2020年04月|映画スクラップブック


2020年04月|映画スクラップブック

2020/04/12

錨を上げて

錨を上げて
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ANCHORS AWEIGH
1945年(日本公開:1953年06月)
ジョージ・シドニー ジーン・ケリー フランク・シナトラ キャスリン・グレイソン ホセ・イトゥルビ ディーン・ストックウェル

上陸許可を得た艦隊勤務の水兵さん2人組が、ハリウッドで4日間の恋人探し。
オープニングとエンディングに演奏される吹奏楽「錨を上げて」の高揚感! 明るく楽しい、MGM謹製ミュージカル・コメディ。

フランク・シナトラはサミー・カーン=ジュール・スタインのラブソング3曲(「ホワット・メイクス・サンセット」「チャーム・オブ・ユー」、「アイ・フール・イン・ラブ・トゥ・イージリィ」)を甘ったるく歌い、ジーン・ケリーはダイナミックなダンスを披露。
シナトラとケリーのデュエット・ダンスも愉快軽快。タップ踏むとき、ケリーの視線は正面向いてるのに、シナトラは足元ばかり気にしてるのが微笑ましい。「ザッツ・エンタテインメント」では、シナトラが「私がケリーにダンスを教え、私はケリーから歌を教わった」とか言ってたっけ。このころまでのシナトラは、これでもかってばかりに頬が痩けていたね。

他愛のない恋愛コメディではあるが、指揮者でピアノ奏者のホセ・イタービ(字幕ではイタルビと表記)のアクロバティックなピアノ演奏や、シナトラが一目惚れするキャスリン・グレイスンのコロラトゥーラなど見どころ満載。トム&ジェリーとアニメ合成されたケリーのダンスが最大の呼び物。いかにもMGMらしい娯楽ミュージカル。
MGMのスタジオをそのまま使い、ばかでかい野外音楽堂(ハリウッド・ボール)をロケしているのも、製作当時の記録として貴重。

海兵隊に憧れる男の子、メキシコ酒場でケリーとダンスする女の子も可愛かった。
「巴里のアメリカ人」でも子供たちと「アイ・ガット・リズム」を歌っていたけど、ジーン・ケリーは子供と遊んでるときに、すごくいい笑顔をみせるね。

ホセ・イタービ(イトゥルビと表記されていることが多い)は、その名前を冠したピアノ・コンクールが現在も開催されていることから、ある程度の格あるピアニストだろうと察するが、日本では無名に近い。この映画で見る限り、派手な演奏スタイルや、18人のピアニストでリストの「ハンガリー狂詩曲」を演ったりと、道化として人気があったのだろうか? 「オーケストラの少女」のレオポルド・ストコフスキーみたいなキャスティング。著名な音楽家の善意で話を強引に締めるところも、「オーケストラの少女」に似ている。

そのストコフスキーは、1940年の「ファンタジア」でミッキーマウスと共演していたが、この映画でも、当初はケリーのダンス相手にミッキーを考えていたとのこと。交渉したところディズニーに一蹴されてジェリーに変更。トム&ジェリーは水着の女王エスター・ウィリアムスとも共演(日本未公開だが「ザッツ・エンタテインメント」で見ることができる)。
ケリー&ジェリーの合成ダンスはほんとうに見事。対抗意識を燃やしたディズニーは翌46年「南部の唄」で実写とアニメを合成したミュージカル(「ジッパディドゥーダー」とスプラッシュマウンテンで有名な)「南部の唄」を製作した。人権団体からの抗議があって、「南部の唄」は現在は上映できない。ビデオ販売・ネット配信も停止しているらしい。

いろんな見せ場を詰め込んでいるものの、2時間20分の上映は長尺で、各エピソードが平坦に並べられている感じ。撮影所のカフェテラスでキャスリンとイタービが鉢合わせしちゃうあたりからの流れはご都合主義の極みで、MGMミュージカルでなきゃこんなストーリー、ゴミ箱にポイだよ。

太平洋戦争末期の1945年夏アメリカ公開。日本では好評だった「踊る大紐育」のあと, 1953年7月に公開されている。

60

2020/04/13

踊る大紐育

踊る大紐育
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ON THE TOWN
1951年(日本公開:1951年08月)
ジーン・ケリー スタンリー・ドーネン フランク・シナトラ アン・ミラー ジュールス・マンシン ヴェラ=エレン ベティ・ギャレット

夜明けの湾岸、労働者が美声のバリトンであくび混じりに登場。停泊中の艦から午前6時ピッタリに水兵たちがわーっと降りてくる。キャメラが摩天楼をロングで捉え、観光名所をバックにジーン・ケリー、フランク・シナトラ、ジュールス・マンシンが歌って踊って「ニューヨーク、ニューヨーク」。街を歩く都会の美女に目を奪われ、ジーン・ケリーはミス地下鉄(ヴェラ=エレン)のポスターに一目惚れ。「ミス地下鉄のダンス」にニコニコ顔で翻弄され、博物館の「原始人が好き」でゲラゲラ笑う。ウブなシナトラに積極的なベティ・ギャレットが釣り合わないとか、そんなの気にしない。これはMGMミュージカル。

