薄汚いアパートで亀を飼っている独り暮らしの男が、野暮ったい女とスケート場でデートして、ヘビー級世界チャンピオンと戦う映画。
脚本が見事、最高過ぎる!
マイ・フェイバリット・ムービー。
映画館で8回、その後ビデオで何回観たか分からないけど、DVDは今日で6回目になる。たぶん大晦日の「大脱走」と元日の「ロッキー」はセットになってる。
点
2022/01/01
ROCKY
1976年(日本公開:1977年04月)
ジョン・G・アヴィルドセン シルヴェスター・スタローン タリア・シャイア バート・ヤング カール・ウェザース バージェス・メレディス ジョー・スピネル セイヤー・デヴィッド ジミー・ガンビナ ビル・ボールドウィン アル・シルヴァーニ ジョージ・メモリー トニー・バートン ジョデイ・レティツィア ダイアナ・ルイス ジョージ・オハンロン ラリー・キャロル スタン・ショウ ドン・シャーマン フランク・スタローン ロイド・カウフマン ジョー・フレージャー
薄汚いアパートで亀を飼っている独り暮らしの男が、野暮ったい女とスケート場でデートして、ヘビー級世界チャンピオンと戦う映画。
脚本が見事、最高過ぎる!
マイ・フェイバリット・ムービー。
映画館で8回、その後ビデオで何回観たか分からないけど、DVDは今日で6回目になる。たぶん大晦日の「大脱走」と元日の「ロッキー」はセットになってる。
点
2022/01/03
THE GOOD FAIRY
1935年(日本公開:1935年05月)
ウィリアム・ワイラー マーガレット・サラヴァン ハーバート・マーシャル フランク・モーガン レジナルド・オーウェン アラン・ヘイル ボーラ・ボンディ シーザー・ロメロ アン・ミラー
養護施設で育った世間知らずな女の子(マーガレット・サラヴァン)が、映画館で働くことになる。仕事中に知り合ったホテルの給仕係(レジナルド・オーウェン)からパーティの招待状を貰う。初めて目にする豪華なパーティに戸惑う彼女に、大企業を経営するおじさま(フランク・モーガン)が言い寄ってくる。身を守るために「夫がいるの」とついた嘘が、下町の貧乏弁護士(ハーバート・マーシャル)を巻き込んで、ぐちゃぐちゃドタバタに発展する。
堅物なイメージのウィリアム・ワイラー(「女相続人」「ベン・ハー」「大いなる西部」)とスクリューボール・コメディのプレストン・スタージェスの脚本で、どんな仕上がりになってるのか不安もあったが、これが意外と面白い。スタージェス本人の監督作と見間違えそうなくらいにマッチしている。
ワイラーは腕の良い職人監督、なにを撮ってもやっぱり上手い。
登場する3人の男たちは、みんな善良でお人好し。ヒゲを剃ってグッと若返るハーバート・マーシャルの変身ぶり。レジナルド・オーウェンとフランク・モーガンが最高にくだらなくて面白い。この二人の漫才だけでも見た甲斐があった。合わせ鏡に映ったキツネの襟巻きを喜ぶマーガレット・サラヴァンが可愛らしく微笑ましい。
ラストはお決まりの結婚式。花嫁を祝う孤児たちの笑顔が輝いている。
他愛のないバカバカしいストーリーだが、スタージェスの脚本だから通常映画の3倍量のアイデアが突っ込んである。
「FAIRY」を「仙女」と訳した邦題に、時代(昭和10年)を感じる。
点
2022/01/04
HOLIDAY
1938年(日本公開:1939年02月)
ジョージ・キューカー キャサリン・ヘプバーン ケイリー・グラント ドリス・ノーラン リュー・エアーズ エドワード・エヴェレット・ホートン ヘンリー・コルカー ビニー・バーンズ ジーン・ディクソン ヘンリー・ダニエル ジャック・カーソン
ケイリー・グラント&キャサリン・ヘプバーン主演のロマンチック・コメディ。
フィリップ・バリーの舞台劇を、ドナルド・オグデン・スチュワート&シドニー・バックマンによる脚色で映画化。監督はジョージ・キューカー。
スキー場で知り合い結婚の約束をした女性(ドリス・ノーラン)の住所を訪ねてみれば、バカでかいうえに豪奢な室内装飾が施された5階建て(地下1階)エレベーター付きの豪邸。姉のヘプバーン、酔いどれ弟のリュー・エアーズ、堅物事業家の父親ヘンリー・コルカーが紹介されるあたりまでは快調だったが、そのあとがグダグダ。
大恐慌時代の娯楽作品ゆえ、貧しくとも幸せな人生が大事なのよと庶民の生活を持ち上げ、金持ち資本家を頭ごなしに批判するのは尤もなれど、直截すぎて芸がない。
「フィラデルフィア物語」もそうだったけど、ジョージ・キューカーの演出は、このタイプの恋愛喜劇としては軽みと洒落っ気が足りない。
邦題の付け方が下手。「Holiday」はクリスマス・シーズンの、つまり「年末年始の休暇」。「素晴らしき休日」だと日曜日みたいで、黒澤明の「素晴らしき日曜日」と混同しちゃいそう。
ワイルダーの「麗しのサブリナ」は本作の男女裏返しヴァリエーション。
点
2022/01/04
VIVACIOUS LADY
1938年(日本未公開)
ジョージ・スティーヴンス ジェームズ・スチュワート ジンジャー・ロジャース ジェームズ・エリソン ボーラ・ボンディ チャールズ・コバーン フランセス・マーサー グラディ・サットン ジャック・カーソン フランクリン・パングボーン
真面目一辺倒の大学助教授(ジェームズ・スチュワート)がナイトクラブの歌姫(ジンジャー・ロジャース)に一目惚れ。ふたりはお互いに惹かれ合い、出会って12時間で結婚。しかしジミーには大学長の父親(チャールズ・コバーン)が決めた許嫁(フランセス・マーサー)がいて、心臓病の母親(ボーラ・ボンディ)も心配で、なかなか結婚の報告ができない。
誠実真摯なイメージのジョージ・スティーヴンス(「陽のあたる場所」「シェーン」「ジャイアンツ」「アンネの日記」)だけど、RKO時代はアステア=ロジャースの「有頂天時代」だって演出している腕の良い職人監督。ロマコメ撮ってもやっぱり上手い。
ファーストシーンのナイトクラブのダンサーズ、ジンジャーの登場させかた、女同士のビンタの張り合い、ジンジャー、ジェームズ・エリソン、ボーラ・ボンディが並んで腰振りダンス、面白いシーンが多い。
ちなみにおれは、アステアとコンビで踊ってるミュージカル映画のジンジャーよりも本作のジンジャーのほうが好みであります。
点
2022/01/06
THE SHOP AROUND THE CORNER
1940年(日本公開:1947年08月)
エルンスト・ルビッチ ジェームズ・スチュワート マーガレット・サラヴァン フランク・モーガン ジョセフ・シルドクラウト フェリックス・ブレサート ウィリアム・トレイシー
「お人好しの仙女」のマーガレット・サラヴァンと「モーガン先生のロマンス」のジミー・スチュワートの共演。都会の街角にある高級雑貨店で働く店員さんの、笑いあり涙ありクリスマス・ストーリー。
雑貨店の経営者を演じているのは「お人好しの仙女」でマーガレット・サラヴァンを熱烈に追いまわしていたフランク・モーガン。クリスマス・イヴの夜、店を閉めて表に出たあと、帰宅する従業員をひとりひとり見送る。田舎から出てきたばかりの新米店員を食事に誘う場面が微笑ましくていい感じ。
コミカルな使い走りのウィリアム・トレイシーも好印象。
「黒い瞳」のオルゴールを内蔵した葉巻ケースを狂言回しみたいに扱っていて面白い。
マーガレットがジミーの存在に気づくラストは「街の灯」風。
セット撮影だけど、雪が舞うなか賑わいをみせるクリスマス風景が良く撮られている。
