2020年12月|映画スクラップブック


2020年 12月(6本)

2020/12/01

ソラリス

ソラリス|soe006 映画スクラップブック
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SOLARIS
2002年(日本公開:2003年06月)
スティーヴン・ソダーバーグ ジョージ・クルーニー ナターシャ・マケルホーン ジェレミー・デイヴィス ヴィオラ・デイヴィス ウルリッヒ・トゥクール

惑星ソラリスの軌道上に浮かぶ宇宙ステーションで異常事態が発生。調査のため心理学者のクリスが派遣される。到着したステーションに生存していた乗組員は正気を失ったような状態。船内を調べていくうちに、クリスは自殺したはずの妻の姿を目撃する。
スタニスワフ・レムのSF小説「ソラリスの陽のもとに」2度目の映画化。

宇宙時代の哲学風西洋怪談噺。

死んでしまった人が夢に出てきて、その人は生前大好きだった人で、いつまでもこの夢を見続けていたいから、このままずっと眠ったままでいよう、みたいな話。

前回はソビエト連邦で製作された本格SF映画として、今回はジェームズ・キャメロンとスティーヴン・ソダーバーグの異色の組み合わせで話題になった。

ほんとはSF好きのキャメロン自身が監督もしたかったんだろうが、これまでのアクション路線からハズレてしまうし、かといって派手な活劇入れたら原作を冒涜するみたいで嫌だし、題材が題材なので今までみたいなビッグなヒットは望めないだろうし、「似合わんことやるから失敗したんだ」みたいに言われてキャリアに疵つけそうだし、そんなことになったら次の製作費を集るのに苦労するだろうし。そんなこんなでソダーバーグがやりたいって言ってるんなら彼にやらせちまえ、みたいな(憶測)。

そこんとこ台所事情どうだろって思ったので、DVDの音声解説も聞いたのだけど、お互い内輪褒めに終始していて詰まらなかった。どちらかというとキャメロンのほうがソダーバーグに遠慮してるように聞こえた。

タルコフスキー版は2時間45分で(そして前半の展開が緩やかだったゆえ)とても長く感じられた。今回は1時間40分なのでサクサクいくのかと思っていたが、雰囲気はしっとり、同じくらい長く感じられた。
平凡な感情を意味ありげに撮るのが好きなソダーバーグ。深刻な顔してやってるが、おれは騙されないよ。

1970年代のソビエトで作られた映画と、21世紀の特殊技術で撮られた映画を比較したくはないけど、タルコフスキー版のほうが衝撃は大きく感銘は深かった。新作はセリフで説明してるところが多くて、うざいというか、雑に感じられた。

なにをやりたくてリメイクしようなんて思ったんだろ?

60

2020/12/01

サンシャイン2057

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SUNSHINE
2007年(日本公開:2007年04月)
ダニー・ボイル キリアン・マーフィ 真田広之 ミシェル・ヨー クリス・エヴァンス ローズ・バーン トロイ・ギャリティ ベネディクト・ウォン クリフ・カーティス マーク・ストロング

太陽の活動が弱くなってきたので核爆弾ブチ込んで再生させようと、国際色豊かな8人のクルーを乗せた宇宙船が出発。強烈な太陽熱にやられないよう慎重に太陽へ接近していく途中で、前回のミッションに失敗して消息を絶っていた宇宙船からの救難信号を受信する。

いろんな専門分野の個性の強いのばかり乗り合わせているので、和を以て貴しとする日本人の真田広之が船長。
似たような設定、似たような特殊撮影のSF映画は他にもあったし、あまり題材にオリジナリティは感じられないが、「トレインスポッティング」「28日後…」のダニー・ボイルが監督なので、献身的なヒーローの大活躍で素直にハッピーエンドとはいかない。悪趣味な映画に仕上がっている。
ドタバタとアクション場面が連続するが、どっかで見たことあるようなシーンの寄せ集めのようで、これといって印象に残らない。犠牲者はバンバン出るし、真田広之も途中で死んでしまう。人物への感情移入がないから、ストーリーに引き込まれない。お化け屋敷のアトラクションみたいな感じ。セットや特殊撮影にはお金がかかっている。

60

2020/12/05

オブリビオン

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OBLIVION
2013年(日本公開:2013年05月)
ジョセフ・コシンスキー トム・クルーズ モーガン・フリーマン オルガ・キュリレンコ アンドレア・ライズブロー ニコライ・コスター=ワルドー メリッサ・レオ ゾーイ・ベル

エイリアンの襲撃によって人類が他の惑星に移住した後、荒廃した地球に残り監視を続けているトム・クルーズ。

なぜ? どういうこと?

