2021年05月|映画スクラップブック


2021年 05月(11本)

2021/05/15

ボヘミアン・ラプソディ

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BOHEMIAN RHAPSODY
2018年(日本公開:2018年11月)
ブライアン・シンガー ラミ・マレック ルーシー・ボーイントン グウィリム・リー ベン・ハーディ ジョー・マッゼロ エイダン・ギレン トム・ホランダー アレン・リーチ マイク・マイヤーズ アーロン・マカスカー ダーモット・マーフィ メネカ・ダス エース・バティ プリヤ・ブラックバーン マックス・ベネット ジャック・ロス

「X-MEN」シリーズのブライアン・シンガー監督が、イギリスのロックバンド「クイーン」誕生からライブ・エイド公演まで、ボーカル&ピアノ担当のフレディ・マーキュリーを主人公に描いた伝記映画。このタイプの音楽にまったく詳しくないけど、製作スタッフに「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイとドラマーのロジャー・テイラーが加わり、実話に忠実なストーリーらしい。全編に彼らの音楽(歌唱はフレディ本人の音源を用いたとのこと)が流れる。

バンド結成からフレディが抜け駆け的にソロ活動するまでの前半はよくある出世物語で、そっくりさんによる再現ドラマ風。「クイーン」に興味ない人にはどうでもよく、ファンはそんなのもう知ってるよという感じだろうか。
フレディがAIDSを発病し、バンド仲間と和解してエイド公演を成功させる後半は、良くできている。ロックな息子を嫌悪していた父親が改心する場面は(唐突に挿入されるエピソードだが)感動的でなかなか良い。

ボヘミアン・ラプソディ

クライマックスは1985年7月にウェンブリー・スタジアムで開催されたバンド・エイド公演の再現。様々な撮影技法を駆使して最大の盛り上がりをみせる。そこに集約させるテリングに(実話を離れてでも)もう少し工夫があれば良かったのにと思う。 映画の最初の方で、フレディ(ファルーク・バルサラ)が移民差別されているあたりが「X-MEN」のブライアン・シンガーらしさ、だろうか。全体にストーリーが施されたミュージック・ビデオといった印象。誰が監督しても同じ。

あと個人的に、むさいおじさん同士のキスシーンは勘弁。

60

2021/05/16

ロケットマン

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ROCKETMAN
2019年(日本公開:2019年08月)
デクスター・フレッチャー タロン・エガートン ジェイミー・ベル ブライス・ダラス・ハワード リチャード・マッデン ジェマ・ジョーンズ スティーヴン・マッキントッシュ スティーヴン・グレアム テイト・ドノヴァン チャーリー・ロウ トム・ベネット

エルトン・ジョン自ら製作総指揮を務めた伝記ドラマ。不幸な家庭環境で育ち、音楽の才能を認められ、やがて作詞家のバーニー・トーピンとコンビを組んでヒット曲を連発、ロックスターへの道を駆け上る。監督は「ボヘミアン・ラプソディ」で製作総指揮を務めたデクスター・フレッチャー。

鳥みたいな奇抜な衣装のエルトンが、グループセラピーに参加し、アルコール依存症で薬物依存症で買い物依存症を告白しつつ、半生を回想する。本当の自分を知られるのが嫌で派手な外見を装って(自分を)誤魔化す心理(変身願望)が、うまくヴィジュアル化されているように思った。

ロケットマン

ファーザー・コンプレックス、クスリ依存、同性愛は「ボヘミアン」と同様だが、「ボヘミアン」より汚らしい感じが薄れているのは、本人が製作に関わっているからでしょう。自画自賛(自己弁護?)っぽくもある。

エルトン・ジョンとポール・ウィリアムスの違いも分からんくらい、このタイプの音楽にまったく疎いんだけど、「ボヘミアン・ラプソディ」よりちょっとだけ好感が持てたのは、エルトンのヒット曲をミュージカル仕立てでストーリーに組み込んでいたから。

ロケットマン

エルトンの音楽はメロディがなかなか心地よい。主演のタロン・エガートンが吹き替えなしで歌っているのも良い。ポール・ウィリアムスもメロディ・メイカーだし、この短躯でメガネな二人はよく混同してしまう。「トミー」でピンボールの魔術師を歌っていたのがエルトン・ジョン、「ファントム・オブ・パラダイス」がポール・ウィリアムス。ポール・ウィリアムスは「ダウンタウン物語」もチャーミングな映画だけど、エルトン・ジョンで最も有名なのは(日本では)「ライオン・キング」だね?