原作(ニコラウス・ラスロの戯曲)の舞台がブダペストだから映画でもそのままなんだろうけど(アメリカ俳優が英語で喋ってるし)ずっとニューヨークだと思って見てました。
ウエルメイドながら幸せな気分に浸れるチャーミングな佳品。
原題「The Shop Around the Corner」が邦題「桃色の店」。モノクロだし何処がピンクなのか意味不明。再映のときに「街角」と改題されていたらしい。
むかしむかし、おれがまだ子供だった頃は、雑誌(「明星」とか「平凡」とか)にペンフレンドを募るコーナーが載っていました。
点
2022/01/06
YOU'VE GOT MAIL
1998年(日本公開:1999年02月)
ノーラ・エフロン トム・ハンクス メグ・ライアン グレッグ・キニア パーカー・ポージー ジーン・ステイプルトン スティーヴ・ザーン ダブニー・コールマン ジョン・ランドルフ
「桃色の店」の舞台をブダペストからニューヨークへ、文通からEメールに変えて、トム・ハンクスとメグ・ライアン、監督ノーラ・エフロンの「めぐり逢えたら」トリオが手堅くリメイク。
メグとトムは一緒の店で働いているのではなく、老舗の小さな児童書専門店の店主とディスカウントで荒稼ぎしてる大手チェーン書店のオーナーという設定に変更されている。
脚本もノーラ・エフロン(妹のデリア・エフロンとの共作)だけど、この人の古い映画へのオマージュは好感が持てる。選曲のセンスもいい。ラストの「虹の彼方に」は反則級。
メグの店で働いている店員さんのサブストーリーが薄い。
モデムを使って電話回線でパソコンをネットにつないでる。ピポパポ、ピィーギュルギュル、懐かしい音が聞ける。タイトルに(すごく素朴な)3Dコンピューターグラフィックスが使われているのもレトロチック。
1990年代ニューヨーク(アッパー・ウエストサイド)の風景が随所に見られ観光映画の趣も備えている。映像記録として貴重。
男たちがみんな「ゴッドファーザー」のセリフを(当たり前のように)暗記しているのが面白い。スターバックスは決断力を試される場所だそうな。
点
2022/01/10
PAPER MOON
1973年(日本公開:1974年03月)
ピーター・ボグダノヴィッチ ライアン・オニール テイタム・オニール マデリーン・カーン ジョン・ヒラーマン P・J・ジョンソン ジェシー・リー・フルトン ランディ・クエイド ノーブル・ウィリンガム
詐欺師と少女の珍道中記。
ライアン&テイタムの父娘のキャスティングが成功している。顎が似ているのが決め手となった。特にテイタム・オニールの表情とハスキーボイスが素晴らしい。ライアン・オニールもハリウッド黄金時代のスター俳優っぽいルックスがマッチしている。
ライアンはスタント無しで車も運転している。急発進で密造酒の箱の上に乗っているテイタムが落っこちそうになるショットはヒヤッとする。
大恐慌時代を再現した美術と撮影が見事。舞台はカンザス州、どこまでも平坦な風景が孤独な雰囲気を醸して素晴らしい。シンプルだけど、どのショットもスムーズで的確。無駄なショットがない。ほとんどの場面がパン・フォーカスで撮られている。撮影には(オーソン・ウェルズのアドバイスで)赤いフィルターを使ったとのこと。赤いフィルターだと現像したとき、顔色はより白く、空の青みはより黒くなる。画面はビスタサイズだが、スタンダードサイズの「駅馬車」や「荒野の決闘」みたいに空が大きく感じられる。素晴らしいアングル。長回しで撮られているシーンが多い。的確なフレーム、スムーズでスピーディ。移動遊園地の場面は僅か2ショット。移動撮影のお手本。逆に取調室の場面はショット毎にアングルが変わるという懲りよう。
撮影監督はラズロ・コヴァックス。「イージー・ライダー」や「ファイブ・イージー・ピーセス」「未知との遭遇」も手掛けている。どれも田舎の空が印象に残る映画。
シナリオは三幕構成のお手本。
劇伴音楽は使わず、「ラスト・ショー」同様に当時のポピュラー・ソングをBGMで流している。ラジオ好きのアディが鳴らしているという設定で、昨今のロマコメのような安易な垂れ流しではない。
コッポラ、フリードキンとともにディレクターズ・カンパニーを立ち上げ、アメリカ映画界をリードする気鋭の映像作家として俄然注目を集めたものの、スピルバーグやルーカスなど、より娯楽性が強いスペキュタラーな映画作家が頭角を現すとともに、3人の存在感は薄くなっていった。
「ペーパー・ムーン」はボグダノヴィッチのベスト、最高傑作だ。
点
2022/01/11
IN THE HEAT OF THE NIGHT
1967年(日本公開:1967年10月)
ノーマン・ジュイソン ロッド・スタイガー シドニー・ポワチエ ウォーレン・オーツ リー・グラント スコット・ウィルソン ジェームズ・パターソン クエンティン・ディーン ラリー・ゲイツ ウィリアム・シャラート ビア・リチャーズ マット・クラーク ピーター・ホイットニー カーミット・マードック ラリー・D・マン アーサー・マレット ティモシー・スコット ウィリアム・ワトソン エルドン・クイック
アメリカ南部の田舎町で起きた殺人事件を、人種偏見が当たり前(習慣)になっている住民たちの妨害にあいながら、都会から来た黒人刑事(シドニー・ポワチエ)が捜査する。
舞台となっているミシシッピ州は1987年まで白人と有色人種の結婚を法律で禁止していた地域であり、映画が公開された翌1968年には隣のテネシー州でキング牧師が暗殺されている。黒人が深夜に駅にいるだけで、身分証明の機会も与えられないまま容疑者扱いされてしまう。有色人種には刑期が長くなる「Color Time」が適用される。そんな時代に製作された映画。
原題「In the Heat Of The Night」のせいで誤解されているようだが、この映画の季節は夏ではなく晩秋だ。容疑者(スコット・ウィルソン)が紅葉した森の中を枯葉を踏んで逃走しているシーンでもはっきりと分かる。真夏の夜の茹だるような暑さ云々と解説しているのが多いようなので、いちおう書いとく。
最初のほうでロッド・スタイガーがエアコンの故障に愚痴をたれているのは、舞台がアメリカ南部であることの説明。実際のロケ地は中西部のイリノイ州。登場人物の額に汗が浮かんでいるのは(多分)撮影用の強い照明のせいだろう。
役者の顔がいい。複雑な立場の変化を重層的に繊細にガム噛みで表現した署長役のロッド・スタイガーが素晴らしい。キリッとハンサム、スマートなシドニー・ポワチエ。ウォーレン・オーツも良い。
綿花農場を経営する町の有力者ラリー・ゲイツが、温室でポワチエにビンタを食らう場面が白眉。映画のテーマはこのシーンに凝縮されている。
被害者の妻を演じているリー・グラントにとっては、赤狩りで出演が長く途絶えていたあとの復帰作。リベラルな東部から来ているという設定で、白人の地元警察よりも黒人のポワチエ刑事に信頼を寄せる。
ノーマン・ジュイソンの映画は洗練された撮影と音楽。
「華麗なる賭け」とかは格好つけが過ぎて鼻につくが、本作は黒人差別のテーマが前面に出てバランスが良い。
ハスケル・ウェクスラーの撮影、クインシー・ジョーンズの音楽がカッコイイ。主題歌はレイ・チャールズ。フルート演奏はローランド・カーク。アメリカン・ニューシネマの旗手ハル・アシュビーが編集していることで有名な映画でもある。
製作はミリッシュ・カンパニー。この会社が作る映画にハズレなし!