ドローンのメンテナンスやパトロールを日常としていた主人公。
宇宙船の墜落現場で、カプセルに眠る美しい女性を発見。こいつは誰?
覚醒した女の記憶を探るうち、自分の記憶も欠落があると知る主人公。おれは誰?

居住空間やメカニックが、白を基調としたすっきりスマートなデザインなのが良い。SFというとガチャガチャごてごてしたものが多いので、これは気に入った。人類が消えた地球の風景も美しい。「ブレードランナー」を逆転させただけと言えないこともない。

「猿の惑星」みたいな禁断地区に(モーゼみたいな)モーガン・フリーマンが登場して、世界観が一変する。これはミスキャストだ。ここは(見るからに如何わしい)サミュエル・L・ジャクソンじゃなきゃダメでしょう。

モーガン・フリーマンは変わらないね。顔と名前を憶えた「ドライビング Miss デイジー」(1989年)から30年以上、ずっと変わらない。同じ風貌。
トム・クルーズも変わらない。いつまで青年っぽいキャラを演じ続けるんだろう。どの映画見ても、いつも若々しい。クローン技術で複製したやつを出演させてるのだろうか。

いろんなSFアイデアをパッチワークして、謎解きとアクションでデコレーションした娯楽映画。状況設定のバックストーリーを深く考えていくと、辻褄が合ってない矛盾してるところもあるだろうけど、あまり気にしない。

見ているあいだは面白い。

すぐに忘れてしまいそうなのは、登場人物に感情移入できないのと、ストーリーを視覚化するのではなく、ヴィジュアルを見せるために用意された本末転倒なストーリーだから。
トム・クルーズが戦いに勝利して生き延びようと敗れて死んでしまおうと、どっちでも構わない。かっこいいトム・クルーズが見られれば勝敗なんてどうでもいい。トム・クルーズでありさえするなら、それだけで満足、それだけで幸せ、ハッピーエンド。ってなもんさ。

アクション映画の基本は、なぜアクションをしなければならないのか、アクションの動機と行動に至った経緯をしっかり押さえておくこと。行動によって何が変化するのか、アクションが次のストーリーへと連鎖していること。
この2点が欠落しているアクション映画は、どんなに凝ったヴィジュアルを盛って飾ったとしても、遊園地のアトラクションと変わらない。見終わったらすぐに記憶から消えてしまう。

忘却とは忘れ去ることなり。忘れ得ずして忘却を誓う心の悲しさよ。
菊田一夫:作「君の名は」

60

2020/12/10

ゼロ・グラビティ

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GRAVITY
2013年(日本公開:2013年12月)
アルフォンソ・キュアロン サンドラ・ブロック ジョージ・クルーニー エド・ハリス

スペースシャトルで船外活動中に突発事故が発生、漆黒の宇宙空間へ放り出される2人の宇宙飛行士。残された酸素は2時間分。地球との通信手段も断たれ救助も期待できない絶望的状況のなか、はたして無事生還できるのか。
無重力の暗黒世界を圧倒的な臨場感で再現したサバイバルドラマ。

おれはCG多用のデジタル撮影に否定的ではないけど、歓迎もしてない。
高解像度のデジタルで完全複製されたゴッホやセザンヌに価値はない。
早い話が「アラビアのロレンス」の砂漠が最初からCG合成と分かっていたら感動はないし、何度も見たいとは思わない。画面から出演者やスタッフの知恵や工夫が、手作りの苦労や温もりが伝わってこない映画は好きじゃない。

そんなおれが嘘偽りなく腰を抜かした驚異のデジタル映像。
映画黎明期にジョルジュ・メリエスが蒔いたトリック映画の種は 100年の歳月を経て驚くべき進化を遂げた。これぞ21世紀の大見世物(スペクタクル)!