65

2021/05/17

イエスタデイ

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YESTERDAY
2019年(日本公開:2019年10月)
ダニー・ボイル ヒメーシュ・パテル リリー・ジェームズ ケイト・マッキノン ジョエル・フライ エド・シーラン ジェームズ・コーデン ロバート・カーライル

このタイプの音楽にまったく疎いけど、ザ・ビートルズは知ってるぜ! メンバーの名前だって全員言える、ジョンとポールとジョージとリンゴだ。終わりの方で主人公が会いにゆく老人が、1980年12月に暴漢に射殺されたジョン・レノンだってことも説明不要。映画で使われていた曲も半分以上知っていた。やっぱビートルズは凄いな!

そんな、おれだって知ってるザ・ビートルズを、誰も知らないパラレルワールド設定で描いたファンタジー・コメディ。監督は「スラムドッグ$ミリオネア」でぞっこんファンになったダニー・ボイル。

イエスタデイ

アイデア一発勝負の映画だけど、これが実に巧く作ってあり、最後まで退屈しない。脚本は「ラブ・アクチュアリー」のリチャード・カーティス。この脚本家はキャラを立たせるのが本当にうまい。主人公にインド系移民のダサい男(ヒメーシュ・パテル=歌も本人の歌唱)を置いたところなんか見事と言うしかない。

スターになってもドラッグやセックスに溺れることなく、最後まで盗作の後ろめたさを抱いているのがいいし、「エリナー・リグビー」の歌詞を思い出せず試行錯誤する場面もいい。主人公の他にもビートルズを記憶していた人物がいた設定をぶち込んでおきながら、それを深追いしない。このさじ加減が絶妙。音楽ギョーカイの皮肉もたっぷり。

イエスタデイ

脇の描き方がまたうまい。中学校の教師でマネージャー役のリリー・ジェームズは可愛いし、ツアーに同行する腐れ縁の友人ジョエル・フライも面白すぎる。最高なのは女性プロモーター(ケイト・マッキノン)のゲスっぷり。主人公の両親(サンジーヴ・バスカー&ミーラ・サイアル)もばっちり笑わせてくれる。

学校教師に復職した主人公が、心の底から楽しそうに子供たちと歌う「オブラディ・オブラダ」はマジで感動した。音楽のちからって凄いな!

やっぱビートルズは凄いな!

イエスタデイ

70

2021/05/19

青春の殺人者

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1976年(日本公開:1976年10月)
長谷川和彦 水谷豊 内田良平 市原悦子 原田美枝子 白川和子 江藤潤 桃井かおり 地井武男 高山千草 三戸部スエ

実際の事件をもとに両親を刺殺した青年を描いた中上健次の短編小説「蛇淫」を映画化。
製作:今村昌平、脚本:田村孟、監督:長谷川和彦。

公開当時は映画賞総なめで大絶賛。キネ旬ベストテン決算号の表紙に水谷豊と原田美枝子が並んだ。原田美枝子はデビュー時からうまい女優さんだと思い込んでいたが、そうでもなかった。肉体言語というか、(おっぱいの)存在感に騙されていたのだろう。「事件」の大竹しのぶも見事だった。あと「サード」の森下愛子とか。これも時代。

自嘲してばかりな主人公に共感はできないにしても、嫌悪や憎悪につながらないのは時代の空気を共有できていたからこそ。いま21世紀の若い方が観ても、気持ち悪い鬱陶しい映画にしか映らないと思う。

前半ハイライトの(たっぷりな)母親殺しは(撮影が大変だったろうと)出演者やスタッフの苦労に感服。市原悦子(殺される母親)の感情が秒刻みで変化し暴れまわる。映像密度の高いサスペンス・ホラー。ここでお腹いっぱい疲れてしまうので、水谷豊と原田美枝子の逃避行が描かれる後半は、散漫で冗長に感じられた。スナックに戻った主人公が暴走族の客を追い出す場面、凶行直後の異常心理をもっと押したほうが良かったのにと思う。