なにしろ「錨を上げて」で4日間あった上陸許可が、今作は24時間で、しかも前作ではチョイ役の警官だったマンシンも加わって主役の水兵が3人。相手役の女の子も3人(プラス1)。テンポアップでスピーディに時間が進む。電光掲示板風に画面下に現在時刻を流しているのがスマート。

水兵の制服が白一色なのに対し、ヴェラ=エレン(赤)、アン・ミラー(緑)、ベティ・ギャレット(黄)と、テクニカラーの衣装も鮮やか。
ニューヨーク・ロケがふんだんにあって、いつものMGMミュージカルとは違った空気感があるのも新鮮でいい。もちろんジーン・ケリーの創作ダンス「ニューヨークの一日」もある。キャメラのパンが多用され、左右に流れる映像と音楽がリズミカルに連動している。音楽はレナード・バーンスタイン。ミュージカル映画に革命を起こした「ウエスト・サイド物語」まであと10年、その萌芽となった(と思うよ)。

個人的にMGMミュージカル・ベスト3のうちの1本。

70

2020/04/14

巴里のアメリカ人

巴里のアメリカ人
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AN AMERICAN IN PARIS
1951年(日本公開:1952年05月)
ヴィンセント・ミネリ ジーン・ケリー レスリー・キャロン オスカー・レヴァント ニナ・フォック ジョルジュ・ゲタリ

この映画を観るのは、映画館上映を含めて今回で3回目か4回目。やっ巴里、印象派絵画をモチーフにしたセットの「パリのアメリカ人」のダンスが圧巻。ガーシュインの音楽とテクニカラーの色彩が、映画の楽しさを倍増させている。ジーン・ケリーのダンスもさることながら、エキストラ・ダンサーの配置、動き、衣装、美術、そして照明が素晴らしい。ここが最大のポイント。そんな理由で何度も観てしまう。アーサー・フリード&ビンセント・ミネリの洗練されたセンスが輝く、永久保存のダンスナンバーだよ。

その終盤の見せ場に持っていくまでのストーリーは、ありきたりで他愛のないものだが、芸術の都パリに憧れ、第二次大戦後に居残りした米国人の、ボヘミアンな生活雰囲気がなんとなく表現されているし、老齢の女性2人をダンスに加えた「バイ・シュトラウス」、ケリーが子供たちと遊ぶ「アイ・ガット・リズム」、オスカー・レヴァントの「へ調の協奏曲」やジョルジュ・ゲタリーのステージ・ショー「天国への階段」などあって退屈はしない。
「ス・ワンダフル」は「パリの恋人」よりもこちらでの使い方のほうがマッチしている。歌ってるケリーとゲタリーに挟まれたレヴァントの仕草(小芝居)が面白い。

新星レスリー・キャロンの紹介を「踊る大紐育」の「ミス地下鉄」のダンスと同じ趣向でやってるが、「踊る大紐育」ほどインパクトは強くない。レスリー・キャロンのバレエは上手だけど魅力に欠ける。役柄としての制約もあるだろうけど、振付が「ミス地下鉄」ほどハッチャケてないからね。

夜のセーヌ河畔のダンスは、本作の「わが恋はここに」よりも、いまとなっては「世界中がアイ・ラヴ・ユー」のファンタスティックな「恋の終わり」(ウディ・アレン&ゴールディ・ホーン)に軍配があがる。逆に「天国への階段」は「巨星ジーグフェルド」の超弩級セットと比べちゃうから、テクニカラーでもやっぱり見劣りしちゃうのね。

それとおれは、レスリー・キャロンよりもパトロンのニナ・フォックのほうが(金銭抜きで)100倍魅力なんだよ。
無理やりなハッピーエンディングのあと、彼女がどんな心境になるか考えると、とても心が痛む。明朗快活がセールスポイントのMGMミュージカルで、観客(おれ)をそんな気持ちにさせちゃいかんです。

65

2020/04/15

雨に唄えば

雨に唄えば
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SINGIN' IN THE RAIN
1952年(日本公開:1953年04月)
スタンリー・ドーネン ジーン・ケリー デビー・レイノルズ ドナルド・オコナー シド・チャリシー ジーン・ヘイゲン

アーサー・フリード&ナシオ・ハーブ・ブラウンによる往年のヒット曲を網羅したミュージカル・コメディの快作。トーキー移行期のドタバタ騒動をネタに、1926年前後の映画業界(MGM)を舞台にしているのが嬉しい。脚本、キャスト、使用楽曲、ダンス、色彩、すべて良好。個人的にMGMミュージカル・ベスト3のうちの1本。

DVDの特典が凄い。公開時にカットされていたデビー・レイノルズの「ユー・アー・マイ・ラッキースター」や、アーサー・フリードについてのドキュメンタリー「Musical Great Musicals」(86分)、デビーが案内役をつとめる本作についてのドキュメンタリー「What a Glorous Feeling」(35分)他、おまけが盛りだくさん。
特に嬉しかったのが、本作で使用されたフリード&ブラウンのミュージカル・ナンバーを、過去のMGM作品から抜粋して収録した「歌曲集」(50分)。「ザッツ・エンタテインメント」をはじめて観たときの感動を思い出したよ。