シドニー・ポワチエは、ルイ・アームストロング、カシアス・クレイ(モハメッド・アリ)に続いて3番めに名前を覚えた米国黒人。 「夜の大捜査線」の製作当時、タイトルのトップに名前がクレジットされる黒人俳優はポワチエだけだった。知的で教養があり、なまりのない英語をしゃべる。(白人にとって)理想的な黒人を演じていた。
点
2022/01/16
THE TAKING OF PELHAM ONE TWO THREE
1974年(日本公開:1975年02月)
ジョセフ・サージェント ウォルター・マッソー ロバート・ショウ マーティン・バルサム ヘクター・エリゾンド アール・ヒンドマン ディック・オニール ジェリー・スティラー トニー・ロバーツ リー・ウォレス
ニューヨークの地下鉄がジャックされ、犯人たちは乗客を人質に100万ドルの身代金を市に要求してくる。タイムリミット1時間。4人の犯人たちが地下鉄に乗り込む序盤から、ウォルター・マッソーのとぼけたアップで終わるラストまで、快速テンポで面白い。犯罪サスペンス映画の傑作。
最初に登場したときからマーティン・バルサムはクシャミしている。クシャミで始まりクシャミに終わる映画。ロバート・ショウの最期も、感電するから危ないよって、ちゃんと前フリしてある。脚本の仕込みは用意周到。
身代金を運ぶパトカーが事故って転倒したり、咄嗟の機転で時間稼ぎしたり、あの手この手でサスペンスを盛り上げる。
地下鉄運行に携わる人たちと警察、働くおじさん(おばさんもいる)をしっかり描いているのが良い。脅迫されたニューヨーク市長の狼狽など、絶妙なタイミングでユーモラスな場面を入れて緩急の変化があるもの良い。
硬のロバート・ショウと柔のウォルター・マッソー、キャスティングが上手い。
「レザボア・ドッグス」でタランティーノがギャングたちの呼び名を色名にしていたのは、本作を真似たのか。チームワークを乱す奴を混ぜてサスペンスを作っているのも、きっとそうだ。
ロバート・ショウ(Mr.ブルー)
マーティン・バルサム(Mr.グリーン)
ヘクター・エリゾンド(Mr.グレイ)
アール・ヒンドマン(Mr.ブラウン)
音楽がかっこいい。「夜の大捜査線」「バンク・ジャック」のクインシー・ジョーンズ、「ブリット」「ダーティハリー」のラロ・シフリン、「フレンチ・コネクション」のドン・エリス、そして本作のデヴィッド・シャイア。70年代サスペンス映画の音楽はジャズのビートがかっこいい。
東京の地下鉄の経営者が、制御室に視察に来ている。
左側の男性は戸浦六宏さんに似ているが別人。
「ティファニーで朝食を」のミスター・ユニオシとか、「ファール・プレイ」の「コジャック、バン、バン」のタクシー客とか、「ブレードランナー」の屋台の親父とか、アメリカ映画に出てくる日本人は面白い人が多い。
点
2022/01/16
THE DAY OF THE JACKAL
1973年(日本公開:1973年09月)
フレッド・ジンネマン エドワード・フォックス ミシェル・ロンズデール アラン・バデル トニー・ブリットン シリル・キューザック
ドゴール大統領暗殺計画を描いたフレデリック・フォーサイスのベストセラー小説(フィクション)を、フレッド・ジンネマン監督で映画化。
殺し屋エドワード・フォックスは地味。それを追うフランス司法警察のミシェル・ロンスダールはもっと地味。派手なアクションもなければ、感情を昂ぶらせるドラマもない。凝ったカメラワークもない。シーンを盛り上げる煽りの音楽もなし。添加物を一切入れてない、甘味料も入ってない。
ジャッカルが犯行に用いる偽装ライフルも(まるで007のような新兵器だけど)ことさら凄いもののように見せず、ひたすら静かに淡々と描く。無駄、遊び、緩みがない。セリフはギリギリまで削られている。映画のリアリズムとはこのこと。極上サスペンス。
フレッド・ジンネマン、おれが考えている以上に凄い監督さんなのかも知れない。
クライマックスの、記録映像との(たぶんスクリーンプロセスで)合成ありきで逆算した演出だと思う。全体がドキュメンタリー風に撮られていて、終始ピリピリした緊張感に満ちている。暗殺が失敗したあともアッサリしていて、ジャッカルの正体が謎のまま終わるのもいい。
アメリカ映画ではそれが慣例になっているとは言え、フランス人が英語喋っているのはやっぱり嫌だ。瑕瑾ではある。
点
2022/01/17
THREE DAYS OF THE CONDOR
1975年(日本公開:1975年11月)
シドニー・ポラック ロバート・レッドフォード フェイ・ダナウェイ クリフ・ロバートソン マックス・フォン・シドー ジョン・ハウスマン アディソン・パウエル ウォルター・マッギン ティナ・チェン マイケル・ケーン ハンク・ギャレット カーリン・グリン
アメリカ中央情報局の下部組織アメリカ文学史協会に勤務する職員が、正体不明の男たちに皆殺しにされる。当日の朝、雨が降っていたので裏口から昼飯の買い出しに出ていたレッドフォードだけが偶然命拾いし、状況がわからないままNYCを逃げ回る。
CIAの内部で陰謀が錯綜しているらしく、誰が味方か敵かわからない。上層部でも情報が把握できていない様子描かれ、主人公と観者を混乱させる。上司に身柄の保護を頼んだレッドフォードは待ち合わせ場所でいきなり命を狙われ、元同僚だった男は殺され、その殺人容疑者として警察からも追われる身となる。
ここまでは(デイヴ・グルーシンのカッコいい音楽効果もあって)強烈に面白かったのだが……。
事件に巻き込まれた主人公が偶然出会った女性を巻き込み、一緒に事の真相を探る流れは、ヒッチコック映画でもお馴染みの展開。本作でも逃げ込んだ店でたまたま出会った写真家の女性(フェイ・ダナウェイ)を強引に拉致して、真相解明の協力者にしてしまう。いきなり銃を突きつけられ縛られ脅迫された一般女性が、一夜のベッドを共にしただけでボンドガールなみの活躍をみせる荒唐無稽な展開は、レッドフォード&ダナウェイのスター映画ならでは。
フェイ・ダナウェイは、頬骨が張り眼光キツくて冷たい印象が好きになれない女優さんだったけど、この時期の出演作では、いちばん綺麗に撮られている。駅での別れの場面が、思いっきりメロドラマっぽい。事件に深く関与した女をCIAがこのまま放って置くわけもなく、このあともずっと監視され口封じに殺される危険もあるのだが、脚本家はそこまで頭がまわらない。
レッドフォードが電話局に潜入して、盗聴の逆探知を混乱させる場面があるけど、そんな知識(そこにそれが出来る装置があることを含め)どこで仕入れてたんだ? ご都合良すぎで笑いも出ない。
ラストでレッドフォードは、真相をマスコミにリークするぞとCIAのクリフ・ロバートソンを脅すが、そんなものは簡単に握り潰せると返される。
そもそも職員を全員殺してでも隠さねばならない重大事(中東で石油利権をめぐっての工作活動がばれる)だったのか?
