soe006 ディーン・R・クーンツ 「ウォッチャーズ」

ディーン・R・クーンツ/ウォッチャーズ

March 21, 2006

今年は戌年なので、年頭1発目にこれを採り上げよう。
と思って再読していたのですが……ほったらかしになっていました。
ごめんなさい。

ウォッチャーズ ディーン・R・クーンツ
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ウォッチャーズ ディーン・R・クーンツ
翻訳:松本剛史(文春文庫)

特殊部隊に所属していたトラヴィスは、最愛の人間が次々と非業の死をとげてゆくのに絶望し、孤独な隠遁生活をおくっていた。ある日、絶望感に悩まされ山歩きしている彼の前に、1匹のゴールデンレトリーヴァーが近づいてきた。森で拾ったその犬には、なにか知性のようなものが、意志に似たものが感じられる。トラヴィスは、犬に「アインシュタイン」と名を与え、半信半疑の対話を試みる。徐々にわかってくる信じがたい事実。それにしても、犬は何を警戒しているのだろう。繁みの陰に、暗闇の奥に、なにか恐るべき「もの」がひそんでいるのか。

おそらく日本で一番読まれたクーンツ作品。主人公トラヴィスと、同じく孤独な生活をおくっている女性ノーラとのロマンス。二人を引き合わせるレトリーヴァーの無邪気な愛らしさ。彼らを襲う邪悪な存在。そして忘れてならないのが、レトリーヴァーと同じ場所で生まれ、悲痛な宿命を背負わされた、もうひとつの生物がかかえる深い怒りと悲しみ。
泣けるモダンホラーとして爆発的に売れた、ベストセラー作家クーンツの真骨頂。

実際に手にとって表紙をご覧いただけば、お察しいただけると思いますが……
文庫本上巻カバーには尻尾つき四足歩行の動物が、下巻カバーには暗い表情の中年男が描かれています。2冊並べると、お互い目と目をあわせ、心かよわせている情景となります。
そこで善良なる読者は、ははぁ、これは動物と人間の心温まる交流を描いた感動作なのであろう、とか想像して手に取り、上記あらすじを読んで、これは面白そうだぞ! とレジへ向かう。
たぶんそんな感じで、本作はバカ売れしました。

『ファントム』とか『ウィスパーズ』(ともにハヤカワ文庫)、『戦慄のシャドウファイア』(扶桑社ミステリー文庫)、『ストレンジャーズ』(文春文庫)などを、すでに読んでいた好き者趣味人は、「お、クーンツの新作だ! ヤッホー!」なんて、小躍りしながらレジにすっとんでいったことでしょう。

面白いですからね、クーンツは。

御本人自ら、『ベストセラー小説の書き方』(朝日文庫)で、面白くない小説はクズだ、って宣言しちゃってる以上、サスペンスだろうが、SFだろうが、ホラーだろうが、どんなものを書いても、絶対に面白くしちゃう……それ以外にはなんにもないけど。

バカバカしいけど、面白い。これは理屈抜き。

なにしろ、表紙に描かれている尻尾つき四足歩行の動物は、見た目こそゴールデンレトリーヴァーですが、実は犬ではない。その証拠に人語を解し、本も読む。趣味はミッキーマウスのアニメ鑑賞。作中では英語だけしか出てきませんが、仮想敵国の諜報活動用に開発された生物なので、ロシア語はもちろん、もしかしたら日本語もできるはずです。

主人公トラヴィスも、妻に先立たれ、そのショックから世捨て人の如き日々を過ごしている、たそがれ中年男のように見えますが……かつてはデルタ・フォースでテロリスト相手に戦ってきたプロフェッショナル。
身につきまとう孤独の理由は、戦闘で次々と仲間が死んでゆくなか、自分だけが生き残ってしまったことの悲しみと絶望であったわけです。自分だけ生き残れたってことは、それだけ彼が優れた戦士であった証明でもありまして……読者は、クライマックスに向けてどんなアクション場面が仕掛けられているのだろうと、期待に胸ふくらませちゃうわけですよ。