地表から 600kmの上空で事故に遭遇した女性が、孤立無援の絶望的状況に陥り、無事地上に戻るまでの単純なストーリー。撮影技術もさることながら、細部に凝ったプロダクション・デザインが実にリアル。

ゼロ・グラビティ_A

脚本は監督のアルフォンソ・キュアロンとその息子のホアス・キュアロンの共同執筆。
インターネットでとことん調べ、初稿を書き上げたときは宇宙物理学者になったような気分の二人だったけど、NASAの科学者に読ませたところ、どこもかしこも間違いだらけでがっかり。宇宙飛行士を交えてリサーチをやり直し、できる限り実現可能でリアリティに沿う形に改稿したら、どんどんつまらないものになっていく。そこで現実を反映しながら、映画として楽しめるような嘘も採り入れたとの事。

実際のMI6に、命令無視して無謀な行動を繰り返す女好きのスパイは在籍していない。なにがなんでも本当のことじゃなきゃ認めんという人は、BBCやNHKが制作してるドキュメンタリー番組だけ見てなさいって事だ(そこに嘘が入ってないって保証はないけどね)。

ゼロ・グラビティ_B

サンドラ・ブロックという(ヒラメ顔の)女優さんは、これまでたいして気に留めてこなかったけど俄然見直した。最初から最後まで出ずっぱりなのだが、どうやって撮ったのか見当もつかない驚異の特殊撮影のなかで、肉体をフルに使っての熱演。
ラスト、大地にすっくと立ち上がる姿に素直に感動した。

最初のワンショット(これがもう凄いワンショット、ワンシーン)から目が釘付けになるのだが、唯一気に食わないのが幽霊の登場。

精根尽きて死の訪れを待つだけになったとき、宇宙の果てに消えていったはずのジョージ・クルーニーが戻ってきて、最後まで諦めるなとサンドラを励ます。そこで再度奮起して地球生還へ向けて行動を起こすのだけど。もちろんこれは彼女の幻覚で(「惑星ソラリス」じゃないのだから)宇宙の神秘現象とは違う。
日本の不細工なテレビドラマでもたまに見かける、仏壇に手を合わせて拝んでると、死んだ家族やご先祖様の声が聞こえてきて次の行動へのヒントを授けるっていう(ストーリーに都合の良い)安直極まりない手法。これやられると一気にシラケる。
「スター・ウォーズ」のようなお伽噺でも(デス・スター攻撃の際にオビワンの声が聞こえてきて)興醒めしたのに、リアルなドラマでは絶対やっちゃダメだ。

70

2020/12/11

インターステラー

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INTERSTELLAR
2014年(日本公開:2014年11月)
クリストファー・ノーラン マシュー・マコノヒー アン・ハサウェイ ジェシカ・チャステイン エレン・バースティン マイケル・ケイン マッケンジー・フォイ ティモテ・シャラメ ジョン・リスゴー デヴィッド・オイェロウォ コレット・ウォルフ フランシス・エグゼヴィア・マッカーシー アンドリュー・ボルバ ウェス・ベントリー ウィリアム・ディヴェイン デヴィッド・ジャーシー ケイシー・アフレック リーア・ケアンズ トファー・グレイス マット・デイモン

環境悪化により人類滅亡のカウントダウンが始まった近未来の地球。
NASAは人類が居住可能な惑星を求めて、宇宙の彼方に調査隊を送り込む。

最新の特殊撮影テクニックを得て、ついに「2001年宇宙の旅」「惑星ソラリス」に比肩するSF映画が現れたと思う。

砂漠化する地球、氷の惑星、海の惑星とCGを駆使した迫力のヴィジュアルがバラエティに富み、冒険映画としての面白さがある。三代にわたる親子の話。時空間を超越する宇宙物理学。この3つの要素がストーリーを巧みに構成して淀みなく、2時間50分の長丁場をダレさせない。
クリストファー・ノーランの才気が遺憾なく発揮された傑作SF映画。