主人公が高校時代に友人たち(江藤潤、桃井かおり)と撮った8ミリ映画や、成田の機動隊による検問場面などに、全共闘世代の残氓が滲んでいる。暴力、セックス、反体制、芸術(アート)。アメリカン・ニューシネマに影響(洗脳か?)された世代は、幸か不幸か、この時代の臭いがとてもよく分かる。

当時の空気感をもっとも残しているのはゴダイゴの(ダサい)音楽。

70

2021/05/26

暗殺者の家

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THE MAN WHO KNEW TOO MUCH
1934年(日本公開:1935年12月)
アルフレッド・ヒッチコック レスリー・バンクス エドナ・ベスト ピーター・ローレ ノヴァ・ピルブーム フランク・ヴォスパー ヒュー・ウエイクフィールド ピエール・フレネ

犯罪組織の陰謀に巻き込まれた夫婦が、暗殺計画を阻止し、誘拐された娘を救出する。ジェームズ・スチュワート&ドリス・デイでリメイクされた「知りすぎていた男」のオリジナル版。ストーリーはコンパクトに構成されていて、上映時間も1時間14分と短いものの、ずいぶんのんびりした印象なのは、毛糸のいたずらとか椅子投げ合戦とか、馬鹿馬鹿しいユーモアがサスペンスの邪魔をしているから。

暗殺者の家

陰謀団のボスを「M」のピーター・ローレが演じていて、当時としては風変わりな悪役キャラでちょいと面白い。主人公の夫(レスリー・バンクス)は存在感薄く魅力がない。妻(エドナ・ベスト)は射撃の名手という設定で、ご都合主義的ではあるが、娘救出の見せ場を作ってある。娘役はこのあと「第3逃亡者」でヒロインを演じていたノヴァ・ピルブーム。

アルバート・ホールで演奏されるカンタータはアーサー・ベンジャミン作曲の「ストーム・クラウド」。リメイク版も同じ曲を演奏し、同じ箇所で暗殺者は狙撃していた。
クライマックスは、アメリカのギャング映画に影響されたかのような、警官隊と陰謀団の銃撃戦。

「下宿人」(1926)、「ゆすり」(1929)、「殺人!」(1930)以外にも様々なジャンルの映画を撮っていたヒッチコックが、サスペンス専門の、やがて巨匠と呼ばれるに至る契機の作品であり、フィルモグラフィ的には重要とされるが、「知りすぎていた男」のオリジナル版であること以外に、いま見る価値はないように思った。

60

2021/05/26

三十九夜

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THE 39 STEPS
1935年(日本公開:1936年03月)
アルフレッド・ヒッチコック ロバート・ドーナット マデリーン・キャロル R・マンハイム ペギー・アシュクロフト マイルズ・メイルソン

前作「暗殺者の家」の興行的成功で方向が定まったのだろう、このあとヒッチが監督する作品は(2本の例外を除いて)すべてスリラー映画となる。

「三十九夜」には、いま我々がヒッチ・タッチと呼んでいるサスペンス・スリラーのエッセンスが(完成したかたちで)全部詰め込まれている。

事件に巻き込まれ、犯罪組織と警察の両方に追われながら、金髪美人を道連れに、次々と起こる危機的状況を切り抜けて真相に迫り、クライマックスの見せ場を盛り上げる。
「北北西に進路を取れ」は本作のリメイクとも言える。
無駄な横道に逸れることない直線的なストーリー、構成もしっかり緻密に作られている。カットのつなぎもスピーディ。劇場での事件に始まり、劇場で大団円をむかえる。ユーモアの織り込みも見事だ。

イギリス時代の代表作はこれか「バルカン超特急」のどちらか。

三十九夜

主人公(ロバート・ドーナット)がアパートに連れ帰る(そして殺される)謎のドイツ女にルーシー・マンハイム、逃走中の急行列車で出会う金髪美女にマデリーン・キャロル。マデリーンは次作「間諜最後の日」でもヒロインに起用されている。いかにもヒッチ好みの美人女優。ミスター・メモリー(記憶屋)を演じたのはウイリー・ワトソン。この人物の最期がオチとなる。

