書館から資料も借りてきたのに。最後は(いつも)こうなってしまう。
ごめんなさい。

以上のように第3番は、大仕掛けでカラフル、オーディオ効果抜群な交響曲でありまして、ステレオ初期のころ(50年代後半)より、レコード会社はレーベルの目玉商品として録音リリース。
21世紀の今日でも再発が繰り返されている、(超個人的に定番御三家と呼んでいる)3枚の名盤も、1956〜61年に録音されたレコードであります。

御三家のトップバッターは、ジャケットにもそのものズバリ、「ステレオ・スペキュタラー」と書かれている、ミュンシュ指揮ボストン交響楽団のRCA盤。

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」
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サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」

シャルル・ミュンシュ指揮
ボストン交響楽団
ベルイ・ザムコヒアン(オルガン) 1
ダヴィッド・オイストラフ(ヴァイオリン) 3

1. 交響曲第3番ハ短調「オルガン付き」
2. 交響詩「オンファールの糸車」
3. 序奏とロンド・カプリチオーソ

1956年4月(1) 1957年11月(2) ステレオ録音
1955年12月 モノラル録音(3)
RCA

シャルル・ミュンシュは、アルザス州シュトラースブルグの生まれ。現在はフランス領土ですが、ミュンシュが生まれた1891年当時はフランスと国境紛争を繰り返していた土地で、ミュンシュは、第1次世界大戦ではドイツ軍兵士としてフランスと戦い、フランスがドイツに占領された第2次世界大戦中は、対独レジスタンスとしてナチスに抵抗。
もともとはヴァイオリニスト出身で、パリ音楽院に学び、1926年にライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の首席奏者に就任。この楽団の当時の主席指揮者がフルトヴェングラーで、ミュンシュは、フルヴェンとその後任のブルーノ・ワルターから指揮法を伝授されております。
明晰で整然としたアンサンブルは、竹を割ったように歯切れが良く、ハイテンションでダイナミック、色彩感のあるサウンドが特徴。

ミュンシュの演奏を聴いていて、いつも思い浮かべるのは、むかし黒澤明が出演していた洋酒のCM、「天使のように大胆で、悪魔のように繊細」というコピー。
50年代に製作された超大作映画のような、スケールの大きさと風格。これが税込み1050円で買えることの幸せ。
RCAの録音は、現代人の耳には荒っぽく聞こえるかも知れませんが、これが良いのです。これが迫力なのです。音質が気になる人は(割高になるけど)SACDやXRCDといった優秀リマスター盤もでているので、そちらをお求めください。

御三家の二番手は、ダイナミックな優秀録音を売り物にしていたマーキュリー・レーベルから、ポール・パレー指揮デトロイト交響楽団の演奏。

サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲
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サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲

ポール・パレー指揮 デトロイト交響楽団
マルセル・デュプレ(オルガン)(1)

1. 交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
2. フランク:交響曲 ニ短調

1957年10月(1) 1959年11月(2) ステレオ録音
Mercury

パレー&デトロイト響のマーキュリー盤は、70年代アナログLPの時代から廉価盤の定番商品で、このレコードもたびたび再発されております。幾度となく店頭で見かけてはいたのですが、購入して聴くのはこれが初めて。
いやー、吃驚しました! 素晴らしい演奏です。
今回のサン=サーンス騒動、最大の収穫はパレー&デトロイト響と出会えたことかも。

ポール・パレーは、1886年5月24日、ノルマンディ海岸の港町ル・トレポールに生まれています。私はこの経歴を見ただけでもう、パレーという指揮者が断然気に入ってしまいました。なんと言ってもノルマンディは「史上最大の作戦」の舞台ですからね!(←それはパレーが生まれたずっと後の出来事)。父親は教会のオルガニストで、アマチュア・オーケストラの指揮者。パレー少年はこのアマ・オケでパーカッションを担当していたそうです。
パリ音楽院で作曲を学び、ローマ大賞を受賞。イタリアに留学しますが、第1次世界大戦でフランス軍に従軍し、1914年に捕虜としてダルムシュタット収容所に送致されます。先のミュンシュもそうでしたが、この時代の人はみなさん従軍体験されてますね。だから音楽が雄々しく逞しいのかなぁ。
終戦後は、カジノ・デ・コトレー楽団の楽長に就任。この頃から作曲活動と平行して指揮台にも立つようになり、ラムルー管弦楽団、コンセール・コロンヌ管弦楽団、モンテカルロ国立管弦楽団の指揮者を歴任。1952年から62年まで、デトロイト交響楽団の音楽監督を務め、同楽団の黄金時代を築きました。