アメリカ映画に登場するCIAは、常に悪い組織として描かれる。世界中の情報を収集し、国家を左右する策略を秘密裏に企む。非合法な殺人も平然と行い証拠は隠蔽され、政府高官さえ実態を掌握していない謎の悪組織。ジェームズ・ボンドのMI6も同じようなことやってるのに、CIAはとことん嫌われている。
コーエン兄弟の「バーン・アフター・リーディング」ではさんざん莫迦にされ茶化されていた。
OCR(光学式文字読み取り装置)とかCOMPACのパソコンとか、映画に出てくる70年代のハイテクが興味深い。
竣工したばかりの世界貿易センタービルも舞台になっている。
クリフ・ロバートソンの目つきはハーベイ・カイテルに似てる。
製作はディノ・デ・ラウレンティス。
スタジオカナル制作のDVD日本語字幕は評判が悪い。本作の字幕も最低。
点
2022/01/17
MARATHON MAN
1976年(日本公開:1977年03月)
ジョン・シュレシンジャー ダスティン・ホフマン ローレンス・オリヴィエ ロイ・シャイダー ウィリアム・ディヴェイン マルト・ケラー フリッツ・ウィーヴァー リチャード・ブライト マーク・ローレンス アレン・ジョセフ
アベベ・ビキラに憧れてランニングに熱中している大学院生を、撮影当時39歳のダスティン・ホフマンが演じているサスペンス・スリラー。
若作りな役作りで頑張っているが、風呂に入る場面が残念。脇腹の贅肉が練習熱心なランナー体型じゃない。兄さん役のロイ・シャイダーのほうが締まった良い身体でまだランナーっぽく見える。ホフマンの腕振りも長距離を走るフォームではない。長距離ランナーの走りは「強く風が吹いている」の小出恵介や林遣都のほうが上手い。
ニューヨーク、パリ、ウルグアイと目まぐるしく舞台が移り、次々と事件が起こり死体も出るが、その理由は知らされないまま、ストーリーが語られていく。説明を省いたぶんだけミステリアスな展開だが、後半になると穴ぼこだらけ、行きあたりばったり、いい加減に書かれたストーリーなのだと気付かされる。事件の背景や人物の動機に一貫性がないのだ。
ローレンス・オリヴィエの白い天使は、ナチス再興の軍用金を私欲で横領しようとしていたのか? 貸し金庫の鍵を持っていて無事アメリカに入国できたのなら、ホフマンのことなんか放っておいて、さっさとダイヤ持って逃げろよジジイ。誘拐したり、拷問したり、女あてがって情報漏れを探ったり、(映画を面白くしようと)無駄なことばかりやってるから墓穴掘っちまったんだよ、バーカ。
主人公は「アベベ・ビキラに憧れてランニングしている」と「マッカーシズムの弾圧で自殺した父親の無念を晴らそうとしている」という2つの人格設定を持たされているのだが、どちらもストーリーに絡まない無駄設定。「マラソンマン」のタイトルは作品のテーマと関係がなく意味がない。悪役(ウィリアム・ディヴェイン)に追われてかけっこで逃げ切っただけで、別にマラソンやってなくても逃げ足が速い男ってだけの設定でよろしい。セントラルパークをランニングしてる場面は不要。
ベビーカーの人形に仕掛けられた時限爆弾が爆発する場面、ロイ・シャイダーがホテルで刺客に襲われる場面、ホフマンがローレンス・オリヴィエに拷問される場面など、映像的には強烈で、スリラーというより今の感覚ではホラーと呼びたい怖い場面が多い。
主人公のアパートの向かい側に住んでいる悪ガキ・ギャングの扱い方や、ユダヤ人とドイツ人のジジイが罵り合いながら煽りのカーチェイスも面白い。
ラストの排水処理場はロケでなくセットで作ってある。キャストも豪華だし、金がかかっているぶん映像は凄みがあって良い。各々の場面、エピソードは凝っていて面白いだけに、整合性が欠落したストーリー、杜撰さが惜しい映画。
公開時はかなりヒットし、ロバート・エヴァンスは更に大掛かりなサスペンス・スリラー「ブラック・サンデー」を製作。マルト・ケラーもキャストされているし、2本並べると海外ロケの場面とか群衆シーンなど雰囲気が似ているのに気づく。
ローレンス・オリヴィエは本作の3年後に製作された「ブラジルから来た少年」ではナチス残党ハンターという真逆なキャラを演じ、南米に潜伏していた死の天使メンゲレ博士(グレゴリー・ペック)と掴み合いの喧嘩をしていた。
DVD特典に収められたリハーサル映像では、アクターズ・スタジオ仕込みのメソッド演技がどういうものか垣間見れて興味深い。アドリブに戸惑いながらも、ホフマンに合わせて努力しているマルト・ケラーが健気でカワイイ。
点
2022/01/18
BLACK SUNDAY
1977年(日本未公開)
ジョン・フランケンハイマー ロバート・ショウ ブルース・ダーン マルト・ケラー ベキム・フェーミュ フリッツ・ウィーヴァー スティーヴン・キーツ マイケル・V・ガッツォ ウィリアム・ダニエルズ ウォルター・ゴテル ヴィクター・カンポス ウォルター・ブルック ジェームズ・ジェター クライド草津 トム・マクファデン
大量殺戮テロを企むアラブゲリラ「黒い九月」と、それを阻止すべく派遣されたイスラエル特殊部隊の攻防戦。
「フレンチ・コネクション2」プラス「影なき狙撃者」を「グラン・プリ」の規模で製作した、ジョン・フランケンハイマー畢生の骨太サスペンス大作。ストーリー、構成、カメラ、キャスティング、編集、音楽、すべてがパワフル。超弩級の面白さ。
テロの標的が判明してからの50分は、ジョン・ウィリアムズの音楽に煽られ興奮のつるべ落とし。
こんな大変な映画を製作にしようと思い立ったプロデューサーのロバート・エヴァンスに勲章をあげたい。撮影に協力したグッドイヤーに感謝状をあげたい。マイアミビーチでもスタジアムでも長いショットを一生懸命走りきったロバート・ショウに完走証をあげたい。
一瞬だけ出る大統領役はジミー・カーターのそっくりさん。よく似ている。
DVDは本編のみ収録で特典は一切ない。メイキングや製作関係者のコメントが欲しい。
点
2022/01/21
THE DEEP
1977年(日本公開:1977年07月)
ピーター・イエーツ ロバート・ショウ ジャクリーン・ビセット ニック・ノルティ ルイス・ゴセット・Jr イーライ・ウォラック ロバート・テシア ディック・アンソニー・ウィリアムズ アール・メイナード ボブ・マイナー
