マルキ・ド・サドの逆襲
January 22, 2004
いつも掲示板を訪問してくださっているクウガさんへの返信も兼ねて、
ラロ・シフリン「マルキ・ド・サド」のご紹介。
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ラロ・シフリン「マルキ・ド・サド」
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「マルキ・ド・サド」は略称で、正式のアルバム・タイトルは、
「THE DISSECTION AND RECONSTRUCTION OF MUSIC FROM THE PAST AS PERFORMED BY THE INMATES OF LALO SCHIFRIN'S DEMENTED ENSEMBLE AS A TRIBUTE TO THE MEMORY OF THE MARQUIS DE SADE」
(サド侯爵の追憶についての賛辞としてラロ・シフリンの狂気のアンサンブル囚人により演奏されたアンティーク音楽の解体と再生)
この奇抜なタイトルは、映画「マルキ・ド・サドの演出によりシャラントン精神病院の患者たちによって演じられたジャン=ポール・マラーの迫害と暗殺」のパクリでしょう。
奇怪なジャケットデザインとともに、後にCTIを興すプロデューサー(Jazz界のジョエル・シューマッカー?)クリード・テイラーによるアイディアだと思われます。
内容は、不気味なジャケットの印象とは関係なく……バッハやヘンリー・パーセルなどの古典派作曲家が1966年当時のJazzシーンに生きていたら、こんな音楽を書いたに違いないと感じさせる内容で、編成の大きな演奏はまるでカウント・ベイシー楽団のようにダイナミックに、小規模編成のものはMJQのジョン・ルイスが嫉妬するほどに優雅なアンサンブルが記録されております。
(ジョン・ルイスもガレスピー楽団のピアニストとして在籍していたので、その頃の交流のなかで、シフリンはこのアルバムのコンセプトを思いついたのかも知れません)
とは言え、ウエストでもなくイーストでもなく、一風変わった編曲を愉しむゲテモノ趣味なのは否定できません。真面目なJazz愛好家ほど無視し、よって長い間廃盤の憂き目に遭ってしまったことも納得せざるを得ません。
演奏は、下のパーソネルをご覧になればお分かりのとおり、西海岸のスタジオで活躍していた凄腕ミュージシャンによるものなので、ビッグバンド編成の演奏も一糸乱れぬ完璧さです。
1. オールド・レース
Old Laces (4:20) - C
2. ザ・ウィグ
The Wig (2:40) - B
3. ザ・ブルース・フォー・ジョン・セバスチャン
The Blues for Johann Sebastian (3:05) - B
4. ルネッサンス
Renaissance (aka Madrigal) (3:15) - A
5. ビニース・ザ・ウィーピング・ウィロウ・シェイド
Beneath a Weeping Willow Shade (2:30) - A
6. ヴェルサイユ・プロムナード
Versailles Promenade (3:55) - D
7. トルバドール
Troubadour (3:00) - B
8. マルキ・ド・サド
Marquis de Sade (2:45) - D
9. アリア
Aria (2:30) - A
10. ボサ・アンティーク
Bossa Antique (3:26) - B
Recording Date & Personnel
A - Englewood Cliffs, New Jersey: April 27, 1966
Ernie Royal (tp); Jerome Richardson (alto f,ts); Lalo Schifrin (p); Gene Bertoncini (g); Richard Davis (b); Grady Tate (d); Gloria Agostini (harp); Rose Marie Jun (vcl); Christopher Williams, Gene Orloff (vln); Harry Lookofsky (tenor vln); Alfred V. Brown (viola); George Ricci (cello).
B - Englewood Cliffs, New Jersey: April 28, 1966
Jimmy Maxwell, Ernie Royal, Clark Terry, Snooky Young (tp); Urbie Green, J.J. Johnson, Kai Winding (tb); Tom Mitchell (bass tb); Don Butterfield (tu); Ray Alonge, Richard Berg, James Buffington (frh); Jerome Richardson (f,alto-f); Romeo Penque (f,ts); Lalo Schifrin (p); Richard Davis (b); Grady Tate (d).
C - Englewood Cliffs, New Jersey: April 28, 1966
Ernie Royal (tp); Jerome Richardson (alto f); Lalo Schifrin (p); Gene Bertoncini (g); Richard Davis (b); Grady Tate (d).
D - Englewood Cliffs, New Jersey: April 28, 1966
Ernie Royal (tp); Jerome Richardson (alto f); Lalo Schifrin (harpsichord); Gene Bertoncini (g); Richard Davis (b); Grady Tate (d).
All composition and arrangements: ラロ・シフリン Lalo Schifrin
Producer: クリード・テイラー Creed Taylor
Engineer: ルディ・ヴァン・ゲルダー Rudy Van Gelder
2002年、シフリンは自己のレーベルAlephに、続編の「RETURN OF THE MARQUIS DE SADE」を録音しています。もちろんメンバーは異なりますが、30年の歳月を感じさせない、まったく同じようなテイストのアルバムとなっております。
自信作だった「マルキ・ド・サド」を、Verveがなかなか再リリースしてくれないので、業を煮やしたシフリンが、「じゃこっちでもう一度作っちゃうもんね」と開き直ったのかも知れません。
こちらのサイトで1部試聴できます。
RETURN OF THE MARQUIS DE SADE de LALO SCHIFRIN en DiscoWeb
作曲家/アレンジャーとしてのラロ・シフリンの実力が爆発しているのは、正直に申しまして、やはりガレスピー楽団時代に残した「GILLESPIANA」だと思いますね。
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GILLESPIANA
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こちらもシフリンは、1996年のライヴをAlephレーベルからリリースしています。
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GILLESPIANA Lalo Schifrin
Aleph 1996年ライヴ録音
1. Prelude [Gillespiana Suite] |
新録音の主役(トランペット)は、ジョン・ファディス。
ファデスも巧いんですけど、ガレスピーとじゃ役者が違いすぎます。『七人の侍』をリメイクしたとき、他の6人についてはキャスティングできても、菊千代(三船敏郎)の代役は誰がやっても批判に晒されてしまうようなもんですね。