「暗黒街の顔役」のコイン遊びをパロったのは、ワイルダーの「お熱いのがお好き」(1959年)より、こちらの方が早い。当時はずいぶん流行ったんだろうな、と想像する。

75

2020/04/16

オズの魔法使

オズの魔法使
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THE WIZARD OF OZ
1939年(日本公開:1954年12月)
ヴィクター・フレミング ジュディ・ガーランド バート・ラー ジャック・ヘイリー レイ・ボルジャー ビリー・バーク マーガレット・ハミルトン

MGM謹製子供向けミュージカル。他愛のない童話原作のおはなしなんだけど、色彩豊かで音楽も賑やか。子供向けとはいえ、美術セット、特殊メイク、オーケストレーションなどに手抜きはなく、ストーリー以外はぜんぜん安っぽくないところがさすがのMGM。竜巻が襲ってくる特殊撮影なんか、すごい迫力で恐ろしい。飛猿軍団のワイヤー・アクションも見事。マンチキンは全米のサーカス・見世物小屋から集めたんじゃなかろうか。監督も何人か途中交代してることだし。かなりの手間とお金がかかっているのでしょう。子供騙しもここまで豪華だと、理屈ならべてどうこう言うのは野暮。アメリカで長く愛され続け、人気を得ている映画だけのことはある。

何度も観ている映画だし、製作についての薀蓄はいろんなところで書かれていて(DVDにも50分の紹介ビデオが付属してる)、いまさら語るべきことは何もない。
童心に還って、のんびり素直に愉しめばよろし。

65

2020/04/17

ウエスト・サイド物語

ウエスト・サイド物語
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WEST SIDE STORY
1961年(日本公開:1961年12月)
ロバート・ワイズ ジェローム・ロビンス ナタリー・ウッド リチャード・ベイマー ラス・タンブリン ジョージ・チャキリス リタ・モレノ

上映時間と比例するくらい、いろいろ、盛りだくさんに書こうと思っていたのだが。
いざ書こうとしたら……いまさら何を?

主役の二人(リチャード・ベイマー&ナタリー・ウッド)が瑕瑾で、特にナタリー・ウッド。歌の吹替えは(マーニ・ニクソンが素晴らしいので)、それはそれでいいんだけど、「アイ・フィール・プリティ」のダンスが、(他のダンスナンバーがとても素晴らしいので)はなはだしく見劣りする。部屋の中を走り回っているだけだもんなあ。何回観ても、このシーンを観るたびに彼女じゃなかったら、とため息ついてしまう。

細かいところでは色々あるけど……口笛とニューヨークの俯瞰ショットが重なって、ラス・タンブリンたち不良グループが指を鳴らして立ち上がり、対立しているプエルトリコ移民のグループがストリートを滑るように踊りだす、と……もうたまらん!
まず音楽! そしてダンス! それを捉えるキャメラ! 映像とリズムをシンクロさせた躍動感ある編集! リアルかつ機能的な美術セット!

1961年12月の日本公開から(家庭用ビデオが普及した)80年代半ばまで、映画館に「ウエスト・サイド」がかかると客席はいつも満杯になった。名画座の切り札的看板番組。

本作が大ヒットしたあと、ただひたすらに楽しいだけのMGMミュージカルが(その数年前から興行不振ではあったものの)完全に埋葬された。
以降、「サウンド・オブ・ミュージック」、「マイ・フェア・レディ」、「ラ・マンチャの男」、「屋根の上のバイオリン弾き」。ドラマ重視のブロードウェイ・ヒットの映画化ばかり。

文芸的要素など不要。ただただ面白く愉快、明朗で洒落ていて素敵な、ゴキゲン気分にさせてくれる、その一点にのみにスタッフ&出演者が奉仕しているMGMミュージカルこそ、ミュージカル映画の王道だと断言しているおれだけど……

個人的に、オールタイム映画ベストテン候補の1本。

音楽は、映画のサントラ盤ほか、ブロードウェイ・キャスト版、オスカー・ピーターソン(Verve)、アンドレ・プレヴィン(Contemporary)、スタン・ケントン楽団(Capitol)、デイヴ・ブルーベック(Columbia)、リッチー・コール(Venus)などなど録音盤が沢山出ている。
普段よく聴くのは、バーンスタイン自身がロサンゼルス・フィルハーモニックを指揮したグラモフォンの「シンフォニック・ダンス」(これ書きながら今も聴いている)。バーンスタインの自作自演では、キリ・テ・カナワやホセ・カレーラスなど豪華キャストの録音盤も出ているが、オペラ風で立派すぎて、映画の(下町で不良どもが喧嘩している猥雑な)雰囲気が消えちゃってるのが残念。

