soe006 シンデレラ

この日記のようなものは、すべてフィクションです。
登場する人物、団体、裏の組織等はすべて架空のものです。ご了承ください。

シンデレラ

October 6, 2004

むかしむかし、私はシンデレラに突き飛ばされ、
あやうく車に轢かれそうになったことがある。

シンデレラは四人姉妹の末っ子で、生まれつき器量も悪く、
頭も弱かった。
そのコンプレックスから、美人揃いと評判だった上の姉たちを逆恨みし、たびたび酷い悪戯を仕掛けていた。
姉たちのすべての化粧品の瓶に、細かく砕いたガラスの破片を混ぜていたこともある。気づかれないようこっそりと、クリームの表面を綺麗に撫で、蓋を開けても一見して分からないよう偽装していたという行為に、妹の偏執的な性格を垣間見ることができる。

見るに見かねた母親が、妹に西洋のお伽噺を聞かせてやった。

意地悪な母親と姉たちに虐げられていた末妹が、魔法使いの援助を受け王宮の舞踏会に侵入。そこで王子様に見初められ、やがて王妃となって姉たちを見返すという、極めて不自然なプロットの脳天気なサクセス・ストーリー。

しかし、いささか頭の弱かった妹は、極めて自然にその与太話を受け入れた。
自らシンデレラになりきり、従順な末妹を演じ始めた。
悪質な悪戯はピタリと治まり、進んで家事を手伝い、姉たちのお下がりの服をわざとボロボロに汚して着るようになった。みっともないから着替るように促すと、「ごめんなさい、もうしません、ごめんなさい、ごめんなさい」と床に額をこすりつけ、泣いて謝った。

ゴールデン・ウィークや夏休みが近づくと、シンデレラは旅行会社のパンフレットをどっさり貰ってきて、それを部屋のあちこちにばらまいた。テーマパークや温泉案内の番組をやっていると、さりげなくボリュームを上げ、家族の関心をテレビに向けさせようとした。だけど彼女は、旅行の出発日には決まって頭痛や腹痛を訴え、独りで留守番すると強情をはり、決してみんなと一緒に行動しようとしなかった。
そして家族が出かけてしまうと、気持ちの悪い笑みを浮かべ、何かを期待しながら台所の床を磨いていた。

やがて歳月は流れ、
三人の姉たちはそれぞれ裕福な家に嫁いでいった。
シンデレラは、五十を過ぎた今でも、独りで、老朽化した台所の床を磨いている。アカギレでひび割れた手でボロ雑巾を絞り、ささくれた台所の床を、ひたすら磨いている。
いつか訪れるであろう、王子様を待ちながら。

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