もうひとり、中年男との出会いで自分を取り戻してゆくハイミス(死語?)の女性が登場します。幼い頃から家に閉じこめられ、世間と隔絶した青春時代を過ごしてきた孤独でさえない女性。まあ、部屋にはテレビもあったわけで、それほど世間知らずなわけないんですが……細かいこと気にしてたらクーンツは愉しめません……外出先のレストランでの、「わたし、どうしたらいいのか分からないの」ってカマトトぶりが胸キュン(<もっと死語?)です。
もっとも、彼女も(実は)才色兼備のスーパーウーマンですけどね。

その他、研究所から脱走した生物を極秘で捜索している国家安全保障局の捜査官や、情報漏洩を隠蔽するため研究に関わった関係者を次々と殺してゆく狂気の殺し屋やら、ヒロインに執拗につきまとうレイプ魔やら、主人公たちを助けるために献身的な大活躍をする老弁護士やら、ストーリーを面白くするためにいろんな人物たちがわんさか出てきます。

多彩な登場人物が出たり入ったりするなか、本作の一番人気は、〈アインシュタイン〉と同時に開発された、殺戮兵器の〈アウトサイダー〉でしょう。
外見は、すげえ怖くて気持ち悪くて凶悪凶暴な感じらしいです(なんだかよく分からないけど)。
趣味は〈アインシュタイン〉と同じく、ミッキーマウスのアニメ鑑賞。
持って生まれた宿命ゆえ、執念深く〈アインシュタイン〉を追っていきます。こいつと主人公たちとの最終決戦がクライマックス。映画『ブレードランナー』でルトガー・ハウアーが演じた人造人間に感動した人は、こいつの最期に涙するかも。

主人公サイドはすべて善人で、愛と勇気と希望と誇りをもち、悪役サイドは全員良心のかけらもない冷酷なパラノイア。はっきりしています。
謎があり、危機があり、恋愛があり、友情があり、サスペンスがあって、アクションがあり、最後は絶対にハッピーエンド。
とても分かりやすい。
まあ、そんなお話なので(クーンツの小説はすべてそうですが)、B級映画の醍醐味がたっぷり味わえます。

ちなみに本作は、1988年にロジャー・コーマンが『ウォッチャーズ第3生命体』として映画化。なんと、主人公の中年男が少年になっちゃっていて吃驚仰天。原作というより、設定だけ借りた別物です。マイケル・アイアンサイドがいつもより増して奇怪な役作りで捜査官を演じてましたが、クソ映画なので、未見の方は無理して観ることもないでしょう。
ほとんどのクーンツ作品が映画化(またはTVM化)されていますが、全部駄作。これはクーンツの本質が、そうさせているのだから仕方ないことでしょう。

ディーン・R・クーンツ Dean R.Koontz
1945年ペンシルベニア州ジャクソン生まれ。シッペンズバーグ大学在学中にSF短編小説が出版社に売れ、1968年に「Star Quest」で長編デビュー。70年代はさまざまなペンネームを駆使してジャンルを問わずに多数の小説を発表。70年代後半からホラー分野に転換し、80 年の『ウィスパーズ』でブレーク後は、スティーブン・キングと並ぶモダンホラーの売れっ子作家となり、その後もエンタテインメント・サスペンスの巨匠として活躍している。一方、小説だけではなく、詩作や児童向け書籍の執筆、映画の脚本なども手がけてもいる。映画化された作品もキング同様に多い。(但し、映画化作品はほとんど失敗作で、話題にもならないクズばかり)
クーンツは自ら、「小説の第一の務めは楽しませること」と宣言しているように、エンタテインメントに徹した職人肌の作家。SF、ミステリー、サスペンス、ロマンス、ホラーと、あらゆるジャンルをミックスした作品は、まさにジェットコースター・ノベルで読み出したら止まらない。読後さっぱり何も残らない点も含めて、「モダンホラー界のシドニー・シェルダン」と揶揄されることもある。近年はシェルダンと同じアカデミー出版から超訳で邦訳出版されることが多くなり、ファンを嘆かせている。
クーンツ作品の特徴として、すべての作品に共通してシラケるほどの道徳観倫理観が披露されているが、これは、彼の父親が極度のアルコール依存症だったことが関係しているらしい。

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