バハマ諸島でスキューバ・ダイビングのバカンスを愉しんでいたニック・ノルティとジャクリーン・ビセットのカップルが、海底に沈む難破船で古いスペイン銀貨と謎のアンプルを発見。灯台守のロバート・ショウに相談したところ、ギャングのボス(ルイス・ゴセット・Jr)に情報を嗅ぎつけられ、ブードゥー教の儀式で脅され、サメの群れや巨大ウツボや裏切り者(イーライ・ウォラック)に妨害されながら宝探しを続ける。
ようやく目当てのペンダントを見つけたところでルイス・ゴセット一味に襲撃をくらい、財宝を積んだ難破船は爆破され海底深く沈む。
撮影のスタッフ・出演者のご苦労は並々ならぬものであったろうと察しますが、水中アクションはテンポが鈍く、ストーリーは凡庸、観光リゾートを舞台としているのに華やかさが感じられず、悪役に魅力がない。主役のニック・ノルティもパッとしない。野外エレベーターの格闘、灯台の爆破など、見せ場はしっかり用意されているのに、水中と陸上の行ったり来たりで盛り上がらない。財宝の価値が具体的に示されてないのも説得力不足で良くない。
ジャクリーン・ビセットの濡れたTシャツ透け乳と、ロバート・ショウが浮上してペンダントを投げるエンディングの爽快さ、ジョン・バリーの音楽が好きなので、かろうじて及第点。
ピーター・ベンチリー原作の映画化(よせばいいのに自作の映画化では脚本も書く)は、処女作の「JAWS ジョーズ」以外ろくなものがない。
点
2022/01/23
THE CHINA SYNDROME
1979年(日本公開:1979年09月)
ジェームズ・ブリッジス ジェーン・フォンダ ジャック・レモン マイケル・ダグラス ダニエル・ヴァルデス ジム・ハンプトン ピーター・ドゥナット スコット・ブラディ ウィルフォード・ブリムリー ルイス・アークエット リチャード・ハード スタン・ボーマン ジェームズ・カレン マイケル・アライモ ドナルド・ホットン ポール・ラーソン ロン・ロンバード ニック・ペレグリーノ カリラ・アリ
ロサンゼルス郊外の原子力発電所でニュース番組の取材中に地震があり、原子炉の制御システムにトラブルが発生する。コントロール・ルームのただ事ならぬ気配に事故を疑うキャスターのジェーン・フォンダとカメラマンのマイケル・ダグラス。
制御室長のジャック・レモンは設備の検査に不正があったことを発見。マスコミに情報を提供しようとしたところ、さまざまな妨害をくらい、車の運転中に命を狙われ、原発のコントロール・ルームに籠城。フォンダとマイケルを呼び寄せ、生中継で内部告発を試みる。
タイトルの「チャイナ・シンドローム」は、メルトダウンの危険性について原発関係者のあいだで使われていたブラック・ジョーク。
ジェーン・フォンダ主演なので、観る前は原発反対キャンペーンのプロパガンダ映画かと思っていたが、軽薄なマスコミ文化や消費型資本主義への皮肉も盛り込まれた、娯楽性の強いサスペンス・スリラーだった。反原発集会の幼稚な様子も正直に描かれている。
冒頭の、唄うメッセンジャー・サービスをレポートする様子がバカバカしくて面白い。
生放送の本番直前までスタッフがトイレから戻ってこないとか、テレビ放送に関するエピソードはよく取材されている。
事件現場からのレポートをCMでばっさり切ってしまう無情なラスト。
そのCMが電力を必要とする電子レンジなのもアイロニックな風刺が利いてる。
原発批判とマスコミ批判を巧みに取り入れ、利便性を求める消費者に公共のモラルを考えさせる。上手い脚本だと思う。
ジャック・レモンは「エアポート'77」に続いてコメディ要素のない役で、大仰に正義感を振り回すところもなく、仕事の誇りを失い孤立してゆく心情を繊細に演じている。
ジェーン・フォンダのTVキャスターも、安っぽい自己顕示と出世欲がそれっぽく、テレビ業界で生きている女性をリアルに演じている。実際テレビのキャスター・リポーターやってる女性は、こんなタイプが多い。巨大な亀をペットに飼っている独り暮らし。生活のリアリティを見せようと本筋と絡まない場面を入れているのは無駄に思う。
マイケル・ダグラスのカメラマンは(「ザ・ディープ」のニック・ノルティ同様に)誰が演じてもいい、どうでもいい役。自分のプロデュース作品だから役を膨らませ出番を多くしたのか、それともジェーンとレモンに華を持たせようと意図して目立たない役を演じたのか。
内容が内容だけに電力会社の協力は得られず、原子力発電所はスタジオ・セットとミニチュア合成を用いた特殊撮影。プロダクションデザインは「大統領の陰謀」のジョージ・ジェンキンス。
現在は、地球温暖化阻止派(化石燃料による発電の廃止とプラスチック製品の製造抑止を訴える)と原発反対派(放射能汚染の危険を訴える)の対立に、代替エネルギー推進派(太陽光発電とか風力発電とか)の利権争いが絡んで、エネルギー問題はますますグローバル化複雑化している。人間の幸福追求欲は無限大だから、人類が滅びてしまうまで解決しないと思うよ。
電力が供給されなくなったら映画だって見られない。
石油由来のフィルムによる撮影・上映に規制がかけられ、デジタル撮影・上映に助成金が出るなんて法律ができるかも知れない。
点
2022/01/24
NETWORK
1976年(日本公開:1977年01月)
シドニー・ルメット ウィリアム・ホールデン フェイ・ダナウェイ ピーター・フィンチ ロバート・デュヴァル ネッド・ビーティ ウェズリー・アディ ビル・バロウズ ビアトリス・ストレイト コンチャータ・フェレル ウィリアム・プリンス ジョーダン・チャーニイ ダリル・ヒックマン ロイ・プール マイケル・ロンバード レイン・スミス
テレビ業界という非日常的な職場を日常としている人々を描いた、精神病理学的風刺コメディ。題材の扱い方が不快だし、魅力ある登場人物がひとりもいないので感情移入も共感もない。興味本位で作られた漫画チックなストーリー、あまり面白いものではない。
テレビ業界をアイロニックに風刺したものなら、筒井康隆の小説のほうが百倍面白く、強烈だ。
視聴率低下でノイローゼになったニュースショーの司会者が番組放送中に錯乱。会社は彼を降板させようとするが、視聴率20%取るのが夢というテレビ一筋の女性プロデューサーが番組を俗っぽい茶番劇に作り変え、数字は上昇する。