デトロイトと言えば鋼鉄の街。強いです。それに頑丈です。
第2楽章アレグロ・モデラートの、キビキビした管弦楽の動き。これはスポーツです! 第2楽章アレグロのフガート部は、ノルマンディ上陸作戦開始!……みたいな、猛々しく勇壮な響きでカッコイイ! それにオケが抜群に巧いです。
いままで知らなかった不勉強を大いに反省。同じ廉価盤シリーズで出ているパレー&デトロイトの「ドビュッシー集」と「ラヴェル集」も、近日中に購入決定。

サン=サーンスの特徴のひとつに、音符を微細にズラす、というのがあります。第3番に限らず、これまでの作品でも頻繁にやっていたことですが……例えば、タ、タ、タ、タ、と第1ヴァイオリンで演奏される旋律に、拍をズラすというほど大袈裟で出なく、チョッピリ出遅れた感じでタ、タ、タ、タ、と第2ヴァイオリンがやる。するとタァタ、タァタ、タァタ、タァタと……文字じゃ分かりづらいですが、リバーヴ(エコー)がかかったような効果が出てきます。これは音楽用語で何と呼ぶの?
(分からないので、以下、リバーヴ効果ということで……)
パレー&デトロイト響の演奏は、両翼配置(第1ヴァイオリンと第2ヴァイオリンが左右に分かれている)で録音されているので、第1楽章アレグロ・モデラートの第1主題(「怒りの日」もどきのザワザワした旋律)を、立体的なリバーヴ効果で楽しめます。

このリバーヴ効果が最大に活かされているのが、第2楽章マエストーソで、ヴァイオリンが弱音で奏でる旋律を4手のピアノが分散和音で修飾する箇所。まるで電子楽器でサンプリングしたような、キラキラした音色に聞こえます。しかもオケ全体をオルガンの重低音が包み込み、SFチックな空間が演出されています。120年前(明治維新の真っ最中)にこんな近未来サウンドがあったなんて。凄いじゃありませんか。

定番御三家の3番手は、こちらも優秀なアナログ・ステレオ録音で数々のド迫力盤をリリースしていた英国デッカから、アンセルメ指揮スイス・ロマンド管弦楽団。

サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲
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サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲

エルネスト・アンセルメ指揮
スイス・ロマンド管弦楽団
ピエール・スゴン(オルガン)(1)

1. 交響曲第3番 ハ短調「オルガン」
2. フランク:交響曲 ニ短調

1961年3月(1) 1962年5月(2) ステレオ録音
Decca

全体的にゆったりとしたテンポ。第2楽章のアレグロは、ミュンシュ&ボストン響より1分も長い(アンセルメ:8分43秒、ミュンシュ:7分38秒、パレー:8分15秒)。リズムの刻みがバカに丁寧で、他のディスクでは聞き流していた、各々の楽器の音が明瞭に聞き取れます。4手ピアノのキラキラもハッキリくっきり。極めて楷書的な演奏と言えるでしょう。弦の動きにバレエ音楽っぽい(ドラマチックな)ニュアンスが出るのは、スイス・ロマンド管なればこそ。
オルガンの量感は、定番御三家のなかでもっともスケールが大きい。第1楽章ポコ・アダージョでは、大聖堂のオルガン・サウンドを体感できます(大聖堂に行ったことないけど、多分こんな感じだと思う)。
さすがデッカ録音ですね。

ステレオ初期の録音に、決定的な定番御三家が出揃ってしまったものの、サン=サーンスの第3番はスペキュタラー・サウンドの代名詞みたいな交響曲ですので、デジタル録音盤も聴いておきましょう。
但し、これまでの経験から、このタイプのシンフォニック・サウンドのデジタル録音盤って、あまり好みじゃないんですね、個人的に。
オーディオ・システムが貧弱、なおかつ部屋の造りが音響再生に向いていないせいでもあるのですが、大音量でガンガン鳴らす楽曲は、50〜60年代の骨太なアナログ録音のほうが聴いていて気分がいい。

名盤ガイド書やインターネット上で一番人気だったのが、1982年にデジタル録音されたシャルル・デュトワ&モントリオール交響楽団。
ありとあらゆるところでベタ褒めされてます。
1000円以上の国内盤は買わない主義の私ですが、一番人気じゃ仕様がないです。3度の食事を2回に削って購入いたしました。

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」
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サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」

ピーター・ハーフォード(オルガン)
シャルル・デュトワ指揮モントリオール交響楽団
1982年6月 デジタル録音

交響詩「死の舞踏」
シャルル・デュトワ指揮フィルハーモニア管弦楽団
1980年6月 ステレオ録音

組曲「動物の謝肉祭」
パスカル・ロジェ、クリスティーナ・オルティス(ピアノ)
シャルル・デュトワ指揮ロンドン・シンフォニエッタ
1980年3月 デジタル録音

Decca

一番人気なのも納得。デリケートな曲の解釈、演奏、録音、すべて優秀。それ以外になんの取り柄もないディスクですが、1枚だけ買うのなら、これが良いでしょう。万人向け推薦盤。
デュトワは達者ではあるけれど、巨匠にはなれないタイプの指揮者ですね。
前にも書きましたが、カップリングの「動物の謝肉祭」には期待しないでください。これはあくまでもオマケです。

最後に本場フランスの録音を1枚。
これまで何枚も聴いてきて、本場オケのディスクが1枚もなかったのは、私がスペクタクル嗜好の演奏ばかり(無意識に)選んでしまった結果でしょう。指揮者がフランス人とか、楽団がフランス語圏とかはありましたが、指揮者とオケの両方が本場ものは、これが初めて。
ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団による、1970年の録音です。

サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲
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サン=サーンス:交響曲第3番/フランク:交響曲

ジャン・マルティノン指揮
マリー=クレール・アラン(オルガン)(1)
フランス国立放送管弦楽団

1. 交響曲第3番 ハ短調「オルガン付き」
2. フランク:交響曲 ニ短調

1970年(1) 1968年(2) ステレオ録音 Erato

たぶんレーベル(エラート)の個性というのもあるのでしょうが、これまで聴いてきたスペクタクル志向の演奏と比較すると、若干おとなしい演奏&録音です。
但し、緩徐楽章で恍惚としたいのなら断然こちらのマルティノン盤で、叙情性豊かな、自然体の美しさにうっとり。アメリカ人はガサツで、フランス人はデリケートかつロマンチスト……そんな偏見が植え付けられそうなくらい、ボストン響やデトロイト響とは、演奏のスタンスが異なっています。
両方の長所を兼ね備えた演奏盤はないものか?
そんな都合の良いことを考えていたら……

ありました。
同じ指揮者、同じ楽団による、1975年録音のEMI盤です。

サン=サーンス:交響曲全集
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サン=サーンス:交響曲全集

ジャン・マルティノン指揮
フランス国立管弦楽団
ベルナール・ガボティ(オルガン)(4)

1. 交響曲イ長調
2. 交響曲第1番変ホ長調op.2
3. 交響曲第2番イ短調op.55
4. 交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付」
5. 交響曲ヘ長調「ローマ」

1972-75年 ステレオ録音 EMI(2枚組)

ジャン・マルティノンは、1910年、東フランス・ローヌの都市リヨン生まれ。パリ音楽院でヴァイオリンを学びながら、ヴァンサン・ダンディ、アルベール・ルーセルに作曲、シャルル・ミュンシュとデゾルミエールに指揮を師事。弦楽四重奏曲、交響曲第4番「至高」などの作品を発表。第2次世界大戦後は、指揮者としての活動がメインとなり、パリ音楽院管弦楽団、コンセルト・ラムルー管弦楽団、イスラエル・フィルなどの主席指揮者を歴任したのち、1963年より69年までシカゴ交響楽団の音楽監督を務め、1968年、フランス国立放送管弦楽団の音楽監督に就任。
EMIに録音したドビュッシーの管弦楽集は名盤の定番。サン=サーンスの交響曲全集を75年に完成させ、翌1976年に66歳で死去。
指揮の師匠がミュンシュだったってことは、いまこれを書いていて初めて知りました。そういえばラヴェルの管弦楽作品集(パリ管弦楽団/EMI)も、溌剌としてましたものね。陽性な音作りは師匠譲りでしょう。

サン=サーンスは、(現在分かっているものだけですが)生涯に5つの交響曲を書いています。
最初の交響曲は、1850年ごろに書かれたイ長調の交響曲(作品番号なし)。第1番変ホ長調(op.2)は1853年(もしかしたら1855年)。このあとヘ長調の「ローマ」(作品番号なし)をたぶん1858年ごろに、第2番イ短調(op.55)を1859年(あるいは1878年ごろ)にそれぞれ作曲しています。
たぶんとか、あるいはとか、もしかしたらばかりですが、作品番号なしのイ長調交響曲は16歳、第1番は17歳の作品と解説している本もあって、このあたりは曖昧模糊としています。
150年前の話なので仕方ないです。
この他に、変ロ長調とニ長調の未完になっている2つの交響曲もあるそうです。