ヒッチはこのアイデアを「引き裂かれたカーテン」でもやっている。
メモリーしていたのはポール・ニューマンだった。

70

2021/05/28

間諜最後の日

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THE SECRET AGENT
1936年(日本公開:1938年03月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョン・ギールグッド パーシー・マーモント ピーター・ローレ マデリーン・キャロル ロバート・ヤング リリー・パルマー

偽装された葬儀のファーストシーンで、これは007だなと思った。

死亡報道された主人公(ジョン・ギールグッド)が執務室に現れ、しかも上司がR。新しい名前と経歴とパスポートを渡され、極秘任務でスイスのホテルへ。そこには金髪美人のボンドガール(マデリーン・キャロル)もいて、ふたりのラブラブを適宜挟みながら調査開始。カジノの場面があり、潜入したチョコレート工場からの脱出があり、クライマックスは軍用列車脱線転覆のスペクタクル。やっぱり007だ! BGMをジョン・バリーに差し替えて編集したくなっちゃった。(原案はサマセット・モームの短編小説)

間諜最後の日

不気味に鳴り止まない教会のオルガン、教会の鐘、主人の危険を予知する犬の啼き声、会話が聞き取れないほどの工場の機械音、機関車の汽笛と轟音。
過剰な音響効果による演出。これもヒッチ・タッチ。

王立演劇アカデミー出身のシェークスピア俳優だったジョン・ギールグッドは、これがスクリーン・デビュー作。当時32歳くらい。007のダニエル・クレイグっぽい感じもある。

禿頭のメキシコ人「将軍」を演じるピーター・ローレが面白い。愛嬌があって残酷で気味悪く、こんなユニークな悪役って他にいないだろう。
と書いたあとで、我が国には石橋蓮司という素晴らしい役者さんがいたのを思い出した。

65

2021/05/28

サボタージュ

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SABOTAGE
1936年(日本未公開)
アルフレッド・ヒッチコック シルヴィア・シドニー オスカー・ホモルカ ジョン・ローダー デズモンド・テスター ジョイス・バーバー

ユーモアを極力排して、ダークに仕上げたヒッチコック・サスペンス。
舞台を個人経営の映画館に設定しているのが趣向。破壊工作活動に加担している映画館主の主人公(オスカー・ホモルカ=好演)が事件を起こし、その妻(シルヴィア・シドニー)が巻き込まれる。二重のストリーテリング。

サボタージュ

隣接して商売している八百屋では、店員に化けた刑事(ジョン・ローダー)が主人公を監視している。いわば狂言廻しの役回りで、この刑事が事件の流れを(観客に)説明する構成。

次の標的を打ち合わせする際、水槽に(合成で)映される都市崩壊のイメージは、デモーニッシュなヒッチの意地悪。

爆破事件で弟が死んだ原因が夫にあったと知ったあと、スクリーンにかかっていたアニメ映画(ディズニーのシリー・シンフォニー)をみつめるヒロインのアップ。映画のギャグに条件反射で笑い、現実に戻って憤り、部屋に戻って夕食の支度、夫の話し声、料理を取り分けるナイフ、殺意、身の危険を察した夫、躊躇、ナイフ、もみ合い、床に崩れる夫。ギクシャクした感情の移ろいを、一連のモンタージュで巧みに描き出す。これぞヒッチコックの妙技。時限爆弾を運ぶ少年(デズモンド・テスター)のサスペンスも上出来。
ラストの爆発で夫殺しの証拠は隠滅、ヒロインに惚れた刑事と現場を退場する。アンモラルなハッピーエンドは「ゆすり」と同じ。

「映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社)のインタビューで、ヒッチ自身は少年を爆死させてしまったことを理由にこの作品を嫌っているかのような発言を残しているが、はたして本心かどうか。真面目な顔して冗談を食わせるのがヒッチコックの真骨頂。ゆえに、本音は分からない。
ヒッチ・フリークのブライアン・デ・パルマも「アンタッチャブル」で罪もない子どもを爆殺。心底好きだと嫌なところも真似したくなるのでしょう。

65

2021/05/29

第3逃亡者

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YOUNG AND INNOCENT
1937年(日本公開:1977年01月)
アルフレッド・ヒッチコック デリック・デ・マーニイ ノヴァ・ピルブーム パーシー・マーモント エドワード・リグビー メアリー・クレア ジョン・ロングデン ジョージ・カーズン ベイジル・ラドフォード

