2021年 07月(8本)
2021/07/07
嵐が丘
WUTHERING HEIGHTS
1939年(日本公開:1950年12月)
ウィリアム・ワイラー ローレンス・オリヴィエ マール・オベロン デヴィッド・ニーヴン ジェラルディン・フィッツジェラルド フローラ・ロブソン レオ・G・キャロル ドナルド・クリスプ
サミュエル・ゴールドウィン謹製、文芸ロマンス。
読みにくいうえに長ったらしいエミリ・ブロンテの原作小説を1時間45分とコンパクト化。脚本はベン・ヘクト&チャールズ・マッカーサー。
音楽はアルフレッド・ニューマン。
ハリウッド映画初出演のローレンス・オリビエはセリフ廻しがいかにも演劇的。
マール・オベロンは美人ではあるものの表情作りすぎ。
語り部のフローラ・ロブソンが全体を俯瞰するつなぎの役割とはいえ魅力に乏しくどうにも不要。
支離滅裂な女の感情をダイレクトにストーリー化して独善的ではあるが、メロドラマを書きたい脚本家はこの恋愛のベクトル相関図を徹底的に記憶しておいたほうがいい。きっと役に立つ。キャシー突然の肺炎で瀕死の病床なんて如何にもな愁嘆場は真似せんほうが良いけど。
アカデミー撮影賞のグレッグ・トーランドのパンフォーカス・カメラは、窓や鏡の枠にやたら凝った気取りが嫌味に感じられた。
このあと(1941年の)「市民ケーン」では枠の中にカメラが侵入する。
一時代を築いた名カメラマンではある。
65点
#特集 ゴシック・ロマンス
#ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー
2021/07/08
レベッカ
REBECCA
1940年(日本公開:1951年04月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョーン・フォンテイン ローレンス・オリヴィエ ジョージ・サンダース ジュディス・アンダーソン グラディス・クーパー レオ・G・キャロル ナイジェル・ブルース
デヴィッド・O・セルズニック謹製、スリラー風味文芸ロマンス。
アルフレッド・ヒッチコック、アメリカ上陸初監督作品。
マンダレー城の城主マキシム・ド・ウインター卿をローレンス・オリヴィエが演じ、彼に見初められる新妻にジョーン・フォンテイン。
むかし見たときは(ストーリーを知らずに見たので)家政婦のダンヴァース夫人(ジュディス・アンダーソン)が強烈に怖かったが、いま見るとそれほどでもない。
美術はセルズニックの面目躍如、素晴らしく立派で見事なもの。製作は「風と共に去りぬ」と同時進行だったと思うが、ライル・ホイラーの仕事ぶりは流石の一言。誰の監督作品であろうと、ひと目でセルズニック映画とわかるのは、彼が美術監督だからこそ。セルズニック・ブランドの看板を背負っている。
セルズニックのお仕着せ企画で、あまり乗り気じゃなかったみたいな発言を残しているヒッチコックだが、なかなかどうして、ダンヴァース夫人が自殺を教唆する場面、ド・ウインター卿が先妻レベッカが死んだときの様子を語るボート小屋の場面などに、ヒッチの技が光っている。
モンテカルロで知り合ったフォンテインとオリヴィエが結婚するに至る第1幕が少々かったるい。マンダレー城に入ってから先妻の幻影に翻弄される第2幕がジョーン・フォンテインの魅力で最大の見所。
裁判劇となる第3幕はヒッチコックらしいミステリー仕立てではあるものの、これといった趣向もなく、ストーリーをなぞるだけで平凡。
ここでオリヴィエを強請るレベッカの従兄弟を演じているのは、ヒッチの次回作「海外特派員」で現地特派員役だったジョージ・サンダース。ロバート・ヴォーンをちょいともっさりさせた感じ。
レベッカが末期ガンで自暴自棄になっていたとの証言を得て、ド・ウインター卿の死体遺棄の罪まで揉み消してしまう強引なオチは(トーキー第1作の「ゆすり」と同様)、ヒッチらしいアンモラルなハッピーエンド。