「5%アップで3000万人」「1分間で13万ドルの番組」のセリフは、当時のリアルな数字を使っていると思う。
視聴率稼ぎに狂騒する業界人のバカバカしい話を、ウィリアム・ホールデン、フェイ・ダナウェイ、ピーター・フィンチ、ロバート・デュバル、ネッド・ビーティなどなど、錚々たるキャスティングで映画化。
主演のスター俳優だけでなく、端役にいたるまで、出演者全員がオーバーアクト、過剰な感情表現で演技をしている。声を張り上げ、腕を振り回し、早口で、セリフのイントネーション、テンポまで全員同じ。こんな不自然な芝居は、演出(シドニー・ルメット)が意図して指示しないと出来るわけがない。脚本(パディ・チャイエフスキー)もそんな演出を想定したうえで、極めて演劇的なセリフを書いている。
つまりこの映画は、テレビ業界を舞台劇のように演じたものを映画として撮影した、多重構造の演出が施されたメタ映画。ホールデンの「書かれた脚本を演じている」というセリフは、その種明かしでもある。舞台演劇の仕事をされている方は、登場人物の芝居を見てちゃんと見抜けていたと思う。
放送局を買収した会長ネッド・ビーティがピーター・フィンチを洗脳する場面、やたらエキセントリックに怒ってばかりのロスの黒人女性プロデューサー、テロリストを金で雇いスタジオで人殺しさせるなど、リアリティの欠片もなく荒唐無稽かつアホくさく、登場人物の大仰な熱演は作り物(フェイク)。セックスの間ずっと視聴率と番組企画の話を続けているフェイ・ダナウェイと、無言でその相手をしているウィリアム・ホールデンとかギャグです。出演者たちは芝居を楽しんでいる。
点
2022/01/26
SERPICO
1973年(日本公開:1974年07月)
シドニー・ルメット アル・パチーノ ジョン・ランドルフ ジャック・キーホー ビフ・マクガイア トニー・ロバーツ コーネリア・シャープ バーバラ・イーダ=ヤング アラン・リッチ ハンク・ギャレット ダミエン・リーク M・エメット・ウォルシュ
組織ぐるみで腐敗しているニューヨークの警察。
賄賂を拒否したことで孤立無援となった刑事(アル・パチーノ)が、同僚や上司に疎まれ、恋人にも愛想をつかされ、命の危険に晒されながら不正の実体を告発する。
実話小説をシドニー・ルメットがドキュメンタリー・タッチで映画化。
全編出ずっぱりのアル・パチーノ、アクターズ・スタジオ仕込みのメソッド演技で熱演。
正義の主張が文字通り正しかった時代の映画。
いまは「正義」をやたら口にする奴は、かえって胡散臭い目で見られる時代。
製作は、映画不況のイタリアを飛び出してハリウッド入りしたディノ・デ・ラウレンティス。フェリーニ、デ・シーカ等の不朽の名作、バカバカしいまでに製作費を突っ込んだ超大作、三本立ての添え物にもならない駄作まで。映画愛に満ち満ちた名プロデューサー。
ミキス・テオドラキスの音楽が懐かしい。
映画館通い始めたばかりの、あのころの空気の匂いまで記憶に蘇る。
犬、ネズミ、オウム、ペット好きな主人公。
点
2022/01/27
DOG DAY AFTERNOON
1976年(日本公開:1976年03月)
シドニー・ルメット アル・パチーノ ジョン・カザール チャールズ・ダーニング ジェームズ・ブロデリック クリス・サランドン ペニー・アレン キャロル・ケイン サリー・ボイヤー ランス・ヘンリクセン
1972年8月22日、14時57分。気温36度。
茹だるように暑いブルックリンの昼下がり。
三番街にあるチェイス・マンハッタン銀行支店の閉店時刻ギリギリに、3人の男が強盗に入る。30分で片付く仕事のはずだったが、男の一人は犯行直後にビビって遁走。防犯カメラに目隠しのスプレーをかけようにも(背が低いから届かず)ぴょんぴょん飛び跳ね、現金は本社に送られた後で金庫に残されていたのは僅か1100ドル。がっかりする間もなく警察から電話が入って自分たちが包囲されていることを知る。
ニューヨーク市警とFBI捜査官、狙撃班を含む200人超の警官隊。そのうしろには野次馬の人だかり。上空には市警のパトロール・ヘリとTV局の報道ヘリが飛び交っている。状況を知った素人強盗は人質たちの前で頭を抱えへたり込んでしまう。まことに情けない。アッティカ刑務所暴動事件の直後で、警察の対応も及び腰。
実話を基に作られた犯罪喜劇。
説得する市警の刑事、人質たちとの奇妙な連帯感、野次馬の前でヒーロー気取りの犯人、電話で突撃インタビューするテレビ局、ゲイの女房との愛情のすれ違い、機に乗じてアピール・デモを始めるゲイの団体。ニューヨーク市警とFBIの確執、TVメディアと大衆の煽り、無教養で思いやりのない家族、ベトナム戦争後のアメリカ社会、多彩な登場人物たち。テーマはコミュニケーションのリアリズム。
ラストシーンの虚無感、やるせなさは例えようがない。
「逃亡先はどこの国に行きたい?」
「ワイオミング」
「ワイオミングは外国じゃないよ」
シドニー・ルメットの演出に隙はない。様々なエピソードを盛り込みながら、室内と屋外の切り替えを巧みに構成、無駄のない素晴らしい脚本。アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、クリス・サランドン、端役にいたるまで、全員が演技賞に値する好演。
点
2022/01/28
ALL THE PRESIDENT'S MEN
1976年(日本公開:1976年08月)
アラン・J・パクラ ダスティン・ホフマン ロバート・レッドフォード ジェイソン・ロバーズ ジャック・ウォーデン ハル・ホルブルック マーティン・バルサム ネッド・ビーティ スティーヴン・コリンズ メレディス・バクスター ジェーン・アレクサンダー ヴァレリー・カーティン ポリー・ホリデイ F・マーレイ・エイブラハム ロバート・ウォーデン ペニー・フラー ドミニク・チアニーズ リチャード・ハード デヴィッド・アーキン ジョン・マクマーティン リンゼイ・クローズ
FBI、CIA、司法省、すべて大統領の家来。
ワシントン・ポスト紙の下っ端記者カール・バーンスタインとボブ・ウッドワードによる、ウォータゲート事件追跡ルポルタージュの映画化。製作はロバート・レッドフォードとアラン・J・パクラ。