長いあいだ「若くて無邪気な」のタイトルで知られていた戦前の作品。水野晴郎のIP配給で、「海外特派員」「バルカン超特急」に続いて、1977年1月にようやく日本でも公開された。
前作「サボタージュ」が暗い内容だったのに対し、今度はぐっとユーモアたっぷりな巻き込まれ型サスペンス。「暗殺者の家」で誘拐された少女を演じていたノヴァ・ピルビームが、殺人犯に間違えられた青年(デリック・ド・マーニー)と、警察に追われながら真犯人を探し回る。

第3逃亡者

サスペンスといってもハラハラドキドキの緊迫感は希薄で、ヒッチコックが喜劇として撮っていることは、青年が裁判所を脱走する場面でも顕著。弁護士や二人組の警官などは明らかにコメディリリーフとして配役されている。若くて無邪気なカップルのロードムービーといったところだろうか。後半、犯人探しの協力者となる浮浪者役のエドワード・リグビーが味のある好演。

タイトル音楽にチャールストン。このときすでにヒッチはアメリカ行きを決めていたのかも知れない。「暗殺者の家」から「サボタージュ」までの4作品で製作を担当していたマイクル・バルコンとアイヴァ・モンタジュが会社(ゴーモン・プロ)を離れ、それでもあと2本の契約が残っていたヒッチコックの、いわば消化試合だったのかも。

しかし、発見されるのを恐れた殺人犯が緊張のあまり失神してしまう結末では、なんとも情けない。こんな小心者に女を絞殺して海に投棄できたのだろうか、と思ってしまう。
主人公の青年も取調室で失神してたし、二人ともピルビームに介抱されるというのも芸がない。

第3逃亡者

それでも、ヒッチ・タッチは随所に見受けられる。海岸で青年に濡衣が着せられる場面にカモメが舞っているカットを一瞬インサートしたり(「鳥」みたいだ)、逃げ込んだ廃坑の地崩れで自動車ごと地下に呑み込まれそうになったり(「インディ・ジョーンズ」みたいだ)、ホテルのボールルーム全景をロングでとらえたあと舞台で演奏するドラム奏者(犯人)のズームアップまでクレーン移動の長回しで見せたり(デ・パルマみたいだ)。

公開が後先になったために、後年製作された「鳥」や「北北西に進路を取れ」や「汚名」を連想し、ヒッチコック・パロディを見ているような気分にもなる。スピルバーグやデ・パルマなど後輩たちに、面白い場面はこうやって作るんだぞ、と教えてるような。

60

2021/05/30

バルカン超特急

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THE LADY VANISHES
1938年(日本公開:1976年11月)
アルフレッド・ヒッチコック マーガレット・ロックウッド マイケル・レッドグレーヴ ポール・ルーカス グーギー・ウィザース リンデン・トラヴァース メイ・ウィッティ

長いあいだ「貴婦人消失」のタイトルで知られていた戦前の作品。水野晴郎のIP配給で、「海外特派員」に続いて 1976年11月にようやく日本でも公開された。

地元佐賀では公開されず、1979年6月13日、池袋文芸坐で「ファミリー・プロット」と2本立てで観ている。文芸坐は当時いちばん多くチケットを買った名画座で、昼興行は1階で、土曜オールナイトは(眠っても他のお客さんに迷惑がかからないよう)2階の端っこと決めていた。文芸坐友の会に入ると、特典の招待券で年会費の元が取れ、割引料金でチケットが買えた。掌サイズのプログラムも毎月郵送されてきた。
土曜の午後から2本立て+オールナイト4本立て。そのあと公園のベンチで仮眠をとって2本立てを観たこともある。当時は新旧あわせて年間400本くらい見ていた。田舎から出てきたばかりの映画小僧に東京の街はシネマ・パラダイス。休日はもちろん、平日も仕事帰りに映画館へと走った。あのころは本気(マジ)で馬鹿だった。

閑話休題。

「バルカン超特急」はヒロイン(マーガレット・ロックウッド)がとても可愛い。脚が綺麗。相手役のマイケル・レッドグレーヴも嫌味がなく、神経科医ポール・ルーカス、消える老嬢メイ・ウィッティ、クリケット狂のイギリス人コンビ(ウントン・ウェインとベイジル・ラドフォード)、不倫カップル(セシル・パーカーとリンデン・トラヴァース)、イタリアの奇術師、ハイヒールを履いた尼僧(グージー・ウイザース)、ミス・フロイの偽者(目が不気味)、多彩な登場人物たちがみんな個性豊か。

