soe006 はじめてのジャズ

この日記のようなものは、すべてフィクションです。
登場する人物、団体、裏の組織等はすべて架空のものです。ご了承ください。

ジャズを聴きたいんですけど

April 29, 2003

ジャズを聴きたいんですけど、どんなCDから買ったらいいですか?
う〜ん、一口にジャズっても、いろいろあるから。
どんなのが好きなの?
そうですねぇ〜、ちょっと大人っぽくってお洒落なのがいいですね。
お洒落ねえ……。
聴いててリラックスできるようなイヤシ系の。煩いのはちょっと。
(うへ〜)

俺、ガキっぽくてダサくて喧しいのしか聴いてないから。
へぇ、そんなジャズもあるんですか、面白そうですね。
別に面白くないよ、そんなもん。
面白くないものを、わざわざ選んで聴いてるんですか?
そうだよ。個人の趣味だもの、勝手だろ?
……(5秒経過)

悪いね、せっかく電話してくれたのに力になれなくて。
……どうして面白くないものを聴くんですか?
さあね、なんでだろうね……あのさぁ。
はい?
俺、ジャズ聴いて癒された事って、今まで一度もないよ。
そうなんですか?
あんた、癒された事、ある?
……(3秒経過)
……(5秒経過)

あのぉ、すみませんでした(……ガチャン)

ところで、
「癒し」と「賤しい」は語感が似ていると思いませんか?

はじめてのジャズ

April 30, 2003

むかしむかし、もう20年以上も前の話。
中学1年と2年の間の春休みに、生まれて初めてジャズ・レコードを買った。

ソニー・ロリンズ『ウェイ・アウト・ウエスト』(Contemporary)

その理由1……ジャケットがすげぇカッコ良かった。

その理由2……1500円の廉価盤だった。

その理由3……ソニー・ロリンズの、名前だけは知っていた。
(当時、夕方のローカルニュースの際に来日コンサートのCMが頻繁に流れていて、とにかく名前だけは刷り込まれていた)。

ロリンズがいったいどういう人物で、他にどんなレコードがあって、そのうちどれが代表作だとかも知らず(って言うか、レコード屋でジャズの棚を覗いたのは初めてだった)、ピアノ・レスのトリオ編成がどうたらという理屈も知らず、そのレコードが何年に何処で録音されたとかにも興味はなく、アドリブなんてのも当然の如く分からないし、もちろん西も東も知らない。
ロリンズがどんな楽器を演奏しているのか……それだけはジャケットを見て分かった。 西部の荒野にカウボーイ・スタイルで突っ立っている男が、小脇に抱えているのはテナー・サックスだ。(当時、俺がまだボクだった頃、ブラスバンドでアルト・サックス吹いてたのよ。1年で止めたけど)
だからって、サックスのレコードが欲しかったわけでもない。

超カッコ良いジャケット・デザインのレコードを、1500円で売っていたから買っちゃった。ただそれだけ。
カッコ良いジャケットのレコードには、絶対にカッコ良い音楽が封入されていると、直感があった。
演奏が上手いとか凄いとか、まったく判らない。
初めて買ったジャズだから、他と比較しようがない。
録音が素晴らしかった。
楽器の生(ナマ)の音が、目の前でカタチになって在る、って感じ。
聴いていてとても気持ちが良い。

ソニー・ロリンズ:ウェイ・アウト・ウエスト
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ソニー・ロリンズ:ウェイ・アウト・ウエスト
Way Out West / Sonny Rollins

(Contemporary)
ソニー・ロリンズ(ts)、
レイ・ブラウン(b)、シェリー・マン(ds)
1957年3月7日録音

毎日繰り返し聴いても飽きない。
だけど勿体ないから一日一回だけ聴く。
一日二回聴くともう一度聴きたくなる。
三回聴くと凄く贅沢している気分になった。
ターンテーブルが回っていないときも、二十四時間、ずっとアタマの中で流れっ放し。 完全なる中毒症状。音の快感に溺れる毎日。
これじゃ人間がダメになるんじゃないかと、ちょっとだけ心配になった。
(心配は的中して、やっぱり俺はダメ人間になった)

その五年後、高校を卒業して東京に出た俺は、ジャズ喫茶に足を踏み入れることになる。

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