狂ったダンヴァース夫人が火を放ちマンダレー城が焼失してしまうラストまで、原作者ダフネ・デュ・モーリアがシャーロット・ブロンテの「ジェーン・エア」を下敷きにしていたことは間違いない。
その「ジェーン・エア」は、1944年版でジョーン・フォンテインがタイトルロールをつとめている。彼女がいいのは断然「レベッカ」。本作でのフォンティンのキャスティングはセルズニックから押し付けられたものだったろうけど、ヒッチは「断崖」でも彼女をヒロインに起用している。
ヒッチコックは女優を魅力的に見せる名人。ヒッチ作品の出演がこの2作のみというのは残念。ヒッチコック映画でもっとジョーン・フォンテインを見たかった。
65点
#特集 ゴシック・ロマンス
#ヒッチコックの映画術(2)
2021/07/09
ジェーン・エア
JANE EYRE
1944年(日本公開:1947年10月)
ロバート・スティーヴンソン オーソン・ウェルズ ジョーン・フォンテイン マーガレット・オブライエン ペギー・アン・ガーナー エリザベス・テイラー メエ・マーシュ アグネス・ムーアヘッド オーブリー・メイザー
シャーロット・ブロンテ原作の文芸ロマンス。監督は後年「メリー・ポピンズ」などディズニーお抱えとなったロバート・スティーヴンス。音楽はバーナード・ハーマン。
寄宿学校に入れられ、理不尽な環境で育ったヒロイン(ジョーン・フォンテイン)が、ロチェスター家の家庭教師となり、お城の貴族(オーソン・ウェルズ)に見初められ、結ばれるまで。長大な原作小説をダイジェストで映画化。
端折ったところは、原作本の朗読ナレーションのショットでつないでいる。
最初の結婚に失敗した貴族に暗い過去の秘密が隠されていたり、ラストで豪勢なお城が全焼してしまうあたりは、フォンテインの出世作「レベッカ」と同じ。
ジョーン・フォンテインは1917年生まれ、オーソン・ウェルズは1915年生まれで2歳しか違わない。キャスティングは、むかし見たことのある1970年版(スザンナ・ヨークとジョージ・C・スコット)のほうがしっくりきてたように思う。
60点
#特集 ゴシック・ロマンス
2021/07/10
断崖
SUSPICION
1941年(日本公開:1947年02月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョーン・フォンテイン ケイリー・グラント ナイジェル・ブルース セドリック・ハードウィック デイム・メイ・ウィッティ イザベル・ジーンズ ヘザー・エンジェル レオ・G・キャロル
フランシス・アイルズのミステリー小説「犯行以前」の映画化。
ロンドン社交界の人気者(実は詐欺師)と恋に落ちた富豪令嬢は、相手の素性もよく調べないまま両親の反対を押し切り駆け落ち結婚する。新婚旅行から帰ってくるとすぐに、男が無職で信用ならないことが分かってくる。親戚の紹介で就職した会社の金を使い込んで競馬場通いしたり、結婚祝として実家から贈られた由緒あるアンティーク椅子も勝手に売り払ってしまう。不動産取引のパートナーがパリで事故死したと知って、自分も財産目当ての結婚で、近いうちに殺されるのではないかと疑いだす。
不安に怯える新妻を「レベッカ」「ジェーン・エア」のジョーン・フォンテイン。
屈託ない笑顔だけが取り柄のお調子者の夫を「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」などに出演していたケイリー・グラント。これがヒッチコック映画初出演。
ジョーン・フォンテインの母親を演じているのは「バルカン超特急」のミス・フロイ(デイム・メイ・ホィッティ)。彼女のヒッチ映画への出演はこの2本だけらしい。
ドキドキの疑心暗鬼とユーモアの波状攻撃。光る牛乳、断崖絶壁の暴走。ヒッチコックの卓越した「映画術」に好き勝手に操られ、手玉に取られる。
むかしむかしに見たときは、陽気で挙動不審なケイリー・グラントの芝居がどうにも作為的で、その不自然さにピンとこなかったが、スクリューボール・コメディ全盛期の時代だからこそのケイリー・グラントと知って見れば、納得できるキャスティング。
本作と前後して製作された「赤ちゃん教育」「ヒズ・ガール・フライデー」「毒薬と老嬢」といったケイリー・グラント主演映画の流れの中に「断崖」を置いたとき、本作はスクリューボール・コメディとサスペンスを、ヒッチコックが意図的に融合させた異色作として認識される。
65点
#ヒッチコックの映画術(2)
2021/07/18
旅愁
SEPTEMBER AFFAIR
1950年(日本公開:1952年04月)
ウィリアム・ディターレ ジョセフ・コットン ジョーン・フォンテイン ジェシカ・タンディ フランソワーズ・ロゼー ロバート・アーサー ジミー・ライドン
ジョーン・フォンテインを追いかけて、50年ぶりくらいに再見。「レベッカ」のころよりはグッと大人になったフォンテインと、ジョセフ・コットンによるメロドラマ。
製作は数多くのヒット作を放ったハリウッド・タイクーンのハル・B・ウォリス。監督はベテラン職人ウィリアム・ディターレ。これ見よがしな演出はないけれど手堅く作られている。
「旅愁」といえば「セプテンバー・ソング」。CDなどの曲目解説でも、映画「旅愁」に使われリバイバル・ヒットしたと書かれている。
映画はラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」をクライマックスに用意している。
コンサートでピアニスト役のジョーン・フォンテインが弾いて拍手喝采。感動的に盛り上がる。
ハリウッドはラフマニノフが好きだね。新しいところでは、「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で「交響曲第2番」が使われていた。
本作の音楽監督は甘美なオーケストレーションに本領発揮のヴィクター・ヤング。
コスミック出版の500円DVDは音割れしていて残念。
前半はイタリア観光。
ローマに始まって、ナポリ、ベスビオス火山とポンペイ、カプリ島、フィレンツェとイタリアの歴史遺産・名所が、現地ガイド付きで紹介される。
カプリ島の青の洞窟はテクニカラーで見たかったなあ。
目当てのフォンテインは美しく魅力的に撮られていたが、ピアノ教師役のフランソワーズ・ロゼーとコットンの奥さん役のジェシカ・タンディが、奥行きのある役作りで良好。ジェシカ・タンディがフランソワーズ・ロゼーを訪ねてくる場面など、普通に撮っているだけなのに二人の存在は際立っている。ここの芝居がいちばんの見所かも。
ジョセフ・コットンは本作でも地味。
ときおり場面に子供を登場させるのは、子供好きな人物に悪人はいないという観客の先入観を利用した脚本の常套手法。
ポピュラー音楽を介して男と女が惹かれ合う、去ってゆく女を男が空港で見送る、これも「カサブランカ」以来の伝統手法。
そうだ、「カサブランカ」もハル・B・ウォリスの製作だった。
65点
#イタリア・ロマンスの旅
2021/07/19
旅情
SUMMERTIME
1955年(日本公開:1955年08月)
デヴィッド・リーン キャサリン・ヘプバーン ロッサノ・ブラッツィ イザ・ミランダ ダーレン・マクギャヴィン マリ・アードン ジェーン・ローズ イターノ・アンディエロ
地味な仕事でコツコツと貯めたお金で休暇をとり、ヴェニスに観光旅行。
恋愛に縁がなかったオールドミス(死語!)のキャサリーン・ヘプバーンが、現地の骨董屋主人(ロッサノ・ブラッツィ)とつかの間の恋を楽しみ、アメリカに帰ってゆく。
さすがにデヴィッド・リーンが撮ると観光映画でもワンショット、ワンショットに説得力がある。アーサー・ローレンツの舞台劇をリーンとH・E・ベイツが共同脚色。単純に名所を見せるだけでなく、土地柄というか情感が伝わってくるジャック・ヒルデヤードの撮影が素晴らしい。やっぱり観光映画はカラーが嬉しい。
ヘプバーンは、キンキンした声と早口でちょいと苦手な女優さんだけど、本作は役柄がうまくマッチして好感。中年女性の独立心と孤独感が素直にスケッチされている。運河に小石を投げるシーンとかいいね。くちなしの花で男の純情を嫌味なく見せたロッサノ・ブラッツィも好演。
8ミリ・カメラで観光名所を撮りまくるヘプバーン他、アメリカ(戦勝国)観光客の皮肉も苦笑を誘う。(たぶん戦争で孤児になった)アンディエロ少年がいいアクセントになっている。彼を敗戦国イタリア側の視点で追いかけるとデ・シーカの「靴みがき」になる。ラブシーンの花火置き換えも無理がない。カップルがゴンドラに乗るってことは、つまりそういうことなのね。
ビーフステーキがなければ目の前にあるラビオリを食べればいい。
70点
#イタリア・ロマンスの旅
2021/07/20
終着駅
STAZIONE TERMINI
1953年(日本公開:1953年09月)
ヴィットリオ・デ・シーカ ジェニファー・ジョーンズ モンゴメリー・クリフト リチャード・ベイマー ジーノ・チェルヴィ
すべての道はローマに通じる。
ヴィットリオ・デ・シーカ監督以下スタッフはイタリア人ばかりだが、デヴィッド・O・セルズニック製作のアメリカ映画。
主演はセルズニックのジェニファー・ジョーンズとモンゴメリー・クリフト。
前年(1952年)の「真昼の決闘」を意識していたのか知らないけど、時計のカットを頻繁にインサートして上映時間と劇の進行のタイミングを合せたストーリー構成。
人妻のジェニファーがイタリア旅行中に恋仲になったモンゴメリー・クリフトのアパートを訪ねるファーストシークェンスのあとは、落成したばかりのローマ駅に舞台を固定。
そこを往来する人々のスケッチに、デ・シーカらしい庶民派タッチの人情がうかがえる。公衆電話のナンパ中年男(パオロ・ストッパ)とかコミカルなのも面白いが、構内警察の室長がみせる粋な温情裁きが本作のハイライト。池波正太郎「鬼平犯科帳」にも似たエピソードがあったような気がする。
三等客の待合室でジェニファーが知り合う移民一家、その子どもたちに両手に持ちきれないほどのチョコレートを買い与える場面はデ・シーカならではのネオレアリズモ。
主役ふたりの恋の成ゆきはセリフによって説明される。
その(アップを多用した)やりとりはいささかネチッこくて、うざったい。ジェニファーの目まぐるしく変化する表情は、もはや怪演と呼びたいくらいに凄味がある。
ジェニファーおばさんにスーツケースとコートを届ける少年は、のちに「ウエスト・サイド物語」でトニー役を演じたリチャード・ベイマー。
65点
#イタリア・ロマンスの旅
2021/07/20
ローマの休日
ROMAN HOLIDAY
1953年(日本公開:1954年04月)
ウィリアム・ワイラー オードリー・ヘプバーン グレゴリー・ペック エディ・アルバート パオロ・カルリーニ ハートリー・パワー マーガレット・ローリングス ハーコート・ウィリアムズ クラウディオ・エルメッリ
すべてのロマコメは「ローマの休日」に通じる。
ロマコメ、ラブコメといえば、多くの映画ファンが真っ先にタイトルを挙げるであろう、ロマンチック・コメディの代表作。
欧州某国の王女が身分を隠してアメリカ人の新聞記者と一日だけのデートを楽しむ。
細かいギャグがテンポ良く配置され、終盤は王女の成長がぐっとストーリーを引き締める。グレゴリー・ペックが記者会見場を去るときの、哀愁漂うラストの余韻がいい。
オードリー・ヘプバーンの代表作でもあるが、ウィリアム・ワイラーとしては異色。
なにしろ、長いキャリアのなかでコメディは戦前の「お人好しの仙女」、戦後は本作と「おしゃれ泥棒」くらい。人間の心理描写をじっくり丹念に撮るのが得意で、本来は明朗な作風の監督じゃないのだけど。
文芸ロマンス「嵐ヶ丘」、歴史スペクタクル「ベン・ハー」、西部劇「大いなる西部」と、いろんなジャンルの代表作を撮っている。「デッドエンド」、「探偵物語」、「必死の逃亡者」、「コレクター」などの犯罪もの、サスペンス映画も上手い。
なんでもござれの職人監督で腕前は一級。
巨匠とはまさにこの監督。
75点
#イタリア・ロマンスの旅
#ハリウッド映画の巨匠:ウィリアム・ワイラー