政治映画が当たらないのは日本も米国も同じ。事件の発端からリチャード・ニクソンの失脚に至るストーリーはみなさんご存知。だから映画は事件の解明ではなく、真相を追う記者、その行動を追ったストーリーになっている。
電話して、人と会い、話を聞いて、資料を収集し、裏を取る。調査報道の仕事が延々と繰り返されるだけの構成。ダスティン・ホフマン(バーンスタイン)とレッドフォード(ウッドワード)の共演でなければ、地味な興行で終わってたと思う。
事件の全容を知るディープ・スロートと名乗る男(ハル・ホルブルック)からの情報提供で、主人公たちは真相に迫っていくのだが、映画では、この謎の男の扱いがぼんやりしている。映画の登場人物はすべて実在、役名も実名を使っている。だから扱いがデリケート。事件以前からウッドワードがディープ・スロートと顔見知りであった事実がぼかされていて、二人の関係がよく分からない。名前は明かさないとしても、なぜウッドワードの取材に協力しているのかが謎のままでは、観客に不親切だろう。
いまでは情報提供者の正体がFBIの副長官であったことが判明している。
(DVD特典に本人の映像あり)
アメリカの行政組織や役職名に不案内な日本人(しかもこの映画公開されたときまだ高校1年だったんだぜ!)には、誰がどうして何やってるのか、さっぱり分からない。脚本はドキュメンタリー形式に徹底していて、感情に訴えかけるドラマチックな演出を外して書かれている。ハリウッド風娯楽になるのを避けたのは分かるが、もう少し面白く作れたんじゃないのか。
撮影はリアリズム重視で裁判所や国会図書館などロケが多いが、ワシントン・ポストの社屋はワーナー・スタジオのセット。プロダクション・デザイナーは「チャイナ・シンドローム」で原子力発電所を作ったジョージ・ジェンキンス。細部へのこだわりが作品の信憑性を高めている。広いフロアは白い柱や白いパーテーション、白いデスク、白いキャビネット、白い天井に並ぶ蛍光灯の反射光が全体を真っ白に。
公開された頃、字幕は縦書きで画面右側(上手)にあり、映像の白さと重なってすこぶる読み難く(当時の芥川賞小説を洒落て)限りなく透明に近い字幕と揶揄された。
対象的にディープ・スロートと密会する駐車場は恐怖を感じさせる暗さ。撮影監督は「ゴッドファーザー」のゴードン・ウィリス。この人は影を作るのが上手い。
録音、音響効果がとても目立つ映画でもある。
主人公たちの上司を演じているのが、ジェイソン・ロバーズ(主幹)、ジャック・ウォーデン(社会部の部長)、マーティン・バルサム(編集局長)というベテラン俳優。
この3人のバックアップは頼もしい。
映画は、大統領就任のテレビ報道をよそに、バーンスタインとウッドワードが、黙々と事件の記事をタイプしているロングショットの場面で終わる。
彼らの書いた一連の記事がニクソンを退陣させてしまうのは、先刻承知の事実なので、ばっさりカット。この判断は良い。
この新聞社の前日談は、スピルバーグの「ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書」で。ジェイソン・ロバーツの編集主幹をトム・ハンクスが演じている。
いつの世も、ハリウッド映画人は民主党支持、共和党が嫌い。
70年代の背広は襟幅が広いのが特徴。おれが高校卒業時に初めて買ったスーツも襟が広かった。ワイシャツの腕まくり、ネクタイをだらしなく緩めたスタイルも当時の流行。
点
2022/01/29
AIRPORT
1970年(日本公開:1970年04月)
ジョージ・シートン バート・ランカスター ディーン・マーティン ジーン・セバーグ ジャクリーン・ビセット ジョージ・ケネディ ヘレン・ヘイズ ヴァン・ヘフリン モーリン・ステイプルトン バリー・ネルソン ダナ・ウィンター ロイド・ノーラン バーバラ・ヘイル
アーサー・ヘイリーのベストセラー小説をオールスター・キャストで映画化。
1970年代パニック映画ブームの火付け役となったサスペンス大作。
猛吹雪に見舞われたアメリカ中西部イリノイ州リンカーン空港。大型旅客機の着陸失敗で主要滑走路が使えなくなる。その対応に追われている最中に、騒音迷惑の住民デモがあったり、密航常習のばあちゃんが保護されたり、不倫妻との決別があったり、浮気していた客室乗務員から予期せぬ妊娠を告げられたり、ローマ行きのボーイング707機に爆弾を持ち込んだ男がいると通報があったりする。
前半1時間はグランドホテル形式の人間模様。空港のジェネラル・マネージャー(バート・ランカスター)と妻のダナ・ウィンター、旅客係ジーン・セバーグ。機長のディーン・マーティンと客室係のジャクリーン・ビセット。滑走路復旧作業にあたる保安主任ジョージ・ケネディ。密航常習婦人ヘレン・ヘイズ。爆弾を仕込んだアタッシュケースを持ち込むヴァン・ヘフリンとその妻モーリン・スティプルトンなど多彩な人物が登場。
もたつかないように、横に長ぁーいシネスコサイズ(トッドAO)を画面分割してワイプするなど、編集に単純な工夫が凝らされているのが面白い。
中年カップルの不和、不倫エピソードが2組あるのはしつこい気がする。ディーン・マーティンの浮気は、もはやギャグとしか思えない。そう言えばランカスターも「地上より永遠に」で同じような不倫男の役をやってた。ふたりの配役はギャグだ。
1932年「戦場よさらば」でゲイリー・クーパーの相手役を務めたこともある往年の美人女優ヘレン・ヘイズ。どことなく品がありお茶目なおばあちゃんが愉快で可愛い。
自らスコップを持って雪かきに精出すジョージ・ケネディが頼もしい。
ローマ行きの搭乗が1時間遅れで始まり、旅客機が離陸してからの後半はスリリングで目が離せなくなる。
爆弾爆発前後のサスペンスが巧い。ここまできっちりした構成の脚本、編集は、最近の映画ではなかなかお目にかかれない。短いショットをごちゃごちゃ繋ぎ合わせて、音楽と効果音で誤魔化してる安物とは格が違う。
ほとんどセリフがない爆弾男のヴァン・ヘフリンは適役好演。
その奥さんを演じていたモーリン・スティプルトンがとても良い。大衆食堂で働いている生活感、空港で夫を探す焦燥感、旅客機が飛び立ったあとの虚脱感、事故機から降りてくる人たち一人ひとりに狂ったように謝っている姿。このキャラクター、この演技があって本作はドラマの風格が増した。