サン=サーンスのヴァイオリン協奏曲といえば第3番だったように、交響曲も第3番以外が演奏される機会はほとんどありません。レコード(CD)だってほとんどありません。
そんな状況のなか、未完の作品を除く5つの交響曲が、マルティノンの指揮で全集としてまとめられたのは快挙といえるでしょう。作品番号のないイ長調の交響曲とヘ長調の「ローマ」は、これが世界初録音とのことで、資料としても貴重なディスクです。

この全集に収録された5つの交響曲を聴いた感想は……ヴァイオリン協奏曲のときと同様……なぜ第3番だけが突出して演奏機会が多いのか、はっきり分かりました。
未完の作品を含め、第3番以外の交響曲が書かれた時期は、サン=サーンスがローマ大賞に応募していた(そして落選していた)時期と重なっているんですね(第1回目の応募が1852年、再度の応募が1864年)。(初演の記録が残っているものもありますが)これらは習作として書かれた作品じゃないんでしょうか。

正直言って、どれもそんなに悪くないがこれといって(第3番ほど)特色もない。例えば、作品番号なしのイ長調交響曲の第1楽章は、ロマン派の時代に書かれたモーツァルトです。
決して悪くはないんです。サン=サーンスらしいメロディもたっぷりあるし。例えば第1番の第3楽章(アダージョ)なんかはとてもチャーミングですし。
でも強烈な特徴を持った第3番と比べたら、個性に乏しい。サン=サーンスである必然性がないんですね。矛盾した書き方してますけど、素直な気持ち。こういった作品ばかり量産されるようになったから、ロマン派の時代に、交響曲は聴衆に飽きられたんじゃないかな、って。
逆に言えば、それだけ第3番が傑出した作品ってことになりますけど。第3番以外の曲も、あと30年早く発表されていたなら、メンデルスゾーンの交響曲と同じくらいには評価されていたと思います。

マルティノンは、世に知られていない作品も手抜きなく、実に真摯な態度で演奏に臨んでいます。全集の録音がマルティノンでほんとうに良かった。この演奏なら後世に残す意義が感じられます。もし通り一遍の作品紹介で終わっていたら、サン=サーンスが可哀相ですもの。

さて、お目当ての第3番です……
同じオケ(フランス国立放送管弦楽団は1975年にフランス国立管弦楽団と改名)で、録音時期も近いし、基本的にエラート盤と同じタイプの演奏ですが、録音はこちら(EMI盤)のほうがメリハリが強くエネルギッシュ。第1楽章アレグロ・モデラートのザワザワ感も良好。ティンパニの響きも凄い。第1楽章ポコ・アダージョの弦の旋律は絶品です。
2枚組で、同時収録された他の交響曲は馴染みのないものばかりですが、買って損はありません。

私が購入したのは、こちらのフランス盤。
内容は上記国内盤とおなじです。

サン=サーンス:交響曲全集
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サン=サーンス:交響曲全集

ジャン・マルティノン指揮
フランス国立管弦楽団
ベルナール・ガボティ(オルガン)(4)

1. 交響曲イ長調
2. 交響曲第1番変ホ長調op.2
3. 交響曲第2番イ短調op.55
4. 交響曲第3番ハ短調op.78「オルガン付」
5. 交響曲ヘ長調「ローマ」

1972-75年 ステレオ録音
EMI Rouge Et Noir(2枚組)輸入盤

以上が、今年の春(4〜5月)に購入したサン=サーンスのディスクであります。
交響曲第3番はまだまだ聴いてみたいディスクがありまして……メータ指揮ロス・フィル(Decca)、プラッソン指揮トゥールーズ・カピトール国立管弦楽団(EMI)、オーマンディ指揮フィラデルフィア(1973年録音/RCA)、カラヤン指揮ベルリン・フィル(DG)、レヴァイン指揮ベルリン・フィル(DG)など、今後購入予定。

ところで……
今回、サン=サーンスの交響曲第3番の聴き比べをやって知ったのは……サン=サーンスはセザール・フランクと仲が良かった……というのは大嘘で、実際は循環形式発案者論争で敵対していたらしいのですが、それはさておき……サン=サーンスの第3番はフランクのニ短調交響曲とカップリングされたCDが多かったですね。
同時代に活躍していたフランスの作曲家で、どちらも循環形式を使った交響曲だし、カップリングしやすいんでしょう……ということで、次回は番外編第2弾、フランクのニ短調交響曲について書きます。

本日も最後までおつきあいいただき、ありがとうございました。
(こんな長文、最後まで読んでいる人っていらっしゃるのかしら?)

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