誘拐者 折原一
文春文庫 (1995-2002)
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誘拐者 折原一
「私の赤ちゃんを返して!」 |
逆恨み作家、折原一の倒錯サスペンス。
例によって例の如く、新聞記事や登場人物による手記の断片を散りばめて構築された叙述トリックもの。
こいつとあいつが同一人物で、しかもこいつはあいつの成りすまし……まるでモラル・ハザードで荒れた電子掲示板のような、「誰がどいつで、こいつは誰やねん?」の興味で一応ラストまでイッキ読み。
但し、例によって例の如く、素人が書いた手記の部分はあまりに作為的で、「これサービス過剰やで、ほんま素人さんが書いたんかいな?」と自然な疑問。
なかでも末期ガンの患者が痛みに苦しみながら綴った文章が、まるで通俗小説並みの面白さで書かれているのは、シラケてしまう。これが『倒錯のロンド』だったら、主人公は二人とも作家志望者なので、作為的な文章でもOKなんだけどね。
今回はディテールに穴も多い。ツッコミどころ満載。勘が良いのか悪いのか、気付いたり気付かなかったり、ご都合主義が目に余る。
なによりも、誘拐された「二人のあすか」の心情がおざなりにしか描かれていないのが、最大のウィーク・ポイント。他の登場人物は多かれ少なかれ心が歪だから行動原理がブッ飛んでいても(……どうせキチガイのするこった……)許せるけど、不幸な運命に弄ばれた「二人のあすか」だけは、丁寧に気持ちを汲み取っておくべきでしょう。
それから、中盤、サイコ女が駅の改札を跳び越え、走り出した電車を追いかける場面は、かなりの迫力。サイコはやりすぎると笑いになるという好例。
(これも例の手記なんだよ。どうしてそんなに面白く書いちゃうのかしら?)