第三次世界大戦の核兵器使用により北半球は全滅。
直接の被害を逃れた南半球のオーストラリアにも放射能による大気汚染が迫り、残された人々は余命数ヶ月の運命を潔く受け入れ、終末の時がくるまでを粛々と生活している。
静かな、静かなディストピア映画。
音楽はアーネスト・ゴールド。
全編に「ワルチング・マチルダ」を用いて穏やかで優しい終末ムードを作っている。
歌とダンスなしで出演のフレッド・アステアは科学者役。
老け顔のクローズアップで事の顛末について語る潜水艦のシーンが良かった。
どうせ先は長くないのだからと、命知らずのレースに臨む。
他のレーサーも同じ心境だからだろう、サーキットはクラッシュの連発。
やりたいことをやり終えて自死するアステア。
観客と同じ生活者の目線でじんわりと重い警告。
これが他の反核SF映画との違い。
グレゴリー・ペックとエヴァ・ガードナーのシーンは、(カメラの水平を傾けた)ダッチアングルでアンバランスな絵作り。デ・パルマもよくやる360度回転移動のぐるぐるキスシーンはクローズアップでなかなかの迫力。
死ぬときは愛する人に傍に居てほしい。だけどそれは叶わない。
エヴァはもう少し色情濃く演技しても良かったかも。
死滅したはずのサンディエゴの町から発信されていた信号の正体は、コカ・コーラの空瓶を使った風のいたずらだった。
映画が公開されてから60年以上経ったいまでも、平和維持のため抑止力としての核兵器は必要。それが人類を絶滅させうる威力があったとしても無くてはならない核兵器。
「兄弟よ、まだ時間はある」
広島・長崎に原子爆弾を落とした当事国のアメリカが作った映画。
これがいちばん重要。
原題「ON THE BEACH」を「渚にて」と訳した邦題のセンスが良い。
会員制クラブの酒蔵には400樽のワインが残っているのに、それらを飲める時間が残されていないと老人は嘆く。
幸福の追求に限度はなく、それを享受できる時間は限られている。それが人生。
山と積み上げた本とCDとDVDに囲まれた部屋を眺めて、おれも反省。
点