スティーヴン・スピルバーグ監督初のミュージカル映画となるリメイク版(2020年12月公開予定)は、はたしてどうなりますことやら。

80

2020/04/19

世界中がアイ・ラヴ・ユー

世界中がアイ・ラヴ・ユー
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EVERYONE SAYS I LOVE YOU
1996年(日本公開:1997年10月)
ウディ・アレン アラン・アルダ ゴールディ・ホーン ドリュー・バリモア ジュリア・ロバーツ ティム・ロス ナターシャ・リオン

ホーム・パーティの余興にイツァーク・パールマンがバイオリンを弾いてるくらい裕福な家族。その一家の一年間の出来事を、(それぞれの恋愛事情を主軸に)次女ナターシャ・リオンのナレーションでスケッチしたウディ・アレンのミュージカル・コメディ。

配役が超豪華。お父さん(弁護士・民主党支持)アラン・アルダ、お母さん(資産家の娘)ゴールディ・ホーン、腹違いの姉ドリュー・バリモア、その婚約者にエドワード・ノートン、双子の妹にナタリー・ポートマンとギャビー・ホフマン、義理の弟(共和党支持)ルーカス・ハース、お母さんの元夫でナターシャ・リオンの実の父親(フランス在住の作家)ウディ・アレン、その父親が恋心を寄せる美女にジュリア・ロバーツ、仮出所の与太者にティム・ロス。おじいちゃんパトリック・クランショー、(なぜかドイツ人の)家政婦トルード・クライン、宝石店のエドワード・ヒバート他、小さな役でも個性が面白い出演者たち。
バリモアの婚約破棄をめぐって親子で言い争ってるとき、家政婦さんと妹たちが玄関ロビーでホッケーやってたりとか、デティールが妙に面白い。

ロケーションがまた豪華。ニューヨークの春夏秋冬、夏のヴェニス、パリのクリスマス(ノエルって書いたほうがいい?)。観光名所をこれでもか、ってくらいカラフルに美しく撮ってある。写真集にまとめてもいいくらい綺麗。撮影監督はアレン映画常連のカルロ・ディ・パルマ。

音楽は、ウディ・アレンがこれまで自作のBGMで使ってきたような、1920-50年代に作られたスタンダード・ナンバーばかり。
これを出演者が吹替えなしで歌っているのが嬉しい(ドリュー・バリモアだけは吹替えだったらしい、残念)。ジュリア・ロバーツなんか、わざと下手に歌わせているのではと疑いたくなるほどだが、それがかえって微笑ましく、カワイイ。意外だったのがティム・ロスの美声。この汚れ役は演じていて楽しかったろうなあ。

ダンスも出演者本人が頑張ってる。しかも「フラッシュダンス」みたいに編集で誤魔化さないで、かつてのMGMみたいなカット割りで撮影されている。これってとても重要。
このあと製作されたバズ・ラーマンの「ムーラン・ルージュ」やロブ・マーシャルの「NINE」のような、MTV感覚のミュージカル映画には違和感があって、カッコイイとは感じても好きにはなれないんだ。

映画が始まるといきなり「ジャスト・ユー、ジャスト・ミー」をエドワード・ノートンが歌う。お世辞にも上手とは言えないが、頑張ってるなあ、と。
頑張ってる人を見ると応援したくなるじゃない。演技者と観客がグッと近づくんだよね。
歌はニューヨークの住人たちにリレーされ、リラックスした雰囲気が作られる。観ている人に幸福感をもたらす。この映画がどんな映画か、このファースト・シークェンスに提示されているわけで、それは成功している。

エドワード・ノートンは「宝石店のダンス」でも頑張ってる。ダンサーたちの群舞の背後でせっせとタップ踏んでる姿が健気だ。
「病院のダンス(メイキン・ウーピー!)」、拘束衣を脱ぎ捨てた精神病患者がモーリス・ベジャール風にジャンプして踊りだすのが面白かった。
「葬儀場のダンス」、死んだらおしまい、生きているうちに人生を愉しめ、というウディ・アレン哲学。ダンスにトリック撮影を用いているのは、フレッド・アステアのオマージュなんだろうな。
「ハロウィン・シークェンス」、こんな可愛いハロウィン見たことなかった。「月光のいたずら」、「チャイナタウン、マイ・チャイナタウン」、「チキータ・バナナ」、ちっちゃい子供たちがこんな古い歌よく知ってたなあ。家政婦さんに締め出し食らったダンディな男の子も可愛い。彼が歌おうとしていた曲は「プリテンド」か。
「マルクス・パーティ」、ダンスにマルクス兄弟の仕草が取り入れられていて楽しい。メル・ブルックス「プロデューサーズ」のヒトラー・オーディションも面白かったが、パーティ出席者全員がマルクス兄弟の仮装だなんて、このアイディア面白すぎる。
そして、アレンとゴールディ・ホーンによるファンタスティックな「セーヌ河畔のダンス」。タイミングを合わせようと必死になっているアレンの緊張感が、その表情にあらわれていて微笑ましい。

ダンスの振付けは、前作「誘惑のアフロディーテ」でもコロスのエンディング場面を担当していたグラシアーレ・ダニエーレ。振り返れば、アレン監督はあのころからミュージカルを撮りたくて、準備してたのだろうか。
また、のちのことに思いをめぐらせれば、これをきっかけに「ローマでアモーレ」や「ミッドナイト・イン・パリ」などの海外ロケへと向かったのであろうか。

ウディ・アレンがヴェニスでまさかのジョギング! と驚いたけど、「マンハッタン」のクライマックスでも彼は恋人のマンションまで走ってた。「アニー・ホール」でもアニーとの出会いはテニスコートだったし。運動とは無縁の人と勝手に思い込んでたけど、実生活ではエクササイズとか、身体に気を使ってるんじゃないのかな。でないと高齢で映画監督なんか続けられないもんな。

ミュージカル映画といえばとディズニー・アニメばかりだった不毛の1990年代に、突如として(ウディ・アレンという)思いも寄らないところから新作が出てきた。公開当時は、その新鮮な驚きに拍手を贈ったのだが。
あれからビデオで繰り返し観るたびに、どんどん好きになる。ほんとうに微笑ましいチャーミングな映画。死ぬまでにあと10回くらいは楽しみたい。

70

2020/04/20

プロデューサーズ

プロデューサーズ
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THE PRODUCERS
2005年(日本公開:2006年04月)
スーザン・ストローマン ネイサン・レイン マシュー・ブロデリック ユマ・サーマン ウィル・フェレル ゲイリー・ビーチ ロジャー・バート メル・ブルックス

2005年製作のミュージカル版。
オリジナルは1968年の「プロデューサーズ」。これがメル・ブルックスの映画監督デビューで、アカデミー脚本賞を受賞。それをメル・ブルックス自身の作詞・作曲・脚色で2001年にブロードウェイ・ミュージカル化し、トニー賞12部門受賞。
さらに舞台の演出・振付を手掛けたストローザー・マーティンが、主演のネイサン・レイン、マシュー・ブロデリック、ゲイリー・ビーチ、ロジャー・バートで再映画化したのが本作。製作はメル・ブルックスのブルックスフィルム。

メル・ブルックスが日本で紹介されたのは、1974年の「ヤング・フランケンシュタイン」(75年10月公開)。古典映画のパロディでモノクロだったにもかかわらずそこそこヒットし、前作の「ブレージングサドル」も続けて76年2月に公開されたものの、「プロデューサーズ」オリジナル版はずっと日本未公開でビデオも出ない。噂ばかり耳にしていたが、NHK-BS2で観ることができた。その後、2000年に日本でも劇場公開されたらしい。オリジナル版の主演は、ゼロ・モステル(マックス・ビアリストック)とジーン・ワイルダー(レオ・ブルーム)。

シモネタ満載の下品なコメディが、アカデミー賞やトニー賞を受賞してしまう現実に、米国ショービジネス界のユダヤ人脈、ナチス嫌いがくっきり浮かび上がる。

ミュージカル版は、「ヒトラーの春」公演が意に反して大成功を収めたあとの展開が、オリジナルと異なる。よりミュージカルらしいエピソードに変更されていて、ネイサン・レインの本作最大の見せ場となる。初見のときは、そのエンタメ精神に感心したものだが。

映画は、特にコメディ映画は、そのときの気分・体調によって評価が上下する。
初見では、70点(年間ベストテン候補)付けるくらい楽しんで観たんだけど、今回は60点(標準作)に近い65点(上出来)。初見のときは、鳩の「ハイル・ヒットラー」にもゲラゲラ大笑いしてたんだけどなあ。

「笑い」って難しいね。

メル・ブルックスは「ヤング・フランケンシュタイン」もブロードウェイで上演(2007年/演出・振付は本作と同じストローザー・マーティン)したそうだが、そっちの評判はどうだったんだろう?

65

2020/04/21

ヤング・フランケンシュタイン

ヤング・フランケンシュタイン
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YOUNG FRANKENSTEIN
1974年(日本公開:1975年10月)
メル・ブルックス ジーン・ワイルダー ピーター・ボイル マーティ・フェルドマン マデリーン・カーン クロリス・リーチマン テリー・ガー ジーン・ハックマン

この映画が日本でパロディを流行らせた。これ以前にパロディという言葉はあっただろうけど、映画のジャンルとして定着したのは本作が公開されてから。
スター俳優不在、監督も無名、ロマンス要素もない、元ネタは戦前の古典怪奇映画、しかもモノクロ! 外国のコメディ映画は当たらない、それが日本の常識だった1975年10月に公開。アメリカで大ヒットしてなかったら、前作「プロデューサーズ」同様、日本未公開のままだったかも知れない。

ジョン・モリスの音楽が素晴らしい。美術セットが素晴らしい。撮影が、照明が、衣装が素晴らしい。演出も正統派。手間もお金もかかっている。
ジーン・ワイルダーとテリー・ガーのアップなど、クラシックなロマンス映画と見間違えそうなくらい(「哀愁」のロバート・テイラーとヴィヴィアン・リーみたいに)綺麗に撮れている。怪物(ピーター・ボイル)の憂いをたたえた表情は、オリジナルのボリス・カーロフを超えている。
フェイド・イン/アウト、アイリス・イン/アウト、ワイプ、ディゾルブ、回転ワイプなど、場面のつなぎもクラシックな手法で凝っている。
これだけ立派に作れるのだから、間の抜けたギャグとシモネタをごっそり抜いて、シリアスな怪奇映画としてリメイクしていたなら名作と呼ばれていたかも知れない。
後年、デヴィッド・リンチ監督で製作した「エレファント・マン」がそんな感じか。