ジョン・リスゴー、マシュー・マコノヒー、ジェシカ・チャステイン、ケイシー・アフレックの家族と、マイケル・ケインとアン・ハサウェイの父娘。ストーリーを牽引する2組の家族関係が丁寧に描かれ、ハードSFでありながらハートウォームな感動を呼ぶ。
相対時間がズレるウラシマ効果によりマシュー・マコノヒーが老齢となった娘(エレン・バースティン)と再会するシーンは筆舌に尽くしがたい。

超遠距離惑星間移動、時空間を超越して繋ぐワームホール理論とか、子どもの頃からハードSFを読んできたおれにもよく分からんのだけど、そしてそれが子ども部屋の本棚の裏側と連接していたという理屈はずいぶん都合の良い話だと思わないこともないのだけど、法螺話のロジックとしてナンセンスに浮いてないところを評価したい。
少なくとも「2001年宇宙の旅」のスターゲイトよりは面白く見られるイメージ・デザイン。

NASAの計画がひとりの天才科学者(マイケル・ケイン)によって策定されたのはどうかと思ったものの、ミッションのシークェンスが二重三重に準備されていたのは説得力があった。そのぶんエピソードが増えて上映時間が長くなったが、ミステリ仕立てで退屈しない。

コメディリリーフとして登場するAIロボットがユニークで、危急の際には頼もしい活躍をみせる。90パーセントの本音と10パーセントの建前でプログラミングされているという、このデザインを考えたスタッフは天才だろう。「2001年宇宙の旅」のHALよりはこっちが好きだ。

ラストの開放感が見終わったあと爽快な気分にしてくれる。
クリストファー・ノーランだから、暗くて悲しい映画で終わるのかと心配したよ。

75

2020/12/12

オデッセイ

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THE MARTIAN
2015年(日本公開:2016年02月)
リドリー・スコット マット・デイモン ジェシカ・チャステイン クリステン・ウィグ ジェフ・ダニエルズ マイケル・ペーニャ ケイト・マーラ ショーン・ビーン セバスチャン・スタン アクセル・ヘニー キウェテル・イジョフォー ベネディクト・ウォン マッケンジー・デイヴィス ドナルド・グローヴァー ニック・モハメッド チェン・シュー エディ・コー エンゾ・シレンティ ジョナサン・アリス ナオミ・スコット

アンディ・ウィアーのSF小説「火星の人」を映画化。
火星探査の作業中に猛烈な砂嵐に見舞われ、不慮の事故で行方不明になる植物学者(マット・デイモン)。生存は絶望視され、捜索を断念したクルーは苦渋の決断のすえ火星を離れてしまう。
奇跡的に生き残っていた植物学者は、砂漠から住居施設に生還できたものの、食料は僅かしか残っていない。通信手段もなく孤立無援のなか、次のミッション・クルーが訪れる4年後に希望をつないで、自活のための水と空気とジャガイモを作り始める。

マット・デイモンは「インターステラー」でも惑星に取り残された宇宙飛行士を演じてたけど性格は真逆。過酷なサバイバル生活を強いられ絶体絶命の状況下でも、「火星の人」はとことん元気で前向き。アタマ良い奴ほど性格は明るい。

映画と関係ない話だけど、深刻で暗い表情してる奴って、アタマ悪いのを良さそうに見せようとポーズしてるだけだから。マジで。

クルーの船長が残していたカセットテープから流れるのは、ドナ・サマーとかABBAとか70年代に流行してたディスコ・ミュージック。エンドクレジットはグロリア・ゲイナーの「恋のサバイバル」。サイコーじゃん!
宇宙とか科学とか難しいの嫌い、SFなんて面倒くさい分かんないって敬遠してるバカでも大丈夫。快適なダンス音楽でノリノリに楽しめる映画。

笑って笑ってハラハラドキドキして、あっという間の2時間20分。めちゃくちゃテンポが良い。体感では90分くらい。
脚本の構成がうまいのだけど、やっぱり音楽と編集だな。気分良く乗せられた。

こんなにポジティブでユーモアが多い、明るいリドリー・スコットは初めて。
登場人物みなさん善良で、誰も死なない、予定調和のハッピー・エンディング。
ロン・ハワードの映画と間違っちまいそうだ。

70

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません