すっかり春ですねえ
March 08, 2007
先日までのポカポカ陽気は、何処に行ったんでしょう?
ミシェル・ルグランが今年の秋に来日するそうなので、
これからしばらく、ルグラン・ジャズをお送りします。
本日は第1弾として、ビル・エバンスとトニー・ベネットのデュオ・アルバムから、ルグランの代表曲「You Must Believe In Spring」。

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Concord Jazz トニー・ベネット(vo)、ビル・エバンス(p)
1976年9月 サンフランシスコにて録音
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この曲をエバンスはけっこう気に入ってたらしく、彼の死後に追悼盤としてリリースされたWarnerBrothers盤でも演奏していました。

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WarnerBrothers
ビル・エバンス(p)
エディ・ゴメス(b)、エリオット・ジグモンド(ds)
1977年8月 ハリウッドにて録音
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ジャズとして演奏されることが多いですが、元々は映画音楽。
1967年製作の『ロシュフォールの恋人たち』のテーマ曲です。
ルグラン自身もピアノで何度も録音していますが、ほとんどVerveなどのジャズ・レーベルですし、ジャズ・オリジナルと思っている人は多いのではないでしょうか。

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ユニバーサルインターナショナル
オリジナル・サウンドトラック盤
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サントラ盤で「マクサンスの歌 Chanson de Maxence」とか「デルフィーヌの歌 Chanson de Delphine」とクレジットされているのが、「You Must Believe In Spring」。
レコーディング・データだけでは、分かりにくいですね。
久しぶりに聴いたのですが、これはなかなかの名曲です。
暦のうえでは春なのに、まだ肌寒く、みぞれ混じりの小雨なんか降っちゃってる日にピッタリ。
おフランスのジャズは、お洒落ザンス。
バルネ・ウィラン「ふらんす物語」
March 15, 2007
久しぶりに『シェルブールの雨傘』のサントラ盤を聴いてみたんですけど、カッコいいですね。
この映画は、全編のセリフが歌になっていて、地のセリフのないオペラみたいな作りになっています。音楽はすべて撮影前に先録りされていて、それにあわせて撮影・編集されてます(プレスコと呼ぶそうです)。
これはクロード・ルルーシュ&フランシス・レイ組も同じ事をやっていたんですが、実に格好良い映画に仕上がります。『男と女』や『パリのめぐり逢い』など、どれだけ日本のCMが真似したことか。MTVのはしりですね。技術は進歩しても、基本的なことは変わらない。『嫌われ松子の一生』まで連綿と続いてます。
例えば、ラロ・シフリンやデイヴ・グルーシンの映画音楽なんか、よくシネマ・ジャズとか言われますけど、そりゃ確かにご両人ともジャズ畑出身のコンポーザーではありますが……聴いていてジャズを感じないんですね。フィルムに合わせて演奏してるから、即興演奏ならではのスリルがない。
アレンジ譜どおりに演奏されるグレン・ミラー楽団みたいなものです。
ところがジャック・ドゥミー&ミシェル・ルグラン組のように、先に音楽を作った場合は、サントラ盤聴いていて、ジャズを感じる瞬間があります。ストリングス・オケがバックに付いてますから、完全に自由ではないですけど。
フィルム先行でジャズを感じさせるのは、マイルス・デイビスの『死刑台のエレベーター』くらいしか思い浮かびませんね。
その『死刑台のエレベーター』のセッションに参加してたのが、若き日のバルネ・ウィラン。
『死刑台のエレベーター』以降ずっと音信不通だったのですが、80年代後半に突然、直輸入盤が話題になり、スポットが当てられたんです。バルネの日本企画盤が何枚も制作されました。
今回紹介しているアルバムも、その中の1枚。

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Pony Canyon
バルネ・ウィラン(ts、ss)、マル・ウォルドロン(p)
スタッフォード・ジェイムス(b)、エディ・ムーア(ds)
1989年10月 オランダにて録音
01 男と女
02 死刑台のエレベーター
03 シェルブールの雨傘
04 危険な関係のブルース
05 黒いオルフェ
06 殺られるのテーマ
07 枯葉 オータム・リーヴス
08 クワイエット・テンプル
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往年のフランス映画の主題曲ばかりを選曲し、ヨーロッパ滞在歴の長いマル・ウォルドロンを共演させた、話題先行の企画盤。真っ当なジャズ・ファンなら鼻にもかけない。
ところがこれ、けっこうイイんです。
お洒落居酒屋とかでBGMとして垂れ流しするのには、ちょっともったいない程度に。
ヨーロッパのジャズは、黒人奴隷の怨念とか哀愁とか、泥臭い要素(ブルース・フィーリング)がスポーンと抜けてます。そこが欧州ミュージシャンが敬遠される大きな要因なんですが、バルネ・ウィランはそれに変わる黒い感触を持っているんですね。彼の演奏には、フランス製暗黒街映画(フィルム・ノワール)のダークな雰囲気が漂っています。共演者のマル・ウォルドロンは、かの「レフト・アローン」の作曲者ですから、そっちからの影響というのも大きいと思います。
「ふらんす物語」なんぞという軟弱な邦題が付いておりますが、(ケニー・バレルの「ミッドナイト・ブルー」にシビレちゃう)ハードボイルド派のジャズ・ファンは、聴いておいて損のない1枚です。