性の問題について悩んでいる中年男
July 31, 2003
「気まぐれJazzスクラップブック」で、スタンダードソングの歌詞を意訳していて、いつも直面するのが「性」の問題。
全体をザーッと翻訳してから、内容を振り返って、主語をどうしようか悩むことが多い。
「俺」、「僕」、「私」……「Love for Sale」だったら主人公は売春婦だし、「アタシ」(または「アタイ」)がピッタリくるけど、初恋の喜びを可憐に綴った「Blue Moon」だったら、絶対に「わたし」じゃなきゃ駄目だろう。
「イパネマの娘」を女性が唄う場合は、「娘」を「少年」に置き換えて、「イパネマの少年」ってタイトルに変えるんだけど、「he」を「she」に置き換えたり(逆もあり)して唄っているスタンダードソングは山ほどあります。
たいていはお気に入りの歌手が唄っているほうで訳しますが……
問題なのは……明らかに女性が唄うことを想定して作られた歌なのに、男性も唄っている場合。
人称代名詞は、「me」と「my」と「you」のみで、置き換え不可。
しかもそれが有名な歌手で、その録音が代表的なレコードとして存在し、他の録音を寄せ付けないほど強力な場合。
例えば……
「All of Me」(Seymour Simons/Leon McAuliffe)
なぜ、私のすべてを奪おうとしないの
分からないの、私はあなたがいなきゃ駄目なのよ
私の唇を奪って、私にはもう不要だから
私の腕を奪って、私にはもう不要だから
あなたが去ってしまって、涙が溢れているわ
あなたなしでは、生きてはいけない私なのよ
あなたは私の心を奪い去ってしまったのよ
どうして私のすべてを持っていってくれなかったの
これは絶対に女性の歌です。
ビリー・ホリディあたりが、切々と唄ってサマになる曲です。
でも、この曲、歌詞の内容は失恋演歌なんだけど、シナトラはカラッと明るく唄ってるの。
スインギーかつダイナミックに、堂々と唄っちゃってるのよ。
フランク・シナトラ:スイング・イージー
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このシナトラのレコード、素晴らしいのよ。最高なのよ。
難しい単語もないし、シナトラの発声は中学の英語の先生みたく明瞭だし、女性の歌詞ってこと忘れて、俺、一緒に唄っちゃってるときもあるんだよね。
唄ってると、とっても気分いいの。
とっても、男らしい気分を味わえちゃうのよ。
で、シナトラ盤のイメージで、意訳すると……
なぜだ、どうして俺のすべてを奪おうとしないんだ?
分かってんのかぁ、お前がいないと俺は駄目なんだぞ!
俺の唇を奪え!(バシン!)こんなもん要らん!
俺の腕をもぎ取れ!(バシン!)こんなもん要らん!
お前がいなくなってから、俺はずっと泣きっ放しだぁ!
お前なしでは俺は生きていけんのだぁ!
お前は俺の心だけを、かっさらっちまいやがった!
なんで俺のすべてを持ってってくれなかったんだあ!
「baby」って人称代名詞もよくあるんだよなぁ。
「可愛い子ちゃん」とか「彼女」とか「おねえちゃん」とかって訳されているのをよく見掛けるけど、これも男性が女性に対して使う表現なんだよな〜。
女性歌手の多くが、普通に「baby」って唄ってるけど、
女性から「ベイビー」って呼ばれてる男は、いったいどんな奴なんだろうね?