個人的に、マーティ・フェルドマンのカメラ目線のギョロ目と、警部(ケネス・マース)の義手ギャグ(「博士の異常な愛情」のパロディだろ?)が許せんのだ。
入れるか外すかで脚本家(ワイルダー)と監督(ブルックス)が対立したという「リッツで踊ろう」は、入れて正解。

DVD特典に入っていた1996年製作のドキュメンタリーによると、家政婦ブルッハー夫人の右顎のイボは、演じたクロリス・リーチマンのアイディアによるメイクだったそうで、これはもう完全に「レベッカ」のダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)を狙ってたってことで、それはもう見事に成功している。彼女はヒチコック・パロディの「新サイコ」でも同じような役を演じていた。

ジーン・ワイルダーの口髭がカット毎に違うのは、笑いを狙ってのことなのか、単なるミスなのか分からない。初めて観たときから、どっちだろうって、ずっと気になってる。

マデリン・カーンが絶世の美女に見えるカットが、ときどきある。
テリー・ガーは全編かわいい。

65

2020/04/22

ブレージングサドル

ブレージングサドル
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BLAZING SADDLES
1974年(日本公開:1976年02月)
メル・ブルックス クリーヴォン・リトル ジーン・ワイルダー ハーヴェイ・コーマン マデリーン・カーン スリム・ピケンズ

シネマスコープのスクリーンに赤金のワーナーブラザース・マーク、大平原、フランキー・レインの力強い主題歌、豪快に響く鞭音、ヒャッハー!
クレジットにテクニカラーとある、ここは4色グラビアみたいに安っぽい発色のワーナーカラー(イーストマンカラー)で撮ってほしかったなあ。

過酷な労働を強いられている鉄道敷設の人夫たち、私腹を肥やすため詭謀めぐらす資本家、その手下たち、町を守るためやって来る正義の保安官、保安官を助ける早打ちのガンマン、蜂起する市民たち、馬もたくさん走る。勧善懲悪、西部劇の王道ストーリー。

ジョン・モリスの音楽が素晴らしい。美術セットが素晴らしい。撮影が、照明が、衣装が素晴らしい。
セシル・B・デミルの「大平原」から借りてきた、鉄道利権をめぐる基本設定は良い。しかし……メル・ブルックス!

こんなにお金も手間もかけて、何故かようにくだらぬギャグ映画ばかり作るのか。「プロデューサーズ」でも「ヤング・フランケンシュタイン」でも、巨根と絶倫が主人公のピンチを救う。シモネタ入れないと精神を平静に保てない病気にでも罹っておるのか。

悪漢どものオーディション場面あたりから、映画はメタなドタバタ騒動に発展。ドイツ兵、KKK団、ヘルス・エンジェル(バイカーギャング)、舞台もスクリーンとスタジオを行ったり来たり、ヒトラーやミュージカル・ダンサーまで巻き込んで、いたずら小僧のおもちゃ箱をひっくり返したような有様。最後は喜劇映画の定番、パイ投げ合戦となる。

ずらり並んだ馬上の悪漢たちがジーン・ワイルダーに銃口を向ける場面で、だれひとり撃鉄を起こしていない。笑いを狙ってのことなのか、単なるミスなのか分からない。初めて観たときから、どっちだろうって、ずっと気になってる。

黒人人夫たちがソフィスティケートなコーラスで歌うのは、コール・ポーターの「君にこそ心ときめく」。荒野のカウント・ベイシー楽団が演奏していたのは、彼らのヒットナンバー「パリの四月」。歌姫マデリーン・カーンがドイツ人なのは、「砂塵」のマルレーネ・ディートリヒのパロディ。保安官が乱暴者モンゴに菓子箱を渡すとき、ワーナー漫画「バックスバニー」のメロディがちょこっと流れる。漫画映画を知っていれば、それだけで箱の中身が分かる。スタジオで撮影中のミュージカル・ナンバー「フレンチ・ミステイク」はメル・ブルックス作詞作曲のオリジナル。ヒットラー登場場面では「プロデューサーズ」の「ヒトラーの春」がちょこっと流れる。

実に、く・だ・ら・な・い。

65

2020/04/23

平原児

平原児
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THE PLAINSMAN
1936年(日本公開:1937年03月)
セシル・B・デミル ゲイリー・クーパー ジーン・アーサー ジェームズ・エリソン ヘレン・バージェス チャールズ・ビックフォード