ランカスターやディーノはストーリーの進行役、客寄せキャスティングだな。
前半のメロドラマがダサいとか、空港のセキュリテイが甘いとか、ストーリーがご都合主義だとか、特撮に迫力がないとか、50年前の映画に現代の感覚でケチつけるのは野暮。
監督はハリウッドの職人ジョージ・シートン。本作と「三十四丁目の奇蹟」が代表作。どちらも冬の話。雪を撮るのが得意なんだろう。
躍動感に満ちた格好良いタイトルバックの音楽は巨匠アルフレッド・ニューマン。たしかこれが遺作だった。
娯楽大作は作家性が希薄だからと敬遠する人もいるけど、おれは大好き。莫大な製作費を回収するため、より多くの大衆に観てもらうため、いろんな知恵と工夫が凝らされている。
点
2022/01/30
AIRPORT 1975
1974年(日本公開:1974年12月)
ジャック・スマイト チャールトン・ヘストン カレン・ブラック ジョージ・ケネディ リンダ・ブレア スーザン・クラーク グロリア・スワンソン マーナ・ロイ ヘレン・レディ エフレム・ジンバリスト・Jr ダナ・アンドリュース ビヴァリー・ガーランド リンダ・ハリソン ロイ・シネス シド・シーザー
コロンビア航空のジャンボ旅客機に自家用小型機が衝突。操縦室に穴が空き、機関士は即死、副操縦士は機外に放り出され、機長は瀕死の重傷を負う。
操縦士不在となったボーイング747の操縦桿握るのは客室乗務員のカレン・ブラック。
本人役で出演しているグロリア・スワンソン以下、乗客の顔ぶれは賑やかだが、賑やかなだけでストーリーに絡む重要人物はいない。ジャンボ・ジェットの機内は、ほぼカレン・ブラックの一人舞台となる。苦手なルックスの女優さんなのにアップが多い。
チャールトン・ヘストンとジョージ・ケネディがサポートしているので、旅客機は無事空港に着陸する。脱出シュートを滑り降りるスワンソンはボデイダブル。当時76歳のスワンソンにアクションは無理。怖がってる演技でスタントウーマンが顔を隠して滑り降りている。腎臓の手術を受けにゆく少女リンダ・ブレアは、座席に横たわっているだけ。気分が悪くなって緑色のヘドを吐き散らしたりはしない。
本物のジャンボ機が延々と低空飛行するシーン、軍用ジェットヘリからの決死の乗り移りスタントが最大の見もの。
監督は「刑事コロンボ」や「警部マクロード」などユニバーサル製作のTVMを撮っていたジャック・スマイト。
機中で上映されているのは「アメリカン・グラフィティ」。ジョージ・ルーカスがはじめて日本で紹介された映画。シド・シーザーは出ていない。
「アメリカン・グラフィティ」は1973年作品だが、日本では本作と同じ年の正月に公開。この年の正月興行は例年になく賑やかだった。センサラウンド方式の音響装置で客を呼んだ「大地震」、ジェームズ・ボンドの新作「007/黄金銃を持つ男」、高倉健とロバート・ミッチャムが共演したシドニー・ポラック監督の「ザ・ヤクザ」、アラン・ドロン主演「個人生活」、レイ・ハリーハウゼンの特撮冒険活劇「シンドバッド黄金の航海」など話題作が目白押し。邦画は、松竹が定番「男はつらいよ 寅次郎子守唄」、東映が「新仁義なき戦い」、東宝は山口百恵第一回主演「伊豆の踊り子」と小松左京原作の「エスパイ」。最大の話題作は「エマニエル夫人」でした。
点
2022/01/31
AIRPORT '77
1977年(日本公開:1977年04月)
ジェリー・ジェームソン ジャック・レモン ジェームズ・スチュワート リー・グラント ブレンダ・ヴァッカロ オリヴィア・デ・ハヴィランド ジョセフ・コットン クリストファー・リー ジョージ・ケネディ ダーレン・マクギャヴィン パメラ・ベルウッド キャスリーン・クインラン ロバート・フォックスワース ロバート・フックス モンテ・マーカム
大富豪ジェームズ・スチュワート所蔵の美術品と往年のスター俳優をどっさり積んだ自家用ジャンボ機がハイジャックされる。犯人たちの操縦ミスによりジェット機はバミューダ海域に墜落。合衆国海軍による乗客救出作戦が展開される。ハラハラドキドキの海洋サスペンス映画。
「大空港」ではヘレン・ヘイズ、「エアポート'75」ではグロリア・スワンソンと、往年のスターを出演させるのがシリーズの呼び物のひとつとなっているが、今回はジェームズ・スチュワート、オリヴィア・デ・ハヴィランド、ジョセフ・コットンと大盤振る舞い。英国のクリストファー・リーまで出ている。
大富豪役のジェームズ・スチュワートは撮影当時69歳。アクション場面は無理とみえてジャンボ機には搭乗せず、ジョセフ・コットン(当時71歳)もハヴィランドの涙を拭うくらいしか動いていない。
ちなみに 1916年東京生まれのオリヴィア・デ・ハヴィランドは 2020年7月に 104歳で亡くなられています。「ロビンフッドの冒険」のマリアン姫、可愛かったなあ。
クリストファー・リーは「ポセイドン・アドベンチャー」のシェリー・ウィンタースに負けじと献身的な活躍。機長ジャック・レモンもずぶ濡れの大奮闘。レモンの恋人役がブレンダ・バッカロなので前作「エアポート'75」のカレン・ブラックより好感度アップ。
前作との比較でいえば、個々の乗客たちにドラマが用意されているのが良かった。脚本家は「タワーリング・インフェルノ」を見て学習したのだろうか。
クリストファー・リーの妻を演じたリー・グラントが、ちょっとしたアクセントになっている。シリーズ通して出演しているジョージ・ケネディは、出番も少なく、ただ顔を見せただけ。
アメリカ海軍全面協力のもと撮影された大掛かりなジャンボ機浮上作戦が最大の見せ場。こんなとき頼りになるのは、充実した装備と訓練された軍隊です。
タイトルは「エアポート」なのに、海洋サスペンスなところがグッドなアイデアでした。
点
映画採点基準
80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(18本)
70点 年間ベストテン候補(83本)
65点 上出来・個人的嗜好(78本)
60点 水準作(77本)
55点以下 このサイトでは扱いません
個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません