soe006 ウィリアム・カッツ 「恐怖の誕生パーティ」

恐怖の誕生パーティ ウィリアム・カッツ

新潮文庫 (1984-1985)

恐怖の誕生パーティ ウィリアム・カッツ
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恐怖の誕生パーティ ウィリアム・カッツ
原題「Surprise Party」 翻訳:小菅正夫

愛する夫の誕生パーティに、昔の友人を呼んでびっくりさせようと、サマンサは夫の過去を調べ始めた。が、在籍したはずの学校、会社、軍にさえ、彼の記録はなかった。いったい夫は誰なのか……。
一方警察は、毎年同じ日に起きる鳶色(とびいろ)の髪をした女の連続殺人を必死に捜査していた。運命の日は12月5日。そして、その日はサマンサの夫の誕生日でもあった。

奥さんが旦那に殺される、または殺されそうになるストーリーは、もうウンザリするほどたくさんあって、その動機は財産や保険金などの金銭目当てだったり、愛憎のもつれだったりするけど、これは単純に殺すために結婚したという、発表当時大流行していた所謂ひとつのサイコキラー・サスペンス。
いや、もう、ほんとに……これが出た頃、話題になるサスペンス小説って、サイコばっかりだったのよ。どんなに理不尽な動機であっても、どんなに合理性に欠ける犯行であっても、「犯人はサイコだから仕様がない」みたいな甘えで書かれたものも多くて、残虐描写の凄惨さばかりを競っておりました。

本作『恐怖の誕生パーティ』は、そんなブームのなかでも一際光っていた、愛すべき小品のひとつであります。(一般的にサイコ・ブームは1988年――1989年に邦訳出版の『羊たちの沈黙』からみたいに言われてますが、それ以前から激増しておりました)
奥さんが夫をびっくり(サプライズ)させようと彼の旧知の人たちを捜し始めるところ(発端)から、逆に奥さんがびっくり(サプライズ)してしまうパーティ当日(クライマックス)まで、ドキドキハラハラ。犯行日が予め決定しているタイムリミット・サスペンスなので、奥さんの疑惑、夫の不審な行動、警察の捜査、着々と準備を整えてゆく犯人など、ストーリーは複数の流れを平行的に追ってクライマックスへと突入します。ダレる間も与えずサクサク進行するテンポの良さに、思わず徹夜してしまうこと必至の面白本。
事件当夜はちょっとしたトリックのヒネリもあって、ホッとひと安心の直後にドッキリドキドキのショック効果が施されています。すべてが終わった後に用意されたエピローグも、意外性があってニンマリ。(これは好き嫌いが分かれるところかな?)
夫に不信感を膨らませてゆく奥さんの描写がしっかりしているので、安物っぽくなく、けっこう読み応えがあります。

作者のウィリアム・カッツは、デビュー作『潜航ノースター十字軍』や英国旅客機に偽装したソ連の爆撃機がアメリカ本土を奇襲する『コパーヘッド』など軍事小説の大作を書く一方で、本作のような小粋なスリラーも書いている量産型の職人作家。既成のアイディアを換骨奪胎して再構築したようなものばかりで独自性には欠けるけど、どれも読者サービスが行き届いていて面白い。メアリ・ヒギンズ・クラークの初期の2作(『子供たちはどこにいる』『誰かが見ている』――どちらも新潮文庫)で徹夜してしまった方にオススメします。

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