soe006 クリスマス・プレゼント 第2話

この日記のようなものは、すべてフィクションです。
登場する人物、団体、裏の組織等はすべて架空のものです。ご了承ください。

クリスマス・プレゼント 第2話

December 23, 2005

もうすぐクリスマス。
師走の寒風は鋭く厳しく、男の身を凍てつかせ、心臓を突き刺していた。
男は妻を心から愛していた。しかし男は貧しかった。
男の妻は若くて美しかったが、地味で化粧っ気がないものだから、表情は暗く、陰気な感じがして、実際よりもうんと老けてみえた。
「嗚呼、愛しい妻に口紅と香水を買ってあげられたら、どんなに素晴らしいことだろう。きっと華やいだ雰囲気になって、妻もぼくも幸せになれるだろうに」
男は長く悩んだ末、妻へのプレゼントを買うために、思い切って求人広告の場所へと行ってみた。

そこには10人くらいの男たちがいた。年齢は10代から50代まで様々で、痩せてたり太っていたりいろいろなタイプがいる。しかし、全員洒落た服装で身をつつみ、彼らの笑顔には自信に満ちた輝やきがあった。この商売で飯を食っている者たちならではの、ゴージャスな雰囲気を醸し出していた。
一番人気の男は、指名を受けて仕事に出て、戻って椅子に腰掛ける間もなく次の指名が入るほどで、名実共にピストン運動と呼べる働きようだった。
「きみ、もっとニコヤカにしてられないのかい。隣で暗い顔されているとお客が寄りつかないだろ。はっきり言うと営業妨害。迷惑だから帰ってくれよ」と、親切にアドバイスしてくれたのは、まだ鬚も生えていないあどけない少年だった。彼はすでに3回目の指名を受けていた。
男の胸中は、恥ずかしさと悔しさと、やりきれない気持ちでいっぱいになった。この仕事は時間給でなく歩合制だ。指名がなければ1円にもならない。時計の針虚しくは回り続ける。
男は立ち上がり、ドアへと向かった。
「ここはぼくの居場所じゃない。こんな商売、ぼくには向いていない。ほら、着ているものからして、ぼくは彼らとぜんぜん違うじゃないか……もう帰ろう、愛する妻が待っている、ぼくの家に」
ちょうどそのとき、反対側からドアを開けた妙齢のご婦人が、彼に目を止めた。「あら、あなた見かけない顔だけど新人さん? 店長、わたしこの人にするわ」

男は馴れないなりに一生懸命お仕事を頑張った。その甲斐あってご婦人は、それなりのチップをはずんでくれた。
労働の後の清々しい汗が、男の胸に浮かんで、こぼれ落ちた。
男は帰路の途中、デパートに立ち寄り、高級口紅と高級香水を買い、プレゼント用の洒落た包装紙でラッピングしてもらった。

もうすぐクリスマス。
今年最初で最大の寒波は、女の頬を蒼白く強張らせ、雪解けの水たまりのように薄汚い気分にさせていた。
女は夫を心から愛していた。しかし女は貧しかった。
女の夫は若くて優しかったが、長い失業生活のせいで頭は白髪が混じり頬はこけ、鬱陶しいくらいに老け込んでいた。
「嗚呼、愛しい夫に新しいネクタイとシャツを買ってあげられたら、どんなに素晴らしいことでしょう。きっと華やいだ雰囲気になって、夫もわたしも幸せになれることでしょうに」
女は夫へのプレゼントを買うため、思い切って求人広告の場所へと行ってみた。

そこには10人くらいの女たちがいた。年齢は10代から50代まで様々で、痩せてたり太っていたりいろいろなタイプがいる。しかし、全員洒落た服装で身をつつみ、彼女たちの笑顔には自信に満ちた輝やきがあった。この商売で飯を食っている女たちならではの、ゴージャスな雰囲気を醸し出していた。
一番人気の女は、指名を受けて仕事に出て、戻って椅子に腰掛ける間もなく次の指名が入るほどで、名実共にピストン運動と呼べる働きようだった。
「あんた、もっと笑いなさいよ。陰気なタイプは嫌われるよ。っていうか、隣で鬱顔(うつがお)されてるとこっちまで感染してきそうで気味悪いんだよね。お客もついてないようだし、おばさん、もう帰ったら?」と、親切にアドバイスしてくれたのは、まだ下の毛も生えていないあどけない少女だった。彼女はすでに3回目の指名を受けていた。
女の頭の中は、恥ずかしさ悔しさと、惨めな気持ちでいっぱいになった。この仕事は時間給でなく歩合制だ。指名がなければ1円にもならない。時計の針は虚しく回り続ける。
女は立ち上がり、ドアへと向かった。
「ここはわたしの居場所じゃない。やっぱりこんな商売、わたしには向いていなかったんだ。ほら、お化粧だって全然違う。みんなが使っているのはわたしのような安物じゃない……もう帰ろう、愛する夫が待っている、わたしの家に」
ちょうどそのとき、反対側からドアを開けた赤ら顔の太った男と顔が合った。「おっ、きみは見かけない顔だけど新人さんか? 店長、今日はこの娘にしとくよ」

女は馴れないなりに一生懸命お仕事を頑張った。その甲斐あって赤ら顔の太った男は、それなりのチップをはずんでくれた。
労働の後の清々しい汗が、女の内股に浮かんで、こぼれ落ちた。
女は帰路の途中、デパートに立ち寄り、華やかな柄のネクタイとシャツを買い、プレゼント用の洒落た包装紙でラッピングしてもらった。

貧しくとも、愛のロウソクに火が灯ってさえいれば、
いつも心は暖かい。

クリスマスの朝、若くて貧しい夫婦は、用意していたプレゼントをお互いに交換し、その中身をみて驚き、興奮し、二人の愛情に心より感謝し、ついでにちょっとだけ神様にも感謝した。
そして、二人とも言葉には出さなかったが、まったく同じことを考えていた。

「よし、これで来年のクリスマスは、
もっと素敵なプレゼントを買ってやれる!」

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