バルカン超特急

窓ガラスに浮かぶFROYの指文字、窓に一瞬へばりつく紅茶の包み紙、包帯ぐるぐる巻のミイラみたいな患者、歌う暗号、走る機関車、銃撃戦。ユーモア、ロマンス、ミステリー、サスペンス、アクション、全部詰め込んでブレない脚本が素晴らしい。

陰謀の中身や暗号の内容などはどうでもいい。鮮やかなハッピーエンドに頬が緩む。
ミニチュア・セットのオープニングも愛嬌があって可愛らしい。

ヒッチコックは映画の神様だ。

70

2021/05/31

海外特派員

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FOREIGN CORRESPONDENT
1940年(日本公開:1976年09月)
アルフレッド・ヒッチコック ジョエル・マクリー ラレイン・デイ ジョージ・サンダース ハーバート・マーシャル アルバート・バッサーマン

長いあいだ未公開だったヒッチコック作品。水野晴郎のIP配給で、1976年9月にようやく日本でも公開された。
アメリカに移っての第2作目(1作目はセルズニックの「レベッカ」)で、第二次大戦前夜に製作されたせいか、プロパガンダ臭いラストシーン(ナチスドイツにご用心)が付いている。音楽はアルフレッド・ニューマン。

タイトルバックに地球儀がぐるぐる回っている。タイトル終わってカメラが引くと、それが新聞社の屋上に設置されたディスプレイだと分かる。カメラはそのまま移動し、ビルの窓に寄って、編集部の室内に入る。ヒッチが得意とする(外観から室内へ移動の)オープニング。

30年代から40年代にかけてのアメリカ映画は、新聞記者を扱った作品が多い。

緊迫するヨーロッパ情勢のホットな記事が欲しい編集長(ハリー・ダヴェンポート)は、警官を殴って問題を起こした情熱の記者(ジョエル・マクリー)を海外特派員としてロンドンに派遣する。

この役にヒッチはゲイリー・クーパーを希望していたらしいが、当時スリラー映画はB級の通俗娯楽と見下されていて、A級トップスターのクーパーは当然のようにこのオファーを断った。公開後に「断るんじゃなかった」と反省し、そんなこともあって、クーパーはその後、フリッツ・ラングの「外套と短剣」(1946年)に出演。

主人公の記者は、ロンドンに着く早々、先任の記者(ロバート・ベンチェリー)、オランダ政界の要人(アルバート・パッサーマン)、平和活動の政治家(ハーバート・マーシャル)、その娘(ラレイン・デイ)らと接触。このあたりまでは、スローテンポでこれといった事件も起こらず平凡な流れだが、舞台がアムステルダムに移ってからは、ヒッチ・タッチの連続で目が離せなくなる。適度なユーモアを織り込みながら、これでもかってくらいに見せ場を並べ立て、そのどれもがヒッチならではの面白さ。

海外特派員

雨のアムステルダム、俯瞰の雨傘が強烈に印象に残る暗殺シーン、路面電車とカーチェイス、おかしな回転をする風車小屋、要人誘拐発見の鬼ごっこ、警察に化けた殺し屋、ロンドン寺院の展望台(高いところに登る悪役は必ず墜落する)、恋人とロマンチックな偽装誘拐、ドイツ表現主義っぽい要人拷問の絵作り、スクリーンプロセスの妙技、飛行機墜落と海上漂流。それぞれの見せ場に詳細な解説をつけたくなるほど、凝りに凝ったヒッチコック。

イギリス時代に培ったテクニックを網羅した集大成的傑作。個人的に「見知らぬ乗客」(1951年)までのヒッチコック映画のなかでは、本作がベスト・オブ・ベスト。

ヒッチコックは映画の神様だ。

70

映画採点基準

80点 オールタイムベストテン候補(2本)
75点 年間ベストワン候補(16本)
70点 年間ベストテン候補(76本)
65点 上出来・個人的嗜好(72本)
60点 水準作(71本)
55点以下 このサイトでは扱いません

個人の備忘録としての感想メモ&採点
オススメ度ではありません