ゲイリー・クーパー主演、セシル・B・デミル監督の西部劇大作。

1865年、南北戦争終結。平和が戻ったのは良いが、倉庫には新型ライフルがわんさか残っている。がめつい武器商人たちは、毛皮商のラティマ(チャールズ・ビックフォード)を仲介して、これを白人に友好的なインディアンに売り渡す計画を練る。そんなときリンカーン大統領が暗殺され政局は混乱。この機に乗じてラティマは好戦的なシャイアン族にライフルを横流しする。カスター将軍(ジャン・ミルジャン)から密命を受けたワイルド・ビル・ヒコック(ゲイリー・クーパー)は、シャイアンの酋長(アンソニー・クイン)の動向を探りにいくが、先に囚われていたツンデレ恋人のカラミティ・ジェーン(ジーン・アーサー)とともに拘束され、火炙りの危機。ヒコックの命を救うため、ジェーンは軍の輸送ルートを酋長に喋ってしまう。二人は開放されたが、輸送隊は待ち伏せしていたシャイアン族に襲撃される。誰がチクったんだと、疑惑の眼差しに晒されるヒコックとジェーン。武器横流しにラティマが関わっていることを知ったヒコックは、ラティマの悪事に加担していた軍服三人組を射殺し、お尋ね者になってしまう。ヒコック逮捕を命じられるのは、新婚ほやほやの旧友バファロー・ビル(ジェームズ・エリソン)。妊娠している新妻(ヘレン・バージェス)を残して、ヒコックを追う。

実在の西部劇ヒーローが主人公ではあるが、ストーリーはほとんど映画の創作。日本でたとえれば「忠臣蔵」とか「新選組」のようなものだろう。
酒場でカード遊びしていたヒコックが、背中から撃たれて死亡するのは史実。

巨匠デミル監督らしい娯楽大作で、公開当時大ヒットしたらしい。いま観てもストーリー運びはテンポ良く、戦闘場面も迫力があって退屈しない。ヒコックとジェーンの恋愛模様も適度なユーモアがあって、バファロー・ビル夫妻との対称関係も(定石どおりではあるが)良好。
ジェーンがキスするたびに顔を拭っていたヒコックが、凶弾に倒れたラストのキスでは顔を拭かない。この場面に(うまい脚本だなあと)感心した。

なにより、ゲイリー・クーパーが格好いい。
歴代ハリウッド俳優のなかで、最高の二枚目スターはゲイリー・クーパーだ(2位はケーリー・グラントかな?)。

「スター・ウォーズ」風のタイトルは、横断鉄道建設を描いた「大平原」(1939年)が元祖だと思い込んでいたが、こちら(1936年製作)が先だった。

65

2020/04/23

西部の男

西部の男
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THE WESTERNER
1940年(日本公開:1951年01月)
ウィリアム・ワイラー ゲイリー・クーパー ウォルター・ブレナン フレッド・ストーン ドリス・ダヴェンポート

名匠ウィリアム・ワイラー監督の西部劇といえば、まず誰しも挙げるのは「大いなる西部」だろう。牧場主の一家が開拓地の水源を巡って争うシリアス・ドラマだった。

だから本作も、農地を荒らす牛の侵入を封じためる鉄条網を作った農民たちと、柵を壊し銃で農民を威嚇するカウボーイたち、誤って牛を撃ち殺し絞首刑になる農民、その判決を独善的にくだす判事ロイ・ビーン(ウォルター・ブレナン)と、序盤の状況説明をみて「大いなる西部」と同じテーマを持った映画ではないか、と思っていたのだが……

馬泥棒の容疑者としてゲイリー・クーパーの流れ者が登場したあたりから、映画は風変わりな、オフビート喜劇っぽいタッチになる。

クーパーを追うブレナンの馬が墓標を蹴飛ばしたタイミングで、わざわざコミカルな効果音(ピャン)を付けてることから、笑いを狙った映画であることは明白。酔いつぶれて抱き合ったまま朝をむかえたクーパーとブレナンの芝居は、あきらかに喜劇だ。勝ち気な農家の娘(ドリス・ダヴェンポート)から歌姫の髪をいただこうとする場面なんか、ロマンスコメディの典型。なのに……

クーパーのとりなしで和解したかに見えた牧場と農家だったが、収穫前のお祭りで農民たちが浮かれている最中、カウボーイたちはトウモロコシ畑に火を放ち、住居や小屋まで焼き払い、娘の父親を殺してしまう。この仕打に怒りをおぼえたクーパーは、副保安官のバッジを胸に、無観客の劇場でブレナンを待ち伏せ、対決する。
素性の怪しい住所不定の流れ者を、そんな簡単に副保安官に任命できるのものなのか? でもロイ・ビーンだって判事だもんな。そんな時代だったんだろう。

それぞれの場面はワイラーらしく丁寧に撮られている。おかしい芝居はおかしいし、迫力もあり、怒りもあり、役者は端役にいたるまでそれぞれに味が出ていた。ウォルター・ブレナンはアカデミー助演賞を受賞。これはワイラーの功績だろう。

ドリス・ダヴェンポートは、「風と共に去りぬ」スカーレット・オハラ役のオーデションで、最終候補に残っていたという。だから家を焼失し父親を殺され農民たちが去ってゆくなかで、あのセリフ、あの演技があてがわれたのだろうか?

支離滅裂な脚本、どっちつかずの演出、これがサミュエル・ゴールドウィン&ウィリアム・ワイラーの仕事とは信じられない。それぞれの場面は丁寧に撮られているだけに、錯乱していたとしか思えない。

60

2020/04/27

真昼の決闘

真昼の決闘
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HIGH NOON
1952年(日本公開:1952年09月)
フレッド・ジンネマン ゲイリー・クーパー グレイス・ケリー トーマス・ミッチェル ロイド・ブリッジス ケティ・フラド リー・ヴァン・クリーフ

西部の小さな町に釈放された無法者が帰ってくる。駅で待っている仲間。彼らの狙いは、結婚式を挙げたばかりの保安官(ゲイリー・クーパー)への復讐。住民の応援を得られず孤立無援の保安官は、4対1の不利な状況で決闘に臨む。
ハリウッドの赤狩り騒動とともに語られることが多い、スタンリー・クレーマー&フレッド・ジンネマンの異色西部劇。

ジョン・W・カニンガムの「ブリキの星章」(わずか2ページの雑誌掲載の小説)が原作だが、カール・フォアマンの脚色が抜群に良かった。マッカーシーの公聴会で鍛えられた、フォアマンの不屈の精神がよく反映されていると思う。本作のあとに彼が書いた「戦場にかける橋」などと合わせてみるに、頑固で屈強な侠気のある人なんだろう。
いちばん最初に町を逃げ出すのが判事(オット・クルーガー)だったというところに、公聴会で虐められたフォアマンの皮肉がある。

町民たちの思惑が、テンポよく簡潔に説明されている。演じる役者たちも、町長(トーマス・ミッチェル)以下、それぞれに適役好演。特に保安官助手(ロイド・ブリッジス)が複雑な感情変化をみせて巧い。

保安官が応援要請に町を歩き回る過程で、彼がそれほど町民に好かれていなかったこと、女性関係にだらしない男であったことが分かってくる。
無法者(アイアン・マクドナルド)の復讐心は、逮捕・監獄されたことへの恨みだが、その裏には女絡みの因縁もある。そのことは酒場のオーナー(ケティ・フラド)が店を売って、町を逃げようとしていることから分かる。
無法者を刑務所送りにしたあとケティ・フラドとくっついた保安官が、結婚相手に選んだのは白人のグレース・ケリー。これは人種差別か職業差別か。

4対1の決闘場面を売り物にしているような邦題だが、この映画のほんとうの見所は、決闘が始まる前までにある。

そもそも今回の決闘は、町の治安を守るためとか、どうにも許せない悪を断罪すべし、というような正義感が動機ではないからね。まず、刑務所送りになった男の私怨(たぶん女絡み)の復讐があり、その災難から逃れる手段として、保安官は決闘を選択している。
この場を逃がれても、奴らは執念深く追ってくるだろう。どこへ逃げても、いつ襲ってくるかわからない恐怖に怯えて生きていくのはごめんだ。いまここでハッキリと決着(カタ)をつけてやろう。幸いなことに胸には保安官のバッヂがある。「正義」とか「町の治安」とか言って呼びかければ、町民たちは応援に駆けつけてくれる。みんなが私を味方してくれる(はずだ)。町民が一致団結すれば、荒くれ者の4人くらい、あっさり片付けられる。奴らを皆殺しにして、後腐れなくサッパリしたら、綺麗な花嫁と気持ちよく新婚旅行に行こうぞ。とか、甘い考えで決闘を選択しちゃったんだよね。

苦渋の表情に現実味があると言えるものの、主演のクーパー(当時51歳くらい)が、やけに老け顔で。ひたすら助けを求めて町を歩き回り、断られて絶望し、死の恐怖に怯え、机に突っ伏して泣く。いざ決闘となると、建物の陰から忍び寄り、相手の背後から銃を撃ったりと卑怯千万。ヒーローにあるまじき行為が西部劇ファンの顰蹙をかった。
だからこそ、それまでの娯楽西部劇を凌駕したリアリズム・ドラマとして高く評価されている面もあるのだけど。

これを観たハワード・ホークスが頭にきて、痛快西部劇の傑作「リオ・ブラボー」を撮ったという逸話も残っている。ホークスがほんとうに憤慨していたかどうか、分からんのだけど。

上映時間と劇の経過時間をシンクロさせた構成・編集(それほど正確にシンクロしているわけではないし、さほど緊迫感も感じられない)、テックス・リッターの主題歌、若妻を演じたグレース・ケリーの美貌など、話題に事欠かない映画ではあります。

映画の最初の場面に出てくるガンマンはリー・ヴァン・クリーフ。鋭い眼差しの精悍なルックス、スラリと伸びた長い脚、悪役ながら格好いい。のちにセルジオ・レオーネ監督の「夕陽のガンマン」でマカロニ西部劇のスターとなる。そのときの相棒役のクリント・イーストウッドがハリウッドに戻って主演したのが「ダーティハリー」。ラストでキャラハン刑事が投げ捨てるバッヂは、本作のモノマネかオマージュか。

70

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